2021(02)
■斜め後ろで立つ助手の
++++
「よし、カレーを作るぞ」
須賀家にやって来たら、家の前で星羅と菜月さんが立ち話をしているから何かと思えばカレーの話をしていたようだ。菜月さんとは、USDXの歌物動画の件で顔を合わせることが増えていたところ。例によってカンがカラオケで暴走して菜月さんを歌責めしてたんだよな。
それはそうとして、星羅のバイト先の同僚と菜月さんのサークルの同期が同じ人であることが発覚して、何となく話が盛り上がったらしい。菜月さんのカレーは肉じゃがっぽい味のするカレーなんだとか。で、今日の夕飯はカレーの予定だったから、お呼ばれになったとか。俺も流れでご一緒することに。
「菜月さん、星羅が無理を言ったんじゃない?」
「まあ、カレーは2日目の方が美味しいから、今日っていうのは多少急だったかもなあ。うちのカレーは結構露骨に味や質感が変わるから」
「野菜が多いのかな」
「そうだな。タマネギとか結構入れるし。突っ立ってるなら手伝え。そこに押し麦の袋があるだろ。それを破って炊飯器に入れるんだ」
「これ、米に対してどれだけ入れたら?」
「米が1カップに対して麦が2カップ。水は~……えーと、680くらい」
「え、麦の方が多いの?」
「カレーには麦ごはんが基本だろう。第一うちは白米が好きじゃない。ここではうちが法律だぞ」
自分が法だと言われてしまえば俺には逆らえるはずもなく、言われるがままに麦が7割くらいになる分量で炊飯器に米と麦と水を入れる。ちなみにこの間星羅は家から食器を取って来ると言って外に出ている。1人暮らしの家に4人がカレーを食べるだけの器はなかったんだよな。
そうこうしている間にも、菜月さんは野菜を細かく刻んでいる。カレーを作る風には思えないのが、細かく刻まれたジャガイモだ。ニンジンとタマネギはキーマカレーとかがあるからわかるけど、ジャガイモも極小の賽の目切りのように四角くなっている。
「スガノ、これ5分レンチン」
「はい。他には」
「今はいいかな」
「じゃあ、待機してます」
気付けば俺は菜月さんの助手としてカレーを作る手伝いをしていた。火の通りにくい野菜にレンジで軽く熱を通している間、菜月さんは鍋の底に入れたみじん切りのタマネギをバターで炒め始めた。台所にはその匂いが広がって、何だかちょっとワクワクしてきた。
「菜月さん、カレーのお皿なんだ!」
「ありがとうございます」
「あと、タッパーなんだ」
「タッパー?」
「家で菜月さんのカレーの話をしたら、きららも食べたいって。菜月さん、きららの分もよそってやって欲しいんだ」
「わかりましたよ」
きららは基本家から出ないので、外食の機会もあまりない。誰かが買って来た美味しい物を食べることはあるけど、自分からあれが食べたいなどと発することもあまりない。そのきららが自発的に食べたいと言った菜月さんのカレーだ。多分美味いカレーを作るお姉が食べに出たカレーがどんな物なのかっていう興味だな。
「こんにちは」
「圭斗なんだ!」
「ああ、圭斗か」
「台所が渋滞しているようだけど、菜月さん、例の物だよ」
「どーもです。とりあえずこれは冷やしておこう。ここは狭いし、部屋で待っててもらって」
「お邪魔するんだ!」
「それじゃあ、僕もお邪魔します」
「スガノは引き続き助手な」
「わかりました」
「泰稚、助手頑張るんだ!」
「頑張ります」
野菜を炒める菜月さんの斜め後ろで、指示された物を渡していくだけの仕事だ。下駄箱の中にある顆粒だしだとか、買い物袋の中にあるチョコレートだとか。だしはまだわかるにしてもチョコレートとかヨーグルト? うーん、何かコクみたいな物が出るのだろうか。俺は料理をあまりしないからよくわからないけど。
「とりあえずこんなモンか。しばらく置いて味を馴染ませて、ご飯が炊けるまで助手は待機」
「わかりました。菜月さんは?」
「うちは使った道具の片付けがある」
「手伝おうか?」
「それじゃあ、頼めるか」
菜月さんが洗った物をペーパーふきんで拭いていく。いつもは洗った物を自然乾燥させるそうだけど、今回は4人分の食器を後々どうにかしないといけないということで、水切りカゴの中を空けたかったらしい。家事はいろいろやることが多いし、考えてやらなきゃいけないんだなあと。俺も日頃からやった方がいいかな。
「さてと」
「菜月さん、休憩かい?」
「そうだな。味を馴染ませるのと炊飯器待ちで」
「泰稚、バイト先の同僚の圭斗なんだ!」
「松岡圭斗です」
「ああ、どうも。菅野泰稚です」
「圭斗、コイツはかのIFサッカー部に参加してるらしい」
「何だって…!? インターフェイスに出てない人も普通に参加してるとは聞いたことがあったけど、まさか本当にいるとは思わなかったよ」
「洋平がああいう奴だから不特定多数に声をかけてるんだよ」
「僕の中で星ヶ丘と言えば朝霞君に山口君、それから世界のシゲトラ」
「ぷっ、くっ」
「菜月さん、思い出し笑いをするんじゃないよ」
「や、ムリだろ」
「……シゲトラの何がそんなに面白いんだ?」
「星羅、その辺は人それぞれだから」
「ああ、それから僕の後輩が一時期よく話していたやっちゃんなる超絶イケメン」
「それは俺の後輩ですね。もしかして、松岡君の後輩って、文武両道かつ物凄いイケメンで完璧超人の野坂君」
「その男で間違いないね」
「完璧超人であるかどうかは別にしてな」
「それから一時三井に付き纏われてたあずさちゃん」
「ああ、朝霞の彼女の」
「彼女だって!? いつの間にそんなことになってたのかな! よーし、アップだ」
「さて、炊飯器はあとどのくらいかな」
end.
++++
圭斗さんてそういや愛の伝道師って呼ばれてましたね。別に恋愛マスターなんじゃなくて付き合った人数がちょっといるだけ。
菜月さんの助手をやっているスガPはきっと悪くないコンビなんじゃないかと思う。以後家事を始めるスガP、いいじゃないか
IFサッカー部とかもあったなあと思ったし、そういや菜月さんは世界のシゲトラが謎にハマるんだった
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「よし、カレーを作るぞ」
須賀家にやって来たら、家の前で星羅と菜月さんが立ち話をしているから何かと思えばカレーの話をしていたようだ。菜月さんとは、USDXの歌物動画の件で顔を合わせることが増えていたところ。例によってカンがカラオケで暴走して菜月さんを歌責めしてたんだよな。
それはそうとして、星羅のバイト先の同僚と菜月さんのサークルの同期が同じ人であることが発覚して、何となく話が盛り上がったらしい。菜月さんのカレーは肉じゃがっぽい味のするカレーなんだとか。で、今日の夕飯はカレーの予定だったから、お呼ばれになったとか。俺も流れでご一緒することに。
「菜月さん、星羅が無理を言ったんじゃない?」
「まあ、カレーは2日目の方が美味しいから、今日っていうのは多少急だったかもなあ。うちのカレーは結構露骨に味や質感が変わるから」
「野菜が多いのかな」
「そうだな。タマネギとか結構入れるし。突っ立ってるなら手伝え。そこに押し麦の袋があるだろ。それを破って炊飯器に入れるんだ」
「これ、米に対してどれだけ入れたら?」
「米が1カップに対して麦が2カップ。水は~……えーと、680くらい」
「え、麦の方が多いの?」
「カレーには麦ごはんが基本だろう。第一うちは白米が好きじゃない。ここではうちが法律だぞ」
自分が法だと言われてしまえば俺には逆らえるはずもなく、言われるがままに麦が7割くらいになる分量で炊飯器に米と麦と水を入れる。ちなみにこの間星羅は家から食器を取って来ると言って外に出ている。1人暮らしの家に4人がカレーを食べるだけの器はなかったんだよな。
そうこうしている間にも、菜月さんは野菜を細かく刻んでいる。カレーを作る風には思えないのが、細かく刻まれたジャガイモだ。ニンジンとタマネギはキーマカレーとかがあるからわかるけど、ジャガイモも極小の賽の目切りのように四角くなっている。
「スガノ、これ5分レンチン」
「はい。他には」
「今はいいかな」
「じゃあ、待機してます」
気付けば俺は菜月さんの助手としてカレーを作る手伝いをしていた。火の通りにくい野菜にレンジで軽く熱を通している間、菜月さんは鍋の底に入れたみじん切りのタマネギをバターで炒め始めた。台所にはその匂いが広がって、何だかちょっとワクワクしてきた。
「菜月さん、カレーのお皿なんだ!」
「ありがとうございます」
「あと、タッパーなんだ」
「タッパー?」
「家で菜月さんのカレーの話をしたら、きららも食べたいって。菜月さん、きららの分もよそってやって欲しいんだ」
「わかりましたよ」
きららは基本家から出ないので、外食の機会もあまりない。誰かが買って来た美味しい物を食べることはあるけど、自分からあれが食べたいなどと発することもあまりない。そのきららが自発的に食べたいと言った菜月さんのカレーだ。多分美味いカレーを作るお姉が食べに出たカレーがどんな物なのかっていう興味だな。
「こんにちは」
「圭斗なんだ!」
「ああ、圭斗か」
「台所が渋滞しているようだけど、菜月さん、例の物だよ」
「どーもです。とりあえずこれは冷やしておこう。ここは狭いし、部屋で待っててもらって」
「お邪魔するんだ!」
「それじゃあ、僕もお邪魔します」
「スガノは引き続き助手な」
「わかりました」
「泰稚、助手頑張るんだ!」
「頑張ります」
野菜を炒める菜月さんの斜め後ろで、指示された物を渡していくだけの仕事だ。下駄箱の中にある顆粒だしだとか、買い物袋の中にあるチョコレートだとか。だしはまだわかるにしてもチョコレートとかヨーグルト? うーん、何かコクみたいな物が出るのだろうか。俺は料理をあまりしないからよくわからないけど。
「とりあえずこんなモンか。しばらく置いて味を馴染ませて、ご飯が炊けるまで助手は待機」
「わかりました。菜月さんは?」
「うちは使った道具の片付けがある」
「手伝おうか?」
「それじゃあ、頼めるか」
菜月さんが洗った物をペーパーふきんで拭いていく。いつもは洗った物を自然乾燥させるそうだけど、今回は4人分の食器を後々どうにかしないといけないということで、水切りカゴの中を空けたかったらしい。家事はいろいろやることが多いし、考えてやらなきゃいけないんだなあと。俺も日頃からやった方がいいかな。
「さてと」
「菜月さん、休憩かい?」
「そうだな。味を馴染ませるのと炊飯器待ちで」
「泰稚、バイト先の同僚の圭斗なんだ!」
「松岡圭斗です」
「ああ、どうも。菅野泰稚です」
「圭斗、コイツはかのIFサッカー部に参加してるらしい」
「何だって…!? インターフェイスに出てない人も普通に参加してるとは聞いたことがあったけど、まさか本当にいるとは思わなかったよ」
「洋平がああいう奴だから不特定多数に声をかけてるんだよ」
「僕の中で星ヶ丘と言えば朝霞君に山口君、それから世界のシゲトラ」
「ぷっ、くっ」
「菜月さん、思い出し笑いをするんじゃないよ」
「や、ムリだろ」
「……シゲトラの何がそんなに面白いんだ?」
「星羅、その辺は人それぞれだから」
「ああ、それから僕の後輩が一時期よく話していたやっちゃんなる超絶イケメン」
「それは俺の後輩ですね。もしかして、松岡君の後輩って、文武両道かつ物凄いイケメンで完璧超人の野坂君」
「その男で間違いないね」
「完璧超人であるかどうかは別にしてな」
「それから一時三井に付き纏われてたあずさちゃん」
「ああ、朝霞の彼女の」
「彼女だって!? いつの間にそんなことになってたのかな! よーし、アップだ」
「さて、炊飯器はあとどのくらいかな」
end.
++++
圭斗さんてそういや愛の伝道師って呼ばれてましたね。別に恋愛マスターなんじゃなくて付き合った人数がちょっといるだけ。
菜月さんの助手をやっているスガPはきっと悪くないコンビなんじゃないかと思う。以後家事を始めるスガP、いいじゃないか
IFサッカー部とかもあったなあと思ったし、そういや菜月さんは世界のシゲトラが謎にハマるんだった
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