2021(03)
■駆け足のライブレポート
++++
「悠哉君お疲れーっす!」
「……うちの場所を知ってるからっつって、そうのこのこ来られても上げねえぞ」
「そこを何とか~! ライブ終わった後でコーフンしてるんすよー!」
「だからこそ来るなっつってんだ、クソ野郎」
本人曰くライブ終わりだという壮馬が、ムギツーに乗り込んで来やがった。俺は丸1日オフで、日中は家のことをやっていたから夜は飲もうと思い、ビールのつまみになるようなモンでも作るかと気分が乗っていたのにこれだ。如何せん俺の周りのバンド関係の人間というのは妙なハイテンションの奴が多くて困る。
家に上げる気は1ミリたりともない。上がらせたが最後、奴は泊まる気マンマンで酒を煽り出すだろう。玄関先での立ち話でという条件で、話くらいには付き合ってやることにした。そしていい時間になれば俺は晩酌をする。つまみを作るという重要な仕事をしなければならないんだ。料理はさほど得意じゃねえからこれだけでも結構な時間がかかる。
「今っすね、学園祭シーズンで書き入れ時なんすよ! トリプルメソッドの知名度もガンガン上げてかなきゃいけないすからね!」
「まあそうだな」
「今日も例によって学祭で3本演ってきたんす」
「そりゃご苦労なこった」
「週末も忙しいんすよ~」
「よかったな」
「――って悠哉君何でそんな冷めてるんすか!?」
「俺のテンションはこれがデフォルトだし、トリプルメソッドの話はお前のことで、俺にとっては他人事だからな」
「知ってたっす、悠哉君てそーゆー人なんすよ」
「知ってるなら言わすな」
「や、でもバンドの一番後ろからみんなを見渡すドラマーの視点とテンションとしては、マジで悠哉君は俺の思うお手本なんすよ!」
「ンなこと言っても部屋には上げねえぞ」
「そーゆーんじゃないっす! ガチっす!」
こないだ伊東が開いてくれた無制限飲みで、太一のバンドでドラムをやっている菅野とも少し音楽談議に花を咲かせていた。アイツもまあ最初の印象通り落ち着いた奴だし(太一との対比でより強調されるし)、やっぱコイツが妙なハイテンションなんじゃねえのかと思う。尤も、フロントマンの気持ちは俺にはよくわからないのだけれども。
ここしばらくの学園祭ラッシュでどこのエリアのどんな学校でどんなライブをして~という壮馬の思い出話をただただ聞くだけの仕事だ。こういう話を聞いていると、それだけ呼ばれるバンドにはなってんだなと一定の感心はする。トリプルメソッドでも忙しくなって来てんのに、このバンドでやる音じゃねえという理由で時々TCFを復活させたがる病気は何とかならねえものか。
「今週末は向島大学にも呼ばれてるんすよね」
「あ? 向島か」
「悠哉君来てくれるんすか!?」
「いや、行く用事もねえから行きはしねえが」
「俺がその用事じゃないんすか!?」
「そこまで言うならその用事になれるレベルにバンドをデカくするんだな」
「く~っ、将来的には今の発言絶対後悔させるっす! そう、そんで、向島大学でのライブに太一君たちが見に来てくれるんですって!」
「言って太一は音楽のあるところにはホイホイ飛んでいく奴だし、そんなモンだろ」
「まーわかるっすけどね。太一君はそーゆー人っす。こないだ個人的にLINEしてたんすけど、向島大学のラジオのサークルのブースで使われる予定の曲を編曲したんですって! 太一君って確か違う大学の人だったっすよね? わざわざ太一君にって編曲を依頼されるとか、ヤベーっすよね」
「向島の連中から太一に繋がる人脈か」
そう考えたときに、握れる弱みを徹底的に握り潰して人を利用することにおいては他の追随を許さねえ女がいたなと思い出す。こないだの無制限飲みでも初対面だった風ではなかったし、もし知り合いだったとするならそういうやり取りも決して不可能ではねえなと。太一みたいなノリの奴はアイツにとっちゃカモネギみたいなモンだ。
「ちょっと太一に聞いてみるか」
「そう、そんで、向島大学にはちょっと挨拶しときたい人もいるんで、その人に案内してもらって大学祭巡りってのもちょっとやるんすよ~、ほら俺高卒じゃないすか、大学祭を歩くとかやったことないし楽しみで楽しみで!」
「そりゃよかったな」
「悠哉君知ってます? 太一君たちがやってるゲーム実況グループのUSDX。その大ボスみたいな人が向島大学にいるそうなんで、薫君のギター練習曲も提供した手前、これもいい機会っすし直接挨拶しとこうかと」
「あ?USDXだ?」
USDXと言えば、拓馬さんがやってるっていうグループでバンドじゃねえか。まあ、それはそうとして、ライブをやったら即次の現場へ、という繰り返しで学園祭巡りはほとんどやっていないらしいので、向島大学でようやく学園祭を回れそうだと壮馬はウキウキしている。俺も学祭は嫌いじゃねえし、気持ちはわからないでもないが。高校とは規模が段違いだからな。
「悠哉君悠哉君、大学祭ってどんな感じなんすか?」
「その大学によって全然違うが、緑大の場合は道と言う道の両サイドにテントが立ち並んで、ステージも3ヵ所設けられてんだよな。それで――」
「多分っすけど、緑大って向島エリアの中でも有数の規模じゃないすか。向島大学とはまたちょっと雰囲気が違うと思うんすよね」
「お前が大学祭ってどんな感じかって言うから俺の知ってるモンを教えてやってたんだろうが。締め出すぞ」
「あー! ごめんっす!」
end.
++++
そして週末の土曜日にプロ氏と学祭巡りをする壮馬に続くのである。今のシーズンはライブの季節なのね。
高崎のテンションがこんな感じなのは昔からだし、何なら昔の方が尖って冷めてたまであるので今はまだ丸くなっている
カンDが編曲した曲はもちろんアレ。何故か耳に残るかわいいお歌である。
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「悠哉君お疲れーっす!」
「……うちの場所を知ってるからっつって、そうのこのこ来られても上げねえぞ」
「そこを何とか~! ライブ終わった後でコーフンしてるんすよー!」
「だからこそ来るなっつってんだ、クソ野郎」
本人曰くライブ終わりだという壮馬が、ムギツーに乗り込んで来やがった。俺は丸1日オフで、日中は家のことをやっていたから夜は飲もうと思い、ビールのつまみになるようなモンでも作るかと気分が乗っていたのにこれだ。如何せん俺の周りのバンド関係の人間というのは妙なハイテンションの奴が多くて困る。
家に上げる気は1ミリたりともない。上がらせたが最後、奴は泊まる気マンマンで酒を煽り出すだろう。玄関先での立ち話でという条件で、話くらいには付き合ってやることにした。そしていい時間になれば俺は晩酌をする。つまみを作るという重要な仕事をしなければならないんだ。料理はさほど得意じゃねえからこれだけでも結構な時間がかかる。
「今っすね、学園祭シーズンで書き入れ時なんすよ! トリプルメソッドの知名度もガンガン上げてかなきゃいけないすからね!」
「まあそうだな」
「今日も例によって学祭で3本演ってきたんす」
「そりゃご苦労なこった」
「週末も忙しいんすよ~」
「よかったな」
「――って悠哉君何でそんな冷めてるんすか!?」
「俺のテンションはこれがデフォルトだし、トリプルメソッドの話はお前のことで、俺にとっては他人事だからな」
「知ってたっす、悠哉君てそーゆー人なんすよ」
「知ってるなら言わすな」
「や、でもバンドの一番後ろからみんなを見渡すドラマーの視点とテンションとしては、マジで悠哉君は俺の思うお手本なんすよ!」
「ンなこと言っても部屋には上げねえぞ」
「そーゆーんじゃないっす! ガチっす!」
こないだ伊東が開いてくれた無制限飲みで、太一のバンドでドラムをやっている菅野とも少し音楽談議に花を咲かせていた。アイツもまあ最初の印象通り落ち着いた奴だし(太一との対比でより強調されるし)、やっぱコイツが妙なハイテンションなんじゃねえのかと思う。尤も、フロントマンの気持ちは俺にはよくわからないのだけれども。
ここしばらくの学園祭ラッシュでどこのエリアのどんな学校でどんなライブをして~という壮馬の思い出話をただただ聞くだけの仕事だ。こういう話を聞いていると、それだけ呼ばれるバンドにはなってんだなと一定の感心はする。トリプルメソッドでも忙しくなって来てんのに、このバンドでやる音じゃねえという理由で時々TCFを復活させたがる病気は何とかならねえものか。
「今週末は向島大学にも呼ばれてるんすよね」
「あ? 向島か」
「悠哉君来てくれるんすか!?」
「いや、行く用事もねえから行きはしねえが」
「俺がその用事じゃないんすか!?」
「そこまで言うならその用事になれるレベルにバンドをデカくするんだな」
「く~っ、将来的には今の発言絶対後悔させるっす! そう、そんで、向島大学でのライブに太一君たちが見に来てくれるんですって!」
「言って太一は音楽のあるところにはホイホイ飛んでいく奴だし、そんなモンだろ」
「まーわかるっすけどね。太一君はそーゆー人っす。こないだ個人的にLINEしてたんすけど、向島大学のラジオのサークルのブースで使われる予定の曲を編曲したんですって! 太一君って確か違う大学の人だったっすよね? わざわざ太一君にって編曲を依頼されるとか、ヤベーっすよね」
「向島の連中から太一に繋がる人脈か」
そう考えたときに、握れる弱みを徹底的に握り潰して人を利用することにおいては他の追随を許さねえ女がいたなと思い出す。こないだの無制限飲みでも初対面だった風ではなかったし、もし知り合いだったとするならそういうやり取りも決して不可能ではねえなと。太一みたいなノリの奴はアイツにとっちゃカモネギみたいなモンだ。
「ちょっと太一に聞いてみるか」
「そう、そんで、向島大学にはちょっと挨拶しときたい人もいるんで、その人に案内してもらって大学祭巡りってのもちょっとやるんすよ~、ほら俺高卒じゃないすか、大学祭を歩くとかやったことないし楽しみで楽しみで!」
「そりゃよかったな」
「悠哉君知ってます? 太一君たちがやってるゲーム実況グループのUSDX。その大ボスみたいな人が向島大学にいるそうなんで、薫君のギター練習曲も提供した手前、これもいい機会っすし直接挨拶しとこうかと」
「あ?USDXだ?」
USDXと言えば、拓馬さんがやってるっていうグループでバンドじゃねえか。まあ、それはそうとして、ライブをやったら即次の現場へ、という繰り返しで学園祭巡りはほとんどやっていないらしいので、向島大学でようやく学園祭を回れそうだと壮馬はウキウキしている。俺も学祭は嫌いじゃねえし、気持ちはわからないでもないが。高校とは規模が段違いだからな。
「悠哉君悠哉君、大学祭ってどんな感じなんすか?」
「その大学によって全然違うが、緑大の場合は道と言う道の両サイドにテントが立ち並んで、ステージも3ヵ所設けられてんだよな。それで――」
「多分っすけど、緑大って向島エリアの中でも有数の規模じゃないすか。向島大学とはまたちょっと雰囲気が違うと思うんすよね」
「お前が大学祭ってどんな感じかって言うから俺の知ってるモンを教えてやってたんだろうが。締め出すぞ」
「あー! ごめんっす!」
end.
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そして週末の土曜日にプロ氏と学祭巡りをする壮馬に続くのである。今のシーズンはライブの季節なのね。
高崎のテンションがこんな感じなのは昔からだし、何なら昔の方が尖って冷めてたまであるので今はまだ丸くなっている
カンDが編曲した曲はもちろんアレ。何故か耳に残るかわいいお歌である。
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