2021(02)

■The limit of spiciness

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「だから圭斗お前さあ! 都合のいい時ばっかおじちゃんを先輩扱いするんじゃないよ」
「すみませんね。僕たちではこの企画を盛り上げる演者としては力不足だったんですよ」

 やってきました圭斗宅。そして机の上に並べられた無数のレトルトカレーの箱。今年の夏は遅れて来た夏至カレーと称して圭斗とレトルトカレー大会を開催していた。全国津々浦々、いろいろなレトルトカレーが販売されている。それらの味見をするというのが大会の主な主旨になる。
 ちなみに第1回大会はごくごく一般的なカレーを温め、それをうまうまして、カレーは美味しいなあという感想に落ち着いた。それでフルーツカレーや激辛系のカレーはまた今度にしましょうという話になっていた。で、その「また今度」が村井サンを招集した上で行われている。
 やっぱり、こういう中にも悪ふざけの要素を少なからず求めてしまうのはMMPらしさだろう。ただのレトルトカレーだけじゃなくて遊びの要素を入れたくなるだとか、ただの試食だけじゃなくてリアクションを求めたくなるだとか。本来ならただ美味しいカレーを食べて美味しいなと言うだけでいいはずなんだけど。

「圭斗、念のため牛乳を用意したぞ」
「ん、ありがとう」
「村井サンもどうぞ」
「牛乳が出てくる時点でどんなカレーが出て来るかお察しじゃねーかよ! つか辛いの全然平気なお前らがそこまで備えてるとか殺人級のヤツが出てくるんじゃねーだろうな!? いいか、俺は社会人で、来週の月曜日にはまた仕事だぞ! ケツが崩壊するようなヤツは絶対やめろよ!」
「村井サンなら大丈夫でしょう」
「根拠がどこにある」
「とりあえず、箱に書いてある説明書きを読むな。えーっと、体調不良の時や、胃腸の調子が悪い時は食べないでください」
「あ、おじちゃん胃の調子が悪いなー」
「昨日飲みの誘いかっつって飛んで跳ねてた奴の言うことじゃねーんだよ」
「圭斗テメー! それが先輩に対する態度かー!」

 ちなみに、今回開けようとしているのは辛い系のカレーだ。箱には物々しい感じの説明書きがあって、覚悟を決めなきゃいけないんだろうなあとは。うちと圭斗は比較的辛いのが得意な方だから、一般的な尺度でどれだけ辛いのかがわからない。リアクションを取れる人という意味での村井サンだ。

「とりあえず、危なそうなコイツは後からにして、最初は普通の辛口カレーで慣らしていきましょう。圭斗、灼熱のカレーがあったまったぞ」
「ん、ありがとう。それじゃあいただきましょう」
「いただきまーす」
「辛っ」
「ん、美味しい。これは……野菜の甘みなのかな。ブイヨン的な?」
「ブイヨンと、豚っぽいね。最初のインパクトは旨味が強いかな。辛さは後に引く感じで」
「や、お前ら何で普通に味の品評してんだよ! 辛いだろうがよ」
「僕たちではこうなると察したのでおじちゃんを招集したんじゃありませんか。料理の味がわかって、辛い物もある程度食べられて、リアクションも取れるという三拍子。まさに僕たちの求めた存在なんですよ」
「ンな事で求められてもしゃーねーんだよ。つか辛っ」
「これは野菜の旨味が先に来る美味しいカレーじゃないですか。味のテイストとしては、これが洋で菜月カレーが和という雰囲気じゃないかと」
「ああ、なるほど。確かに洋風カレーな感じではある」
「この辛さで和も洋もあるかよ」

 辛さの感じ方云々で言えば夏のバーベキューでも朝霞に散々言われたのだけど、うちは多少辛い物が好きなだけの一般人だ。確かに、朝霞みたく辛いのが食べられない人間からすれば頭がおかしいみたいに映るかもしれないけれどもだ。村井サンからそう言われる筋合いはない。
 この他にも一般的な激辛カレーと呼ばれる類のカレーをどんどんと3人で試食していく。これは牛とタマネギの旨味だろうかとか、これはファーストアタックが強いとか、カレーに対する感想をどんどんと連ねていく。村井サンは食べるごとに辛い辛いと汗を噴いている。うちも汗は出る方だから、さらりとした圭斗が憎い。

「あー、これは辛いね」
「その割にお前は余裕そうなんだよな」
「辛さ耐性で言えば僕よりも菜月さんの方が強いんですけどね」
「菜月は汗を掻く分辛さを感じてんのがわかるんだよ。本人がどう思ってるかとは別にな」
「そうなんですよね。本人がどう思っているのかとは別なんですよ。僕は汗こそ掻きませんけど辛さはそれなりに感じた上で美味いと言っているんですよ」
「まるでうちが辛さを感じないかのような言い方じゃないか」
「感じてないんじゃないのかい?」
「感じる時は感じてるぞ」
「今食べてる物に辛さを感じてるかい?」
「いや、旨味の方が強いと思う」
「これなんよ」

 辛い物を食べるとわかっていたからタオルは持ってきている。汗を拭きながら、カレーが美味しいなあと思いながら食べているのだけど。そう言えば、圭斗の辛さの限界はどこにあるんだろう。奴は大抵うちの方がおかしいと言うけど、実際問題限界を見たことがないんだから、おかしいと言われる筋合いはない。

「圭斗、そろそろコイツを開けるか」
「とうとうそれを行くのかい」
「うちは村井サンどうこうと言うよりは、お前を悶絶させたいがためにこれを開けるんだ。自爆特攻とも言う」
「君はノーダメージかかすり傷程度だと思うけどね」
「いや、うちは中途半端に辛さに強い一般人だ。さあ、牛乳で乾杯しようじゃないか」
「……そろそろ僕も覚悟を決めようか」


end.


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企画へ提出した菜圭のカレー話の後日談として、村井のおじちゃんを招集してリアクションの必要になるカレーを食べてました
辛いのが強いと言われる菜月さんと圭斗さんだけど、果たして本当に強いのはどっちなのかは永遠の謎。菜月さんばかりがヤバいと言われがちだけど
他の箱でもこういう辛いカレーを食べたときのリアクションとかを見てみたい。MBCCの1年生とかさ。楽しそうじゃない

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