2021(03)
■嬉しいおねだり
++++
「林原さーん」
「何だ」
「12月後半のシフトを見てて思ったんですけどー、何か意外って言ったら怒られるかもですけど、意外にいろんな人で回し回しシフトに入れるんだなーと思って」
川北が言っているのは、秋学期の講義が年末年始休暇で一端中断になった時のことだろう。情報センターも年末年始には閉鎖されることにはなっているが、講義が中断していてもセンターは開放されているという日がいくらかある。
そのいくらかという日に利用者が無ければ適当なシフトを組んでおけるのだが、その時期には卒論に追われた4年が駆け込んでくるということがまああって、それなりにちゃんとしたシフトを組んでおかねばならんのだ。
しかし、秋学期は中断している。年の瀬や正月を実家で過ごすために帰省する者もいる。今年のスタッフでは長篠出身の川北と、山羽出身の綾瀬。それから北辰出身の有馬が帰省するという風に聞いていて、シフトもそのように組んである。
「向島にはオレと高山、それから五百崎がいるし、烏丸には帰省という概念がないからな」
「帰省っていう概念がないっていつ聞いても驚くんですけど、烏丸さんなだけにそういうものなんだなーとも思います」
「如何せんオレと烏丸と高山では戦力がB番に偏りすぎているからな。五百崎の加入がここに来て意味を成してきた感はある」
「あ、そうですよね」
五百崎はこの秋学期からスタッフとして採用した1年だが、元々B番の仕事をこなす分には支障がなかったし、受付の仕事も綾瀬に習ってそれらしくこなせるようにはなっていた。今いるスタッフの中ではどちらの仕事にも苦手意識を持たない唯一の人間である可能性もある。
「おはようございます」
「あ、有馬くんおはよー。あっ、そうだ。有馬くんに頼みたいことがあるんだった」
「頼み、ですか? 僕でよければ……」
「有馬くん帰省するでしょ、こっちに帰ってくるときにバターサンドをお願いしたくって。もちろん長篠のお土産でこれが欲しいっていうのがあればリクエストしてくれればそのように買ってくるよ!」
「川北さんはバターサンドが本当に好きですよね。わかりました、買ってきますよ」
「やったーありがとう! ひゃ~、今から楽しみだよ~」
「あのバターサンドはその辺のショッピングセンターで行われる催事などでも普通に買えるが」
「林原さん、違うんですよ。自分でも確かに買えるんですけど、お土産としてもらうからこその良さっていうのもあるんですよー」
「腹に入れば一緒だろう」
「林原さんは何か、お土産のリクエストなどはありますか?」
「屯屯おかきのホタテ味を頼む」
「そう言いながら林原さんも頼むんじゃないですかー、もー」
バターサンドは催事場でよく見るが、屯屯おかきは星港ではなかなか手に入らんという決定的な違いがある。春山さんがいなくなってあれがなかなか食えんようになるのかと思ったが、有馬のおかげで定期的に食えるのは有り難い。有馬のツテがなくなれば、いよいよ通販か。
「あの、川北さん」
「うんうん、なに?」
「えっと、僕も川北さんにお願いしたいことがあって……」
「えっ、本当!? 何でも言ってよ!」
「長篠に、テディベアミュージアムという施設があるんです。そこに行ってみたいんですけど、調べた感じだとアクセスがあまり良くなさそうな感じで、なかなか難しそうだなと……」
「へー、そんな施設があるんだ。ちょっと調べてみようか?」
「お願いします」
川北が検索すると、本当に長篠にはそういう施設があるらしい。施設へのアクセスのページを見ても、住所が書いてあるくらいで公共交通機関ではどう乗り継ぐのか、車ではどこのインターで降りるのかといった情報が皆無なのだ。
ある程度長篠の地理に明るければ経路を探すことも出来るだろうが、なかなかに不親切なアクセスページだとオレでも思う。有馬はせっかく隣のエリアにいるのだから一度足を運んでみようと思ったらしいのだが、このページを見て心が折れそうになっているとのこと。
「あー、こっちの方かー。うん、何となくわかったかも」
「本当ですか?」
「この辺に行くなら車があった方がいいかなーとは思う。それにこの辺りは雪がどかどか降るから危ないかも――……って、北辰出身の有馬くんに雪のことは今更だったね」
「いえ、僕は車を持っていないので、雪道運転などは不慣れで。うーん……しばらくは行けそうにありませんね。バースデーベアが欲しかったのですが」
「バースデーベア? お誕生日の服を着てるとかそういうの?」
「いえ、来場者が当日誕生日の場合、入館料が無料になる上に、売店などでも買えない特別な子をお迎え出来るそうなんです。僕は誕生日が1月30日なのですが……その時期だと無謀なようです……」
有馬にテディベアを縫う趣味があるのは面接の時から聞いていたが、既製品であるとか、テディベアの歴史などにも興味があるらしかった。テディベアミュージアムか。確か、長篠にある宇宙関連施設がどうしたなどと構成員が暴れていたのも比較的記憶に新しい。
「そうだ! 1月末だったらギリギリテスト期間に入ってないし、俺の車で一緒に行こうよ」
「え、いいんですか?」
「うん。俺だったら長篠の地理もわかるし。それに、テディベアの歴史とか作り方とかには俺も有馬くんの影響でちょっとだけ興味が出てきてさ。限定のテディベアが欲しくなる気持ちは物凄くわかるし」
「ありがとうございます…! 何とお礼を言ったらいいかわかりません……」
「お礼はバターサンドでよろしくね」
有馬の人見知りも最初はどうなるかと思ったが、一応は先輩相手に頼みごとを出来るレベルにまで馴染めたという点では来期以降も今いるスタッフに対しては問題ないだろう。新たなスタッフが入ってきたらどうなるかわからんが。
「ところで、林原さんと川北さん以外の皆さんはどんな物が好きなんでしょうか。好みがわかればそのように買ってくるのですが」
「有馬くん、そこまで気を遣ってもらわなくて本当に大丈夫だから、ムリはしないでね…!」
「北辰は空港を歩くだけで爆買いは当たり前とは先人の言葉だからな」
end.
++++
何となく調べ物をしてたらテディベアに関する施設が出てきたのでこれは情報センターだと思ったなど。
ミドリがしっかりパイセン出来るようになってきているし、バターサンド好きは相変わらずな様子。
そういやレンレンの誕生日を1/30に設定したけどその前日、29日はカナコの誕生日なんだよなあ
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「林原さーん」
「何だ」
「12月後半のシフトを見てて思ったんですけどー、何か意外って言ったら怒られるかもですけど、意外にいろんな人で回し回しシフトに入れるんだなーと思って」
川北が言っているのは、秋学期の講義が年末年始休暇で一端中断になった時のことだろう。情報センターも年末年始には閉鎖されることにはなっているが、講義が中断していてもセンターは開放されているという日がいくらかある。
そのいくらかという日に利用者が無ければ適当なシフトを組んでおけるのだが、その時期には卒論に追われた4年が駆け込んでくるということがまああって、それなりにちゃんとしたシフトを組んでおかねばならんのだ。
しかし、秋学期は中断している。年の瀬や正月を実家で過ごすために帰省する者もいる。今年のスタッフでは長篠出身の川北と、山羽出身の綾瀬。それから北辰出身の有馬が帰省するという風に聞いていて、シフトもそのように組んである。
「向島にはオレと高山、それから五百崎がいるし、烏丸には帰省という概念がないからな」
「帰省っていう概念がないっていつ聞いても驚くんですけど、烏丸さんなだけにそういうものなんだなーとも思います」
「如何せんオレと烏丸と高山では戦力がB番に偏りすぎているからな。五百崎の加入がここに来て意味を成してきた感はある」
「あ、そうですよね」
五百崎はこの秋学期からスタッフとして採用した1年だが、元々B番の仕事をこなす分には支障がなかったし、受付の仕事も綾瀬に習ってそれらしくこなせるようにはなっていた。今いるスタッフの中ではどちらの仕事にも苦手意識を持たない唯一の人間である可能性もある。
「おはようございます」
「あ、有馬くんおはよー。あっ、そうだ。有馬くんに頼みたいことがあるんだった」
「頼み、ですか? 僕でよければ……」
「有馬くん帰省するでしょ、こっちに帰ってくるときにバターサンドをお願いしたくって。もちろん長篠のお土産でこれが欲しいっていうのがあればリクエストしてくれればそのように買ってくるよ!」
「川北さんはバターサンドが本当に好きですよね。わかりました、買ってきますよ」
「やったーありがとう! ひゃ~、今から楽しみだよ~」
「あのバターサンドはその辺のショッピングセンターで行われる催事などでも普通に買えるが」
「林原さん、違うんですよ。自分でも確かに買えるんですけど、お土産としてもらうからこその良さっていうのもあるんですよー」
「腹に入れば一緒だろう」
「林原さんは何か、お土産のリクエストなどはありますか?」
「屯屯おかきのホタテ味を頼む」
「そう言いながら林原さんも頼むんじゃないですかー、もー」
バターサンドは催事場でよく見るが、屯屯おかきは星港ではなかなか手に入らんという決定的な違いがある。春山さんがいなくなってあれがなかなか食えんようになるのかと思ったが、有馬のおかげで定期的に食えるのは有り難い。有馬のツテがなくなれば、いよいよ通販か。
「あの、川北さん」
「うんうん、なに?」
「えっと、僕も川北さんにお願いしたいことがあって……」
「えっ、本当!? 何でも言ってよ!」
「長篠に、テディベアミュージアムという施設があるんです。そこに行ってみたいんですけど、調べた感じだとアクセスがあまり良くなさそうな感じで、なかなか難しそうだなと……」
「へー、そんな施設があるんだ。ちょっと調べてみようか?」
「お願いします」
川北が検索すると、本当に長篠にはそういう施設があるらしい。施設へのアクセスのページを見ても、住所が書いてあるくらいで公共交通機関ではどう乗り継ぐのか、車ではどこのインターで降りるのかといった情報が皆無なのだ。
ある程度長篠の地理に明るければ経路を探すことも出来るだろうが、なかなかに不親切なアクセスページだとオレでも思う。有馬はせっかく隣のエリアにいるのだから一度足を運んでみようと思ったらしいのだが、このページを見て心が折れそうになっているとのこと。
「あー、こっちの方かー。うん、何となくわかったかも」
「本当ですか?」
「この辺に行くなら車があった方がいいかなーとは思う。それにこの辺りは雪がどかどか降るから危ないかも――……って、北辰出身の有馬くんに雪のことは今更だったね」
「いえ、僕は車を持っていないので、雪道運転などは不慣れで。うーん……しばらくは行けそうにありませんね。バースデーベアが欲しかったのですが」
「バースデーベア? お誕生日の服を着てるとかそういうの?」
「いえ、来場者が当日誕生日の場合、入館料が無料になる上に、売店などでも買えない特別な子をお迎え出来るそうなんです。僕は誕生日が1月30日なのですが……その時期だと無謀なようです……」
有馬にテディベアを縫う趣味があるのは面接の時から聞いていたが、既製品であるとか、テディベアの歴史などにも興味があるらしかった。テディベアミュージアムか。確か、長篠にある宇宙関連施設がどうしたなどと構成員が暴れていたのも比較的記憶に新しい。
「そうだ! 1月末だったらギリギリテスト期間に入ってないし、俺の車で一緒に行こうよ」
「え、いいんですか?」
「うん。俺だったら長篠の地理もわかるし。それに、テディベアの歴史とか作り方とかには俺も有馬くんの影響でちょっとだけ興味が出てきてさ。限定のテディベアが欲しくなる気持ちは物凄くわかるし」
「ありがとうございます…! 何とお礼を言ったらいいかわかりません……」
「お礼はバターサンドでよろしくね」
有馬の人見知りも最初はどうなるかと思ったが、一応は先輩相手に頼みごとを出来るレベルにまで馴染めたという点では来期以降も今いるスタッフに対しては問題ないだろう。新たなスタッフが入ってきたらどうなるかわからんが。
「ところで、林原さんと川北さん以外の皆さんはどんな物が好きなんでしょうか。好みがわかればそのように買ってくるのですが」
「有馬くん、そこまで気を遣ってもらわなくて本当に大丈夫だから、ムリはしないでね…!」
「北辰は空港を歩くだけで爆買いは当たり前とは先人の言葉だからな」
end.
++++
何となく調べ物をしてたらテディベアに関する施設が出てきたのでこれは情報センターだと思ったなど。
ミドリがしっかりパイセン出来るようになってきているし、バターサンド好きは相変わらずな様子。
そういやレンレンの誕生日を1/30に設定したけどその前日、29日はカナコの誕生日なんだよなあ
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