2021(02)
■カニ食べに行きたい
++++
「おーい」
「遅いよ拓馬~」
「ちょっと寄るトコがあったんだ」
今日はUSDXの動画収録日。最近は音楽関係の話が多かったから菅野と菅野のバンドが世話になっている須賀の家のスタジオにお邪魔することが多かったんだけど、今日は音楽の話じゃないということで集合は京川さんの部屋。この学生街のマンションの部屋に入るのが新鮮に感じる。
「話はどうなってる」
「拓馬が来たら収録始めるって言ってたけど、お腹空いたからご飯食べてからにしようって話になったよ。ピザ注文してる」
「そうか。ああ、朝霞。これやる」
「ありがとうございます。何だろ」
「今すぐには悪くならないだろうから、ピザを食うなら置いといてもいい」
話の内容的にこれは食べ物なんだろうけど、改めて塩見さんがくれた袋を開けて見ると、中に入っていたのは卵だ。いや、この感じは生卵じゃなくてゆで卵か。……まさか、ゆで卵なのか!?
「塩見さん、これってもしかして味付きのゆで卵ですか!?」
「俺がいつも食ってる塩味のゆで卵だ」
「ありがとうございます! うわー、マジかー…! めっちゃ嬉し~…! え、ゆで卵ってどれくらいもつっけ」
「今の時期なら冷蔵庫で3日か4日ってとこだな」
「ありがたくいただきます!」
俺は卵が好きで卵料理なんかもよく食べるんだけど、ゆで卵もコンビニで買って食べるくらいには好きなんだよな。俺が塩見さんの味付き卵に出会ったのは、去年の向舞祭シーズン、バイト終わりにこれを持たされたという大石からのお裾分けだった。これが絶妙な茹で加減と味付けでめちゃくちゃ美味いんだ。
今貰った袋の中にはゆで卵が10個ほど入っている。1日に3個ほど食う計算になるけど、それくらいなら余裕で食えるよな。1食に1個ペースだし。全然余裕じゃねーか。なんなら足りないまである。それくらい塩見さんのゆで卵が美味いんだよな。さすが、ゆで卵を主食にしてるだけある。
「でも、突然ゆで卵なんてどうしたんですか?」
「千景が緑風に旅行に行ってたとかで、大量に土産を送って来たんだ。その中に卵があってよ。自分の飯の分を茹でたついでだ」
「ありがとうございます。ああ、大石は今回緑風に行ってたんすね。俺にもお土産を送るから住所教えてくれーって連絡があったんですけど、どこに行ってるかまでは聞いてなかったので」
「緑風で海の幸三昧だったとか何とか。カニが美味かったってよ」
「あ~…! カニの季節なんですね! いいですね~カニ」
大石の旅行と言えば、加賀さんと結成したっていう温泉サークルの活動だろう。第1回は山羽に行ったらしいけど(地元民的には懐かしのお土産をもらったし)、今回は緑風だったのか。でも、伏見からチラッと聞いた話では、俺がなっちから送ってもらった醤油を買いに行くのが緑風行きの目的らしい。
「と言うか、大量に土産を送って来たって、どんだけ送ってんですかアイツ」
「多分、俺と千晴君には行くトコ行くトコで送って来てんじゃねえか?」
「そんだけ金が捻出出来たんすね。それは良かったです」
「そういや、アイツのタンスの整理をお前が手伝ったって聞いたな」
「そうですね。競泳用じゃないカジュアルな水着を探そうとタンスを掘り返したら元に戻せなくなったとかで」
「……まあ、アイツはな。ファミリーセールの度にもう持ってるようなモンばっか買ってるからな。割引率っつー単語に弱いんだ」
「ああ……そんな節はありますし計算が早すぎるんすよね」
京川さんがピザを頼んでくれたのが少し前のことなので、まだ来ないだろうと踏んで俺はゆで卵をひとつ食べてしまうことにした。俺は食うのが遅くて一口が小さいだけで、食う量自体はまあまあ多いからな。ゆで卵1個でピザが食えなくなるほど脆弱な胃袋はしていない。
ゆで卵を食う俺を、菅野が「今からピザ来んのに何でゆで卵食ってんだよ」と呆れた目で見ている。だけど食えるんだよな、1個くらいなら。何度でも言うけど俺は食うのが遅いだけなんだ。ただ、食うのが遅いから、俺が満足する前に他の連中が全部食っちまってるってパターンが多々だ。
「あ~、俺もカニ食いて~! こう、脚をちゅるっと行きて~よな~!」
「確かにカニは食べたいな」
「カニか。オレはカニクリームコロッケで食うくらいだな」
「は!? カニクリームコロッケ!? それはそれで美味そうだけどどこで食ってんだよ俺にも教えろ!」
「オレがピアニストをしている洋食屋だ。コロッケからカニの爪が生えている」
「いかにもな洋食屋じゃねーか!」
「あの店だったらコロッケひとつでもそういう洒落た雰囲気なんだろうな。絶対美味しい」
「リン君がピアノ弾いてる店、すげー雰囲気あるよな。西海と言えばプチメゾンとバレーナ・ビアンカまである」
「それは単純にお前の行動範囲がその2軒なだけだろう」
「まあね。他を知らないだけとも言う」
「いや、西海に長く住んでてもプチメゾンとバレーナ・ビアンカに落ち着くから、朝霞の言うことも強ち間違ってないぞ」
「ソルの残業代で俺にカニクリームコロッケ食わせろよ~、カニ~」
「ピザ頼むとき俺はカニクラタンがいいって言ったのになー、絶対チーズだって言って譲らなかったのは誰だったっけ、チータ君」
「あん時はこんなに口がカニになると思ってなかったんだよ! あー、カニ食いてー……」
end.
++++
塩見さんの中でも朝霞Pがゆで卵が好きだったなあみたいな感じで結び付くようになったのかしら。ゆで卵の差し入れです。
ちーちゃんがお金を積んでカニを食べていたという話。ファミリーセールで節約した分がカニになったのね
西海と言えばプチメゾンかバレーナ・ビアンカ。西海の隠れ家と有名店の組み合わせ。塩見さんの私生活って何気に謎だけどそれでいい
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「おーい」
「遅いよ拓馬~」
「ちょっと寄るトコがあったんだ」
今日はUSDXの動画収録日。最近は音楽関係の話が多かったから菅野と菅野のバンドが世話になっている須賀の家のスタジオにお邪魔することが多かったんだけど、今日は音楽の話じゃないということで集合は京川さんの部屋。この学生街のマンションの部屋に入るのが新鮮に感じる。
「話はどうなってる」
「拓馬が来たら収録始めるって言ってたけど、お腹空いたからご飯食べてからにしようって話になったよ。ピザ注文してる」
「そうか。ああ、朝霞。これやる」
「ありがとうございます。何だろ」
「今すぐには悪くならないだろうから、ピザを食うなら置いといてもいい」
話の内容的にこれは食べ物なんだろうけど、改めて塩見さんがくれた袋を開けて見ると、中に入っていたのは卵だ。いや、この感じは生卵じゃなくてゆで卵か。……まさか、ゆで卵なのか!?
「塩見さん、これってもしかして味付きのゆで卵ですか!?」
「俺がいつも食ってる塩味のゆで卵だ」
「ありがとうございます! うわー、マジかー…! めっちゃ嬉し~…! え、ゆで卵ってどれくらいもつっけ」
「今の時期なら冷蔵庫で3日か4日ってとこだな」
「ありがたくいただきます!」
俺は卵が好きで卵料理なんかもよく食べるんだけど、ゆで卵もコンビニで買って食べるくらいには好きなんだよな。俺が塩見さんの味付き卵に出会ったのは、去年の向舞祭シーズン、バイト終わりにこれを持たされたという大石からのお裾分けだった。これが絶妙な茹で加減と味付けでめちゃくちゃ美味いんだ。
今貰った袋の中にはゆで卵が10個ほど入っている。1日に3個ほど食う計算になるけど、それくらいなら余裕で食えるよな。1食に1個ペースだし。全然余裕じゃねーか。なんなら足りないまである。それくらい塩見さんのゆで卵が美味いんだよな。さすが、ゆで卵を主食にしてるだけある。
「でも、突然ゆで卵なんてどうしたんですか?」
「千景が緑風に旅行に行ってたとかで、大量に土産を送って来たんだ。その中に卵があってよ。自分の飯の分を茹でたついでだ」
「ありがとうございます。ああ、大石は今回緑風に行ってたんすね。俺にもお土産を送るから住所教えてくれーって連絡があったんですけど、どこに行ってるかまでは聞いてなかったので」
「緑風で海の幸三昧だったとか何とか。カニが美味かったってよ」
「あ~…! カニの季節なんですね! いいですね~カニ」
大石の旅行と言えば、加賀さんと結成したっていう温泉サークルの活動だろう。第1回は山羽に行ったらしいけど(地元民的には懐かしのお土産をもらったし)、今回は緑風だったのか。でも、伏見からチラッと聞いた話では、俺がなっちから送ってもらった醤油を買いに行くのが緑風行きの目的らしい。
「と言うか、大量に土産を送って来たって、どんだけ送ってんですかアイツ」
「多分、俺と千晴君には行くトコ行くトコで送って来てんじゃねえか?」
「そんだけ金が捻出出来たんすね。それは良かったです」
「そういや、アイツのタンスの整理をお前が手伝ったって聞いたな」
「そうですね。競泳用じゃないカジュアルな水着を探そうとタンスを掘り返したら元に戻せなくなったとかで」
「……まあ、アイツはな。ファミリーセールの度にもう持ってるようなモンばっか買ってるからな。割引率っつー単語に弱いんだ」
「ああ……そんな節はありますし計算が早すぎるんすよね」
京川さんがピザを頼んでくれたのが少し前のことなので、まだ来ないだろうと踏んで俺はゆで卵をひとつ食べてしまうことにした。俺は食うのが遅くて一口が小さいだけで、食う量自体はまあまあ多いからな。ゆで卵1個でピザが食えなくなるほど脆弱な胃袋はしていない。
ゆで卵を食う俺を、菅野が「今からピザ来んのに何でゆで卵食ってんだよ」と呆れた目で見ている。だけど食えるんだよな、1個くらいなら。何度でも言うけど俺は食うのが遅いだけなんだ。ただ、食うのが遅いから、俺が満足する前に他の連中が全部食っちまってるってパターンが多々だ。
「あ~、俺もカニ食いて~! こう、脚をちゅるっと行きて~よな~!」
「確かにカニは食べたいな」
「カニか。オレはカニクリームコロッケで食うくらいだな」
「は!? カニクリームコロッケ!? それはそれで美味そうだけどどこで食ってんだよ俺にも教えろ!」
「オレがピアニストをしている洋食屋だ。コロッケからカニの爪が生えている」
「いかにもな洋食屋じゃねーか!」
「あの店だったらコロッケひとつでもそういう洒落た雰囲気なんだろうな。絶対美味しい」
「リン君がピアノ弾いてる店、すげー雰囲気あるよな。西海と言えばプチメゾンとバレーナ・ビアンカまである」
「それは単純にお前の行動範囲がその2軒なだけだろう」
「まあね。他を知らないだけとも言う」
「いや、西海に長く住んでてもプチメゾンとバレーナ・ビアンカに落ち着くから、朝霞の言うことも強ち間違ってないぞ」
「ソルの残業代で俺にカニクリームコロッケ食わせろよ~、カニ~」
「ピザ頼むとき俺はカニクラタンがいいって言ったのになー、絶対チーズだって言って譲らなかったのは誰だったっけ、チータ君」
「あん時はこんなに口がカニになると思ってなかったんだよ! あー、カニ食いてー……」
end.
++++
塩見さんの中でも朝霞Pがゆで卵が好きだったなあみたいな感じで結び付くようになったのかしら。ゆで卵の差し入れです。
ちーちゃんがお金を積んでカニを食べていたという話。ファミリーセールで節約した分がカニになったのね
西海と言えばプチメゾンかバレーナ・ビアンカ。西海の隠れ家と有名店の組み合わせ。塩見さんの私生活って何気に謎だけどそれでいい
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