2021(03)
■戦場の呪い星
++++
「オープンファームって、大学祭とはまた違う雰囲気で楽しいねー。カズも来れれば良かったんだけどねー」
「どうしても外せない用事って言ってたし、仕方ない」
「……あの~、お2人サン? 随分楽しそ~にお話してますケド?」
農学部がやっているオープンファーム当日を迎えた。去年と同様山口を招集し、今年は大石とカズにも声をかけたんだけど、カズはどうしても外せない用事があるというので参戦出来なかった。カズの速さがないのは残念だけど大石も力はかなりあるし、重い物を買う時には大きな戦力となるだろう。
例によって今年も開門ダッシュの役割を担ったのは山口だ。開門ダッシュで米と肉を買いに走ってもらった。そして俺は米と畜産のコーナーを迂回して野菜を買いに回る。はぐれたら会えなくなるので大石は俺に付いて来てもらった。何とか目的の物を獲得して山口と合流したんだけど、まあ、恨み言みたいな物が漏れるのはわからないでもない。
「アニ、大変だったでしょ。お米持とうか?」
「ありがとね~。さすがにこれを持って畜産のところまで走るのは疲れるでしょでしょ~」
「これは確かにちょっと重いね。何キロ?」
「10キロが2つかな~」
「俺は力はあるけど走るのはそこまでだし、アニは凄いなあ」
「いや~、このお米を軽々担いでる大石クンも凄いでしょ~」
「20キロくらいだったらバイトでいつも担いでるし。日常の範囲内だよ」
体力も脚力も腕力もない俺からすれば、この2人のやってることが別次元すぎるんだよな。俺はと言えば、両利き故に右腕でも左腕でも好きなように使えて腕のスイッチが出来るというくらいでその他には特にこれという能力もないし。と言うか、俺の買った野菜も大石に持ってもらってたしな。
「今日って~、この後お鍋でいいの~?」
「そうだな」
「あっ。朝霞クン、あれって戸田班の一団~?」
「ああ、本当だな。彩人!」
「あっ、朝霞さんおざっす! 洋平さんもこんちわっす!」
彩人とみちる、それから海月が3人揃って食べ歩きをしているようだ。みちるは日野が育ててる野菜を定期的に譲ってもらってるそうだし、オープンファームの話も聞いていたのだろう。この3人は日常的に食べる野菜や食糧には困ってないから、模擬店での食べ歩きの方を主に楽しんでいるようだ。
「朝霞さん、戦況はどうですか」
「これが戦果だな」
「お米に野菜に」
「お肉だね~。今日はこの後朝霞クン家でお鍋やる予定なんだよ~」
「奇遇ですね。私たちもこの後彩人の家で鍋をする予定だったんです」
「洋平さん、例によって開門ダッシュっすか?」
「そ~なんだよ彩人クン酷くない!? 米20キロ抱えた状態で畜産までダッシュだからね!? 今は大石クンが持ってくれてるけど~、腕がパンパン」
「やべーっすね……洋平さんもやべーっすけど、これを平気な顔して抱えてるそっちの人もやべーっすし、人に開門ダッシュさせた上にそれを抱えさせてる朝霞さんが一番やべーんじゃないすか?」
「だよね~。彩人クンは俺の味方~。あっ、もしよかったら彩人クンたちも俺らの鍋一緒に食べない? 人数多い方が俺も作り甲斐あるし~」
「どうする海月みちる。俺はお呼ばれになってもいいと思うけど」
「洋平さんの鍋ってだけで期待値は高いし、お呼ばれになろうか。海月もそれでいい?」
「いいよ」
夜の鍋は1年3人も一緒にやることになったところで、果たして俺の部屋は6人も入るスペースがあっただろうかと思い返す。3、4人ならギリギリ入れたと思うけど、6人か。少し片付けの時間を取らないと不味い気がする。大石に手伝わせるか? いや、コイツは片付けられないタイプのヤツだ。1年は彩人の部屋で時間を潰しててもらうか。
「星ヶ丘のみんなの中に俺がいてもいいのかなって気もちょっとあるけど」
「大丈夫だよ~。あっみんな、こちら、朝霞クンの買い物した物を担いでるのが星大の大石クンで、インターフェイスでは定例会だったんだよ~。大石クンも料理歴は長いし、材料もしっかりゲット出来てるからお鍋に関しては期待してて~」
「あ、そうだよね。俺も手伝うんだよね」
「料理の面で言っても朝霞クンより戦力だからネ~」
ステージスターの語気が刺々しいんだよな。開門ダッシュさせた上に米20キロを抱えた状態で畜産まで走らせたの絶対根に持ってるじゃねーか。どーせ俺は体力もねーし料理も出来ねーよ。つか、俺が夜に向けてやるのは部屋の片付けなんだよ。
「それじゃ~みんなまた後でね~」
「お疲れっすー」
「アニの鍋も絶対美味しいってわかってるけど、こうなるとカズがいてくれたらどうなってたかなあって思っちゃうね」
「確かにね~。伊東クンは緑ヶ丘の宅飲みで場数も踏んでるし」
「去年は定例会メンバーの鍋とかやってたんだけど、カズと圭斗が鍋を仕切ってくれてたんだよね。思えばあれも贅沢だったなあ」
「伊東クンと松岡クンか~、間違いないね~。対策委員はそういうのなかったし~。あっ、久々に招集かけてみようかな~。俺が声かけないと絶対集まらないし~。高崎クンは絶対家に入れてくれないから、議長サンか長野っち? 聞くだけ聞いてみよ~」
最低限の買い物はしたので次は宇部の漬け物を買いに行く。あれは飯との相性がいいから持っておきたい。山口は思い立ったが吉日といった感じで対策委員の同期に連絡をしているようだし、大石はあれが美味しそうこれが美味しそうと目移りしている。俺は体力を温存しているからまだ戦える。漬け物の後は何を買ったものか。
end.
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やまよがただただ可哀想なヤツ。開門ダッシュさせられた上に重い荷物を担がされている。黒幕はもちろんPさん。
いち氏が絶対に外せない用事というのは婚姻届の提出。今年度はちょうど記念日に当たってしまったのでオープンファームは欠席。
今の家での暮らしも残り短いのに米10キロを2つ買うのかと思ったけど、1人暮らし自体は続くんだねPさん
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「オープンファームって、大学祭とはまた違う雰囲気で楽しいねー。カズも来れれば良かったんだけどねー」
「どうしても外せない用事って言ってたし、仕方ない」
「……あの~、お2人サン? 随分楽しそ~にお話してますケド?」
農学部がやっているオープンファーム当日を迎えた。去年と同様山口を招集し、今年は大石とカズにも声をかけたんだけど、カズはどうしても外せない用事があるというので参戦出来なかった。カズの速さがないのは残念だけど大石も力はかなりあるし、重い物を買う時には大きな戦力となるだろう。
例によって今年も開門ダッシュの役割を担ったのは山口だ。開門ダッシュで米と肉を買いに走ってもらった。そして俺は米と畜産のコーナーを迂回して野菜を買いに回る。はぐれたら会えなくなるので大石は俺に付いて来てもらった。何とか目的の物を獲得して山口と合流したんだけど、まあ、恨み言みたいな物が漏れるのはわからないでもない。
「アニ、大変だったでしょ。お米持とうか?」
「ありがとね~。さすがにこれを持って畜産のところまで走るのは疲れるでしょでしょ~」
「これは確かにちょっと重いね。何キロ?」
「10キロが2つかな~」
「俺は力はあるけど走るのはそこまでだし、アニは凄いなあ」
「いや~、このお米を軽々担いでる大石クンも凄いでしょ~」
「20キロくらいだったらバイトでいつも担いでるし。日常の範囲内だよ」
体力も脚力も腕力もない俺からすれば、この2人のやってることが別次元すぎるんだよな。俺はと言えば、両利き故に右腕でも左腕でも好きなように使えて腕のスイッチが出来るというくらいでその他には特にこれという能力もないし。と言うか、俺の買った野菜も大石に持ってもらってたしな。
「今日って~、この後お鍋でいいの~?」
「そうだな」
「あっ。朝霞クン、あれって戸田班の一団~?」
「ああ、本当だな。彩人!」
「あっ、朝霞さんおざっす! 洋平さんもこんちわっす!」
彩人とみちる、それから海月が3人揃って食べ歩きをしているようだ。みちるは日野が育ててる野菜を定期的に譲ってもらってるそうだし、オープンファームの話も聞いていたのだろう。この3人は日常的に食べる野菜や食糧には困ってないから、模擬店での食べ歩きの方を主に楽しんでいるようだ。
「朝霞さん、戦況はどうですか」
「これが戦果だな」
「お米に野菜に」
「お肉だね~。今日はこの後朝霞クン家でお鍋やる予定なんだよ~」
「奇遇ですね。私たちもこの後彩人の家で鍋をする予定だったんです」
「洋平さん、例によって開門ダッシュっすか?」
「そ~なんだよ彩人クン酷くない!? 米20キロ抱えた状態で畜産までダッシュだからね!? 今は大石クンが持ってくれてるけど~、腕がパンパン」
「やべーっすね……洋平さんもやべーっすけど、これを平気な顔して抱えてるそっちの人もやべーっすし、人に開門ダッシュさせた上にそれを抱えさせてる朝霞さんが一番やべーんじゃないすか?」
「だよね~。彩人クンは俺の味方~。あっ、もしよかったら彩人クンたちも俺らの鍋一緒に食べない? 人数多い方が俺も作り甲斐あるし~」
「どうする海月みちる。俺はお呼ばれになってもいいと思うけど」
「洋平さんの鍋ってだけで期待値は高いし、お呼ばれになろうか。海月もそれでいい?」
「いいよ」
夜の鍋は1年3人も一緒にやることになったところで、果たして俺の部屋は6人も入るスペースがあっただろうかと思い返す。3、4人ならギリギリ入れたと思うけど、6人か。少し片付けの時間を取らないと不味い気がする。大石に手伝わせるか? いや、コイツは片付けられないタイプのヤツだ。1年は彩人の部屋で時間を潰しててもらうか。
「星ヶ丘のみんなの中に俺がいてもいいのかなって気もちょっとあるけど」
「大丈夫だよ~。あっみんな、こちら、朝霞クンの買い物した物を担いでるのが星大の大石クンで、インターフェイスでは定例会だったんだよ~。大石クンも料理歴は長いし、材料もしっかりゲット出来てるからお鍋に関しては期待してて~」
「あ、そうだよね。俺も手伝うんだよね」
「料理の面で言っても朝霞クンより戦力だからネ~」
ステージスターの語気が刺々しいんだよな。開門ダッシュさせた上に米20キロを抱えた状態で畜産まで走らせたの絶対根に持ってるじゃねーか。どーせ俺は体力もねーし料理も出来ねーよ。つか、俺が夜に向けてやるのは部屋の片付けなんだよ。
「それじゃ~みんなまた後でね~」
「お疲れっすー」
「アニの鍋も絶対美味しいってわかってるけど、こうなるとカズがいてくれたらどうなってたかなあって思っちゃうね」
「確かにね~。伊東クンは緑ヶ丘の宅飲みで場数も踏んでるし」
「去年は定例会メンバーの鍋とかやってたんだけど、カズと圭斗が鍋を仕切ってくれてたんだよね。思えばあれも贅沢だったなあ」
「伊東クンと松岡クンか~、間違いないね~。対策委員はそういうのなかったし~。あっ、久々に招集かけてみようかな~。俺が声かけないと絶対集まらないし~。高崎クンは絶対家に入れてくれないから、議長サンか長野っち? 聞くだけ聞いてみよ~」
最低限の買い物はしたので次は宇部の漬け物を買いに行く。あれは飯との相性がいいから持っておきたい。山口は思い立ったが吉日といった感じで対策委員の同期に連絡をしているようだし、大石はあれが美味しそうこれが美味しそうと目移りしている。俺は体力を温存しているからまだ戦える。漬け物の後は何を買ったものか。
end.
++++
やまよがただただ可哀想なヤツ。開門ダッシュさせられた上に重い荷物を担がされている。黒幕はもちろんPさん。
いち氏が絶対に外せない用事というのは婚姻届の提出。今年度はちょうど記念日に当たってしまったのでオープンファームは欠席。
今の家での暮らしも残り短いのに米10キロを2つ買うのかと思ったけど、1人暮らし自体は続くんだねPさん
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