2021(03)
■この人はいつもこう
++++
「リン君久し振りー。いつ振りだっけ?」
「その時のことはロクでもなかったはずなので記憶からは抹消しましたが、まずは苦情から訴えねばなりません」
基本的にこの人からの連絡は嫌な予感しかしないのだが、年の瀬も近付く季節ともなるとまたロクでもない話を持ちかけて来るのだろうなという想像には難くない。確か今年の正月か卒業式シーズン以来となる青山さんから呼び出され、何でも話があるとか。しかし、青山さんの話より先にこちらが訴えておかねばならん苦情は山ほどある。
「あ、苦情には心当たりがありまーす」
「なら話が早いな。北……いや、北に限らず送り付けられた芋をセンターに投棄するのは金輪際止めてもらおうか」
「悪気はありませんでした」
「悪気が無ければ許されるという事案ではない」
「でもさあ、普通に考えてあれだけのジャガイモをさあ、一般家庭には置いとけないじゃない」
「大学の学習支援施設に投棄する方がどうかしている。昨今は不用品を売買出来るフリーマーケットアプリなどもあろうに」
「業者でもないのにあの量は盗品だとか、如何わしいルートの物なんじゃないかって疑わない?」
「それはわからんでもない」
春山さんが卒業すればあの大量の芋や何かからは解放されると思ったのも束の間、夏には南からの、秋には北からの芋がセンターの事務所に山積みにされていた。元々春山さんが芋を送った先が青山さんだったのだが、青山さんから高山や綾瀬といったセンターに繋がる人脈を使ってやられたのだ。
芋が投棄される度に主に川北の人脈で何とかしてもらうことで処理していたのだが、さすがに埒が明かんのでしっかりと苦情を出しておかねばならん。そういうことで、青山さんからの本題の前にこの話を切り出したのだ。しかし、今はオレがいるからともかく、来年度以降もセンターに投棄しに来ようものなら通報しろと川北に伝えるべきか。
「ほら俺、芹ちゃんの恨みを買っちゃったじゃない?」
「それはいつものことだと思いますが。そもそもいつの恨みの話をしている」
「芹ちゃんが今住んでる場所とか働いてる場所ってのは目星をいくつかつけてる頃なんだけど、夏の北辰には絶対現れるってわかってるからね」
「ああ、音楽フェスですか」
「そう。日程とタイムテーブルを見れば芹ちゃんが3日間どういう回り方をするとかすぐわかっちゃうワケ。待ち伏せなんか朝飯前だよ」
「気色の悪いことを当たり前のように言うのは健在ですね。それで、夏に恨みを買ったんですか」
「ライブが終わったその足でヤることヤるじゃん」
「見境がないのも相変わらずだな」
「恨みを買うとすれば絶対それなんだよね~。でも仕方ないよね、ご無沙汰だから燃えちゃうし」
「知ったことか」
「芹ちゃんが可愛いのが悪いと思わない?」
「何故オレに同意を求める」
「リン君は芹ちゃんが股間にこない人だもんね、知ってた」
芋がいつもより多く送り付けられた原因は、青山さんが性欲のままに春山さんをいたぶったからであろうと結論付けられた。青山さんは場にオレがいるにも関わらず性交を始めそれを見せつけて来るなど前々からその手のことには開放的過ぎる人だとは知っているが、夏の北辰でしたことの一部始終を聞かされる身にもなれというのと、変態的でハードなそれを本当にやったのなら恨まれても当然だ。
そもそも、春山さんに似た可愛い娘を作るという計画も聞かされているのだが、春山さんに似た娘という時点で可愛さの欠片もないだろう。その辺りは個々人の主観によるものだからオレがどうこう言うことでもないのかもしれんが。夏から数えて今くらいの時期だったら子供が出来てればわかるよねえ、などと言う様がまあ何とも言えん阿呆面だ。
「ほら、俺もまあまあ忙しいし、年に何回かしかチャンスがないじゃない?」
「……その話はもういい。本題に移らんのであればオレは帰る」
「あーちょっと待って! 本題はちゃんとあるから! そう、本題はね、今年の年末にまた音楽祭やるよっていう話でした!」
「またああいった催しをやるのか」
「そう。今回はさすがに去年みたくシャッフルし過ぎても負担かなと思って、既存のバンドでわーっとやりつつ、たまに好き勝手にセッションするみたいな内輪のパーティーにしようかなと思ってるんだけどね。リン君にはブルースプリングの枠で来てほしいんだよね」
「まあ、ああいった類の催しであれば顔を出そう」
「よかったー!」
「また配信をするんですか」
「しようかなとは思ってる。社畜でも見られるようにアーカイブも残すつもりだし」
「去年のようにまた須賀誠司の乱入などがあればさらに恨みを買いますね」
「そう、あれはホントに誤算中の誤算だった! たいっちゃんルートだろうけどさあ、まさか来るとは思わないじゃない! ああそうだ、たいっちゃんにも声はかけてあるんだよ。あとは去年来たメンバーとか、その他に増えた音楽の人脈でいくつかのバンドと個人に。そういうことだからリン君も適当に声かけてみて」
本日の本題である音楽の話題であれば少しは話を聞こうかという気にもなるのに、この人はどうしてこうなのだ。しかし、今回の音楽祭の話がスガノに回っているとすればカンノにも当然話は回っているだろうし、去年来たメンバーということは塩見さんにも話は行っているということだろうか。まあ、USDXではさすがに出んだろうが。
「あと、ベーシストは慢性的に不足しているのでぜひベーシストの知り合いなどがいらしたら積極的に声をかけていただいて」
「善処しよう」
end.
++++
青山さんが春山さんに夏の北辰で何をしたのかは表には置けないヤツなのでご想像にお任せ。
やっぱりリン様はクズな年長者に直球の暴言を吐いてるくらいがちょうどいいなと思いました。
ナノスパではベーシスト社畜説が提唱されつつある。TCFのベースやってる拳悟兄もなかなか忙しい人だしなあ
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「リン君久し振りー。いつ振りだっけ?」
「その時のことはロクでもなかったはずなので記憶からは抹消しましたが、まずは苦情から訴えねばなりません」
基本的にこの人からの連絡は嫌な予感しかしないのだが、年の瀬も近付く季節ともなるとまたロクでもない話を持ちかけて来るのだろうなという想像には難くない。確か今年の正月か卒業式シーズン以来となる青山さんから呼び出され、何でも話があるとか。しかし、青山さんの話より先にこちらが訴えておかねばならん苦情は山ほどある。
「あ、苦情には心当たりがありまーす」
「なら話が早いな。北……いや、北に限らず送り付けられた芋をセンターに投棄するのは金輪際止めてもらおうか」
「悪気はありませんでした」
「悪気が無ければ許されるという事案ではない」
「でもさあ、普通に考えてあれだけのジャガイモをさあ、一般家庭には置いとけないじゃない」
「大学の学習支援施設に投棄する方がどうかしている。昨今は不用品を売買出来るフリーマーケットアプリなどもあろうに」
「業者でもないのにあの量は盗品だとか、如何わしいルートの物なんじゃないかって疑わない?」
「それはわからんでもない」
春山さんが卒業すればあの大量の芋や何かからは解放されると思ったのも束の間、夏には南からの、秋には北からの芋がセンターの事務所に山積みにされていた。元々春山さんが芋を送った先が青山さんだったのだが、青山さんから高山や綾瀬といったセンターに繋がる人脈を使ってやられたのだ。
芋が投棄される度に主に川北の人脈で何とかしてもらうことで処理していたのだが、さすがに埒が明かんのでしっかりと苦情を出しておかねばならん。そういうことで、青山さんからの本題の前にこの話を切り出したのだ。しかし、今はオレがいるからともかく、来年度以降もセンターに投棄しに来ようものなら通報しろと川北に伝えるべきか。
「ほら俺、芹ちゃんの恨みを買っちゃったじゃない?」
「それはいつものことだと思いますが。そもそもいつの恨みの話をしている」
「芹ちゃんが今住んでる場所とか働いてる場所ってのは目星をいくつかつけてる頃なんだけど、夏の北辰には絶対現れるってわかってるからね」
「ああ、音楽フェスですか」
「そう。日程とタイムテーブルを見れば芹ちゃんが3日間どういう回り方をするとかすぐわかっちゃうワケ。待ち伏せなんか朝飯前だよ」
「気色の悪いことを当たり前のように言うのは健在ですね。それで、夏に恨みを買ったんですか」
「ライブが終わったその足でヤることヤるじゃん」
「見境がないのも相変わらずだな」
「恨みを買うとすれば絶対それなんだよね~。でも仕方ないよね、ご無沙汰だから燃えちゃうし」
「知ったことか」
「芹ちゃんが可愛いのが悪いと思わない?」
「何故オレに同意を求める」
「リン君は芹ちゃんが股間にこない人だもんね、知ってた」
芋がいつもより多く送り付けられた原因は、青山さんが性欲のままに春山さんをいたぶったからであろうと結論付けられた。青山さんは場にオレがいるにも関わらず性交を始めそれを見せつけて来るなど前々からその手のことには開放的過ぎる人だとは知っているが、夏の北辰でしたことの一部始終を聞かされる身にもなれというのと、変態的でハードなそれを本当にやったのなら恨まれても当然だ。
そもそも、春山さんに似た可愛い娘を作るという計画も聞かされているのだが、春山さんに似た娘という時点で可愛さの欠片もないだろう。その辺りは個々人の主観によるものだからオレがどうこう言うことでもないのかもしれんが。夏から数えて今くらいの時期だったら子供が出来てればわかるよねえ、などと言う様がまあ何とも言えん阿呆面だ。
「ほら、俺もまあまあ忙しいし、年に何回かしかチャンスがないじゃない?」
「……その話はもういい。本題に移らんのであればオレは帰る」
「あーちょっと待って! 本題はちゃんとあるから! そう、本題はね、今年の年末にまた音楽祭やるよっていう話でした!」
「またああいった催しをやるのか」
「そう。今回はさすがに去年みたくシャッフルし過ぎても負担かなと思って、既存のバンドでわーっとやりつつ、たまに好き勝手にセッションするみたいな内輪のパーティーにしようかなと思ってるんだけどね。リン君にはブルースプリングの枠で来てほしいんだよね」
「まあ、ああいった類の催しであれば顔を出そう」
「よかったー!」
「また配信をするんですか」
「しようかなとは思ってる。社畜でも見られるようにアーカイブも残すつもりだし」
「去年のようにまた須賀誠司の乱入などがあればさらに恨みを買いますね」
「そう、あれはホントに誤算中の誤算だった! たいっちゃんルートだろうけどさあ、まさか来るとは思わないじゃない! ああそうだ、たいっちゃんにも声はかけてあるんだよ。あとは去年来たメンバーとか、その他に増えた音楽の人脈でいくつかのバンドと個人に。そういうことだからリン君も適当に声かけてみて」
本日の本題である音楽の話題であれば少しは話を聞こうかという気にもなるのに、この人はどうしてこうなのだ。しかし、今回の音楽祭の話がスガノに回っているとすればカンノにも当然話は回っているだろうし、去年来たメンバーということは塩見さんにも話は行っているということだろうか。まあ、USDXではさすがに出んだろうが。
「あと、ベーシストは慢性的に不足しているのでぜひベーシストの知り合いなどがいらしたら積極的に声をかけていただいて」
「善処しよう」
end.
++++
青山さんが春山さんに夏の北辰で何をしたのかは表には置けないヤツなのでご想像にお任せ。
やっぱりリン様はクズな年長者に直球の暴言を吐いてるくらいがちょうどいいなと思いました。
ナノスパではベーシスト社畜説が提唱されつつある。TCFのベースやってる拳悟兄もなかなか忙しい人だしなあ
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