2021(03)
■いろいろ背負うもの
++++
「あれー、出ないなあ」
野暮用でうちのマンションの真ん前に建つ豪邸のインターホンを鳴らしてみたものの、誰もいないようだ。星羅さんの車はあるからいるのかなと思ったんだけど。やたら猫がにゃあにゃあ鳴いているなと思ってしまうほどには家からの反応がない。まあ、本当に大した用事じゃないからダメならダメで諦めもつくんだけど。もう1回。ぴんぽーん。
「……。まあいいかあ」
「はーい。ああ、菜月さん」
「きららさん」
「すみません、ヘッドホンしててインターホンに全然気付きませんでした。えっと、ご用件は」
「星羅さんいるかなと思って」
「お姉だったら泰稚さんと買い物に出てますよ。もうしばらくしたら戻ると思いますけど」
「あっ、スガノがいるのか! それは好都合だ」
「もしかして、お姉じゃなくて泰稚さんに用事だったんですか?」
「それというのも――」
京川さんとかいうノサカの先輩の人が、ぷよテトで勝負してもらいたい人がいるっていう風に言って来た。ぷよぷよだとかテトリスだとか、そういったパズルゲームは昔から好きでよくやってたし、結構得意なんだ。MMPに持ち込まれたゲーム機でも対戦はやってたけど、結構いい線行ってたし。
それでこないだUSDXの曲のレコーティングで呼ばれた時にちょっとやってたんだよな。カンノなんかはそもそも相手にならなかったし、朝霞は慣れれば強そうだけど、初心者なりの腕前だった。塩見さんはパズルゲームがあまり得意ではないそうだ(「ツミツミは?」との総ツッコミ)。京川さんとリンさんは結構強かったなと思う。
うちが唯一勝てなかったのがスガノだ。パズルゲームであればUSDX最強とのことで、そう言われるだけのことはあって本当に強かった。あとちょっとのところで勝てなかったんだよな。で、戦ってもらいたい人がいるっていう人との勝負の前に、スガノと手合わせをしておきたかったんだ。自分より強い相手とやる方が得る物も大きそうだし。
「かくかくしかじかな理由なんですけど」
「それで泰稚さんに用事だったんですね」
「そう、顔は合わせてるけど連絡先は知らないし、星羅さんだったら向かいにいるから聞いてみてもらえないかなと思って。でも本人がそのうち帰って来るならその時にでも聞いてみよう」
「多分泰稚さんだったら練習に付き合ってくれると思いますよ。お姉と泰稚さんが帰ってくるまで、上がって待っててください。菜月さん来てるよって2人にも連絡しときますし」
「そしたら、お邪魔します」
きららさんが紅茶を出してくれたのを飲みながら、豪勢なリビングで2人の帰りを待つ。うちがいるという連絡に対しては、わかりましたと返信があったそうなので、真っ直ぐ帰って来るだろうとのこと。今日はスガノが夕飯としてカレーを作るらしい。その買い物に出ているんだそうだ。
「夕飯を作るならその間は練習相手にはなってもらえないだろうなあ」
「良かったら菜月さんも食べてきます?」
「え、うちの人とかもいるんじゃ」
「お父さんはツアー中だし、お母さんはお父さんのマネージャーだから一緒に出てて今日はいないんですよ」
「ああ、そうなんだ」
「ここだけの話なんですけど、泰稚さんが台所に立ってみようかなって思ったきっかけって、ちょっと前に菜月さんが作ってくれたカレーなんだって」
「うちのカレーが? またどうして」
「菜月さん、泰稚さんを助手にしてたそうじゃないですか。それで料理をしたり食器を片付けたりしてる菜月さんを見て、自分もやってみようって思ったとか。お姉は自分が料理するときに助手を付けたりしないから、泰稚さんにとっても新鮮だったんじゃないかな」
「ふーん」
スガノと星羅さんは将来のことも少しずつ話をしているそうだけど、どこでどういう暮らし方をするかはわからないから家のことは自分も出来るようにならないと、というようなことをスガノが言い始めるようになったとはきららさん談。家のことを始める第一歩がカレー作りなのだという。もちろん、料理だけじゃなくて片付けるところまでだ。
「ただいまなんだー! 菜月さんなんだ! お待たせしたんだ!」
「いえいえ」
「菜月さん、ぷよテトの練習だってね。カレー作ったら付き合うんで、ちょっと待っててもらっていい?」
「あ、別に急がなくてもいいぞ。シングルプレイも出来るし」
「お姉、泰稚さん、菜月さんも晩ご飯誘ったよ」
「きららナイスなんだ! みんなで食べるんだ!」
「ああ、そうだ菜月さん。菜月さんと対戦してもらう人っていうのがリン君と朝霞の知り合いの同人作家さんなんだけど、リン君はその人との対戦成績が5年やって勝率3割を切るらしい」
「マジか。打率としても微妙な感じじゃないか。リンさんが3割も勝てないとか相当強いんだな。うちもうかうかしてられないぞ」
「京川さんからは俺も対戦してみなよって誘われてるし、俺も対人戦の練習したかったんだよ」
「そうだったのか」
「やるからには勝ちたいし。と言うか、勝てないとカンに煽られるし。とりあえず、カレー作ります」
「はい」
「泰稚、本当に助手はいいんだ?」
「大丈夫です」
将来のこととか、ゲームのこととか。いろいろあるんだなあスガノにも。
「菜月さん! 菜月さんがいるって聞いてデザートも買って来たんだ! あと、サラダは嫌いだけどゆで卵は食べるんだ?」
「あっ、ゆで卵欲しいです」
「塩味なんだ!」
end.
++++
主に菜月さんときららが話してるだけの話。スガPとカレーについて。あとパズルゲーム頂上決戦。
カレーは人によって味が露骨に変わるけど、スガPのカレーはどんなテイストになるのかしら。まずは説明書通りかな?
パズルゲームが得意じゃないと自称する塩見さんが「ツミツミは?」って総ツッコミされるのが見た過ぎる
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「あれー、出ないなあ」
野暮用でうちのマンションの真ん前に建つ豪邸のインターホンを鳴らしてみたものの、誰もいないようだ。星羅さんの車はあるからいるのかなと思ったんだけど。やたら猫がにゃあにゃあ鳴いているなと思ってしまうほどには家からの反応がない。まあ、本当に大した用事じゃないからダメならダメで諦めもつくんだけど。もう1回。ぴんぽーん。
「……。まあいいかあ」
「はーい。ああ、菜月さん」
「きららさん」
「すみません、ヘッドホンしててインターホンに全然気付きませんでした。えっと、ご用件は」
「星羅さんいるかなと思って」
「お姉だったら泰稚さんと買い物に出てますよ。もうしばらくしたら戻ると思いますけど」
「あっ、スガノがいるのか! それは好都合だ」
「もしかして、お姉じゃなくて泰稚さんに用事だったんですか?」
「それというのも――」
京川さんとかいうノサカの先輩の人が、ぷよテトで勝負してもらいたい人がいるっていう風に言って来た。ぷよぷよだとかテトリスだとか、そういったパズルゲームは昔から好きでよくやってたし、結構得意なんだ。MMPに持ち込まれたゲーム機でも対戦はやってたけど、結構いい線行ってたし。
それでこないだUSDXの曲のレコーティングで呼ばれた時にちょっとやってたんだよな。カンノなんかはそもそも相手にならなかったし、朝霞は慣れれば強そうだけど、初心者なりの腕前だった。塩見さんはパズルゲームがあまり得意ではないそうだ(「ツミツミは?」との総ツッコミ)。京川さんとリンさんは結構強かったなと思う。
うちが唯一勝てなかったのがスガノだ。パズルゲームであればUSDX最強とのことで、そう言われるだけのことはあって本当に強かった。あとちょっとのところで勝てなかったんだよな。で、戦ってもらいたい人がいるっていう人との勝負の前に、スガノと手合わせをしておきたかったんだ。自分より強い相手とやる方が得る物も大きそうだし。
「かくかくしかじかな理由なんですけど」
「それで泰稚さんに用事だったんですね」
「そう、顔は合わせてるけど連絡先は知らないし、星羅さんだったら向かいにいるから聞いてみてもらえないかなと思って。でも本人がそのうち帰って来るならその時にでも聞いてみよう」
「多分泰稚さんだったら練習に付き合ってくれると思いますよ。お姉と泰稚さんが帰ってくるまで、上がって待っててください。菜月さん来てるよって2人にも連絡しときますし」
「そしたら、お邪魔します」
きららさんが紅茶を出してくれたのを飲みながら、豪勢なリビングで2人の帰りを待つ。うちがいるという連絡に対しては、わかりましたと返信があったそうなので、真っ直ぐ帰って来るだろうとのこと。今日はスガノが夕飯としてカレーを作るらしい。その買い物に出ているんだそうだ。
「夕飯を作るならその間は練習相手にはなってもらえないだろうなあ」
「良かったら菜月さんも食べてきます?」
「え、うちの人とかもいるんじゃ」
「お父さんはツアー中だし、お母さんはお父さんのマネージャーだから一緒に出てて今日はいないんですよ」
「ああ、そうなんだ」
「ここだけの話なんですけど、泰稚さんが台所に立ってみようかなって思ったきっかけって、ちょっと前に菜月さんが作ってくれたカレーなんだって」
「うちのカレーが? またどうして」
「菜月さん、泰稚さんを助手にしてたそうじゃないですか。それで料理をしたり食器を片付けたりしてる菜月さんを見て、自分もやってみようって思ったとか。お姉は自分が料理するときに助手を付けたりしないから、泰稚さんにとっても新鮮だったんじゃないかな」
「ふーん」
スガノと星羅さんは将来のことも少しずつ話をしているそうだけど、どこでどういう暮らし方をするかはわからないから家のことは自分も出来るようにならないと、というようなことをスガノが言い始めるようになったとはきららさん談。家のことを始める第一歩がカレー作りなのだという。もちろん、料理だけじゃなくて片付けるところまでだ。
「ただいまなんだー! 菜月さんなんだ! お待たせしたんだ!」
「いえいえ」
「菜月さん、ぷよテトの練習だってね。カレー作ったら付き合うんで、ちょっと待っててもらっていい?」
「あ、別に急がなくてもいいぞ。シングルプレイも出来るし」
「お姉、泰稚さん、菜月さんも晩ご飯誘ったよ」
「きららナイスなんだ! みんなで食べるんだ!」
「ああ、そうだ菜月さん。菜月さんと対戦してもらう人っていうのがリン君と朝霞の知り合いの同人作家さんなんだけど、リン君はその人との対戦成績が5年やって勝率3割を切るらしい」
「マジか。打率としても微妙な感じじゃないか。リンさんが3割も勝てないとか相当強いんだな。うちもうかうかしてられないぞ」
「京川さんからは俺も対戦してみなよって誘われてるし、俺も対人戦の練習したかったんだよ」
「そうだったのか」
「やるからには勝ちたいし。と言うか、勝てないとカンに煽られるし。とりあえず、カレー作ります」
「はい」
「泰稚、本当に助手はいいんだ?」
「大丈夫です」
将来のこととか、ゲームのこととか。いろいろあるんだなあスガノにも。
「菜月さん! 菜月さんがいるって聞いてデザートも買って来たんだ! あと、サラダは嫌いだけどゆで卵は食べるんだ?」
「あっ、ゆで卵欲しいです」
「塩味なんだ!」
end.
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主に菜月さんときららが話してるだけの話。スガPとカレーについて。あとパズルゲーム頂上決戦。
カレーは人によって味が露骨に変わるけど、スガPのカレーはどんなテイストになるのかしら。まずは説明書通りかな?
パズルゲームが得意じゃないと自称する塩見さんが「ツミツミは?」って総ツッコミされるのが見た過ぎる
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