2021(02)
■百聞は一見に如かず
++++
「ごちそうさまっした。この皿どうしますか?」
「ああ、今片付けるからくれ」
「ありがとうございます」
「まだ食えるよな」
「食えますね」
「じゃあ次出すぞ」
「まだあるんすか」
毎週火曜日にFMにしうみでやっている番組の後、拓馬さんの家に呼び出されて至る今。何やら、大石が大量に送って来た土産というものをお裾分けされている。まずはブドウとワインから。明日は何の予定もないし、酒を飲んだところで何の影響もない。
拓馬さんによれば、恐らく大石は行く先々で土産を発送してきたらしい。いくら拓馬さんがめちゃくちゃ量を食う人だとしても所詮は身寄りのない1人暮らし、日持ちのしない生ものをどうしろという問題が発生したらしい。それで招集されたのが俺というワケだ。
「これは何すか?」
「プリンだな」
「美味そうっすね」
「確か先の冬にバイトしに来てた高木はお前の大学の後輩だったよな」
「そうっすね」
「じゃ菜月のことも知ってるな」
「あー、アイツが噛んでるんすか、このプリンに」
「緑風で行くべき場所なんかを訊いてたそうだからな」
「まあでも、菜月が噛んでるなら美味いことには間違いなさそうっすね。いただきます」
俺は甘党だし、甘い物に対する基準で言えば、菜月も俺と同等かそれ以上だ。対策委員時代にはあの性悪からそれで一括りにされていたこともある。それはともかく、菜月が勧めたプリンであるならまず間違いないだろうという信用にはなる。そもそも、見た目からして不味い要素はないだろう。
拓馬さんがプリンを食っているというのも俺からすれば違和感バリバリな光景ではあるが、この人も一応甘い物は嫌いではないらしい。主食が肉かゆで卵だから自分で買うことは少ないものの、手元にあれば普通に食うという話だ。……拓馬さんとプリン食う時代か。中2当時の俺に言ってもまず信じないだろう。
「ああ、そういや拓馬さん」
「何だ」
「何か、拓馬さんの会社に来春卒の連中が研修名目でバイトしに来てたらしいじゃないすか」
「お前のダチでもいるのか」
「そうっすね。越野万里っつー、システム系統で応募してたらしいんすけど」
「ああ、アイツな。圭佑の弟分の。何か言ってたか」
「もし入社してしばらくは現場作業なんだったら体力付けとかないとーっつって鼻息荒くしてたっす」
「言ってアイツは全然やれてた方だと思うけどな。一番暑い時の作業なら、大体の奴が弱音吐くモンだけど。事務所入りになるのが勿体ないくらいには現場でもやれそうだ。一応フォークリフトを仕込んどきたいくらいにはな」
「あれっすよ。大石が世間話で社員登用になったって話を聞いて、自分は真っ当に就活を勝ち抜いてんのにそんなんアリかっつってたんす。ブツクサうるせえなと思ったんで、その研修で大石が社員登用に値する奴かどうかてめェで見て来いっつったんすけどね」
「俺がお前の立場でも同じ風に言う」
結局大石の働きぶりを見た万里は、これは確かに新卒をイチから育てる手間も省けるし世間話からの社員登用もわからんでもないと納得していた。ただ、そんな奴が同期にいる以上、自分ものほほんとしてられねえと言って紅社に戻っていった。話だけじゃわからねえ事情なんかは世の中腐るほどあるんだよな。
「拓馬さんの会社の現場って相当暑いんすね。万里から、風のないところだと40度なんか軽く越えるって聞いて」
「ああ、そうだな。暑い時だと慣れてる千景でもうだうだ言ってんだが、アイツはこれっくらいならまだやれるっつってたな。実際スタミナもあったし。ただ、負けん気が強いのは結構だが、それでムチャをしかねねえのがな」
「ああー……映像で想像出来るっす」
「ま、来年の暑くなる頃には半分事務所にいるだろうから大人しくなるだろ」
「その研修っつーのは何の職種で受かったかに関わらず現場作業だったんすか?」
「そうだ。事務で受かった奴も、システムで受かった奴も皆等しく現場だ。現場で何をやってるか知らねえと話にならねえからな」
「そういう、叩き上げの研修っていうのもなかなかいいっすよね」
「一長一短ではあるだろうが、ウチの場合はビジネスマナーがどうしたとか書類の作り方とか、そういう会社ではないからな」
入社して3ヶ月は別の個室で座学の研修があるという会社もあるし、それこそ拓馬さんの会社みたく現場での叩き上げのような研修をするというところもある。どちらにせよ、新卒はそこで最低限使えるようにならないといけないのだが、人と環境によっちゃ研修の時点で躓くこともあるだろう。
「ユーヤ、お前はもう来春のことは決まってんのか」
「今は本命の試験の結果待ちっすね。一応本命以外の内定も持ってるんで就職はします」
「そうか。試験があるようなトコだから、相当デカそうだな」
「まあ、デカいっすね。星港市なんで」
「あ? 星港市に就職すんのか」
「市の職員っすね。公務員っつーヤツっす。独学で、やるだけやってみようと思って」
「デカく出たな」
「何だかんだ言ってあの街は嫌いじゃないんで」
「お前みたく、ちょっととは言えアングラで仄暗い面も知ってる奴が役所にいるってのは悪いことではねえな」
「それは褒められてるんすか」
「褒めてもねえが貶してもねえ。真っ当に生きてる奴だけが住民じゃねえからよ」
そう言って拓馬さんは食い終わったプリンの容器を片付けに立った。それこそ星港という街の、裏で生きていた人だからこそ知る面も当然あるのだろう。ヤンキーというくらいなら全然光の当たる場所であると言えるほどの、影の部分なんかも。
「ユーヤ、カニ食うか」
「いいんすか!?」
「我ながら、出す順序がおかしいとは思ってる」
end.
++++
去年はここで塩見さんがゲーム実況なんかもやってんだぜって話を聞いた高崎ですが、今年はこっしーの話もちょっと。
ちーちゃんが暑くなるとうだうだするのはデフォルト。慣れてはいるけど暑いのが嫌いなんだよ。プールに行けないなんて拷問だよ
塩見さんは明日も普通に仕事だろうけど、ちょっとお酒を飲んだくらいでは影響はないのかな。休み前じゃなければアルコールが残らない程度か
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「ごちそうさまっした。この皿どうしますか?」
「ああ、今片付けるからくれ」
「ありがとうございます」
「まだ食えるよな」
「食えますね」
「じゃあ次出すぞ」
「まだあるんすか」
毎週火曜日にFMにしうみでやっている番組の後、拓馬さんの家に呼び出されて至る今。何やら、大石が大量に送って来た土産というものをお裾分けされている。まずはブドウとワインから。明日は何の予定もないし、酒を飲んだところで何の影響もない。
拓馬さんによれば、恐らく大石は行く先々で土産を発送してきたらしい。いくら拓馬さんがめちゃくちゃ量を食う人だとしても所詮は身寄りのない1人暮らし、日持ちのしない生ものをどうしろという問題が発生したらしい。それで招集されたのが俺というワケだ。
「これは何すか?」
「プリンだな」
「美味そうっすね」
「確か先の冬にバイトしに来てた高木はお前の大学の後輩だったよな」
「そうっすね」
「じゃ菜月のことも知ってるな」
「あー、アイツが噛んでるんすか、このプリンに」
「緑風で行くべき場所なんかを訊いてたそうだからな」
「まあでも、菜月が噛んでるなら美味いことには間違いなさそうっすね。いただきます」
俺は甘党だし、甘い物に対する基準で言えば、菜月も俺と同等かそれ以上だ。対策委員時代にはあの性悪からそれで一括りにされていたこともある。それはともかく、菜月が勧めたプリンであるならまず間違いないだろうという信用にはなる。そもそも、見た目からして不味い要素はないだろう。
拓馬さんがプリンを食っているというのも俺からすれば違和感バリバリな光景ではあるが、この人も一応甘い物は嫌いではないらしい。主食が肉かゆで卵だから自分で買うことは少ないものの、手元にあれば普通に食うという話だ。……拓馬さんとプリン食う時代か。中2当時の俺に言ってもまず信じないだろう。
「ああ、そういや拓馬さん」
「何だ」
「何か、拓馬さんの会社に来春卒の連中が研修名目でバイトしに来てたらしいじゃないすか」
「お前のダチでもいるのか」
「そうっすね。越野万里っつー、システム系統で応募してたらしいんすけど」
「ああ、アイツな。圭佑の弟分の。何か言ってたか」
「もし入社してしばらくは現場作業なんだったら体力付けとかないとーっつって鼻息荒くしてたっす」
「言ってアイツは全然やれてた方だと思うけどな。一番暑い時の作業なら、大体の奴が弱音吐くモンだけど。事務所入りになるのが勿体ないくらいには現場でもやれそうだ。一応フォークリフトを仕込んどきたいくらいにはな」
「あれっすよ。大石が世間話で社員登用になったって話を聞いて、自分は真っ当に就活を勝ち抜いてんのにそんなんアリかっつってたんす。ブツクサうるせえなと思ったんで、その研修で大石が社員登用に値する奴かどうかてめェで見て来いっつったんすけどね」
「俺がお前の立場でも同じ風に言う」
結局大石の働きぶりを見た万里は、これは確かに新卒をイチから育てる手間も省けるし世間話からの社員登用もわからんでもないと納得していた。ただ、そんな奴が同期にいる以上、自分ものほほんとしてられねえと言って紅社に戻っていった。話だけじゃわからねえ事情なんかは世の中腐るほどあるんだよな。
「拓馬さんの会社の現場って相当暑いんすね。万里から、風のないところだと40度なんか軽く越えるって聞いて」
「ああ、そうだな。暑い時だと慣れてる千景でもうだうだ言ってんだが、アイツはこれっくらいならまだやれるっつってたな。実際スタミナもあったし。ただ、負けん気が強いのは結構だが、それでムチャをしかねねえのがな」
「ああー……映像で想像出来るっす」
「ま、来年の暑くなる頃には半分事務所にいるだろうから大人しくなるだろ」
「その研修っつーのは何の職種で受かったかに関わらず現場作業だったんすか?」
「そうだ。事務で受かった奴も、システムで受かった奴も皆等しく現場だ。現場で何をやってるか知らねえと話にならねえからな」
「そういう、叩き上げの研修っていうのもなかなかいいっすよね」
「一長一短ではあるだろうが、ウチの場合はビジネスマナーがどうしたとか書類の作り方とか、そういう会社ではないからな」
入社して3ヶ月は別の個室で座学の研修があるという会社もあるし、それこそ拓馬さんの会社みたく現場での叩き上げのような研修をするというところもある。どちらにせよ、新卒はそこで最低限使えるようにならないといけないのだが、人と環境によっちゃ研修の時点で躓くこともあるだろう。
「ユーヤ、お前はもう来春のことは決まってんのか」
「今は本命の試験の結果待ちっすね。一応本命以外の内定も持ってるんで就職はします」
「そうか。試験があるようなトコだから、相当デカそうだな」
「まあ、デカいっすね。星港市なんで」
「あ? 星港市に就職すんのか」
「市の職員っすね。公務員っつーヤツっす。独学で、やるだけやってみようと思って」
「デカく出たな」
「何だかんだ言ってあの街は嫌いじゃないんで」
「お前みたく、ちょっととは言えアングラで仄暗い面も知ってる奴が役所にいるってのは悪いことではねえな」
「それは褒められてるんすか」
「褒めてもねえが貶してもねえ。真っ当に生きてる奴だけが住民じゃねえからよ」
そう言って拓馬さんは食い終わったプリンの容器を片付けに立った。それこそ星港という街の、裏で生きていた人だからこそ知る面も当然あるのだろう。ヤンキーというくらいなら全然光の当たる場所であると言えるほどの、影の部分なんかも。
「ユーヤ、カニ食うか」
「いいんすか!?」
「我ながら、出す順序がおかしいとは思ってる」
end.
++++
去年はここで塩見さんがゲーム実況なんかもやってんだぜって話を聞いた高崎ですが、今年はこっしーの話もちょっと。
ちーちゃんが暑くなるとうだうだするのはデフォルト。慣れてはいるけど暑いのが嫌いなんだよ。プールに行けないなんて拷問だよ
塩見さんは明日も普通に仕事だろうけど、ちょっとお酒を飲んだくらいでは影響はないのかな。休み前じゃなければアルコールが残らない程度か
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