2021(03)
■秘密の作業場
公式学年+1年
++++
「よーし! 有志、集まってんね!」
「お前がこんだけ気合入ってるとか割と縁起でもねーことが始まりそうなんだよな」
「は? そんなコト言うんだったら智也マジで徹夜作業させるけど?」
「徹夜!? そこまでやるのかよ!」
まいみぃの号令で集合した夜8時。これから大学祭の食品ブースに関わる作業をするということで、有志が集まっている。俺とシノ、それから店長の下梨君に村上君、亮真に羽場君といった、いつものメンバーだ。何と言うか、こういう時に残るメンバーもちょっと決まって来てるから、他の人の入る余地がなくなってそうだ。
それはそうと、今日の作業に徹夜コースもあり得るのかとみんな戦々恐々としている。そもそも何の作業をするのかも俺たち末端の人間には告げられていないのだ。多分下梨君は把握してると思うけど、この時点でゼミの活動の中心にいるのはいつだってまいみぃだ。かなり活動的な子だとは思ってたけど、ここまでとは。自分の動画の作業とかもあるだろうに。
「今日はブースに出す看板作りをするから! それから、これがプラスチックコップに貼るシール。コップも仕入れてるけど、今貼る? 今度にする?」
「おっ、シール見して見して」
「これ、屋号をアタシとフク子で作って、コーラとジンジャーエールで色を変えてんのね?」
「シノ、フク子って誰?」
「あのー、あの人。福野さん。趣味でロゴマークとか作ってんだって」
「ああ、福野さんか。そんな特技があったのか」
例のシールを見せてもらうと、結局下梨麦の麦の方をとったロゴが採用されたらしい。クラフトコーラやジンジャーエールの原材料にも、亮真の監修で微量ではあるものの、味を壊さない程度に麦を使うことにも成功しているらしい。結局あの後試飲をしていないので、味がどう変わったのかもわからないままだ。
まいみぃが水面下で動いていろいろな人に仕事を振っているようだし、そうやって仕事を振られた人たちにとっても俺たちはまいみぃに声を掛けられて密かに動いている人間なのだろうか。と言うか、まいみぃがいなかったら学祭のことに限らずこれまでの行事関係がどうなっていたのかを想像するのは恐ろしい。
「まいみぃ、これは後から貼った方がいいと思う。先にコップに触ると衛生面で問題があるかもしれないし」
「それもそっか。えっ、そしたら後からどころか当日現場でみたいなことになるじゃん」
「売れた数を記録するという意味でも、注文を受けてからシールを貼ればいいかと。もちろん他の方法での記録も必要だとは思うけど」
「あーね。一理ある。さすが亮真。どーするむぎぃ、シールいつ貼る?」
「そーねえ。まあ、シールペタッと貼るだけだしその場でも出来るんじゃん? 現場で貼ろうか。シール貼ったコップ余ってもビミョいし」
「じゃそーゆーコトで」
「このシールが普通に可愛いんだよな」
「ああ。いい屋号だと思う」
「それ今度フク子に言ったげて。結構何パターンも作ってくれた中でのこれだから。それとも陸、原付に貼る? このシール水に強いから」
「ちょっと貼る場所考えるわ。でもこれコーラともジンジャーエールとも色が違うけど」
「お試し入稿で作ったレア色のヤツ。10枚くらいしかないからよぉ~く考えて使って」
そんなレアなシールをもらってしまったのが割と真面目に嬉しい。原付に貼っても全然イケるんだよな。いや、それともファイルケースに貼るかな。まいみぃの言うように、貼る場所はちょっと考えないといけない。でも、俗に言うラストエリクサー状態にならないようにしないといけないな。ちゃんと使わないと。
「そしたら看板作るよー。下書きはフク子率いる製図チームでやってくれてるから、こっからは色塗りねー」
「と言うか、製図チームの人がいないのに俺らがそんな大事な作業をして大丈夫なのか?」
「アタシが監督するから大丈夫。下手なことしたらシバくし。ま、このメンバーは智也以外心配してないけどね」
「は!? 何で俺が作業できない前提なんだよ!」
「じゃアンタ絵筆得意? 精密な作業を求められてんだけど?」
「あ、え~と……俺は何をするかな~」
「やっぱ苦手なんじゃん」
ちなみに、MBCCでもシノはこの手の作業が苦手なので、買い出しやその他の雑務を率先してやってくれている。ゼミでも役割は大体そんな感じに落ち着くようだ。さすがにこの時間だと買い出しと言っても夜食を買いにコンビニへ、というくらいになるのだけど、シノは「腹が減った奴は言ってくれー!」と気合十分の様子。寒いの苦手なのに偉いな。
「とりあえず、やるかあ」
「これ、配色は下書きにある通り?」
「下書きにも書いてるけど、一応完成イメージ図がこれだから色を作る時には参考にしてくれる?」
「って言うかこれをデカくしてプリントアウトすればよかったんじゃ」
「うるさい! 大学祭の醍醐味でしょうが! あと夜のスタジオでやりたい放題するのが佐藤ゼミ生の通過儀礼!」
「……通過儀礼?」
「言葉は適当に選んでるけど! でも、せっかく好き放題出来る施設があるんだからするでしょ!?」
結局のところ、これが本音なのかもしれない。だけど、俺も高木先輩や果林先輩から聞いていたスタジオ泊の作業の中にいるのだと思うとワクワクして仕方ないんだ。音声作品の詰めの作業なんかもこれからすることになるんだろうけど、まずは課外的な作業でこの時間の空気に馴染んでおきたい。
「ササ、これ眠くなったらここで寝ていい感じか?」
「お前が無事に寝かせてもらえるとは思えないけどな。寝る時は奥のブースとかに行く感じらしい」
end.
++++
公式+1年の時間軸で深夜作業を始めたササシノらです。相変わらずまいみぃはエネルギッシュ。
いつものメンバー以外にも佐藤ゼミ生はいて、日中とかササシノら視点になるメンバーの知らないところで働いてる。
この時間軸でもシノはDJブースとかの方に入れ込んでそうだし、この人は根っからのミキサーなのかもしれない。
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公式学年+1年
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「よーし! 有志、集まってんね!」
「お前がこんだけ気合入ってるとか割と縁起でもねーことが始まりそうなんだよな」
「は? そんなコト言うんだったら智也マジで徹夜作業させるけど?」
「徹夜!? そこまでやるのかよ!」
まいみぃの号令で集合した夜8時。これから大学祭の食品ブースに関わる作業をするということで、有志が集まっている。俺とシノ、それから店長の下梨君に村上君、亮真に羽場君といった、いつものメンバーだ。何と言うか、こういう時に残るメンバーもちょっと決まって来てるから、他の人の入る余地がなくなってそうだ。
それはそうと、今日の作業に徹夜コースもあり得るのかとみんな戦々恐々としている。そもそも何の作業をするのかも俺たち末端の人間には告げられていないのだ。多分下梨君は把握してると思うけど、この時点でゼミの活動の中心にいるのはいつだってまいみぃだ。かなり活動的な子だとは思ってたけど、ここまでとは。自分の動画の作業とかもあるだろうに。
「今日はブースに出す看板作りをするから! それから、これがプラスチックコップに貼るシール。コップも仕入れてるけど、今貼る? 今度にする?」
「おっ、シール見して見して」
「これ、屋号をアタシとフク子で作って、コーラとジンジャーエールで色を変えてんのね?」
「シノ、フク子って誰?」
「あのー、あの人。福野さん。趣味でロゴマークとか作ってんだって」
「ああ、福野さんか。そんな特技があったのか」
例のシールを見せてもらうと、結局下梨麦の麦の方をとったロゴが採用されたらしい。クラフトコーラやジンジャーエールの原材料にも、亮真の監修で微量ではあるものの、味を壊さない程度に麦を使うことにも成功しているらしい。結局あの後試飲をしていないので、味がどう変わったのかもわからないままだ。
まいみぃが水面下で動いていろいろな人に仕事を振っているようだし、そうやって仕事を振られた人たちにとっても俺たちはまいみぃに声を掛けられて密かに動いている人間なのだろうか。と言うか、まいみぃがいなかったら学祭のことに限らずこれまでの行事関係がどうなっていたのかを想像するのは恐ろしい。
「まいみぃ、これは後から貼った方がいいと思う。先にコップに触ると衛生面で問題があるかもしれないし」
「それもそっか。えっ、そしたら後からどころか当日現場でみたいなことになるじゃん」
「売れた数を記録するという意味でも、注文を受けてからシールを貼ればいいかと。もちろん他の方法での記録も必要だとは思うけど」
「あーね。一理ある。さすが亮真。どーするむぎぃ、シールいつ貼る?」
「そーねえ。まあ、シールペタッと貼るだけだしその場でも出来るんじゃん? 現場で貼ろうか。シール貼ったコップ余ってもビミョいし」
「じゃそーゆーコトで」
「このシールが普通に可愛いんだよな」
「ああ。いい屋号だと思う」
「それ今度フク子に言ったげて。結構何パターンも作ってくれた中でのこれだから。それとも陸、原付に貼る? このシール水に強いから」
「ちょっと貼る場所考えるわ。でもこれコーラともジンジャーエールとも色が違うけど」
「お試し入稿で作ったレア色のヤツ。10枚くらいしかないからよぉ~く考えて使って」
そんなレアなシールをもらってしまったのが割と真面目に嬉しい。原付に貼っても全然イケるんだよな。いや、それともファイルケースに貼るかな。まいみぃの言うように、貼る場所はちょっと考えないといけない。でも、俗に言うラストエリクサー状態にならないようにしないといけないな。ちゃんと使わないと。
「そしたら看板作るよー。下書きはフク子率いる製図チームでやってくれてるから、こっからは色塗りねー」
「と言うか、製図チームの人がいないのに俺らがそんな大事な作業をして大丈夫なのか?」
「アタシが監督するから大丈夫。下手なことしたらシバくし。ま、このメンバーは智也以外心配してないけどね」
「は!? 何で俺が作業できない前提なんだよ!」
「じゃアンタ絵筆得意? 精密な作業を求められてんだけど?」
「あ、え~と……俺は何をするかな~」
「やっぱ苦手なんじゃん」
ちなみに、MBCCでもシノはこの手の作業が苦手なので、買い出しやその他の雑務を率先してやってくれている。ゼミでも役割は大体そんな感じに落ち着くようだ。さすがにこの時間だと買い出しと言っても夜食を買いにコンビニへ、というくらいになるのだけど、シノは「腹が減った奴は言ってくれー!」と気合十分の様子。寒いの苦手なのに偉いな。
「とりあえず、やるかあ」
「これ、配色は下書きにある通り?」
「下書きにも書いてるけど、一応完成イメージ図がこれだから色を作る時には参考にしてくれる?」
「って言うかこれをデカくしてプリントアウトすればよかったんじゃ」
「うるさい! 大学祭の醍醐味でしょうが! あと夜のスタジオでやりたい放題するのが佐藤ゼミ生の通過儀礼!」
「……通過儀礼?」
「言葉は適当に選んでるけど! でも、せっかく好き放題出来る施設があるんだからするでしょ!?」
結局のところ、これが本音なのかもしれない。だけど、俺も高木先輩や果林先輩から聞いていたスタジオ泊の作業の中にいるのだと思うとワクワクして仕方ないんだ。音声作品の詰めの作業なんかもこれからすることになるんだろうけど、まずは課外的な作業でこの時間の空気に馴染んでおきたい。
「ササ、これ眠くなったらここで寝ていい感じか?」
「お前が無事に寝かせてもらえるとは思えないけどな。寝る時は奥のブースとかに行く感じらしい」
end.
++++
公式+1年の時間軸で深夜作業を始めたササシノらです。相変わらずまいみぃはエネルギッシュ。
いつものメンバー以外にも佐藤ゼミ生はいて、日中とかササシノら視点になるメンバーの知らないところで働いてる。
この時間軸でもシノはDJブースとかの方に入れ込んでそうだし、この人は根っからのミキサーなのかもしれない。
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