2021(02)

■真にいいもの

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「おはようございまーす。うわー、広くなりましたねー」
「五百崎か。この週末、川北が15ケースほどを捌いたからな」
「ヤッバ」

 情報センターの事務所が春山さんからの芋に押し潰されていたのを例によって川北の人脈で何とかしているところだ。この週末に15ケースほどを配達させ、さらに10ケースを取り置きすることになった。話によれば大学祭の模擬店で使うとのことで、用途は何であれ使ってもらえるなら文句はない。
 五百崎など、先の光景しか見ていない者にとってはこの週末で何があったと思わざるを得ない程の激変であり、芋のケースで埋まっていたスペースが広々として逆にそわそわしているようにも見受けられる。それでもまだ大量のケースがあることには変わりなく、外からそれが見えるとおかしいことこの上ないので受付席の後ろにパーテーションを置いて仕切ることとなった。

「ジャガイモと言えば、これなんすよユースケさん」
「む」
「最近のポテチってやたらめったらこだわってるんすよ。紙ジャケっぽいのも増えてますし、うっかりジャケ買いするんすよねー」
「ジャケット買いなど、CDではあるまいし。食った後で包装を残すわけでもあるまい」
「食べた後の袋は捨てますけど、美味しそうだなーってなりません?」
「オレは食品の新製品などには疎いからな」
「じゃあこれ開けましょ。割といい値段しますし、美味いっすよ~」

 芋のケースを隠すために置いたパーテーションは、スタッフの飲み食いの目隠しにもなっている。五百崎はハサミでポテトチップスの袋を開け、おもむろに1枚摘まみ味わっている。オレも1枚摘まむと、よくあるチップスよりやや硬く、よく噛んで食うことで芋の味を味わうのだなと理解出来る。

「おー、高級っすねー」
「油っぽさはやや少ない気がするな」
「もしかして、ワンチャンこのジャガイモで美味いオリジナルフレーバーのポテチが作れるんじゃ?」
「やりたければケースで持って行くといい。芋はいくらでもあるのだからな」
「自分、料理の趣味はないんすよねー。誰か上手い人いないっすかねー」
「しかし、最近の菓子はパッケージが凝っているのだな」
「そうっすねー。脱プラとか言うんすけど、こーゆー、油モノとかは表面が紙でも内側に加工とかしてるじゃないすか。結局どっちがエコなんすかねーっていう。何でもかんでも紙使っとけばエコでーすって体で気を遣ってるアピールが出来るんすかね」
「その比較に関して調べたことはないが、廃アルミから水素を発生させて燃料とする装置などは既に実用化されているようだからな。こういう、菓子の包装に使われている物でも利用可能だそうだ」
「へー、何でもやってんすねー」

 この手のことに関してはやたらと語りたがる人間は一定数いるように思うのだが、オレは不誠実な科学者になりたくはない。オレがこれについて語る時にはきちんと科学的なデータに基づいた情報を提示しなければならないだろう。しかし、現段階ではプラスチックと紙に関する論争を終わらせる決定打となり得る論文などは十分に揃っていないという話だ。
 環境に対してはもちろんある程度気を配って行かなければならないだろうが、それにばかり縛られていては真っ当な生活を送ることも出来なくなる。線引きという物が難しいのだ。しかし、こうしてポテトチップスを食みながら環境がどうしたなどと語ったところで、情報センターという場所がまず電気を無尽蔵に使用していて……となる。

「おはようございまーす」
「川北か」
「川北サンもポテチどーぞ。新しいの出てたんすよー。美味いっすよ」
「それじゃあいただきます。あ~、これは美味しいですねー。最近のポテトチップスって味もパッケージも凝ってますよねー」
「その件はもうやったぞ」
「でも、そうなりますよね。こういう、職人が手作りしたみたいな、って書かれるとど~うしても気になっちゃうんですよね」
「お前の性分だな。昨今はこのような細かなこだわりで高級感を演出しようとしている感があるな」
「もし今が去年だったらこうして事務所でポテチなんて食べてるとジャガイモを持ち帰ることにはなってたでしょうねー」
「間違いないな」

 去年は芋の話題を出すことを極力控えていたことを思い出す。芋の話をするともれなく春山さんとかいう畜生がそんなに芋が好きなら持ち帰れと押しつけて来たのだ。こうして机の上にジャガイモから出来た物を広げることが出来るということで平和を実感する。現状、事務所内にはまだまだ芋のケースが積まれていて全く平和ではないのだが。

「しかし、残りの芋もいい加減どうにかせんとな。10ケースは取り置き分としてもまだこれだけあるとなると」
「ホントですよねえ。向島さん以外にもちょこちょこ配ってはいるんですけど、減りませんねー」
「皆お前を頼り切って自分で捌こうとしとらんのだろう」
「いや、言って一気に2桁捌ける人なんかそうそういないっしょ、や、マジで。川北サン頼みにもなりますよ」
「そう言うお前は誰かに当たっているのか」
「バンドメンバーとかにも聞いてるんすけどねー、なかなかねー」
「バンドメンバーの知り合いや、知り合いの知り合いを探してもいいのだぞ」


end.


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この時期の情報センターは大体芋の話。ミドリによってケースがちょっと少なくなって、広くなったんですよ
芋だけじゃなくて包装の話なんかもチラリ。最近いろんなポテチあるよね。どれもこれも美味しい。
センターがパーテーションの有効性に気付いたのは三井サンの来襲以来だと思うの。間違いなくあれ以来パーテーションが気軽に出てくるようになったよね

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