2021(02)
■真顔の推進力
++++
「カズ先輩こんにちは」
「こんにちは。Lから連絡が来たけどサキ、どうしたの?」
「はい。学祭のことで少し相談があって」
こないだLから「1年が食品ブースのことで相談があるそうで、話を聞いてやってください」と連絡が来た。何で俺なんだろうと思うには思ったけど、料理関係の事なのかなと自己完結した。今年の1年生に料理をよくやる子もいなかったはずだし。ん? でもハナちゃんいるよな。
「大学祭の食品ブースは例年通り焼きそばを出すんですが、なかなかこれというレシピが出来なくて」
「何回か試作したのかな」
「そうですね。大学が発表している過去の来場者数と売り上げの割合を計算して、それが高かった年のレシピを試作して、どうにかこれという今年らしさを出そうとしてるんですけど」
「来場者数と売り上げの割合まで計算してるんだ。なかなか本格的だね」
「はい。食品チームではやっぱり去年のが売り上げ通りに美味しいという結論になってて」
「あー、去年のは確かに美味しかったね。2年生3人の生み出した最高傑作だと思うよ」
「なかなか去年以上のレシピが出来なくて」
「あれと比較しちゃうとしんどそうだよね」
去年は去年で試作に試作を重ねて辿り着いた本人たち曰く究極のレシピだったんだけど、今年は今年で苦労しているみたいだ。何と言うか、去年のレシピを作ってみてしまったから、どうにかしてあれより美味しいレシピを出さないとっていうのでハマっちゃってるみたいだね。
今年の子たちはみんな自宅生だから、なかなか誰かの部屋で自由に焼きそばを作り続けるっていうことも出来なくて大変そうだ。だけど、その辺はLの部屋を借りたりしてどうにか頑張っているとのこと。そもそも、去年の焼きそばは実際に美味しくもあったけど、売り上げにはカラクリがある。
「去年の焼きそばは実際美味しかったんだけど、売り上げ22万を叩き出した要素は焼きそばだけじゃなかったからね」
「その要素をいろいろ調べて、ようやくこれかなっていうのには辿り着いたんですけど」
「え、辿り着いたんだ」
「この秋学期はすがやんが向島に留学に行っていて、そこで読んだ雑記帳に書かれてたみたいですね。去年の大学祭であった女装ミスコンでワンツーフィニッシュをしたとか、高崎先輩が大学の準ミスターになったとか」
「そうなんだよね。うん。そうなんだよね」
そこまで辿り着いてるなら話は早いんじゃないかと思うんだけどね。確か女装ミスコンだとかミスターコンテストの話はMBCCの記録には残してないはずなんだよな。向島でその話に辿り着くとかさあ。でも、辿り着いてしまうところがサキのリサーチ力なのかもしれないなあ。
「って言うか留学って何?」
「すがやん、向島で昼放送をやってるんです。ウチは人が多くて枠が足りないし、向島は人が足りないし。利害が一致したそうで」
「ああ、そうなんだ。面白そうな試みだね。向島さんは、特に3年生のミキサーが粒揃いだし、実際に行って近くで見る機会があるのはいいことだと思うよ」
「そんなに凄いんですか」
「3年生のミキサーは3人いるけど、みんなそれぞれタイプが違うしそれぞれ上手いからね」
「それは興味深いですね。雑記帳も面白いって言ってたし、今度すがやんに連れてってもらおうかなあ」
サキは大人しい子だという風に聞いているし、前に様子を見に行ったときもそんなような印象を受けたんだけどな。こうして4年に相談に来るのにしてもそうだけど、案外アグレッシブなところがあるのかもしれないね。ただ静かなんじゃなくて、芯が強いのかも。
「あの、カズ先輩。少しいいですか」
「何? 俺で出来る範囲で良ければ」
「正直これ以上レシピ開発をするのはなかなか厳しいので、去年のレシピをまた使うことは出来るかという話と」
「それは、食品チームでそう決めたなら、他のみんなにも納得してもらえるように説明出来れば問題ないと思うけどね。毎年レシピを改良して売り上げを上げろとは言ってたけど、難しいなら仕方ないよ」
「きちんと説明をすることですね」
何をどう説明すればいいか考えないと、と要点をまとめているみたいだ。サキの仕事は情報を集めてまとめることなんだとか。
「あと、もう1つお願いがあって」
「うん。どうしたの」
「高崎先輩にも少し聞いておきたいことがあって」
「高ピーに?」
「去年主に鉄板の前に立っていたのは高崎先輩だったらしいので」
「ああ、確かに。コンロにフライパンとガスボンベに鉄板じゃまた変わるからね」
「その感じを聞いたり、ブース運営の上で気を付けることなんかを聞きたいんですけど、突撃してみても大丈夫な人ですか」
「あー、まあ、それなりに忙しい人だからアポを取った方がいいとは思うよ。特に火曜日はFMにしうみでラジオやってるし」
「逆に言えば、火曜日の番組終わりは西海にいるってことですよね」
「え、そうだけど…?」
「それなら都合がいいですね。ありがとうございました」
……って、高ピーの連絡先を聞くでもなく、アポ取りを頼まれるでもなくありがとうございましたって。もしかして直接乗り込む気なのかなあ。だとしたら俺が思ってる以上の行動力だけど。うーん、表情もあんまり変わらないしなかなかよくわからない子だね。
end.
++++
昨年度はすがやんと一緒に行った向島で去年の売り上げについての情報を入手したのですが、今年はまだ行ってないみたいですね
MBCCで料理と言えばやっぱりいち氏になるんだよなあ。レシピの相談と、去年の話などを聞きたかったサキである。
この時点で西海住みの荒業に出る気マンマンですね。淡々と、そして黙々と動いてるんだよな。何気にサキもフッ軽なのよ
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「カズ先輩こんにちは」
「こんにちは。Lから連絡が来たけどサキ、どうしたの?」
「はい。学祭のことで少し相談があって」
こないだLから「1年が食品ブースのことで相談があるそうで、話を聞いてやってください」と連絡が来た。何で俺なんだろうと思うには思ったけど、料理関係の事なのかなと自己完結した。今年の1年生に料理をよくやる子もいなかったはずだし。ん? でもハナちゃんいるよな。
「大学祭の食品ブースは例年通り焼きそばを出すんですが、なかなかこれというレシピが出来なくて」
「何回か試作したのかな」
「そうですね。大学が発表している過去の来場者数と売り上げの割合を計算して、それが高かった年のレシピを試作して、どうにかこれという今年らしさを出そうとしてるんですけど」
「来場者数と売り上げの割合まで計算してるんだ。なかなか本格的だね」
「はい。食品チームではやっぱり去年のが売り上げ通りに美味しいという結論になってて」
「あー、去年のは確かに美味しかったね。2年生3人の生み出した最高傑作だと思うよ」
「なかなか去年以上のレシピが出来なくて」
「あれと比較しちゃうとしんどそうだよね」
去年は去年で試作に試作を重ねて辿り着いた本人たち曰く究極のレシピだったんだけど、今年は今年で苦労しているみたいだ。何と言うか、去年のレシピを作ってみてしまったから、どうにかしてあれより美味しいレシピを出さないとっていうのでハマっちゃってるみたいだね。
今年の子たちはみんな自宅生だから、なかなか誰かの部屋で自由に焼きそばを作り続けるっていうことも出来なくて大変そうだ。だけど、その辺はLの部屋を借りたりしてどうにか頑張っているとのこと。そもそも、去年の焼きそばは実際に美味しくもあったけど、売り上げにはカラクリがある。
「去年の焼きそばは実際美味しかったんだけど、売り上げ22万を叩き出した要素は焼きそばだけじゃなかったからね」
「その要素をいろいろ調べて、ようやくこれかなっていうのには辿り着いたんですけど」
「え、辿り着いたんだ」
「この秋学期はすがやんが向島に留学に行っていて、そこで読んだ雑記帳に書かれてたみたいですね。去年の大学祭であった女装ミスコンでワンツーフィニッシュをしたとか、高崎先輩が大学の準ミスターになったとか」
「そうなんだよね。うん。そうなんだよね」
そこまで辿り着いてるなら話は早いんじゃないかと思うんだけどね。確か女装ミスコンだとかミスターコンテストの話はMBCCの記録には残してないはずなんだよな。向島でその話に辿り着くとかさあ。でも、辿り着いてしまうところがサキのリサーチ力なのかもしれないなあ。
「って言うか留学って何?」
「すがやん、向島で昼放送をやってるんです。ウチは人が多くて枠が足りないし、向島は人が足りないし。利害が一致したそうで」
「ああ、そうなんだ。面白そうな試みだね。向島さんは、特に3年生のミキサーが粒揃いだし、実際に行って近くで見る機会があるのはいいことだと思うよ」
「そんなに凄いんですか」
「3年生のミキサーは3人いるけど、みんなそれぞれタイプが違うしそれぞれ上手いからね」
「それは興味深いですね。雑記帳も面白いって言ってたし、今度すがやんに連れてってもらおうかなあ」
サキは大人しい子だという風に聞いているし、前に様子を見に行ったときもそんなような印象を受けたんだけどな。こうして4年に相談に来るのにしてもそうだけど、案外アグレッシブなところがあるのかもしれないね。ただ静かなんじゃなくて、芯が強いのかも。
「あの、カズ先輩。少しいいですか」
「何? 俺で出来る範囲で良ければ」
「正直これ以上レシピ開発をするのはなかなか厳しいので、去年のレシピをまた使うことは出来るかという話と」
「それは、食品チームでそう決めたなら、他のみんなにも納得してもらえるように説明出来れば問題ないと思うけどね。毎年レシピを改良して売り上げを上げろとは言ってたけど、難しいなら仕方ないよ」
「きちんと説明をすることですね」
何をどう説明すればいいか考えないと、と要点をまとめているみたいだ。サキの仕事は情報を集めてまとめることなんだとか。
「あと、もう1つお願いがあって」
「うん。どうしたの」
「高崎先輩にも少し聞いておきたいことがあって」
「高ピーに?」
「去年主に鉄板の前に立っていたのは高崎先輩だったらしいので」
「ああ、確かに。コンロにフライパンとガスボンベに鉄板じゃまた変わるからね」
「その感じを聞いたり、ブース運営の上で気を付けることなんかを聞きたいんですけど、突撃してみても大丈夫な人ですか」
「あー、まあ、それなりに忙しい人だからアポを取った方がいいとは思うよ。特に火曜日はFMにしうみでラジオやってるし」
「逆に言えば、火曜日の番組終わりは西海にいるってことですよね」
「え、そうだけど…?」
「それなら都合がいいですね。ありがとうございました」
……って、高ピーの連絡先を聞くでもなく、アポ取りを頼まれるでもなくありがとうございましたって。もしかして直接乗り込む気なのかなあ。だとしたら俺が思ってる以上の行動力だけど。うーん、表情もあんまり変わらないしなかなかよくわからない子だね。
end.
++++
昨年度はすがやんと一緒に行った向島で去年の売り上げについての情報を入手したのですが、今年はまだ行ってないみたいですね
MBCCで料理と言えばやっぱりいち氏になるんだよなあ。レシピの相談と、去年の話などを聞きたかったサキである。
この時点で西海住みの荒業に出る気マンマンですね。淡々と、そして黙々と動いてるんだよな。何気にサキもフッ軽なのよ
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