2021(03)

■出禁のボーダーすれすれに

公式学年+1年

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「なんつーか、年々人が増えてる感じだよな」
「噂が噂を呼んで安定的な人気になってるんじゃないか?」

 いよいよ今年の大学祭も始まった。開催期間は金曜日から日曜日までの3日間で、土日がとにかく物凄い来場者になる。金曜日に歩いているのは在校生が主だから、店番だとか番組だとか、そういうのもちょっと土日に比べると緩めだったりする。時間もあることだし、俺はシノと一緒にいろいろなブースを見て回ることに。まず行ってみたいのは校舎内のあのブース。
 2年前から8号館の2階、822教室で始まったのがお米同好会というサークルがやっているお米食べ比べだ。全国各地の米を取り寄せて、それらを最高の炊き方で食べ比べるということをやっているのだけど、そのご飯に合うご飯のおともも取り揃えていて話を聞くだけでも腹が減る、拷問か地獄のような場所だ。
 好きな銘柄のご飯が2杯と好きなご飯のおとも1種、または好きな銘柄のご飯1杯とご飯のおとも2種で500円という激安価格での提供というのも魅力だ。お米同好会が作った米や、同好会が開発したご飯のおともも売られている。何せブースとしてのクオリティが高いからMBCCの焼きそば的にはライバルなんだけど、純粋に食べたい気持ちが強い。

「おーい、麻衣ー、来たぞー」
「お米同好会も大盛況なようで」
「えっ、アンタらが来たの!?」
「何だよ、俺らが来ちゃダメだってのかよ」
「正直MBCCは出禁掛けられても文句言える立場じゃないからね」
「心当たりしかないけど食べる分の代金はちゃんと持って来てるだろーが」
「そーゆーコトでもないんだってば」

 MBCCという括りで出禁を掛けられそうになっているのには心当たりしかないワケで。お米同好会がこのブースを出すようになった最初の年、ゼミの食品ブースの店番に飽きた2年生当時の果林先輩と平田先輩が腹ごしらえということでここにやって来た。果林先輩は出されていた全種類のご飯を各1回ずつと一番好きだった銘柄をおかわりして、ご飯のおともも全種制覇した。
 果林先輩的には「手加減」のレベルだけど、お米同好会としては「ヤベーのが来た」と戦々恐々としていたそうだ。そりゃ誰でもそう思う。果林先輩の食べっぷりを初めて見たら絶対にビビるし引く。そして果林先輩はお米同好会の人たちから“黄色の悪魔”と呼ばれるようになり、あの人が通った後にはぺんぺん草1本残らないと語り継がれるようになりましたとさ。めでたしめでたし。

「や、つかヤベーのは果林先輩だけじゃんか。何でMBCCっていう括りにされてんのか意味わかんねーわ」
「去年千葉先輩と一緒に来たMBCCの先輩って人も結構な量食べてったんだわ。それに、アンタらも結構食べるっしょ? アタシの目が黒いうちは炊飯器すっからかんにするとか許さないからね」
「さすがにそこまで食えねーっつーの。俺らを何だと思ってんだ」
「ちゃんとご飯の銘柄ごとにチャート作ってくれてるし、味の傾向に分けて食べるのを厳選すれば6杯くらいで止めれる。まいみぃ、安心して欲しい」
「真面目な顔して6杯くらいで止めるって言ってるけど、陸の発言で確定したわ。アンタら十分ブラックリスト載るよ」

 果林先輩の先輩で量を食べる人と言えば高崎先輩かなと、心当たりは少しある。あの人も結構食べる人だった覚えがある。それで俺らか。まいみぃ的には警戒しても仕方ないとは思うけど、炊飯器が10台以上並ぶ中で6で止めるというのはまだ一般的範疇じゃないかなと思う。ご飯のおともも食べたいし。6なら1500円は払うし、まだセーフだろ。

「とりあえず、ご飯2おとも1を3回分」
「俺も同じの3回分」
「1500円になりまーす」
「よし、食べよう」
「食うぞ~」

 まいみぃからご飯チケット6枚とおともチケット3枚を受け取り、どのご飯を食べるか、炊飯器の前にある説明書きに目を通す。ちなみに、炊飯器の前にはお米同好会のスタッフがスタンバイしていて、その人にチケットを渡すと茶碗にご飯を盛ってくれるというシステムだ。始めた当初はお客さん自身によそってもらってたけど、このシステムになった理由はお察しください。
 俺もシノも米の銘柄には特にこだわりがないし、シノは1人暮らしをするにあたって何を基準に米を選んでいるのかと言えば、値段だったりする。安く多く買えるのであればその方がいいというスタンスで。もし贅沢をするのであればどういう味のご飯が好きなのか、ということを今年は探りに来たようだった。

「麻衣、何か今年ご飯のおとも増えてね?」
「むぎぃにいろいろ教えてもらって、ご当地のご飯のおともで作れそうなヤツは作ってみたんだよね」
「あー、下梨ってそーゆーのに詳しいんだっけか」
「民俗学研究会で、確か郷土食の分野を中心に調べてたと思う」
「へー。じゃあ、せっかくだし珍しいの食ってみるかなあ」
「智也、そっちのヤツ、アタシの畑で採れたのとか使ってるし」
「へー、お前の作ってる野菜か。じゃ食ってみるかあ」

 大学祭の食品ブースで1500円は使い過ぎかと思うけど、他のブースも回ったりしてると何だかんだいい値段になるんだよな。それでいてクオリティもピンキリだから、お米同好会の1500円は安いと俺は本当に思っている。だから出禁にされるのは来年以降のことも考えるとかなりしんどいので、一般的な範囲で食べなければならないのだけども。

「ササ、そっちの美味いぞ」
「一口食わして」
「あーはいそこ、食べるんならチケット使ってくださいな」
「それも禁止なのかよ」
「それが横行するとこっとも回んないんだって」


end.


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お米同好会に恐れられるMBCCである。恐らくはフェーズ2の時間軸で果林が高崎と一緒に荒らしたんだな……
まいみぃからしてもゼミ合宿でササシノがめっちゃ食べてるのを見てるので、MBCCが危険みたいなことになってんだな
お米同好会がここで使ってるお茶椀は使い捨てのとかじゃなくてちゃんとお茶椀。裏には皿洗いの人もいる。

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