2021(02)
■制御不能のストレス胃
公式学年+1年
++++
シノが青ざめた顔をしている。悪い物を食べたとかではなく、3限にある秋学期最初のゼミが原因だろう。佐藤ゼミでは長い休みごとに課題レポートの提出が命じられるのだけどそれが結構な字数を要求されていて。ただ、それを下敷きに卒論を書いてもいいというのだから実際はかなり良心的な課題だろう。
そのテーマが自由だというのもまた難儀な問題を生んでいた。自分は何を研究してレポートにすればいいのかと。そしてシノはこの夏は対策委員として夏合宿の運営にバタバタ走り回っていてレポートどころではなかった。合宿が終わって1週間で1万字をどうにかしないとと俺に泣きついてきた。
「ヤベー……腹キリキリして何か酸っぱい」
「相当なストレスだな。そこまでプレッシャーに感じることはないんじゃないか? お前はちゃんと1万字書いて出したんだし」
「この初回ゼミでその評価が全員の前で出されんだろ!? 俺はただでさえ成績が下の下でミキサー以外期待されてないってのに、このレポートでやらかしたらMBCCの沽券にも関わる」
「いや、それを言われると、レポートでやらかして一番不味いのは俺なんじゃないのか。お前とか高木先輩は仮に学業がダメでもミキサーでお釣りが来るけど、俺が学業でコケると後がない」
「お前が学業でコケるとか、俺がミキサーでやらかすのと同じレベルであり得ねーから安心しろよ」
「いや、それはそれで慢心じゃないか?」
「シャレで言ってるに決まってんだろ。察しろ。精一杯のギャグだぞ」
「ああ、ごめんごめん」
不安なのはシノなのに、それでも俺を励ましてくれるところがありがたい。そもそもシノのレポートは俺も手伝ってるんだから、下の下ということは無いと思いたいんだ。悪くても下の上か中の下くらいじゃないかなとは。それこそ俺の思い上がりかな。
だけど、合宿後から1週間頑張って頑張って、提出後には知恵熱か何かで2日寝込むくらい頑張ってたんだ。報われてほしい。彩人によれば、シノは去年の夏合宿のミキサーテストの後にも頭痛いって言ってたらしいから、頭を使うとオーバーヒートすんのかな。
「それじゃあ始めるよ~。相倉君」
「はい」
先生がゼミ生の名前を呼んで出席を取って行くんだけど、自分の番が近付くにつれシノが緊張してるなっていうのがよ~くわかる。隣の席だから伝わって来るんだよな、隠せないヒリヒリした感じが。
「シノキ君」
「はい」
「どうしたの、君にしては声が小さいねえ。具合でも悪いの?」
「や、レポートのことで胃が」
「ああそう。評価を聞いて倒れないようにね。はい、佐々木君」
「はい」
出席を取り終えると、今日のゼミは前半がレポートの評価で後半が大学祭のブースについての話し合いだと言われた。もうそんな季節かと思ったけど、まあ妥当か。リーダーは決まってるけど何をするかはまだ決まってないし、そういうのを決めていくんだろうな。シノはそれどころじゃないだろうけど。
「夏の課題のレポート、全員分を読みました。何人かは期限に間に合わなかったようだけども、冬も同じ課題を出すので計画的に研究を進めてまとめておくように。夏と冬で研究テーマを変えてもいいし、そのまま継続してもいいからね」
そしてパソコンの画面をプロジェクターで映し出すスクリーンには、3ページ程に分けて全員分のレポートのタイトルとその評価について書かれている。佐藤ゼミは座学もちゃんとやるゼミだという話は聞いていたけど、誰がどんなテーマで研究しているのかが見られるのはなかなか面白い。
「シノ、さらに顔色が悪いけど大丈夫か」
「良くても悪くても評価が出れば治る。早くしてくんねーかなー…!」
評価が良ければ一安心だし、悪くても元が下の下という評価だしヤケクソで書いたレポートだからダメージは少ない。どうやらシノ的には発表を引き伸ばされているという状況がしんどいようだ。
「それじゃあ次のページ。シノキ君は、モータースポーツが社会にどう絡んでいるのか、その課題は何かということを上手く提示していたね。研究としてはまだまだだけど、導入という意味では次に繋がるレポートだったと思います。この調子で頑張ってね」
「あざっす!」
「佐々木君はいかにも正統派なラジオについてのレポートで良くまとまってたけど、普通過ぎるね。音源と文献をまとめただけで、君自身で稼いだ物が少ない」
「俺自身が稼ぐ」
「例えば、実際にラジオをやってる人を当たるとか。人脈を使えばいくらでもいるでしょう。現に高崎君という先輩がいるんだから。このテーマで研究を続けるなら彼の卒論には一度目を通しなさい。それから、君自身が配信者になってもいいんだよ。ま、いろいろ考えてみなさいよ」
先生の言うことには理しかなかったので、冬の課題では自分自身が動くことで稼いでいかないといけないというのが課題か。自分自身が雑談配信をするということに関しては保留で。高崎先輩の卒論か。確か、社会学部棟のどっかの部屋だったよな。
「次、下梨君は――」
「……やることが多くて吐きそうだ」
「大丈夫かよササ」
「でも、良かったなシノ。悪い評価じゃなくて」
「多分普通にレベルが違うんだと思うぜ。ほら、センセってお前に勉強ですげー高いレベルを求めてる節があるじゃんか。実際良くまとまってはいるんだし」
「ラジオとかをやってる人脈なあ」
「みんなの人脈に当たろうぜ。ほら、サキとか!」
「シノキ君、元気になったのはいいけど今は私の話を聞きなさいよ、まったく」
「はーい、サーセーン」
end.
++++
+1年の時間軸だと通常の時間軸といろいろ変わってることを忘れがち。すがやんに彼女がいたりサキがバイト先を変えてたりする。
ササシノのレポートの評価については、ササがヒゲさんの専門領域でやってるのもあるし、シノがちょっと変わったことをやってるのでも評価が分かれた感じ。
+1年の時間軸では大学祭でみんな何を出すのかしら。そして店長が誰になるのかっていうのが何気に大きな問題だね。シノは幹事免除だけど。
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公式学年+1年
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シノが青ざめた顔をしている。悪い物を食べたとかではなく、3限にある秋学期最初のゼミが原因だろう。佐藤ゼミでは長い休みごとに課題レポートの提出が命じられるのだけどそれが結構な字数を要求されていて。ただ、それを下敷きに卒論を書いてもいいというのだから実際はかなり良心的な課題だろう。
そのテーマが自由だというのもまた難儀な問題を生んでいた。自分は何を研究してレポートにすればいいのかと。そしてシノはこの夏は対策委員として夏合宿の運営にバタバタ走り回っていてレポートどころではなかった。合宿が終わって1週間で1万字をどうにかしないとと俺に泣きついてきた。
「ヤベー……腹キリキリして何か酸っぱい」
「相当なストレスだな。そこまでプレッシャーに感じることはないんじゃないか? お前はちゃんと1万字書いて出したんだし」
「この初回ゼミでその評価が全員の前で出されんだろ!? 俺はただでさえ成績が下の下でミキサー以外期待されてないってのに、このレポートでやらかしたらMBCCの沽券にも関わる」
「いや、それを言われると、レポートでやらかして一番不味いのは俺なんじゃないのか。お前とか高木先輩は仮に学業がダメでもミキサーでお釣りが来るけど、俺が学業でコケると後がない」
「お前が学業でコケるとか、俺がミキサーでやらかすのと同じレベルであり得ねーから安心しろよ」
「いや、それはそれで慢心じゃないか?」
「シャレで言ってるに決まってんだろ。察しろ。精一杯のギャグだぞ」
「ああ、ごめんごめん」
不安なのはシノなのに、それでも俺を励ましてくれるところがありがたい。そもそもシノのレポートは俺も手伝ってるんだから、下の下ということは無いと思いたいんだ。悪くても下の上か中の下くらいじゃないかなとは。それこそ俺の思い上がりかな。
だけど、合宿後から1週間頑張って頑張って、提出後には知恵熱か何かで2日寝込むくらい頑張ってたんだ。報われてほしい。彩人によれば、シノは去年の夏合宿のミキサーテストの後にも頭痛いって言ってたらしいから、頭を使うとオーバーヒートすんのかな。
「それじゃあ始めるよ~。相倉君」
「はい」
先生がゼミ生の名前を呼んで出席を取って行くんだけど、自分の番が近付くにつれシノが緊張してるなっていうのがよ~くわかる。隣の席だから伝わって来るんだよな、隠せないヒリヒリした感じが。
「シノキ君」
「はい」
「どうしたの、君にしては声が小さいねえ。具合でも悪いの?」
「や、レポートのことで胃が」
「ああそう。評価を聞いて倒れないようにね。はい、佐々木君」
「はい」
出席を取り終えると、今日のゼミは前半がレポートの評価で後半が大学祭のブースについての話し合いだと言われた。もうそんな季節かと思ったけど、まあ妥当か。リーダーは決まってるけど何をするかはまだ決まってないし、そういうのを決めていくんだろうな。シノはそれどころじゃないだろうけど。
「夏の課題のレポート、全員分を読みました。何人かは期限に間に合わなかったようだけども、冬も同じ課題を出すので計画的に研究を進めてまとめておくように。夏と冬で研究テーマを変えてもいいし、そのまま継続してもいいからね」
そしてパソコンの画面をプロジェクターで映し出すスクリーンには、3ページ程に分けて全員分のレポートのタイトルとその評価について書かれている。佐藤ゼミは座学もちゃんとやるゼミだという話は聞いていたけど、誰がどんなテーマで研究しているのかが見られるのはなかなか面白い。
「シノ、さらに顔色が悪いけど大丈夫か」
「良くても悪くても評価が出れば治る。早くしてくんねーかなー…!」
評価が良ければ一安心だし、悪くても元が下の下という評価だしヤケクソで書いたレポートだからダメージは少ない。どうやらシノ的には発表を引き伸ばされているという状況がしんどいようだ。
「それじゃあ次のページ。シノキ君は、モータースポーツが社会にどう絡んでいるのか、その課題は何かということを上手く提示していたね。研究としてはまだまだだけど、導入という意味では次に繋がるレポートだったと思います。この調子で頑張ってね」
「あざっす!」
「佐々木君はいかにも正統派なラジオについてのレポートで良くまとまってたけど、普通過ぎるね。音源と文献をまとめただけで、君自身で稼いだ物が少ない」
「俺自身が稼ぐ」
「例えば、実際にラジオをやってる人を当たるとか。人脈を使えばいくらでもいるでしょう。現に高崎君という先輩がいるんだから。このテーマで研究を続けるなら彼の卒論には一度目を通しなさい。それから、君自身が配信者になってもいいんだよ。ま、いろいろ考えてみなさいよ」
先生の言うことには理しかなかったので、冬の課題では自分自身が動くことで稼いでいかないといけないというのが課題か。自分自身が雑談配信をするということに関しては保留で。高崎先輩の卒論か。確か、社会学部棟のどっかの部屋だったよな。
「次、下梨君は――」
「……やることが多くて吐きそうだ」
「大丈夫かよササ」
「でも、良かったなシノ。悪い評価じゃなくて」
「多分普通にレベルが違うんだと思うぜ。ほら、センセってお前に勉強ですげー高いレベルを求めてる節があるじゃんか。実際良くまとまってはいるんだし」
「ラジオとかをやってる人脈なあ」
「みんなの人脈に当たろうぜ。ほら、サキとか!」
「シノキ君、元気になったのはいいけど今は私の話を聞きなさいよ、まったく」
「はーい、サーセーン」
end.
++++
+1年の時間軸だと通常の時間軸といろいろ変わってることを忘れがち。すがやんに彼女がいたりサキがバイト先を変えてたりする。
ササシノのレポートの評価については、ササがヒゲさんの専門領域でやってるのもあるし、シノがちょっと変わったことをやってるのでも評価が分かれた感じ。
+1年の時間軸では大学祭でみんな何を出すのかしら。そして店長が誰になるのかっていうのが何気に大きな問題だね。シノは幹事免除だけど。
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