2021(03)
■レポートのサポート
公式学年+1年
++++
「えーっと、ここでいいのかな」
「ここなんじゃん? 安部研究室って書いてるし」
「緊張するな。……それじゃあ。失礼します」
「いらっしゃい。そこに座って」
俺がシノと一緒にやってきたのは、社会学部棟5階にある安部先生の研究室。佐藤ゼミの俺たちがどうしてここに来たのかと言えば、それは去年の卒論にある。強いて言えばそれに用事があったのは俺だけで、シノは何となくついてきただけなんだけども。
「佐藤先生のところの子たちだね。君が?」
「佐々木陸です」
「メールをくれた子だね。君は?」
「篠木智也っす」
「あら、2人ともササキ君なんだね。君たちはゼミではどうやって区別されてるの?」
「俺のササキは長篠の篠に木って書くんで、佐藤サンからはシノキ君て呼ばれてます」
「それはわかりやすいね。それじゃあこの場では私もその愛称を借りちゃおうかな。あ、良かったらお茶飲んでってね。お菓子もあるし」
「え、至れり尽くせりっすね」
「私はいつもこんな感じだよ」
研究室に来てくれた学生とお茶をするのが趣味なんだよ、と安部先生はお茶とお茶菓子を出してくれる。先生のデスクの脇にはお茶をするための道具をしまうための棚も置かれているようだし、お茶会が趣味だというのは本当のようだ。シノはさっそく黒いまんじゅうを食べている。
「ええと、本題だね」
「はい。僕は佐藤ゼミでラジオについて研究をしたいなと思って夏にレポートを提出したんですが、ラジオの研究を続けるなら一度高崎先輩の卒論に目を通すように言われていて」
「そうだねえ。ちなみに、ラジオの何についての研究をするつもりなのかな」
「細かいことはこれからですね」
「そう。でも、ラジオについての研究をするなら確かに高崎君の卒論には一読の価値ありだね。ちなみに、佐藤さんは他に何か言ってた? 佐々木君自身のレポートについてとか」
「文献と音源をまとめるのは出来てるけど、俺自身が稼いだ物が少ないと。高崎先輩はサークルの先輩でもあるので、実際に話を聞いて来いとも言われました」
「ああ、そうなんだね。高崎君は実際に自分でコミュニティFM局で番組をやってたし、あれは彼だからこそ出来たフィールドワークだね。それから、彼は自分のバイクで全国のラジオ局を巡って取材もしていたね」
「凄い…! ちゃんとやるならそこまでやらないといけないのか」
バイクで全国のラジオ局を回って取材したり、自分がパーソナリティーとしてコミュニティ局で番組をやったりっていうのはフィールドワークとしては最高の形なんだろうなって思う。MBCCで語られてきた高崎先輩の伝説を思えばそれくらいは出来てしまうんだろうなとは。
それを聞いてしまうと確かに俺は何もやってないなと思う。ラジオの何を研究するかはこれから詰めて行くにしても、実際にそれをやっている人に話を聞いたりする必要はありそうだ。先生が言っていた、俺自身が配信者になるというのは例によって保留なんだけども。
「ちなみに、シノキ君はどんな研究をするのかな?」
「俺は夏に書いたモータースポーツとその周辺の町についてのレポートが先生に褒められたんで、続けてみよっかなーって」
「スポーツと社会学の観点で言えば佐藤さんと言うより西山さんの領域だし、佐藤ゼミでやっていくならそれにメディアがどう関わっているかということを絡めていければいいかもね」
「なるほどー。つか、レポートってどーやって字数書くんすか? 俺、学業に関しては実質免除されてゼミに入ってるんで、レポートのレベルがキツ過ぎてヤバいんすよ」
「シノ、お前なんてことを相談してるんだよ」
「大丈夫だよ。安部ゼミにも去年そういう子がいたから」
「その人はどうしてたんすか?」
「それこそ高崎君に手伝ってもらいながら論文の形にしていったんだよ」
「え。高崎先輩って自分の卒論を書きながら人の手伝いまでしてたんですか」
「もちろん彼はタダではやらないよ」
安部先生によれば、高崎先輩はとにかくストイックで実力主義を突き通す人だけれども、情には厚いので助けを求められれば何かしら理由を付けて助けていたのだという。レポートが苦手だったその人を助ける見返りに、その人が溜めていた出席ボーナスなるものをもらっていたのだという。
「高崎君と飯野君は今年卒業した子たちの中では問題児でねえ。でもあの子たちとはよくこうやってお茶をしたものだよ。君たちが今飲んでるお茶と、そのかりんとうまんじゅうはこないだのハロウィンの時かな。彼らとお茶をしたときにお土産としてもらったものなんだよ」
「へー。美味いまんじゅうっすね」
「高崎君の賄賂は年々グレードアップしていってねえ」
「わ、賄賂…?」
「問題児だって言ったでしょ。彼はレポートは文句なしにゼミで1番だったんだけど、寝坊の欠席がかさんで出席が足りなくなるんだよ。それを補填するための賄賂だよ。私の好きそうなお茶菓子を探して来ては、出席の工面を頼んで来てね」
「何か意外だな。あの高崎先輩だぜ? あの人そんなことする人だったんだな」
「でも、豊葦のスイーツには精通してる人だから、持って来たお菓子は相当いいものだったんだろうなとは」
安部先生は、レポートとかの用事がなくてもまたお茶しに来てねと俺たちに微笑みかける。ゼミ生じゃないけど、と思うけど、自分を訪ねてくる人とお茶をする趣味が、高崎先輩たちが卒業してからはなかなか出来なくなってしまったのだという。シノはともかく、俺はまだ先生に話を聞く用事があるかもしれないし、お茶菓子を調べておいた方がいいのかな。
end.
++++
フェーズ2+1年の時間軸だから何でもアリ。安部ちゃんのお茶会がやりたかっただけのヤツ。
卒業してからも安部ちゃんとお茶したり遊んでる問題児コンビがただただ可愛いし仲良しのおじさんにお土産選んでたりするのがマメ。
レポートのポイントはヒゲさんに聞くより安部ちゃんの方が優しく教えてくれそうだね。どっちも字数を書かせる先生なんだけどね
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公式学年+1年
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「えーっと、ここでいいのかな」
「ここなんじゃん? 安部研究室って書いてるし」
「緊張するな。……それじゃあ。失礼します」
「いらっしゃい。そこに座って」
俺がシノと一緒にやってきたのは、社会学部棟5階にある安部先生の研究室。佐藤ゼミの俺たちがどうしてここに来たのかと言えば、それは去年の卒論にある。強いて言えばそれに用事があったのは俺だけで、シノは何となくついてきただけなんだけども。
「佐藤先生のところの子たちだね。君が?」
「佐々木陸です」
「メールをくれた子だね。君は?」
「篠木智也っす」
「あら、2人ともササキ君なんだね。君たちはゼミではどうやって区別されてるの?」
「俺のササキは長篠の篠に木って書くんで、佐藤サンからはシノキ君て呼ばれてます」
「それはわかりやすいね。それじゃあこの場では私もその愛称を借りちゃおうかな。あ、良かったらお茶飲んでってね。お菓子もあるし」
「え、至れり尽くせりっすね」
「私はいつもこんな感じだよ」
研究室に来てくれた学生とお茶をするのが趣味なんだよ、と安部先生はお茶とお茶菓子を出してくれる。先生のデスクの脇にはお茶をするための道具をしまうための棚も置かれているようだし、お茶会が趣味だというのは本当のようだ。シノはさっそく黒いまんじゅうを食べている。
「ええと、本題だね」
「はい。僕は佐藤ゼミでラジオについて研究をしたいなと思って夏にレポートを提出したんですが、ラジオの研究を続けるなら一度高崎先輩の卒論に目を通すように言われていて」
「そうだねえ。ちなみに、ラジオの何についての研究をするつもりなのかな」
「細かいことはこれからですね」
「そう。でも、ラジオについての研究をするなら確かに高崎君の卒論には一読の価値ありだね。ちなみに、佐藤さんは他に何か言ってた? 佐々木君自身のレポートについてとか」
「文献と音源をまとめるのは出来てるけど、俺自身が稼いだ物が少ないと。高崎先輩はサークルの先輩でもあるので、実際に話を聞いて来いとも言われました」
「ああ、そうなんだね。高崎君は実際に自分でコミュニティFM局で番組をやってたし、あれは彼だからこそ出来たフィールドワークだね。それから、彼は自分のバイクで全国のラジオ局を巡って取材もしていたね」
「凄い…! ちゃんとやるならそこまでやらないといけないのか」
バイクで全国のラジオ局を回って取材したり、自分がパーソナリティーとしてコミュニティ局で番組をやったりっていうのはフィールドワークとしては最高の形なんだろうなって思う。MBCCで語られてきた高崎先輩の伝説を思えばそれくらいは出来てしまうんだろうなとは。
それを聞いてしまうと確かに俺は何もやってないなと思う。ラジオの何を研究するかはこれから詰めて行くにしても、実際にそれをやっている人に話を聞いたりする必要はありそうだ。先生が言っていた、俺自身が配信者になるというのは例によって保留なんだけども。
「ちなみに、シノキ君はどんな研究をするのかな?」
「俺は夏に書いたモータースポーツとその周辺の町についてのレポートが先生に褒められたんで、続けてみよっかなーって」
「スポーツと社会学の観点で言えば佐藤さんと言うより西山さんの領域だし、佐藤ゼミでやっていくならそれにメディアがどう関わっているかということを絡めていければいいかもね」
「なるほどー。つか、レポートってどーやって字数書くんすか? 俺、学業に関しては実質免除されてゼミに入ってるんで、レポートのレベルがキツ過ぎてヤバいんすよ」
「シノ、お前なんてことを相談してるんだよ」
「大丈夫だよ。安部ゼミにも去年そういう子がいたから」
「その人はどうしてたんすか?」
「それこそ高崎君に手伝ってもらいながら論文の形にしていったんだよ」
「え。高崎先輩って自分の卒論を書きながら人の手伝いまでしてたんですか」
「もちろん彼はタダではやらないよ」
安部先生によれば、高崎先輩はとにかくストイックで実力主義を突き通す人だけれども、情には厚いので助けを求められれば何かしら理由を付けて助けていたのだという。レポートが苦手だったその人を助ける見返りに、その人が溜めていた出席ボーナスなるものをもらっていたのだという。
「高崎君と飯野君は今年卒業した子たちの中では問題児でねえ。でもあの子たちとはよくこうやってお茶をしたものだよ。君たちが今飲んでるお茶と、そのかりんとうまんじゅうはこないだのハロウィンの時かな。彼らとお茶をしたときにお土産としてもらったものなんだよ」
「へー。美味いまんじゅうっすね」
「高崎君の賄賂は年々グレードアップしていってねえ」
「わ、賄賂…?」
「問題児だって言ったでしょ。彼はレポートは文句なしにゼミで1番だったんだけど、寝坊の欠席がかさんで出席が足りなくなるんだよ。それを補填するための賄賂だよ。私の好きそうなお茶菓子を探して来ては、出席の工面を頼んで来てね」
「何か意外だな。あの高崎先輩だぜ? あの人そんなことする人だったんだな」
「でも、豊葦のスイーツには精通してる人だから、持って来たお菓子は相当いいものだったんだろうなとは」
安部先生は、レポートとかの用事がなくてもまたお茶しに来てねと俺たちに微笑みかける。ゼミ生じゃないけど、と思うけど、自分を訪ねてくる人とお茶をする趣味が、高崎先輩たちが卒業してからはなかなか出来なくなってしまったのだという。シノはともかく、俺はまだ先生に話を聞く用事があるかもしれないし、お茶菓子を調べておいた方がいいのかな。
end.
++++
フェーズ2+1年の時間軸だから何でもアリ。安部ちゃんのお茶会がやりたかっただけのヤツ。
卒業してからも安部ちゃんとお茶したり遊んでる問題児コンビがただただ可愛いし仲良しのおじさんにお土産選んでたりするのがマメ。
レポートのポイントはヒゲさんに聞くより安部ちゃんの方が優しく教えてくれそうだね。どっちも字数を書かせる先生なんだけどね
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