2021(03)

■Longing for a Bonfire

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「はー、あったけー」
「今日とか何かめちゃ寒いし、焚き火日和っすね」
「焚き火だけジャないすよすがやん。今日の本題はこれスわ」
「わーすげー! サツマイモっすね! どーしたんすかこれ!」
「土田さんが知り合いからいただいたそうなので、焼き芋をしようということになったんですよ。これをこうして、こうじゃ」

 水曜日の向島派遣の日。いつものようにサークル棟までの坂を上って駐車場に車を止めると、その砂利の上でMMP一団の輪が出来ていた。何かと思って近付くと、輪の中には焚き火がある。学校の敷地内で焚き火をするだなんてやっぱ向島はレベルが高い。
 りっちゃん先輩がもらってきたっていうサツマイモはすっごいデカくて焼けたときの想像が捗って仕方ない。きっと……と言うか、絶対美味いんだろうなって。今日は急に冷え込んだし、焼き芋をするには絶好のタイミングだ。
 こーた先輩が濡れた新聞紙やらアルミホイルやらで包んだ芋を火の中に放り入れ、しばし待つ。せっかく外に出ているので、しばらくは寒いとかめんどくさいという理由でやっていなかった発声練習もやる。発声をやらない理由も独特だ。

「普段と発声練習の場所が変わると声の反響の仕方も変わってくるな」
「本当ですねえ」
「ちなみにすがやん、緑ヶ丘では寒いとかめんどいっつー理由で発声練習をサボったりはなかなかないスよねェ。ウチじゃ雨が降ってるとかでもやらなくなりがちなンすけど」
「そもそもが外じゃなくてサークル棟の中でやるので天候にはあんま左右されないっすね。さすがに防音室は軽音系の団体や演劇部とかが押さえてるんで使えないんですけど」
「え、防音室なんかあるのか」
「ありますね。でも軽音の人ら、防音室の扉開けっぱで練習してるから防音室の意味を全くなしてないっていう」
「さすが緑ヶ丘、防音室があるとか向島からじゃ考えられないぜ」
「でも向島はこうして開放的な雰囲気で声を出せるので、これはこれで気持ちいいっすよ。ちゃんと森が残ってる山の中っすし。森林セラピーの一環っぽいっすよね」
「すがやんの陽の力で陰気極まりない3年が溶けるんだが」
「ええ、完全に無になりますね」

 今の子がこうなのか俺がこうなのか、はたまたMBCCの風土なのかと3年生の先輩たちがうーんうーんと考え込んでいる。MBCCと比較するとMMPの人たちは基本的に陰の力が強いという風に先輩たちが言ってるのはよく聞くけど、正直あんまりピンと来てなかったんだよな。

「そーいやりっちゃん先輩、俺何かのニュースとかで見たんすけど、サツマイモって今何かヤバいんじゃなかったでしたっけ!」
「えっ何それカノン」
「基腐れだとか根腐れとかいう病気が流行ってるンすわ。いろんな銘柄の苗が全国各地に出荷されてるンすけど、その過程でどんどん広がってるそースよ。確か、カビやら菌が悪さをしてるとかナントカ。雨が降るとブワーッ、らしース」
「雨が降るとブワーッ」
「この芋はそんな状況の中でここまで大きく育ったんすね」
「マジで貴重じゃないすか」
「作った人も結構苦労したって言ってたそースよ」

 そのナントカ病っていうのはサツマイモの伝染病の一種なのかな。でも伝染病って決定的な対策が出てくるまではなかなか手の打ちようもないし、何とかして拡大を食い止めるくらいしか出来なさそうなのがもどかしいと言うか何と言うか。
 そんな話の後だから、焼けるのにまあまあ時間がかかるくらいデカく育った芋を見ると育てるのがどんだけ大変だったのかなって思うよな。病気にかかった苗が1本混ざってると、雨が降ったらブワーッだし。苗の時点での見極め方なんかもあるのかな。

「何か、焚き火を見て最初はちょっとしたノスタルジーとか太古のロマンを感じてたんすけど、芋の病気の話とか普通に社会問題じゃないすか。掘り下げたい話がいろいろ出てきますね」
「ノスタルジーはわかるけど、太古のロマン?」
「カノン、考えてみて欲しいんだけど、電気もない時代の人たちが火という圧倒的なエネルギーと出会ったときのことだとか、それを生活に定着させていくまでの過程のこととかさ、すっげーワクワクしねー?」
「俺も一応環境科学部だし何万年前の氷から出てきた空気~みたいな話は聞くしすがやんの言いたいことは何となくわかるんだけど、そこまでのガチ勢じゃないから熱量はさすがに違うわ」
「なんならその何万年前の氷の話とかめっちゃ聞きたいんだけど。あっ、誰かこの間の月食見た人います? 凄かったっすよね! ああいうのも宇宙の観測によって仕組みが明らかになる前はどんな風に扱われてたのかなーって考えるの楽しくないすか?」
「……すがやん、何かキャラ崩壊してね? 早口になってっし、そもそもそんなマシンガンみたく喋るタイプだっけ」
「MBCCの方じゃ聞く方と言うか話を振る方が多いかもしれないっすね」
「もしかしなくてもカノン、ガチ勢を起こしましたね?」
「すがやんは浅くめちゃくちゃ広くのバリバリ陽タイプだと思ってたけど、オタク気質も兼ね備えてるとなると話が変わってくるぞ」

 楽しすぎてうっかり喋りすぎてしまった。でもまだ引かれてはないみたいでよかった。何にせよ、度が過ぎると大変なことになるから程々が一番なんだよな。

「ところですがやん、太古のロマンを感じたいならおすすめのゲームがあるし自分がゲームをやらないのなら実況動画があるからそれを見てもらえればいいんだけども」
「そんなゲームがあるんすか!」
「野坂さんがすがやんを陰の側に引き寄せ始めましたよ」
「負け戦スよ。さ、芋はどうなったカナー」


end.


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MMPとすがやんと焼き芋。すがやんは泣く子も黙る陽のキャラクターなのだけど、好きなことに関してはめちゃくちゃ喋るのよ
愚民たちが燃えそうなものを集めてるだけの話とかもいつかやりたい。ぎゃあぎゃあ言いながら枝とか集めてるんでしょ
りっちゃんが芋をもらってるのはダイチからで、出所はひかりファーム。情報センターや星ヶ丘のサツマイモ話もいつかやりたい

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