2021(03)
■休息の収穫祭
++++
「彩人、明日ヒマ?」
「ヒマ」
「農学部のオープンファーム、明日だから。前に、日が近くなったら誘ってって言ってたよね」
「あー、そーいやそんなことも言ってたな。つか日が近くなったらって、前日じゃねーか」
「急になったのはごめん。それで、行ける?」
「行く行く」
星ヶ丘大学の農学部は、毎年大学祭の1週後にオープンファームという催しを開いている。これは、学部の学習や研究の一環で育てている物を、地域の人に向けて販売するというものだ。野菜や米、肉だけでなく、それらの加工品もあるとかないとか。
みちるは宇部さんの友達の日野さんという先輩から定期的に野菜を譲り受けている。日野さんは趣味で野菜を育ててるんだけど、育てることが目的で、自分だけでは食いきれなくなるんだとか。俺もたまにそのおこぼれをもらうことがある。
ここで格安の米だとか野菜だとかを確保出来ればこの先の生活もちょっと楽になるよなあとはうっすらと思う。夏の長雨だとか台風だとか、如何せん農作物は気象の影響を受けやすいという印象が強い。収穫祭を無事に迎えることが出来るだけでも御の字ということもあるとか。
「日野さんと宇部さんもどっかでブース出してるんだろ」
「日野さんから聞いた話では、ゼミで研究してる漬け物を出すって」
「漬け物かー、あんま食う習慣ないんだよな」
「朝霞さんから聞いたけど、宇部さんの漬け物は本当に美味しいしご飯が進むって」
「つかいつの間に朝霞さんとそんな話してんだよ」
「彩人に野菜持ってきたついでに」
「ああ、ついでにか」
「オープンファームの攻略法なんかも聞いてあるから」
「攻略法?」
「曰く、オープンファームは戦争だー、って」
どんだけ大袈裟に言ってんだよって思ったけど、米とかが安いということでとにかく近所の人が詰めかけるんだそうだ。テーマパークでもねーのに開門ダッシュは当たり前、遅れた奴に待ち受けるのは死のみとかそういう世界観らしい。
去年朝霞さんが参戦した時には、洋平さんと分担して必要な物を買って回っていたそうだ。競争倍率の高い米や畜産は脚力のある洋平さんに開門ダッシュしてもらい、足の遅い朝霞さんはそれを迂回して大根や白菜などを買い回っていたとか。
「まあ、野菜に関しては日野さんから定期でもらえてるし、そこまでがっつかなくてもいいかなとは思うけど」
「俺もみちるのおこぼれで十分助かってるしなー。米は欲しいけど、根っからの文化系だから足もそんな早くないし。ワンチャンリクでも召集してやろうかな」
「ああ、野菜とかを買い回るのもそうだけど、食べ歩きが楽しいって。大学祭よりレベルが大分上とかで」
「あー、確かにそっちの方が俺も楽しみかもしれない」
「開門ダッシュ路線じゃないなら海月にも声かけてみる?」
「そうだな。またハブられたっつってクレームつけられても困るし」
海月は実家暮らしだから、一人暮らしの俺やみちると比べると好き放題しているイメージもないし実際育ちのいい普通の女子って感じだ。俺とみちるがどっちかの家で飲みながら駄弁ってるという話をすると羨ましがられることは多々。
「海月即レスだ。来るって」
「予定空いてたんだな」
「まあ、大学祭のステージが終わって一段落したし、部活でカツカツだった分ちょっと余裕が出来たんじゃない? 私たちもだし」
「まあな。……ゴローさんが部長なあ。最初に戸田さんから聞いてた話もガチなんだろうけど、だからこそマジかっていう驚きが強い」
「悪いことではないんじゃない? ゴローさんって権力とかに対して執着もしないし、敵も少ないし、ミキサーとしての実力もあるし。源班のステージは、マリンさんも彩人もいるから十分回るし」
先週末、大学祭が終わって部は代替わりをして新体制になった。俺が襲われた件もあって、そのときから部は大きく変わろうとしていたみたいだけど、この新体制の人事に驚いたのは主に3年生だったように思う。戸田班は戸田班だけど、元々は朝霞班だから。
「こないだ部室の掃除をチラッと覗いたら、ゴローさん、所沢さんにめっちゃ怒鳴られてたんだけど。小道具を見つけて脱線するのはやめてくださいーとか、あまりどこでも適当にひっくり返さないでくださいーっつってさ。あの人ぶっちゃけちょっと不気味なトコあるじゃん。目まで隠れるマッシュヘアーで表情読みにくいし、言葉も淡々としてるし。でも、あの人でも怒鳴ることなんかあるんだーっつって」
「ゴローさんの前だから出る素の可能性もあるんじゃない?」
どんな人の毒気も抜かせる新部長。そう言えば聞こえはいいかもしれない。柳井前部長のサプライズ人事と大規模な粛正、そのきっかけとなった俺の事件。あと、宇部さんの残していたらしい機密ファイル。
「みちる、海月来るなら夜に鍋でもやるか? 材料は現地調達で」
「ああ、いいね」
「鍋やるなら白菜は欲しいところだな」
「それは獲得出来たらってことで、ああいう場だからこそ得られるインスピレーションに基づく創作鍋ってのも乙じゃない?」
「確かに。味を壊さない程度に新しい味にも挑戦してみるか」
「……まあ、あんまりぶっ飛ばしすぎても海月が卒倒する可能性はあるから、ほどほどにしておく必要はあるだろうけど」
end.
++++
オープンファームもあったなあと思い出したので彩人みちるで遊びに行こうぜ的な話。
彩人みちるは1人暮らしだから割と好き勝手してるんだけど、海月は部活の場での関わりが主。
そういや今年のPさんはオープンファームへの参戦はあるのかしら。こっしーさんがいればよかった枠には誰が来る?
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「彩人、明日ヒマ?」
「ヒマ」
「農学部のオープンファーム、明日だから。前に、日が近くなったら誘ってって言ってたよね」
「あー、そーいやそんなことも言ってたな。つか日が近くなったらって、前日じゃねーか」
「急になったのはごめん。それで、行ける?」
「行く行く」
星ヶ丘大学の農学部は、毎年大学祭の1週後にオープンファームという催しを開いている。これは、学部の学習や研究の一環で育てている物を、地域の人に向けて販売するというものだ。野菜や米、肉だけでなく、それらの加工品もあるとかないとか。
みちるは宇部さんの友達の日野さんという先輩から定期的に野菜を譲り受けている。日野さんは趣味で野菜を育ててるんだけど、育てることが目的で、自分だけでは食いきれなくなるんだとか。俺もたまにそのおこぼれをもらうことがある。
ここで格安の米だとか野菜だとかを確保出来ればこの先の生活もちょっと楽になるよなあとはうっすらと思う。夏の長雨だとか台風だとか、如何せん農作物は気象の影響を受けやすいという印象が強い。収穫祭を無事に迎えることが出来るだけでも御の字ということもあるとか。
「日野さんと宇部さんもどっかでブース出してるんだろ」
「日野さんから聞いた話では、ゼミで研究してる漬け物を出すって」
「漬け物かー、あんま食う習慣ないんだよな」
「朝霞さんから聞いたけど、宇部さんの漬け物は本当に美味しいしご飯が進むって」
「つかいつの間に朝霞さんとそんな話してんだよ」
「彩人に野菜持ってきたついでに」
「ああ、ついでにか」
「オープンファームの攻略法なんかも聞いてあるから」
「攻略法?」
「曰く、オープンファームは戦争だー、って」
どんだけ大袈裟に言ってんだよって思ったけど、米とかが安いということでとにかく近所の人が詰めかけるんだそうだ。テーマパークでもねーのに開門ダッシュは当たり前、遅れた奴に待ち受けるのは死のみとかそういう世界観らしい。
去年朝霞さんが参戦した時には、洋平さんと分担して必要な物を買って回っていたそうだ。競争倍率の高い米や畜産は脚力のある洋平さんに開門ダッシュしてもらい、足の遅い朝霞さんはそれを迂回して大根や白菜などを買い回っていたとか。
「まあ、野菜に関しては日野さんから定期でもらえてるし、そこまでがっつかなくてもいいかなとは思うけど」
「俺もみちるのおこぼれで十分助かってるしなー。米は欲しいけど、根っからの文化系だから足もそんな早くないし。ワンチャンリクでも召集してやろうかな」
「ああ、野菜とかを買い回るのもそうだけど、食べ歩きが楽しいって。大学祭よりレベルが大分上とかで」
「あー、確かにそっちの方が俺も楽しみかもしれない」
「開門ダッシュ路線じゃないなら海月にも声かけてみる?」
「そうだな。またハブられたっつってクレームつけられても困るし」
海月は実家暮らしだから、一人暮らしの俺やみちると比べると好き放題しているイメージもないし実際育ちのいい普通の女子って感じだ。俺とみちるがどっちかの家で飲みながら駄弁ってるという話をすると羨ましがられることは多々。
「海月即レスだ。来るって」
「予定空いてたんだな」
「まあ、大学祭のステージが終わって一段落したし、部活でカツカツだった分ちょっと余裕が出来たんじゃない? 私たちもだし」
「まあな。……ゴローさんが部長なあ。最初に戸田さんから聞いてた話もガチなんだろうけど、だからこそマジかっていう驚きが強い」
「悪いことではないんじゃない? ゴローさんって権力とかに対して執着もしないし、敵も少ないし、ミキサーとしての実力もあるし。源班のステージは、マリンさんも彩人もいるから十分回るし」
先週末、大学祭が終わって部は代替わりをして新体制になった。俺が襲われた件もあって、そのときから部は大きく変わろうとしていたみたいだけど、この新体制の人事に驚いたのは主に3年生だったように思う。戸田班は戸田班だけど、元々は朝霞班だから。
「こないだ部室の掃除をチラッと覗いたら、ゴローさん、所沢さんにめっちゃ怒鳴られてたんだけど。小道具を見つけて脱線するのはやめてくださいーとか、あまりどこでも適当にひっくり返さないでくださいーっつってさ。あの人ぶっちゃけちょっと不気味なトコあるじゃん。目まで隠れるマッシュヘアーで表情読みにくいし、言葉も淡々としてるし。でも、あの人でも怒鳴ることなんかあるんだーっつって」
「ゴローさんの前だから出る素の可能性もあるんじゃない?」
どんな人の毒気も抜かせる新部長。そう言えば聞こえはいいかもしれない。柳井前部長のサプライズ人事と大規模な粛正、そのきっかけとなった俺の事件。あと、宇部さんの残していたらしい機密ファイル。
「みちる、海月来るなら夜に鍋でもやるか? 材料は現地調達で」
「ああ、いいね」
「鍋やるなら白菜は欲しいところだな」
「それは獲得出来たらってことで、ああいう場だからこそ得られるインスピレーションに基づく創作鍋ってのも乙じゃない?」
「確かに。味を壊さない程度に新しい味にも挑戦してみるか」
「……まあ、あんまりぶっ飛ばしすぎても海月が卒倒する可能性はあるから、ほどほどにしておく必要はあるだろうけど」
end.
++++
オープンファームもあったなあと思い出したので彩人みちるで遊びに行こうぜ的な話。
彩人みちるは1人暮らしだから割と好き勝手してるんだけど、海月は部活の場での関わりが主。
そういや今年のPさんはオープンファームへの参戦はあるのかしら。こっしーさんがいればよかった枠には誰が来る?
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