2021(02)

■こだわり尽くす職人であれ

公式学年+1年

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「――と! いうワケで! これが試しに作ったヤツね!」
「来須サンの行動が早すぎんだよねぃ~」
「誰かがやんないと永久に進まないっしょ?」

 ――というワケで、佐藤ゼミでも大学祭に向けて動き始めることになった。先週のゼミで夏の課題のレポートに対する評価を聞き終えた後で、残り時間は大学祭について話し合いなさいよという流れになっていた。それで、店長という名の幹事は下梨君が務めることになった。
 とは言え、この時期にもなるとゼミの活動に対する積極度のような物も粗方見えて来ていて、今日のゼミの後に少し話し合おうと残されたメンバーもいつもの顔ぶれになりつつある。俺やシノもいつの間にかいつもの顔ぶれの中に組み込まれていていた。実際はただの賑やかしなのだけど。

「はー、これがコーラシロップっつーヤツ?」
「それで、これがジンジャーエールのシロップね」
「これを炭酸水で割ると」
「そゆこと」

 佐藤ゼミでは各学年で食品ブースを出すことになっている。俺たちの学年では流行りに乗じてクラフトコーラを出すことになり、さっそくまいみぃがその原液を試作して持って来てくれたらしい。下梨君も言っていたけれど、まいみぃの行動はいつだって早い。
 そもそもメニューを決めた時点で俺たちはクラフトコーラが何かはよくわかっていなかったのだけど。この手の物に詳しい彩人に聞いた話によれば、それは職人が作るコーラだとか、手作りのコーラというニュアンスの物で、地域性だとか伝統的だとか、そんなようなことも特色になるそうだ。
 下梨君は民俗学研究会とかそんな感じの部活で、特に地方特有の伝統食なんかに興味の強い人だ。だから、地域や作る人によって特色を出せるクラフトコーラというメニューに決まったことで俄然やる気を見せている。今はどんなレシピなら佐藤ゼミオリジナルとして売り出せるか、という段階だ。

「とりあえず、冷食のサイトにあった基本のレシピで作ったのがこれ。これをどうアレンジしてオリジナルにしていくかっていうのが大事ね」
「原価のこともあるから、あんまり高級食材ばっかも使えないんだけどね~」
「麻衣、これってどれくらいで割るの?」
「1:5か6。ちな1杯は50ml計算ね」
「よーし、俺が作るぜ!」
「え!? ちょっと智也やめて! アンタ絶対雑だもん!」
「は!? 何だ雑って! ササ、何とか言ってやってくれよ!」
「悪い、お前がきちんと計量して割るイメージがつかない」
「ほら! 陸が言ってんだから確定っしょ!」
「シノが雑……もとい、豪快そうなのは否定出来ないとしても、誰がやっても同じ割合で割れるようにする必要はありそうだ」
「それ! まあそれはまた考えるとして、結局この中で一番きっちりしてんのって誰?」
「まあ、相倉クンか佐々木クンじゃん?」

 亮真がしっかり計量して作ってくれたクラフトコーラとジンジャーエールをみんなで飲んでみることに。これで各々がどう感じたかを出していって、どういう色を付けていくかという方向性を考えることになる。

「ほーん、こんな感じなんだ」
「よくあるコーラをイメージすると、やっぱちょっと違うっつーか、スパイスっぽいのか?」
「俺はもうちょっとスパイスかハーブかわかんないけど、そういうのを利かせてスッとする感じでもいいかなとは」
「僕は柑橘類の爽やかさで押していきたいな」
「まーあんま薬草っぽさが強くてもルートビアじゃねーけど飲むシップなんてことになりかねないし、美味さは重要よ。でもせっかくだし向島っぽさとか、豊葦っぽさは出したいよね~」

 もちろん全員の要望を通すことは不可能なので、何をどうしていくのかはしっかり話し合う。俺と亮真、それから村上君はスパイス強めでと言っているし、シノと羽場君はスパイスじゃなくて柑橘を強めてはどうかという立ち位置だ。あとシノは強炭酸でというのもポイントらしい。

「あとさむぎぃ、アタシ考えてたんだけど、せっかくクラフトコーラ作るのに、それを出すコップがダサいとか激萎えじゃん」
「言いたいことはわかるけど、まさかコップから作るとか言わないよね?」
「予算のこともあるしさすがに業者使ってのノベルティ制作はやんないけど、ただの紙かプラか知んないけどコップで出すにしても可愛くしたい!」
「確かに、コーヒースタンドとかもオシャレな店が多いもんな。店の屋号とかシンボルマーク的な、そういう物を作りたいってことでいい?」
「そーそーそーゆーこと! 陸はわかってる!」
「そしたら下梨が店長なんだし梨か麦をシンボルにしたらいいんじゃね?」
「それがシンボルになったら原材料に含まれてないと変な感じするけどね」
「オーツミルクやバーリーウォーター、それから麦コーラなる物もあるらしいから、やり方次第では不可能ではないだろうけど」
「ちょっ相倉クン、麦コーラってめちゃくちゃ人を選ぶって話だけど!?」

 屋号のことやレシピのアレンジのことはまた次回打ち合わせの時までに簡単に考えておくことになって、今回は終了。それぞれのこだわりを出しつつ、どう折り合いを付けていくかっていう話になってくるんだな。俺は賑やかしとしてどう立ち回って行こうか。


end.


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+1年時間軸の佐藤ゼミではクラフトコーラなるものを出すようです。まいみぃ主導でオシャレになっていくんだろうなあ
ゼミでのササは基本的に賑やかし。しっかり物枠はどっちかと言うと亮真の方がそれらしい。ササはシノの制御役的なそんな
2年生たちには夜通しのブラック作業なんかもやってて欲しいし気合と根性でわーってやってるのが見たいというだけのヤツ

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