2021(03)
■無い物ねだりとササキ君
++++
「えー、皆さん大学祭お疲れさまでした。そうこうしている間に1年生のゼミ志望届が集まってきました」
ヒゲの前にA4の紙がちょうど入る箱がいくつか置いてある。それぞれに合格、不合格とラベルが貼ってあって、まだ決まってないっていう箱の3つがあるのかな。社会学部では2年に進級するときにゼミに入ることになっている。第1希望から第3希望までを書いた紙と、佐藤ゼミの場合は固有のエントリーシートを提出しなきゃいけないんだよね。
「3限の時間に2年生が見て何となくの合否は分けたし、この時間では3年生にそれをより精査してもらって来期の25人を決めていきましょう。岡山君、適当に配ってもらって」
「はい」
今年は何十人のエントリーがあって~とヒゲの話が続く中、桃華が適当に配っているエントリーシートに目を落とす。どんな子がいて、どんな感じの趣味をしていてということを見ていくんだけど、アタシたちに求められるのはもし知ってる子がいた場合の情報提供だったりする。変なって言ったらアレだけど、明らかに向かないなって子はこの時点で弾きたいんだってさ。
それから、ヒゲはアタシたちの代くらいから成績も重視し始めた。ヒゲはある年度で失敗したなと感じたら、次の年度はその真逆の行動を取る傾向があるんだよね。女子を中心に取ったら我が強い人ばっかりでケンカが絶えなかったから次は男子を中心に取ったとか。多分1コ上の時に成績の悪い人に困らされたからそのボーダーを設けるようになったのかなって。
「右上の通し番号に私の方で赤丸を打ってある子はもう採用することに決めてあるから。君たちもそのつもりでいてよ。その上で知ってる子がいたら情報をちょうだいね、特に千葉君」
「は~い」
「千葉ちゃんさっそくご指名やわ。MBCCの子もおるん?」
「いるはず。今年の子は佐藤ゼミに入りたいって言ってたからねー」
「ところで千葉君」
「何ですか?」
「アナウンサーの方の佐々木君の、トークの技量はどんな感じなの」
「1年生の今の時期としてはまあまあまとまってますよ。話の構成を考えるのは得意ですけどアドリブが弱いんで、ライブ経験を積ませてビシバシやらなきゃいけないですけど、その辺はこれからですね」
「そう。まあまあやれるのね」
ササの弱点はやっぱりライブに弱いことかな。ネタ帳が一言一句書いてるとかではないんだけど、結構ガチガチにトークの構成を決めて来てるんだよね。だからその時目に入って来た情報をトークに割り込ませるだけの余裕がないと言うか。逆に言えば、ゼミで2年生が作るような番組であれば、良さを十分出せるとは思うんだけどね。オープンキャンパスは不安だわ。
「ミキサーの方のシノキ君はどうなの。高木君からも一応聞いてあるけど」
「そっちは意欲が物凄くあって練習の虫って感じですね。ガンガン系の性格の割に根は真面目で。技術的には~……成長曲線がどうグンッてなるか次第ですけど、1年生の時のタカちゃんよりは手堅く、その一方でアソビには欠ける。っていう感じですかね。あとパソコンの扱いは人並みで、そこはタカちゃんの方が圧倒的に強いです」
「そう。現状では高木君の下位互換だけど、伸びしろはあるのね?」
「伸びしろはあります。と言うか、タカちゃんが育てるんで」
「シノキ君はミキサーじゃなかったら間違いなく成績で弾いてたからね。千葉君、君からもその辺シノキ君と、それから高木君にも言っといてくれる?」
「シノはともかくタカちゃんに関しては先生が直接言ったらいいんじゃないですかねー」
「高木君にはもう何度も言ってるんだよ」
「まあ、あんな感じの子ですしー」
「シノキ君には佐々木君がいるから学業の面倒も見てもらえそうだけど、問題は高木君だよ高木君」
タカちゃんの成績のことをアタシに言われても、っていうクレームはアタシも何度も何度もタカちゃんに出してるんですよねー。タカちゃんがああいう子だし、多分卒業するまで学業はああいう感じでのらりくらりやってるんだと思うけどね。タカちゃんに関しては機材担当って感じで割り切ってやってかなきゃでしょ。ヒゲはないものを求めすぎだ。
「学業と言えば、アナウンサーの方の佐々木君のエントリーシートだよ、君ぃ」
「ササのエントリーシートがどうしたんですか?」
「平田君が持ってるじゃない!」
「佐々木? これですかね。MBCCのアナウンサーって書いとる紙」
「それだね。自己PR欄にはラジオに関する本の書評がまとめてあるんだけどね、それの裏を見てごらん」
「裏? うわっ、めっちゃびっちり書いてある!」
「うそ!? えっ、これ何冊分!? 表が5冊で、え、裏が10冊!? ヤバッ!」
「書評も良くまとめてあるし、君たちも普段からこれくらい本を読みなさいよ、まったく。来週までに1冊読んでA41枚分のレジュメにまとめる課題を出そうかな」
「ササ、完っ全に要らんことしてくれましたよねー」
「千葉ちゃんの後輩優秀過ぎやわ、MBCCの子ってラジオ特化やないん?」
もし本当に本を読んでまとめる課題が出たら、明日のサークルでササをビシバシ扱き倒してやる。それで、アタシ流ライブ放送術を叩き込んでやりますよねー。引退した前アナウンス部長とは言え、一応年末までは活動するんで。課題が出なければ大人しくしてるけど。俗に言う八つ当たりってヤツですよねー。
end.
++++
去年は2年生サイドを見てたけど、今年は3年生サイドでヒゲさんからチクチク言われる果林のお話。
果林から見たシノの評価なんかもありありで。ゼミではパソコンの扱いも結構重要になってくるところ。未だTKG優勢。
果林の八つ当たりの図も見てみたいような気もする。ただ、その扱きはササも臨むところなのかもしれない。
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「えー、皆さん大学祭お疲れさまでした。そうこうしている間に1年生のゼミ志望届が集まってきました」
ヒゲの前にA4の紙がちょうど入る箱がいくつか置いてある。それぞれに合格、不合格とラベルが貼ってあって、まだ決まってないっていう箱の3つがあるのかな。社会学部では2年に進級するときにゼミに入ることになっている。第1希望から第3希望までを書いた紙と、佐藤ゼミの場合は固有のエントリーシートを提出しなきゃいけないんだよね。
「3限の時間に2年生が見て何となくの合否は分けたし、この時間では3年生にそれをより精査してもらって来期の25人を決めていきましょう。岡山君、適当に配ってもらって」
「はい」
今年は何十人のエントリーがあって~とヒゲの話が続く中、桃華が適当に配っているエントリーシートに目を落とす。どんな子がいて、どんな感じの趣味をしていてということを見ていくんだけど、アタシたちに求められるのはもし知ってる子がいた場合の情報提供だったりする。変なって言ったらアレだけど、明らかに向かないなって子はこの時点で弾きたいんだってさ。
それから、ヒゲはアタシたちの代くらいから成績も重視し始めた。ヒゲはある年度で失敗したなと感じたら、次の年度はその真逆の行動を取る傾向があるんだよね。女子を中心に取ったら我が強い人ばっかりでケンカが絶えなかったから次は男子を中心に取ったとか。多分1コ上の時に成績の悪い人に困らされたからそのボーダーを設けるようになったのかなって。
「右上の通し番号に私の方で赤丸を打ってある子はもう採用することに決めてあるから。君たちもそのつもりでいてよ。その上で知ってる子がいたら情報をちょうだいね、特に千葉君」
「は~い」
「千葉ちゃんさっそくご指名やわ。MBCCの子もおるん?」
「いるはず。今年の子は佐藤ゼミに入りたいって言ってたからねー」
「ところで千葉君」
「何ですか?」
「アナウンサーの方の佐々木君の、トークの技量はどんな感じなの」
「1年生の今の時期としてはまあまあまとまってますよ。話の構成を考えるのは得意ですけどアドリブが弱いんで、ライブ経験を積ませてビシバシやらなきゃいけないですけど、その辺はこれからですね」
「そう。まあまあやれるのね」
ササの弱点はやっぱりライブに弱いことかな。ネタ帳が一言一句書いてるとかではないんだけど、結構ガチガチにトークの構成を決めて来てるんだよね。だからその時目に入って来た情報をトークに割り込ませるだけの余裕がないと言うか。逆に言えば、ゼミで2年生が作るような番組であれば、良さを十分出せるとは思うんだけどね。オープンキャンパスは不安だわ。
「ミキサーの方のシノキ君はどうなの。高木君からも一応聞いてあるけど」
「そっちは意欲が物凄くあって練習の虫って感じですね。ガンガン系の性格の割に根は真面目で。技術的には~……成長曲線がどうグンッてなるか次第ですけど、1年生の時のタカちゃんよりは手堅く、その一方でアソビには欠ける。っていう感じですかね。あとパソコンの扱いは人並みで、そこはタカちゃんの方が圧倒的に強いです」
「そう。現状では高木君の下位互換だけど、伸びしろはあるのね?」
「伸びしろはあります。と言うか、タカちゃんが育てるんで」
「シノキ君はミキサーじゃなかったら間違いなく成績で弾いてたからね。千葉君、君からもその辺シノキ君と、それから高木君にも言っといてくれる?」
「シノはともかくタカちゃんに関しては先生が直接言ったらいいんじゃないですかねー」
「高木君にはもう何度も言ってるんだよ」
「まあ、あんな感じの子ですしー」
「シノキ君には佐々木君がいるから学業の面倒も見てもらえそうだけど、問題は高木君だよ高木君」
タカちゃんの成績のことをアタシに言われても、っていうクレームはアタシも何度も何度もタカちゃんに出してるんですよねー。タカちゃんがああいう子だし、多分卒業するまで学業はああいう感じでのらりくらりやってるんだと思うけどね。タカちゃんに関しては機材担当って感じで割り切ってやってかなきゃでしょ。ヒゲはないものを求めすぎだ。
「学業と言えば、アナウンサーの方の佐々木君のエントリーシートだよ、君ぃ」
「ササのエントリーシートがどうしたんですか?」
「平田君が持ってるじゃない!」
「佐々木? これですかね。MBCCのアナウンサーって書いとる紙」
「それだね。自己PR欄にはラジオに関する本の書評がまとめてあるんだけどね、それの裏を見てごらん」
「裏? うわっ、めっちゃびっちり書いてある!」
「うそ!? えっ、これ何冊分!? 表が5冊で、え、裏が10冊!? ヤバッ!」
「書評も良くまとめてあるし、君たちも普段からこれくらい本を読みなさいよ、まったく。来週までに1冊読んでA41枚分のレジュメにまとめる課題を出そうかな」
「ササ、完っ全に要らんことしてくれましたよねー」
「千葉ちゃんの後輩優秀過ぎやわ、MBCCの子ってラジオ特化やないん?」
もし本当に本を読んでまとめる課題が出たら、明日のサークルでササをビシバシ扱き倒してやる。それで、アタシ流ライブ放送術を叩き込んでやりますよねー。引退した前アナウンス部長とは言え、一応年末までは活動するんで。課題が出なければ大人しくしてるけど。俗に言う八つ当たりってヤツですよねー。
end.
++++
去年は2年生サイドを見てたけど、今年は3年生サイドでヒゲさんからチクチク言われる果林のお話。
果林から見たシノの評価なんかもありありで。ゼミではパソコンの扱いも結構重要になってくるところ。未だTKG優勢。
果林の八つ当たりの図も見てみたいような気もする。ただ、その扱きはササも臨むところなのかもしれない。
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