2021(03)

■てっぺんの一番星

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「つかよ菜月、お前何で先週あんだけ声ガスガスだったんだよ。こちとらレコーディングする気マンマンだったのにあんな声じゃしばらくムリだーっつってよ」
「と言うか、菜月さんにあらかじめレコーディングの日程を伝えない方が悪いんじゃ」
「うるせースガ! 気の赴くままにやるからこその良さっつーモンがあるんだよ!」
「どうだか」
「うるせーぞ菜月」
「カンはほっとくんだ。せっかくのカレーうどんを食べるんだ」

 いただきまーすと星羅の高らかな声に続き、俺もせっかくのカレーうどんをいただくことに。今日は菜月さんがカレーうどんを作って須賀邸に鍋ごと来てくれたんだ。とても美味しい菜月さんのカレーでカレーうどんを作ったらどうなるのか、という実験的な催しでもある。
 ちなみにここのところはUSDXでもゲームの方で割と忙しくしていて、非公式ぷよテト大会は大盛り上がりのうちに終わった。参加していたのは俺と菜月さんと、リン君と朝霞の知り合いという同人作家の雨宮さん。なかなか激しい戦いで、やっていてとても楽しかった。
 勝ち負けという部分では引き分けということにはなってしまうのだけど、それだけ実力が拮抗していてひとつのミスが致命傷になるというハイレベルな戦いだったように思う。まさに頂上決戦だなという風にソルさんも感心してくれたのが個人的には嬉しかった。

「声がカッスカスになるのは仕方なくないか? だって野球が大詰めだったんだ」
「圭斗が言ってたんだ! 菜月さんはチェアーズファンなんだ! スポーツ新聞は買い占めたんだ?」
「それこそ優勝が決まった日は後輩とカレーうどんの試作をしてて、そのまま酒を飲みつつ野球見て、朝刊が入るくらいの時間帯にコンビニに走って大本営の新聞を買って読んで、優勝特別号はオンラインショップで注文してあるから、それを読むのが楽しみで楽しみで」
「それは良かったんだ! ボクも久々にマ・リーグが勝って嬉しかったんだ! でも来シーズンはアスタズも負けないんだ!」
「星羅さんはアスタズのファンで?」
「野球はちょっと見る程度なんだ! でもどのチームが好きかと聞かれれば光洋アスタズなんだ!」

 星羅の「ちょっと見る程度」が本当かどうかはともかく、負けても「また明日なんだ!」と引きずらないところからしてもカラッとしたタイプのファンなのだろう。たまに負けると暴れ散らかすタイプの人もいるからなあ。これが厄介で。
 カレーうどんを食べながらも、この間まで行われていた野球のファイナルシーズンの何がどう凄かったんだ、と女子2人が盛り上がりを見せている。一方で、野球はからっきしのカンは「ンなことより何でそんだけ叫んだ」とご不満な様子。

「圭斗が去年付き合ってた彼女がポケッツの過激派だったみたくて合わなかったとは聞きました」
「あの子は本当に過激なんだ。圭斗はスポーツに興味がないんだ。だから多少過激でも大丈夫かなと思って紹介したんだ」
「野球観戦を強要されるのが苦痛だって、その当時は本当にげっそりしてましたね」
「束縛が強いタイプだったんだ。圭斗には合わなかったんだ」

 松岡君とは何度か話したけど、彼は本当にスポーツには無関心だし典型的な文化系……と言うか、物凄い美形だしコミュニケーション能力もまあまああるからパッと見ではわからないのだけど、陽キャの皮を被った結構な陰キャだなという印象がある。

「その辺スガノはどうなんですか。星羅さんの野球の趣味に関しては」
「泰稚はボクよりも詳しくないんだ。でも向島の人だから、どこを応援してるかと言えばポケッツになるんだ」
「まあそうか」
「ドームにもたまに一緒に行くんだ」
「野球を見にかあ。憧れるなあ」
「菜月さんも一緒に野球見てた後輩と行けばいいんだ? チェアーズとポケッツはマスコット同士も仲がいいんだ」
「今シーズンはもう終わったし、来年は実家の緑風に帰るので野球を見に行くハードルはグッと上がりますね」
「実家が緑風なんだ!? お薬の会社がいっぱいあるんだ!」
「わっ、びっくりしたあ」

 薬学部は6年制だから就職までにはまだもう少し時間があるのだけど、星羅は出来れば後発医薬品の分野に進みたいと考えている。だから業界のことや、それが盛んな地域のことなんかも少しずつ調べ始めている。今では体の調子もいいから「どこのエリアでも行くんだ」と気合十分で。
 菜月さんの実家が緑風だと聞いて星羅のスイッチが入ってしまった。ただ、菜月さんも菜月さんで就活の一環で製薬会社……ではなく製薬会社と取引のある印刷(と言うかパッケージ?)会社を調べていたそうだから、方向性は違っても話自体は盛り上がっているみたいだ。

「おーい菜月、カレーうどんおかわりくれー」
「自分でやれ」
「なんだよー」
「わ、いい匂い」
「きららなんだ」
「これ、カレーうどん?」
「菜月さんのカレーうどんなんだ!」
「え、いいな。私も食べたい。菜月さん、まだありますか?」
「あるある。今よそいますよ」
「ありがとうございます」
「おい菜月、お前俺ときららの扱いに差がありすぎじゃねーか?」
「うちは可愛い女の子を愛でたいだけだ。はいきららさんどうぞ。お口に合えばいいんだけど」
「やったあ。いただきます」

 何と言うか、菜月さんもこの家に馴染んできたなあと思う。それって言うのも星羅ときららに懐かれてるからだとは思うんだけど。菜月さんからカンが受けている扱いについては、お前の菜月さんに対する扱いも人のことは言えないだろとしか言えない。

「んー、おいしい! 菜月さんのカレーって何でこんなにおいしいんだろ」
「星羅さんのカレーの方が美味しいと思うけどなあ」
「甲乙付け難いんですよ。菜月さんのカレーもお姉のカレーも頂上にあるんです。菜月さんのいつものカレーもまた食べたいなあ」
「きらら、食べたいならまたタッパーにお願いするんだ。菜月さんは卒業したら実家に帰っちゃうんだ。今のうちなんだ!」
「じゃあ急がないと」


end.


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菜月さんは須賀家のリビングに馴染んできてるし圭斗さんは見た目よりバリ陰キャ。スガPの見方はそんな感じ。だいたいあってる。
食べたいときに菜月カレーはなし。MMPだけじゃなくて須賀家でも共通認識になりつつあるぞ。
そろそろMMPでも誰かしらが菜月さんのカレーが食べたいなあと言い始める頃合いだね。抽選会はもうすぐだ

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