2021(03)

■部長職ガイダンス

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「――というワケで、改めまして代替わりしたということでよろしくお願いします。新部長の源です。えっと、大学祭が終わったのでしばらくは部としてもゆっくりペースになるとは思うんですけど、各々必要な練習を継続してもらうような感じで、新しく始めたい活動などがあれば相談してもらって。あと、インターフェイス関係の活動もしばらく後ですけどあるんで、興味のある人はぜひ参加してください。……レオ、今日のところは以上でいいのかな?」
「質疑応答などはありませんか? なければ納得したということで、解散でいいでしょうか」
「いいでーす」
「では、本日の申し送りは以上となります。源新部長の下、俺たちの代ではよりクリーンで、かつステージのクオリティを上げられるようやっていきましょう」

 大学祭終了後、初めての全体部活動。まず初めに、代替わりを経て新たに幹部や班長となった部員が集まっての申し送りが行われていた。星ヶ丘大学の放送部では、大学祭のステージが終わると代替わりがあって、それで3年生の先輩はすっぱりきっぱり引退ということで、部活にも来なくなる。今から2年生が部を回していくことになるんだ。
 俺は柳井部長から次の部長をやって欲しいという風に言われて少し考えたんだけど、その話を受けることにした。自分が朝霞班の出のミキサーであることを少し気にしたけど、柳井部長が次に目指すべきだと考えていたのはどこの班だとか、何のパートだとかを気にせず誰もがフラットな立場でいられる部だということ。
 朝霞班に入った時からつばめ先輩から話には聞いていたし、数え切れないほどの不条理と戦っていた朝霞先輩の姿も見て来た。ああいうのを一番近いところで見て来た俺だからこそ、誰もが自由に平等にステージがやれる場所を自分で作って行かなきゃなという風にも思ったんだ。それを任せてもらえるのなら、そんなにありがたいことはないなって。
 俺が新部長に、そして監査にはレオが就くことになった。会計は前小林班のプロデューサー、いまむー。で、機材管理に関しては、前に担当していた小林先輩が「お前らの学年Pとかアナに偏り過ぎてて任せれそうな奴がいねーんだけど!」と言っていたので、現状俺が兼務することになった。確かに考えてみたらミキサーやディレクターがあまりいないなあ。

「では源部長、案内します」
「源部長はやめてよ。普段通りでお願い」
「では源、案内します。ここが部長席になります。部長はここで書類仕事などをします。書類は放送部の運営に関わるものや部長会……文化会の定例会議があるんですが、そこに提出する資料などですね。その作成などを行ってください」
「書類仕事があるの?」
「はい。それから、部員から提出されるステージの台本や、その他書類の確認をした上で署名、押印をお願いします」
「ええー……堅苦しいなー……それ、端折っちゃダメ?」
「仕事はしっかりやって下さい。それから、俺を始めとした各幹部の上げる報告を受けて部運営の方針を決めてください」
「何か、ステージに関する仕事って少ないんだね」

 過去2代の部長の鉄砲玉だとか側近として影で働いてきたレオが、部長の仕事とはこういうものですよーと俺に説明をしてくれるんだけど、聞いてるだけで頭が痛くなってきた。これだったら機材管理担当としての仕事という体で機材チェックをしまーすとかの方が100倍やりたいし、楽しいよなあって。

「部全体の運営ですから。自分のステージのことだけ考えていられる立場ではありませんよ」
「何がダメって、まずこの部長席の豪華さがダメじゃない? こんな社長席みたいな机要る? 応接間みたいなソファまであるじゃん。誰がここに座るの? そういう偉そうな席は俺の性には合わないし、現場を走り回ってるんじゃダメ?」
「最初の方のは屁理屈ではありませんか。ただ、部の方針を決めたりするのに現場を見て歩くのは、それこそ源の性に合うのであれば、好きにしてもらって構いませんよ」
「はー、良かった」
「とりあえず、この数分で源が部長席で大人しく書類仕事をするのが嫌いであるということは理解しましたから、その手の仕事は俺も少し請け負いましょう」
「ホントに!? レオが監査でいてくれてよかったよ~!」
「まあ、源が部長に就任したのも、俺が無理を言ったからだというのもありますし」
「所沢君、ちょっといい? 会計帳簿のことなんだけど」
「今見ます。源、少々失礼します」
「はーい」

 先代で実質的会計として帳簿を扱って来たレオが、新会計のいまむーに帳簿の書き方を教えている。俺はと言えば、部長の仕事だとか部の方針、新しい代の部では最初に何を始めるべきかなあといろいろ考える。まずこの部長席の豪華な設備は要らないから取っ払いたいし、個人的に監査席の台本棚はもっと読みやすい場所に欲しい。そう言えば、部室ってどうなってたかな。埃っぽいし機材を置いとくなら掃除するべきなんだけど。

「あっ!」
「うわっ、びっくりした」
「源、どうしたんです」
「レオ、俺たちの最初の仕事を思いついたんだけどいいかな!」
「いいですよ。何ですか」
「部室の大掃除だよ!」
「……はい?」
「部室を掃除して、部室としての機能を取り戻すことが先決だと思うよ」
「まあ、確かにあの部屋は随分と汚いですし、一度要らない物を処分してもいいかもしれません。何があるのか俺も把握出来ていませんから」
「よーし、じゃあ部室の大掃除をしよう! それで、この部長席を質素にしよう!」
「もしやそれが目的ですか?」
「いやいやいや、とんでもない!」


end.


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書類仕事が嫌いで現場を走り回っていたい系新部長、ゲンゴローの誕生。レオはこれからがんばれ。
星ヶ丘の2年生キャラを思い返したときに、ミキやDが見事にいねえなと思ったので現時点ではゲンゴローが機材管理兼務。
しかしレオがかなり優秀。部長の補佐もするし会計の仕事も理解してるしDだから機材も扱える。つよい。

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