2021(03)
■先輩の壁
++++
「おーす奏多。メシ行こーぜー」
「ひーさみー。早よ行こうぜ」
バドサーを辞めてからも奏多との付き合いは続けることが出来ていて、今でもたまにはこうして大学でメシを食ったりしている。学部が違うから授業が重なることはそうそうないし、サークルでの交わりっていうのはそういう部分で貴重だったのかなと再確認している。
奏多はバドサーでは相変わらず前原さんに勝とうと頑張っているらしい。勝つための糸口を見つけてはいるものの、まだもう少し追いついてこないんだとか。糸口を見つけるだけでもバドミントン素人の俺からすれば凄いんだけど。
「寒いとラーメンが美味い」
「辛いモンもうめーよ」
「奏多辛いの好きだもんなー。俺そこまでだから」
「そっかそっか」
奏多は担々麺を頼んで、俺は普通の醤油ラーメン。寒いとラーメンが美味いけど、奏多みたく元々辛い担々麺にラー油を追いでかけ回せるほど頑丈な舌じゃないんだよな。ちょっとだけ、ピリ辛程度に辛いのならまだ食べれるんだけど。
「奏多、そろそろ前原さんに勝てそう?」
「まー、あとちょっとなんだけどなー。あとちょっとなんだよマジで」
「ホントに?」
「ホントだって! あの人の弱点を突く戦い方は出来てきてるし、日々差は詰まってるはずだ。真希ちゃんもこの分なら卒業までには間に合うかもっつってたし」
「へー。奏多、上手くなってんだな」
「かっすーが辞めた後から、ちょっとだけダブルスも始めたんだよな」
「へー! 奏多がダブルスって全然イメージにないけど。ダブルスって2対2でやるんだよな」
「そうそう。最初は真希ちゃんに誘われて言われるままにやってたんだけど、それであの人に勝つための糸口を見つけたんだよ」
奏多は真希さんに誘われて始めたダブルスの中で、バドサーの中での新しい立ち回りを覚えたらしかった。そこで対戦した北島さんにディフェンスを教わったり、ペアを組む麻生さんとはダブルスを本職にしてる人とも互角にやり合えるくらい息が合ってきたとか。
前原さんに勝つために、前原さんと戦う以外のことで経験値を積んでるんだなと思う。ダブルスもそれはそれで楽しくてやってるんだろうけど、第一にはやっぱり打倒前原さんっていうのがあるんだよな。勝てそうになってきてるのがマジですげーや。
「かっすーはラジオの方でどんな感じ? 何か、他の大学から来てる奴がいるとかいないとかって話だったろ?」
「そうそう。緑ヶ丘から留学に来てる子がいるんだよ。今は今年度の集大成になる年末特番っていう大きな番組を作ろうって話になってて、俺とその緑ヶ丘の子と一緒に企画を練ってるっていう感じ」
「へー、楽しそうじゃん」
「何つーかさ、最初に緑ヶ丘から人を派遣してもらいますーってなったときはさ、俺じゃご不満ですかってちょっと思ったんだよな」
「かっすー随分自信あるじゃん」
「そう、自信過多だったんだよ。アナウンサーもミキサーもやるし俺は何でも出来るーって思いこんでたんだけど、実際腕がまだ追いついてこないし、そもそも6月とかに入ったばっかで練習も2つやっててって、追いつかなくて当たり前だし一人で何が出来る気でいるんだよって」
実際、すがやんの昼放送の収録を見てても、番組の中身自体は至って普通なんだけど、番組としてはめちゃくちゃ聞きやすいし、滑舌とかもめちゃくちゃいいし、アナウンサーとしての基礎ががっちり固まってんだなって思って。
俺はアナウンサーとしてもミキサーとしてもどっちつかずだなって思ったときに、その道を諦めるんじゃなくて周りの人をどう生かすことが出来ればより面白いことを出来るかなって考えることにした。俺の技術は今日明日で付くものじゃないけど、周りにある技術は使えるから。
先輩たちも、俺の出すアイディアとかやる気は買ってくれている。だから、やる気はそのままに、いかにみんなに協力してもらえる伝え方が出来るかっていう方にシフトしたいと思った。ただ、何をするにもまずは金だなって思ったから学祭では食品ブース中心になったんだけど。
「でも、俺は先輩たちにはまだ全然敵わねーな」
「どの辺が?」
「年末特番やるぞーってなったときに、緑ヶ丘の子が「こんな風に出来るかな?」っつってちょっと呟いた話を3年生の先輩たちはブワーッつって話を広げて面白そうなアイディアをどんどん出して、それをどーすりゃ実際にやれるんだーっつって何でもいいからどんどこ出してくんだよ。勢いに圧倒されちまって」
「その3年の先輩って何人いんだよかっすー」
「4人だな」
「1年は何人?」
「俺だけ。あと2年生の先輩が1人いる」
「そっかー、厳しいわな。ま、サークルの中だけじゃなくてその辺のダチとかとのしょーもない話から広がってくこととかもあるし、俺のことも使ってくれればいいぜかっすー」
「奏多、マジでサンキュー」
「アンテナだ、アンテナ」
ギアチェンジだとか、寄り道も悪いことじゃねーしさ。そう言って奏多は水を煽る。2年分の人生経験みたいなモンかなってやっぱ思う。3年生の先輩にしても奏多にしても。俺はまだまだこれからだ。俺のベースはやる気だから、そこは枯らさずに。
「そーいや、春風が何かかっすーに聞きたいことがあるっつってたんだよ」
「えっ、鳥ちゃんが? 何だろ」
「とりあえずかっすーの都合のいいときにでも春風にも声かけるし」
「おー、よろしくー」
end.
++++
4年生の方はわちゃわちゃやってるMMP×バド×天文ですが、1年生の方はこれから。
それぞれが各々の目標に対する進捗がどれくらい進んでるのかなって話はちょこちょこしてそう。特に奏多は。
カノンと春風が知り合った話とかはやってないのでその辺は来年度以降にやれれば。
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「おーす奏多。メシ行こーぜー」
「ひーさみー。早よ行こうぜ」
バドサーを辞めてからも奏多との付き合いは続けることが出来ていて、今でもたまにはこうして大学でメシを食ったりしている。学部が違うから授業が重なることはそうそうないし、サークルでの交わりっていうのはそういう部分で貴重だったのかなと再確認している。
奏多はバドサーでは相変わらず前原さんに勝とうと頑張っているらしい。勝つための糸口を見つけてはいるものの、まだもう少し追いついてこないんだとか。糸口を見つけるだけでもバドミントン素人の俺からすれば凄いんだけど。
「寒いとラーメンが美味い」
「辛いモンもうめーよ」
「奏多辛いの好きだもんなー。俺そこまでだから」
「そっかそっか」
奏多は担々麺を頼んで、俺は普通の醤油ラーメン。寒いとラーメンが美味いけど、奏多みたく元々辛い担々麺にラー油を追いでかけ回せるほど頑丈な舌じゃないんだよな。ちょっとだけ、ピリ辛程度に辛いのならまだ食べれるんだけど。
「奏多、そろそろ前原さんに勝てそう?」
「まー、あとちょっとなんだけどなー。あとちょっとなんだよマジで」
「ホントに?」
「ホントだって! あの人の弱点を突く戦い方は出来てきてるし、日々差は詰まってるはずだ。真希ちゃんもこの分なら卒業までには間に合うかもっつってたし」
「へー。奏多、上手くなってんだな」
「かっすーが辞めた後から、ちょっとだけダブルスも始めたんだよな」
「へー! 奏多がダブルスって全然イメージにないけど。ダブルスって2対2でやるんだよな」
「そうそう。最初は真希ちゃんに誘われて言われるままにやってたんだけど、それであの人に勝つための糸口を見つけたんだよ」
奏多は真希さんに誘われて始めたダブルスの中で、バドサーの中での新しい立ち回りを覚えたらしかった。そこで対戦した北島さんにディフェンスを教わったり、ペアを組む麻生さんとはダブルスを本職にしてる人とも互角にやり合えるくらい息が合ってきたとか。
前原さんに勝つために、前原さんと戦う以外のことで経験値を積んでるんだなと思う。ダブルスもそれはそれで楽しくてやってるんだろうけど、第一にはやっぱり打倒前原さんっていうのがあるんだよな。勝てそうになってきてるのがマジですげーや。
「かっすーはラジオの方でどんな感じ? 何か、他の大学から来てる奴がいるとかいないとかって話だったろ?」
「そうそう。緑ヶ丘から留学に来てる子がいるんだよ。今は今年度の集大成になる年末特番っていう大きな番組を作ろうって話になってて、俺とその緑ヶ丘の子と一緒に企画を練ってるっていう感じ」
「へー、楽しそうじゃん」
「何つーかさ、最初に緑ヶ丘から人を派遣してもらいますーってなったときはさ、俺じゃご不満ですかってちょっと思ったんだよな」
「かっすー随分自信あるじゃん」
「そう、自信過多だったんだよ。アナウンサーもミキサーもやるし俺は何でも出来るーって思いこんでたんだけど、実際腕がまだ追いついてこないし、そもそも6月とかに入ったばっかで練習も2つやっててって、追いつかなくて当たり前だし一人で何が出来る気でいるんだよって」
実際、すがやんの昼放送の収録を見てても、番組の中身自体は至って普通なんだけど、番組としてはめちゃくちゃ聞きやすいし、滑舌とかもめちゃくちゃいいし、アナウンサーとしての基礎ががっちり固まってんだなって思って。
俺はアナウンサーとしてもミキサーとしてもどっちつかずだなって思ったときに、その道を諦めるんじゃなくて周りの人をどう生かすことが出来ればより面白いことを出来るかなって考えることにした。俺の技術は今日明日で付くものじゃないけど、周りにある技術は使えるから。
先輩たちも、俺の出すアイディアとかやる気は買ってくれている。だから、やる気はそのままに、いかにみんなに協力してもらえる伝え方が出来るかっていう方にシフトしたいと思った。ただ、何をするにもまずは金だなって思ったから学祭では食品ブース中心になったんだけど。
「でも、俺は先輩たちにはまだ全然敵わねーな」
「どの辺が?」
「年末特番やるぞーってなったときに、緑ヶ丘の子が「こんな風に出来るかな?」っつってちょっと呟いた話を3年生の先輩たちはブワーッつって話を広げて面白そうなアイディアをどんどん出して、それをどーすりゃ実際にやれるんだーっつって何でもいいからどんどこ出してくんだよ。勢いに圧倒されちまって」
「その3年の先輩って何人いんだよかっすー」
「4人だな」
「1年は何人?」
「俺だけ。あと2年生の先輩が1人いる」
「そっかー、厳しいわな。ま、サークルの中だけじゃなくてその辺のダチとかとのしょーもない話から広がってくこととかもあるし、俺のことも使ってくれればいいぜかっすー」
「奏多、マジでサンキュー」
「アンテナだ、アンテナ」
ギアチェンジだとか、寄り道も悪いことじゃねーしさ。そう言って奏多は水を煽る。2年分の人生経験みたいなモンかなってやっぱ思う。3年生の先輩にしても奏多にしても。俺はまだまだこれからだ。俺のベースはやる気だから、そこは枯らさずに。
「そーいや、春風が何かかっすーに聞きたいことがあるっつってたんだよ」
「えっ、鳥ちゃんが? 何だろ」
「とりあえずかっすーの都合のいいときにでも春風にも声かけるし」
「おー、よろしくー」
end.
++++
4年生の方はわちゃわちゃやってるMMP×バド×天文ですが、1年生の方はこれから。
それぞれが各々の目標に対する進捗がどれくらい進んでるのかなって話はちょこちょこしてそう。特に奏多は。
カノンと春風が知り合った話とかはやってないのでその辺は来年度以降にやれれば。
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