2021(03)

■散歩ついでの看板ウォーク

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「なかなか人が来ませんねえ」
「今日はライブとかもあるし、そっちに人が流れがちなんだよ」
「そうなんですね」

 大学祭2日目。土曜日は外部からの人も多く訪れるそうなのですが、校舎の中の展示室にまで来る人はなかなかいないようです。昨日もプラネタリウムを展示している教室にはあまり人が来なかったのですが、今日もあまり変わり映えしないという感じです。一応、外に出る時は宣伝用の首提げ看板をつけてはいるのですが。

「はあ……お腹が空いてしまいました」
「鳥居ちゃん何か食べるもの買って来たら? ついでに看板提げて歩いてもらって」
「わかりました」
「あ、やっぱ私も行こうかな。嵐士、留守番しといて」
「じゃ何か食うモン買って来て」
「了解」
「では行って来ます」
「いってらー」

 校舎の中はとてもひんやりしているのですが、一歩外に出ると暖かくてそのギャップに驚いてしまいます。昨日と今日ではまたブースの内容が変わるテントもあるようなので、宣伝がてら大学祭巡りをするような感じです。やっぱり人手がすごいです。これだけ人がいればプラネタリウムに対する需要もあるとは思うのですが。

「さーてと。鳥居ちゃん、しばらく散歩しようか」
「さ、散歩ですか?」
「看板提げて歩くのも大学祭の醍醐味っていうことで」
「おー、旭ー」
「おっ、真希じゃん。いいの持ってんね。それどこの?」
「MMPのヤツだよ。情報棟の前でやってるから」
「へえ、いいじゃん。フライドポテトってありそうでなかったよね今まで」
「そうなんだよ。おっ、春風も久し振りだねえ」
「ご無沙汰しています」
「鳥居ちゃん、真希と知り合いなの?」
「幼馴染みがバドミントンサークルでお世話になっているのです。その縁で一度食事を」
「へえ、そうなんだ」

 以前奏多から紹介をされた羽広先輩は、どうやら矢作先輩の友人のようです。2人ともさっぱりとした性格なので、話を聞いていても清々しさを覚えます。羽広先輩が手にしていたのはフライドポテトです。あるとついつまんでしまう、スナックの定番にして王道ですね。見ていると私もポテトが食べたくなってきました。

「そういや旭、今年のプラネタリウムってどんな感じ?」
「今年は去年よりバージョンアップしてるよ」
「去年って何か光ファイバーでより本物っぽい星空を再現してたんしょ? それがバージョンアップしたってか」
「今年は何と、ランダムで流れ星が出るようになったんだよ。それを実現させたのが、この鳥居ちゃんってワケさ」
「へえ! やるねえ春風。そうか、奏多と一緒の情報っつってたもんな」
「羽広先輩はプラネタリウムに興味などは……」
「アタシは星空って柄じゃないけど、アタシのダチが星空とか宇宙が好きな奴でさ。去年のプラネタリウムがすごかったって話は聞いてたんだよ。今年も時間作って見に行きたいとは言ってたけど」
「本当ですか!?」
「あ、でも今ライブの方に行ってるから、早くてもそれが終わってからになるかな」

 でも、やっぱり好きな方は好きなんだなとか、プラネタリウムに対する需要があるとわかってとても高揚しています。ただ、今日はロックバンドのライブがあるようなので、やはり今の時間はそちらに人が偏ってしまっているようです。今年は向島ロボット大戦がない方の年ですが、大学祭全体の盛り上がりとしてはどうなのでしょうか。

「アタシもライブ行くし、それじゃーね」
「はい。お疲れさまでした」
「そしたらとりあえずポテト買いに行く?」
「そうですね。情報棟の前だと言っていましたね」

 情報棟の前に差し掛かると、可愛らしい雰囲気の歌が聞こえてきました。それに誘われるようにテントを覗いてみると、そこがどうやらフライドポテトを売っているブースだったようです。そして、ちょうど店番をしていたのは夏頃までバドミントンサークルに所属していた希くんです。奏多の縁で彼とも少し話をさせてもらっていました。

「おーす鳥ちゃん! ポテト食べてかない?」
「はい。ちょうど私たちはポテトを買いに来たところでした」
「Sにする? Mにする?」
「Mサイズ4つでお願いします」
「Mサイズ4つー! で、600円でーす」
「はい」
「あ、おしぼりとかもあるんで、ご自由にどうぞ」
「ありがとうございます」

 爪楊枝があらかじめ用意されている上に、おしぼりまであるとはかなり親切ですね。手が油っぽくなりますし。

「鳥ちゃん、天文部の方はどんな感じ?」
「食品ブースの方はノータッチなのでよくわからないのですが、プラネタリウムの方はさっぱりですね……」
「そっかー、ドンマイ。あ、ウチのテントのそこに宣伝書いてったら? 画用紙あるし」
「いいんですか?」
「りっちゃんせんぱーい、いいっすよねー」
「いースよ」
「とのことなんで、どーぞ!」
「では失礼します」

 画用紙に天文部プラネタリウムの教室案内と、流れ星も見られるよというようなことを書いて希くんのテントに掲示してもらうことになりました。少し立ち話をしている間にもフライドポテトを買いに結構な人が訪れているようですし、ここに掲示してもらえるのはただ首提げ看板をして歩くよりも効率がいいかもしれません。

「天文部のプラネタリウムは値段の割にクオリティがヤバいっつー話は聞いたことがありヤすわ」
「へー、そーなんすねー」
「去年野坂が見に行ってたはずスよ」


end.


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晴れた日の大学祭で、かつライブの時間帯は校舎内の展示を見に行こうという人はなかなかいないようですね
人がいないならいっそ休憩すればいいじゃないという考えで、お散歩ついでの看板ウォーク。
向島の姐さんたちの輪がどんどん繋がって行けばいいと思う。でも旭姐さんと菜月さんてどっかで繋がるのかな

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