2021(03)
■緑ヶ丘らしくあれ
++++
3限が休講になった。何気なくサークル室に行ってみると、ミキサー席の方で高木が何やら作業をしているみたかった。機材の配線を弄っているようで、俺にはコイツが何を思ってそんなことをしているのかはわからないけど、機材部長なりに考えるところがあったのかもしれない。
……にしては触り方が荒っぽいような気がする。荒っぽいというのは粗雑だとか乱雑という意味ではなく、派手にバラしているなという意味だ。今年になってMBCCの機材環境は大きく変わった。まず、佐藤ゼミのお下がりでパソコンが導入された。これはガラス張りのラジオブースで使っていた物で、これを使うことでMP3形式の音声ファイルとして番組を収録出来るようになった。
パソコンの恩恵は今やっている番組の保存だけではなく、音源や過去の番組の保存という意味でもかなり大きかったと思う。L先輩と高木が中心になってMDに録音されていたもののファイル化を進めてたんだけど、検索機能が充実したなと思うし、ウチの環境が良くなることでインターフェイスの環境が良くなることにも繋がるのは凄いなと。
「高木、何やってんだっていう」
「あ、エイジ。どうしたの?」
「3限休講になったから来てみたんだ。つか何やってんだ?」
「見ての通り、機材をバラしてるんだよ」
「……まあ、お前なら復旧も出来るしいいんだけど、どうしたんだ」
「ちょっと、1回去年までのスタイルでやりたいなと思って」
「去年までのスタイル?」
「パソコンだとか、サンプラーがない、ミキサーとCDデッキとMDデッキだけでやる基本的な番組だよ」
そう言いながら、高木はパソコンやサンプラーといった、今年になってから増えた物を退かしている。外すならケーブルを抜くだけで良さそうなものだけど、高木の中では退かすことが必要だったのかもしれない。そうやって出来上がった去年までの形のミキサー席は、随分質素と言うか、簡素だなと思う。
「何でまた急に」
「1年生たちとこないだ鍋をやってたんだよね。それで、去年の昼放送の話になって。俺はミキサーとして何が出来るようになったのかなっていうのを考えてたんだよ」
「去年の昼放送か。確かお前、高崎先輩と組んでたべ」
「正直悔いしか残ってないんだよ。今の俺だったらもうちょっと高崎先輩を生かすことも出来たかなとか。でも、その時のことがなければ今の俺はなかったよなあとか」
昨年秋学期の昼放送で、高木は高崎先輩とペアを組んでいた。番組自体は何とかこなしていたように思うけど、よくある基本の構成で淡々と番組をやるという形になっていた。高木が見込まれていたのはその年の夏合宿で見せたトリッキーな構成であったり音の扱い方であったり、アナウンサーとバリバリ意思疎通してのライブ感のあるそれ。
半期が終わる頃にもらった講評が、劣化版のカズ先輩になっちまっただとか、粗削りでも夏合宿の頃の方が良かったというものだった。今でこそ好き放題に音を組み立てるスタイルはコイツの代名詞みたいになってるけど、当時は高崎先輩に食らいつくのでいっぱいいっぱいだったのを俺も見て来た。その時のことを、今になって思い出しているようだ。
「すがやんの留学で見えてきたことがあってさ」
「おう、何だっていう」
「すがやんが言ってるようなこと? 向島さんはミキサーも番組の内容にガツガツ絡んで来るっていう」
「ああ、そうだな」
「ああいうのはやっぱり俺には無理なんだよ。俺に出来るのは音や構成で遊ぶことだけで。如何せんよくある基本の構成じゃない番組をやってるから変に目立ちがちだし緑ヶ丘っぽくないとはよく言われるけど、多分俺が誰よりも緑ヶ丘っぽいミキサーだし、そうあらなくちゃいけないんだと思う」
「で、お前の思う緑ヶ丘っぽいミキサーっつーのは?」
「練習を積み重ねて足場を固めて、そうやって身に付けた技術でより良い番組にするっていうことだね。番組構成の奇抜さを作ってるのはあくまで裏打ちされた技術や経験ですよっていう。トークを音で引き立てて、トークや声に合う音をどうクロスしていくかなんだよね」
高木的に、緑ヶ丘らしさだとか向島らしさっていうのは番組の構成やトーク内容ではなく、番組制作のスタンスだとかに偏るんじゃないかなということだ。高木のミキシングは構成が奇抜だし、音の遊び方も去年に比べれば凄く進化したと思う。だけど番組の内容自体はペアを組んでるアナウンサーに依存している。春学期にはコイツとペアを組んでたけど、番組内容自体は俺が考えてたっていう。
ミキサーは相手が誰であろうとも相手に遠慮せず番組をやれという風には高崎先輩からも言われたし、1年の時の夏合宿ではなっちサン相手にそれをやれていたから今でも語り継がれる番組になった。技術的にはあの頃よりもそれなりに伸びたとは本人も思っている。季節が巡ってきたことで、刺さったまま抜けない棘がまたその存在を主張し始めたのだろう。
「高崎先輩が卒業する前に1回リベンジしたいんだよね」
「おお、やるのか。つか、MBCC昼放送でやるのか」
「それだと少し時間がなさすぎるから、1つ考えてる手があって。でも、俺のプレゼンバトル力が試されるんだよな~……」
「ガチでやるんならパッションで押せばいいんだっていう」
「そうだね。後戻り出来ないように自分を追い込んで行こう。うん、そうしよう」
「練習なら付き合うべ。サークルが始まる頃には原状回復するんだろ」
「そしたら頼める?」
end.
++++
例のゲリラ番組に向けたTKGの決意表明的なアレ。そういうのを聞けるのは多分果林かエイジ。
緑ヶ丘らしいミキサーとか向島らしいナントカみたいなことがよく言われるけど、それって実際?という話。
TKGのプレゼンバトル力はよくわからないのだけど、パッションであれば番組関係の口数を見る限りまあまあ戦えそうだが?
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3限が休講になった。何気なくサークル室に行ってみると、ミキサー席の方で高木が何やら作業をしているみたかった。機材の配線を弄っているようで、俺にはコイツが何を思ってそんなことをしているのかはわからないけど、機材部長なりに考えるところがあったのかもしれない。
……にしては触り方が荒っぽいような気がする。荒っぽいというのは粗雑だとか乱雑という意味ではなく、派手にバラしているなという意味だ。今年になってMBCCの機材環境は大きく変わった。まず、佐藤ゼミのお下がりでパソコンが導入された。これはガラス張りのラジオブースで使っていた物で、これを使うことでMP3形式の音声ファイルとして番組を収録出来るようになった。
パソコンの恩恵は今やっている番組の保存だけではなく、音源や過去の番組の保存という意味でもかなり大きかったと思う。L先輩と高木が中心になってMDに録音されていたもののファイル化を進めてたんだけど、検索機能が充実したなと思うし、ウチの環境が良くなることでインターフェイスの環境が良くなることにも繋がるのは凄いなと。
「高木、何やってんだっていう」
「あ、エイジ。どうしたの?」
「3限休講になったから来てみたんだ。つか何やってんだ?」
「見ての通り、機材をバラしてるんだよ」
「……まあ、お前なら復旧も出来るしいいんだけど、どうしたんだ」
「ちょっと、1回去年までのスタイルでやりたいなと思って」
「去年までのスタイル?」
「パソコンだとか、サンプラーがない、ミキサーとCDデッキとMDデッキだけでやる基本的な番組だよ」
そう言いながら、高木はパソコンやサンプラーといった、今年になってから増えた物を退かしている。外すならケーブルを抜くだけで良さそうなものだけど、高木の中では退かすことが必要だったのかもしれない。そうやって出来上がった去年までの形のミキサー席は、随分質素と言うか、簡素だなと思う。
「何でまた急に」
「1年生たちとこないだ鍋をやってたんだよね。それで、去年の昼放送の話になって。俺はミキサーとして何が出来るようになったのかなっていうのを考えてたんだよ」
「去年の昼放送か。確かお前、高崎先輩と組んでたべ」
「正直悔いしか残ってないんだよ。今の俺だったらもうちょっと高崎先輩を生かすことも出来たかなとか。でも、その時のことがなければ今の俺はなかったよなあとか」
昨年秋学期の昼放送で、高木は高崎先輩とペアを組んでいた。番組自体は何とかこなしていたように思うけど、よくある基本の構成で淡々と番組をやるという形になっていた。高木が見込まれていたのはその年の夏合宿で見せたトリッキーな構成であったり音の扱い方であったり、アナウンサーとバリバリ意思疎通してのライブ感のあるそれ。
半期が終わる頃にもらった講評が、劣化版のカズ先輩になっちまっただとか、粗削りでも夏合宿の頃の方が良かったというものだった。今でこそ好き放題に音を組み立てるスタイルはコイツの代名詞みたいになってるけど、当時は高崎先輩に食らいつくのでいっぱいいっぱいだったのを俺も見て来た。その時のことを、今になって思い出しているようだ。
「すがやんの留学で見えてきたことがあってさ」
「おう、何だっていう」
「すがやんが言ってるようなこと? 向島さんはミキサーも番組の内容にガツガツ絡んで来るっていう」
「ああ、そうだな」
「ああいうのはやっぱり俺には無理なんだよ。俺に出来るのは音や構成で遊ぶことだけで。如何せんよくある基本の構成じゃない番組をやってるから変に目立ちがちだし緑ヶ丘っぽくないとはよく言われるけど、多分俺が誰よりも緑ヶ丘っぽいミキサーだし、そうあらなくちゃいけないんだと思う」
「で、お前の思う緑ヶ丘っぽいミキサーっつーのは?」
「練習を積み重ねて足場を固めて、そうやって身に付けた技術でより良い番組にするっていうことだね。番組構成の奇抜さを作ってるのはあくまで裏打ちされた技術や経験ですよっていう。トークを音で引き立てて、トークや声に合う音をどうクロスしていくかなんだよね」
高木的に、緑ヶ丘らしさだとか向島らしさっていうのは番組の構成やトーク内容ではなく、番組制作のスタンスだとかに偏るんじゃないかなということだ。高木のミキシングは構成が奇抜だし、音の遊び方も去年に比べれば凄く進化したと思う。だけど番組の内容自体はペアを組んでるアナウンサーに依存している。春学期にはコイツとペアを組んでたけど、番組内容自体は俺が考えてたっていう。
ミキサーは相手が誰であろうとも相手に遠慮せず番組をやれという風には高崎先輩からも言われたし、1年の時の夏合宿ではなっちサン相手にそれをやれていたから今でも語り継がれる番組になった。技術的にはあの頃よりもそれなりに伸びたとは本人も思っている。季節が巡ってきたことで、刺さったまま抜けない棘がまたその存在を主張し始めたのだろう。
「高崎先輩が卒業する前に1回リベンジしたいんだよね」
「おお、やるのか。つか、MBCC昼放送でやるのか」
「それだと少し時間がなさすぎるから、1つ考えてる手があって。でも、俺のプレゼンバトル力が試されるんだよな~……」
「ガチでやるんならパッションで押せばいいんだっていう」
「そうだね。後戻り出来ないように自分を追い込んで行こう。うん、そうしよう」
「練習なら付き合うべ。サークルが始まる頃には原状回復するんだろ」
「そしたら頼める?」
end.
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例のゲリラ番組に向けたTKGの決意表明的なアレ。そういうのを聞けるのは多分果林かエイジ。
緑ヶ丘らしいミキサーとか向島らしいナントカみたいなことがよく言われるけど、それって実際?という話。
TKGのプレゼンバトル力はよくわからないのだけど、パッションであれば番組関係の口数を見る限りまあまあ戦えそうだが?
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