2021(03)
■カーディガンの歴史
++++
「さっむ」
授業が終わって建物の外に出ると、めちゃくちゃ寒い。そうだよな、だってもう12月だ。星港に住み始めて初めて迎える冬だ。どんな服を着ればいいかよくわからなくて毎日毎日あれこれ試しては失敗を繰り返している。風が難しいんだよな。星ヶ丘大学の構内は大学構内なのに無駄にアップダウンがあるからもこもこの物を着てると暑くなるし。
大学での日常をベースに服装を組み立てて、それじゃあバイトへ行きましょうとなると花栄のど真ん中のビル風がめちゃくちゃ堪えるんだよな。じゃあバイトに行く前に家に帰って上着でも持って来ればいいじゃねーかと思うけど、家に寄るのも面倒だっていう。出来れば大学から直で地下鉄に乗りたいんだよな。
今はちょうど2限が終わったところ。出来れば早いところ学食に避難したい。それっくらい寒い。部活の場で寒い寒い言ってたら海月とみちるに大袈裟だって言われてメンタルがボコられるんだよな。マリンさんもお前は骨と皮だけだから寒いんだってボコって来るし。その点ゴローさんは優しいよな、俺が寒さ慣れしてないことに理解があると言うか。
「えーっと、何にすっかなー」
さみーからラーメンにしようと学食の券売機のボタンを押したところで、俺を呼んでんだろうなって声に気付く。そっちの方に振り向くと、そこにいたのは手をひらひらと振る洋平さんだ。朝霞さんによれば文系の4年生ともなると大学に来ることも少なくなるとかで、ゼミの日でもないとよっぽど大学に用事はないって言ってたけど。
「彩人クンも今からご飯~?」
「そうっすね、2限終わりで」
「友達一緒とかじゃないなら一緒に食べてい~い~?」
「あっ、もちろんっす!」
「彩人クン何にした?」
「ラーメンっす。とんこつ五目ラーメンで」
「いいね。俺、塩五目ラーメンにしようかな。学食の塩ラーメンて~、鶏ベースの出汁でおいし~んだよね~」
「へー、そうなんすね。今度食べてみよ」
それぞれのラーメンを受け取って、座れそうな席を探す。2人だからカウンター席とかでも全然いいんだけど、何かちょっと前と比べると明らかに学食を使う人口が増えてる気がする。何とか座れそうなところを見つけて場所を確保。こっちっすーと洋平さんを呼ぶんだけど、遠目にこっちを窺う立ち姿がバリイケメン。
「席ありがとね~」
「いえ、たまたま見つけたんで」
「それじゃ~食べよ~。早く食べないと冷めちゃうから」
「冷める? のびるじゃなくてっすか」
「冷める方が早いよ~。それじゃ、いただきま~す」
「いただきます。はー、うめー…! あったけ~!」
「彩人クンもやっぱり寒いのは苦手なの?」
「つか寒いの得意な人なんかそうそういなくないすか?」
「いるところにはいるよ~。例えば、雪国出身の子とかは~、今くらいの時期の星港でもまだまだって~」
「そりゃ雪国から出て来てりゃそうっすよね」
「緑大さんとか向島さんとかの子も豊葦に比べれば~ってよく言うよね~」
そう聞いて、そういやリクも寒いのにはまあまあ強かったなと思う。本人曰く剣道部だった頃に寒稽古とかもしてたから多少の寒さは気合で何とか出来るってことらしいけど、豊葦生まれ豊葦育ちだからってのも多少はあるだろうな。雪が積もることもあるっつってたし。雪が積もるって何だよ。こちとら降るだけでも事件だっつーのに。
「つか、彩人クンもって、誰と比較しての“も”だったんすか?」
「朝霞クンだね。山羽って~、こっちよりあったかいでしょ~?」
「あっ、そうっすね。朝霞さんも寒いの嫌いなんすか」
「朝霞クンは弱いね~。あっ、朝霞クンの服装の秘密、知ってる~?」
「服装って、あのカーディガンすか?」
「そ」
「え、何か秘密があるんすか? あのいかにもなプロデューサー巻きっすよね。ステージのプロデューサーだからじゃなくてっすか?」
「朝霞クンがああやって肩にカーディガンを巻き始めたのは、星ヶ丘大学の学食が寒いから羽織りが欲しいって言ってね~。でも普段から着てる必要はないからああやって結ぶ形になったの」
「あー……確かに羽織りはあるといいっすよね。夏は夏で冷房ガンガンかかってますからね」
「そうやってるうちに肩に何か乗ってないと落ち着かなくなっちゃって、あれで定着したってワケ」
「へー、人に歴史ありっすね。それを知ってるのもさすが洋平さんっすね。つか洋平さんも今日のカッコめちゃセンスいいっすね。さすが、オシャレっす」
「ありがとね~。でも、このコーディネートは全身朝霞クンが選んでくれたヤツだから、センスがよくてオシャレなのは俺じゃなくて朝霞クンだね~。俺はコーディネート下手だからさ~」
「またまたぁ」
「嘘だと思うなら朝霞クンかつばちゃんに聞いてみて~」
ちょっとそこまでなら自分で適当に選んだ服でいいけど、大学とか街へのお出掛けとかは悪目立ちしないように朝霞さんに選んでもらった組み合わせで出掛けるようにしているらしい。つかそう聞くと逆に洋平さんが自分で組んだコーディネートも気になるし、俺も朝霞さんにこの時期この辺を歩くのにちょうどいいコーディネートをしてもらいたい。
「ホント、マジで何着たらいいんすかね今の時期って」
「彩人クン、背の割に細いからね~。薄手のダウンとかになるのかな~? 今のうちに朝霞クンに相談してみたら~?」
「やっぱそれがいいっすよね。あざっす。……ん。ラーメン、あからさまにぬるくなってません?」
「言ったでしょ~? 猫舌に優しい学食だから~」
end.
++++
背の割に細い彩人はタイプ的に圭斗さんぽい感じだから大袈裟に寒がっては女子にボコられてそう。
洋平ちゃんの中で寒さに強い印象が強いのは雪国出身の議長サンとか、筋肉で解決するこっしーさんとか。
去年のアウトレット以外にもPさんはやまよの全身コーディネートなんかをキレながらやってんのかな? やってそうですね
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「さっむ」
授業が終わって建物の外に出ると、めちゃくちゃ寒い。そうだよな、だってもう12月だ。星港に住み始めて初めて迎える冬だ。どんな服を着ればいいかよくわからなくて毎日毎日あれこれ試しては失敗を繰り返している。風が難しいんだよな。星ヶ丘大学の構内は大学構内なのに無駄にアップダウンがあるからもこもこの物を着てると暑くなるし。
大学での日常をベースに服装を組み立てて、それじゃあバイトへ行きましょうとなると花栄のど真ん中のビル風がめちゃくちゃ堪えるんだよな。じゃあバイトに行く前に家に帰って上着でも持って来ればいいじゃねーかと思うけど、家に寄るのも面倒だっていう。出来れば大学から直で地下鉄に乗りたいんだよな。
今はちょうど2限が終わったところ。出来れば早いところ学食に避難したい。それっくらい寒い。部活の場で寒い寒い言ってたら海月とみちるに大袈裟だって言われてメンタルがボコられるんだよな。マリンさんもお前は骨と皮だけだから寒いんだってボコって来るし。その点ゴローさんは優しいよな、俺が寒さ慣れしてないことに理解があると言うか。
「えーっと、何にすっかなー」
さみーからラーメンにしようと学食の券売機のボタンを押したところで、俺を呼んでんだろうなって声に気付く。そっちの方に振り向くと、そこにいたのは手をひらひらと振る洋平さんだ。朝霞さんによれば文系の4年生ともなると大学に来ることも少なくなるとかで、ゼミの日でもないとよっぽど大学に用事はないって言ってたけど。
「彩人クンも今からご飯~?」
「そうっすね、2限終わりで」
「友達一緒とかじゃないなら一緒に食べてい~い~?」
「あっ、もちろんっす!」
「彩人クン何にした?」
「ラーメンっす。とんこつ五目ラーメンで」
「いいね。俺、塩五目ラーメンにしようかな。学食の塩ラーメンて~、鶏ベースの出汁でおいし~んだよね~」
「へー、そうなんすね。今度食べてみよ」
それぞれのラーメンを受け取って、座れそうな席を探す。2人だからカウンター席とかでも全然いいんだけど、何かちょっと前と比べると明らかに学食を使う人口が増えてる気がする。何とか座れそうなところを見つけて場所を確保。こっちっすーと洋平さんを呼ぶんだけど、遠目にこっちを窺う立ち姿がバリイケメン。
「席ありがとね~」
「いえ、たまたま見つけたんで」
「それじゃ~食べよ~。早く食べないと冷めちゃうから」
「冷める? のびるじゃなくてっすか」
「冷める方が早いよ~。それじゃ、いただきま~す」
「いただきます。はー、うめー…! あったけ~!」
「彩人クンもやっぱり寒いのは苦手なの?」
「つか寒いの得意な人なんかそうそういなくないすか?」
「いるところにはいるよ~。例えば、雪国出身の子とかは~、今くらいの時期の星港でもまだまだって~」
「そりゃ雪国から出て来てりゃそうっすよね」
「緑大さんとか向島さんとかの子も豊葦に比べれば~ってよく言うよね~」
そう聞いて、そういやリクも寒いのにはまあまあ強かったなと思う。本人曰く剣道部だった頃に寒稽古とかもしてたから多少の寒さは気合で何とか出来るってことらしいけど、豊葦生まれ豊葦育ちだからってのも多少はあるだろうな。雪が積もることもあるっつってたし。雪が積もるって何だよ。こちとら降るだけでも事件だっつーのに。
「つか、彩人クンもって、誰と比較しての“も”だったんすか?」
「朝霞クンだね。山羽って~、こっちよりあったかいでしょ~?」
「あっ、そうっすね。朝霞さんも寒いの嫌いなんすか」
「朝霞クンは弱いね~。あっ、朝霞クンの服装の秘密、知ってる~?」
「服装って、あのカーディガンすか?」
「そ」
「え、何か秘密があるんすか? あのいかにもなプロデューサー巻きっすよね。ステージのプロデューサーだからじゃなくてっすか?」
「朝霞クンがああやって肩にカーディガンを巻き始めたのは、星ヶ丘大学の学食が寒いから羽織りが欲しいって言ってね~。でも普段から着てる必要はないからああやって結ぶ形になったの」
「あー……確かに羽織りはあるといいっすよね。夏は夏で冷房ガンガンかかってますからね」
「そうやってるうちに肩に何か乗ってないと落ち着かなくなっちゃって、あれで定着したってワケ」
「へー、人に歴史ありっすね。それを知ってるのもさすが洋平さんっすね。つか洋平さんも今日のカッコめちゃセンスいいっすね。さすが、オシャレっす」
「ありがとね~。でも、このコーディネートは全身朝霞クンが選んでくれたヤツだから、センスがよくてオシャレなのは俺じゃなくて朝霞クンだね~。俺はコーディネート下手だからさ~」
「またまたぁ」
「嘘だと思うなら朝霞クンかつばちゃんに聞いてみて~」
ちょっとそこまでなら自分で適当に選んだ服でいいけど、大学とか街へのお出掛けとかは悪目立ちしないように朝霞さんに選んでもらった組み合わせで出掛けるようにしているらしい。つかそう聞くと逆に洋平さんが自分で組んだコーディネートも気になるし、俺も朝霞さんにこの時期この辺を歩くのにちょうどいいコーディネートをしてもらいたい。
「ホント、マジで何着たらいいんすかね今の時期って」
「彩人クン、背の割に細いからね~。薄手のダウンとかになるのかな~? 今のうちに朝霞クンに相談してみたら~?」
「やっぱそれがいいっすよね。あざっす。……ん。ラーメン、あからさまにぬるくなってません?」
「言ったでしょ~? 猫舌に優しい学食だから~」
end.
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背の割に細い彩人はタイプ的に圭斗さんぽい感じだから大袈裟に寒がっては女子にボコられてそう。
洋平ちゃんの中で寒さに強い印象が強いのは雪国出身の議長サンとか、筋肉で解決するこっしーさんとか。
去年のアウトレット以外にもPさんはやまよの全身コーディネートなんかをキレながらやってんのかな? やってそうですね
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