2021(03)
■広く、丸く、緩く
++++
「ふう。粗方確認も出来ましたし、このような感じでしょうか」
「鳥居ちゃんはプログラミングも出来てすげーなー。俺と旭はこんなの見てもさっぱりだよなあ」
「ホントに。すごい逸材がいたモンだわ」
天文部で大学祭に出展するプラネタリウムのブースは、磐田先輩はじめ諸先輩方の力で順調に準備が進んでいました。私が天文部に入ったのはこのプラネタリウムを見るためと言っても過言ではなかったので、この準備に携わらせてもらうことがとても嬉しいです。
このプラネタリウムは、簡易的な手作りプラネタリウムでよくある、光源を覆う側に星を模した穴を開けるのではなく、天球の側に設置した光ファイバーをプログラミングで制御して星の光を再現しようというもので、200円で見られるのは安すぎるクオリティなのです。
今年は昨年の上映中に見つかった軽微なバグの修正や、今年らしい天体の配置にしたりと細やかな修正を加えた他に、ランダムで流れ星が流れるようアップデート作業をしています。私はこの作業も手伝わせてもらっています。一応、情報科学部でプログラムの勉強をしていますし。とは言え。
「このソースコードには、細やかにコメントがされているので初見でもわかりやすくなっているのです。磐田先輩の心遣いですね」
「あー、まもちゃんマメだもんな」
「渓もプログラムは出来ないし、いつか誰かがこれを見たときに何とか出来るように、とは言ってた気はする」
設楽先輩と矢作先輩、そして田原先輩は社会学部ということでプログラムの勉強はしていません。今年はまだ磐田先輩がいますが、来春には卒業されてしまいます。なので、大規模なプラネタリウムを作ったものの、その保守に関してはなかなか危ぶまれていたようなのです。
「そう言えば鳥居ちゃん、アナウンス原稿は出来た?」
「星の動きが仮の段階で書いた物ですが、大まかな枠組みは出来ています。先輩方に添削していただきたいのですが」
「嵐士、アンタ先読んだげて」
「おうよ」
「鳥居ちゃんさっきからずっとパソコンの前でしょ、ちょっと休みな。根詰めててもいいことないよ。学祭までまだ2週間もあるんだから」
「そうですね」
お言葉に甘えて、1階ロビーの自販機でココアを買いました。いつの間にか自販機にもあったかい飲み物が増えたように思いますし、どんな時に誰が食べるんだろうと思っていたカップヌードルの自販機にも売り切れのランプが点っています。こんな時に食べるんですね。
「あっ、鳥居ちゃんおかえり。俺と旭で添削した結果がこれです」
「ありがとうございます」
「内容に関しては問題ないけど、少し言葉が堅いかな」
「くだけた感じにするのはどうも苦手で」
「あ、いやいや、そういうことじゃなくて。熟語を開くって言うのかな。たとえば、彗星の項目。――彗星は太陽系に属する小天体です。うんたらほにゃほにゃ中略、昔はその出現を凶兆として恐れました。ってあるけど。凶兆って普段使わない言葉じゃん」
「確かに、そう言われればそうかもしれません」
「字数は少しかさむけど、悪いことの起こる前触れとか、不吉な前兆くらいのニュアンスで書き直してあげてもいいかもしれない。同音異義語とかもあるし。熟語ってカッコいいけどカドがあるから、丸く、わかりやすくね」
「なるほど、広く人に伝える際の勉強になります」
「ちなみに、この技はレポートの字数のかさ増しにも使えるから」
「ンなコトすんのはアンタくらいだからね。小笠原はこれだから」
「ンだと!? コピペで卒論済ましてないだけマシだろ!」
今度は、設楽先輩と矢作先輩に指摘された点を意識した上での改稿作業です。このプラネタリウムで投影する星空の魅力を、より多くの人に伝えられるようにするため、言葉を見直します。少し文字数が増えた分、取捨選択も必要になってきたかもしれません。
「鳥居ちゃんの声ってプラネタリウムの放送にめっちゃ向いてるよな。なあ旭、お前も思わね?」
「概ね同意。学祭やってるのはバリバリの昼だし、現実逃避すんのにはちょうどいいね。1回マイク通してアナウンス練習してみる? 実際機材通すとどんな感じに聞こえるのかも確認しとかないと」
「あー、そうだな。ついでだしそれもやっとくかあ」
「ちなみにだけど鳥居ちゃん、プラネタリウムって8号館の4B教室でやるんだよ。マイナーな教室だけど4B教室行ったことある?」
「ないですね。大体情報棟での授業なので」
「あーそっか、理系はそうだよね。えっと、間取り図を書くとこんな感じね。教壇があって、その上にアタシらが立ってて、教室の机とか全部端に寄せてプラネの装置をガーッと広げるんだけど」
矢作先輩が豪快に描く間取り図を見ていると、当日の様子が思い浮かんでワクワクしてきます。アナウンスは少し緊張しますし、流れ星のアップデートがちゃんと反映されているかは怖くもありますが。前者はとにかく練習を、後者はデバッグをきちんとすれば大丈夫なはずです。
「ここまでやってんだから、せめて5人くらいは来てくれるといいんだけどなー」
「え……それはさすがに悲観しすぎなのでは」
「やってるのがマイナーな教室だし、大学祭の花形はやっぱ外の通りだからね。雨でも降らないと中になんか人は来ない」
「そうなのですね……」
「来ないなら連れて来いの精神で、首提げ看板でも作るかあ」
「そうですね、作りましょう!」
「鳥居ちゃんやる気じゃん」
end.
++++
向島天文部のお話。春風がプラネタリウムに本腰を入れてやっているよううです。ここが山だからね。
いつか肉付けしたいキャラの設楽先輩と旭姐さん。社会学部だって言うし菜月さんとか三井サンとの関わりってないのかなあ
来年以降このプラネタリウムがどうなっていくのかが少し気になるけど、そこは春風が何とかしてあげてほしいね
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「ふう。粗方確認も出来ましたし、このような感じでしょうか」
「鳥居ちゃんはプログラミングも出来てすげーなー。俺と旭はこんなの見てもさっぱりだよなあ」
「ホントに。すごい逸材がいたモンだわ」
天文部で大学祭に出展するプラネタリウムのブースは、磐田先輩はじめ諸先輩方の力で順調に準備が進んでいました。私が天文部に入ったのはこのプラネタリウムを見るためと言っても過言ではなかったので、この準備に携わらせてもらうことがとても嬉しいです。
このプラネタリウムは、簡易的な手作りプラネタリウムでよくある、光源を覆う側に星を模した穴を開けるのではなく、天球の側に設置した光ファイバーをプログラミングで制御して星の光を再現しようというもので、200円で見られるのは安すぎるクオリティなのです。
今年は昨年の上映中に見つかった軽微なバグの修正や、今年らしい天体の配置にしたりと細やかな修正を加えた他に、ランダムで流れ星が流れるようアップデート作業をしています。私はこの作業も手伝わせてもらっています。一応、情報科学部でプログラムの勉強をしていますし。とは言え。
「このソースコードには、細やかにコメントがされているので初見でもわかりやすくなっているのです。磐田先輩の心遣いですね」
「あー、まもちゃんマメだもんな」
「渓もプログラムは出来ないし、いつか誰かがこれを見たときに何とか出来るように、とは言ってた気はする」
設楽先輩と矢作先輩、そして田原先輩は社会学部ということでプログラムの勉強はしていません。今年はまだ磐田先輩がいますが、来春には卒業されてしまいます。なので、大規模なプラネタリウムを作ったものの、その保守に関してはなかなか危ぶまれていたようなのです。
「そう言えば鳥居ちゃん、アナウンス原稿は出来た?」
「星の動きが仮の段階で書いた物ですが、大まかな枠組みは出来ています。先輩方に添削していただきたいのですが」
「嵐士、アンタ先読んだげて」
「おうよ」
「鳥居ちゃんさっきからずっとパソコンの前でしょ、ちょっと休みな。根詰めててもいいことないよ。学祭までまだ2週間もあるんだから」
「そうですね」
お言葉に甘えて、1階ロビーの自販機でココアを買いました。いつの間にか自販機にもあったかい飲み物が増えたように思いますし、どんな時に誰が食べるんだろうと思っていたカップヌードルの自販機にも売り切れのランプが点っています。こんな時に食べるんですね。
「あっ、鳥居ちゃんおかえり。俺と旭で添削した結果がこれです」
「ありがとうございます」
「内容に関しては問題ないけど、少し言葉が堅いかな」
「くだけた感じにするのはどうも苦手で」
「あ、いやいや、そういうことじゃなくて。熟語を開くって言うのかな。たとえば、彗星の項目。――彗星は太陽系に属する小天体です。うんたらほにゃほにゃ中略、昔はその出現を凶兆として恐れました。ってあるけど。凶兆って普段使わない言葉じゃん」
「確かに、そう言われればそうかもしれません」
「字数は少しかさむけど、悪いことの起こる前触れとか、不吉な前兆くらいのニュアンスで書き直してあげてもいいかもしれない。同音異義語とかもあるし。熟語ってカッコいいけどカドがあるから、丸く、わかりやすくね」
「なるほど、広く人に伝える際の勉強になります」
「ちなみに、この技はレポートの字数のかさ増しにも使えるから」
「ンなコトすんのはアンタくらいだからね。小笠原はこれだから」
「ンだと!? コピペで卒論済ましてないだけマシだろ!」
今度は、設楽先輩と矢作先輩に指摘された点を意識した上での改稿作業です。このプラネタリウムで投影する星空の魅力を、より多くの人に伝えられるようにするため、言葉を見直します。少し文字数が増えた分、取捨選択も必要になってきたかもしれません。
「鳥居ちゃんの声ってプラネタリウムの放送にめっちゃ向いてるよな。なあ旭、お前も思わね?」
「概ね同意。学祭やってるのはバリバリの昼だし、現実逃避すんのにはちょうどいいね。1回マイク通してアナウンス練習してみる? 実際機材通すとどんな感じに聞こえるのかも確認しとかないと」
「あー、そうだな。ついでだしそれもやっとくかあ」
「ちなみにだけど鳥居ちゃん、プラネタリウムって8号館の4B教室でやるんだよ。マイナーな教室だけど4B教室行ったことある?」
「ないですね。大体情報棟での授業なので」
「あーそっか、理系はそうだよね。えっと、間取り図を書くとこんな感じね。教壇があって、その上にアタシらが立ってて、教室の机とか全部端に寄せてプラネの装置をガーッと広げるんだけど」
矢作先輩が豪快に描く間取り図を見ていると、当日の様子が思い浮かんでワクワクしてきます。アナウンスは少し緊張しますし、流れ星のアップデートがちゃんと反映されているかは怖くもありますが。前者はとにかく練習を、後者はデバッグをきちんとすれば大丈夫なはずです。
「ここまでやってんだから、せめて5人くらいは来てくれるといいんだけどなー」
「え……それはさすがに悲観しすぎなのでは」
「やってるのがマイナーな教室だし、大学祭の花形はやっぱ外の通りだからね。雨でも降らないと中になんか人は来ない」
「そうなのですね……」
「来ないなら連れて来いの精神で、首提げ看板でも作るかあ」
「そうですね、作りましょう!」
「鳥居ちゃんやる気じゃん」
end.
++++
向島天文部のお話。春風がプラネタリウムに本腰を入れてやっているよううです。ここが山だからね。
いつか肉付けしたいキャラの設楽先輩と旭姐さん。社会学部だって言うし菜月さんとか三井サンとの関わりってないのかなあ
来年以降このプラネタリウムがどうなっていくのかが少し気になるけど、そこは春風が何とかしてあげてほしいね
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