2021(02)
■裏側に忍び込む
＋＋＋＋
「留学？」
「そう。何かそんな名目で秋学期からは向島に行くことになったらしいんだよ」
「ふーん。それって、毎回？」
「週１。水曜日辺りで上の人たちが調整してるところ」
秋学期から始まる昼放送には、俺たち１年も人数に加えられる。こないだ決めた履修に基づいて先輩たちがペアを決めていたらしいんだけど、そこで俺だけ個別に呼び出されて話があったんだよな。向島に行って昼放送をやって来いって言われたんだけど、よくよく考えたら突拍子もない話だなと。
話では、ウチは人数も多いし全員に番組をやってもらうことが出来ない。そして向島は人数が少なくて枠を埋めるのにも苦労する。そしたら、せっかくラジオメインでの活動だし同じ豊葦市内だし、こういう形での交流があってもいいんじゃないか、っていうことらしいんだよな。
「何か、向島の番組って収録でやってるらしくて、前もって録ったヤツを放送日の昼に食堂に持ってってオンエアするんだって」
「へえ。じゃあやろうと思えば３ヶ月分録り溜めとかも出来るんだ」
「やろうと思えばな。でもあんまり季節感だとか時事の話がなさすぎるのもアレだろ。だからちゃんと通って収録させてもらわないと」
「そう言えば、ウチの昼放送がどんな感じでやってるのかもよくわからないよね。学食の事務所でやってるとは言うけど、食堂の表側からは見えないし」
「そうだなー。こないだ果林先輩にチラッと聞いたんだけど、学食の機材にポータブルで音楽流す機材を繋いで、スタンディングでやってるんだって。アナの身長制限ってのもあるとかないとか」
「……ミキサーに身長制限はないよね？」
「さすがに大丈夫だろ。アナウンサーが背低いとマズいのはマイクのポジションが合わないからって理由だし。それに、踏み台もあるってよ」
確かにサキは男としては小柄な方だけど、そこまで心配しなきゃいけない程の小ささではないはずだ。大体、サキと似たり寄ったりのタッパしてるゴティ先輩だっているんだし。小さいことで問題が起きてるならその時点で対処してねーとおかしいワケで。
だけど、スタンディングだからこそアナウンサーとミキサーの身長差というのも重要な要素になって来るとか。あまり差があり過ぎるとキューを確認しにくかったりして番組のスムーズな進行にも影響が出るとか出ないとか。Ｌ先輩も、その都合で踏み台があってもハナ先輩とは組めないって言ってたし。
「すがやんは向島でしょ。誰か知ってる人いる？」
「ああ、カノンが夏合宿で一緒の班だったんだよ」
「あんまり覚えてないなあ。アナ？ ミキ？」
「大学ではどっちも練習してるそうなんけど、インターフェイスにはアナで出てたな」
「へえ、どっちもやってるんだ。器用だね」
「だなー。あと知ってる人で言えば野坂先輩とか？」
「ああ、確かに。あの人は実際有名人だからね」
この留学という計画が始まるのも、人数の都合だけじゃなくて野坂先輩の経験が大きいっていうことは言われてるよな。初心者講習会の時期にウチで打ち合わせとか練習をする中で、向島とは違う緑ヶ丘の機材環境なんかを見てそれはもう感銘を受けたとか。で、１回外を見るのはデカいという結論に至ったそうだ。
「向島の人がどんな風にやってるかを見て学んで盗んで来いとも言われてるからさ、日々勉強なんだよ」
「そう考えると、留学も悪いことではなさそうだね。問題はコミュニケーションがちゃんと取れるかだけど、すがやんに関しては心配ないね」
「向島の人のキャラってインターフェイスでも特に濃ゆいらしくてさ。ここだけの話、ササとレナだとドン引きしかねないって先輩たち心配してて」
「あー……あの２人はクールだしね」
別にササとレナの愛想に問題があるとかではないけど、キャラが濃すぎるが故にササとレナは呑まれてドン引きしちまうんじゃないか。じゃあその２人よりはいろんな人間に耐性がありそうなすがやんだ！ ……と感じで選ばれるのも光栄ではあるけど、言って俺もまあまあ普通のキャラだし、十分埋もれちまうって。
「そんな中に放り込まれる俺だろ。いや、確かにいろんなタイプの友達はいるけど、夏合宿で見た感じ、インターフェイスの人のキャラって相当だぜ？ その中でも特に濃ゆいってどんだけだよと思って」
「合宿には出てなかった人もいるわけだからね」
「そう、それなんだよ！ ３年生が特にヤバいって先輩たち言ってたし」
「すがやん、面白いお土産話期待してるよ」
「サ～キ～！ お前他人事だからって～！」
「でも、インターフェイスにはいろんな人がいるなっていうのは思ったね。確かに。遠巻きに見てる分には面白いかな」
でも、考えようによってはチャンスではあるんだよな。インターフェイスの活動に出てない人は、向島以外の大学にもそれなりにいるはずだし。そういう人と知り合うには、やっぱり内部潜入が一番だとは思う。その中にすげー実力者がいる可能性もあるし、大学によって違う風土とかもあるから現地調査がやっぱいいんだろうな。
「収録番組ってことは、やってすぐコピーして聞けるってことだよね」
「聞いて驚け、向島の番組はMDに録音してて、ポータブルMDプレイヤーを使ってオンエアしてるらしい」
「え、まだ現役なの。今ってもうMDデッキを作ってるところも１社とかしかなくなかった？」
「つかまだ作ってるところがあったんだな。それにビックリだよ」
「業務用で需要があるって記事を読んだ気がするよ。お葬式の会場とかで、故人の好きだった曲を流してくれみたいな感じで持って来られるとか」
「へー」
end.
＋＋＋＋
留学の話をサキにしているすがやんです。王様の耳はロバの耳ーじゃないけど、誰かに話したくなったのかもしれない。
１年生はまだ緑ヶ丘大学内での昼放送の経験がないので、どんな風にやっているかを知りません。説明は今から。
身長云々の話で言えば、ササくるなんかもなかなか厳しめになるのかしら。この場合くるちゃんが踏み台に上らなきゃねえ
.
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「留学？」
「そう。何かそんな名目で秋学期からは向島に行くことになったらしいんだよ」
「ふーん。それって、毎回？」
「週１。水曜日辺りで上の人たちが調整してるところ」
秋学期から始まる昼放送には、俺たち１年も人数に加えられる。こないだ決めた履修に基づいて先輩たちがペアを決めていたらしいんだけど、そこで俺だけ個別に呼び出されて話があったんだよな。向島に行って昼放送をやって来いって言われたんだけど、よくよく考えたら突拍子もない話だなと。
話では、ウチは人数も多いし全員に番組をやってもらうことが出来ない。そして向島は人数が少なくて枠を埋めるのにも苦労する。そしたら、せっかくラジオメインでの活動だし同じ豊葦市内だし、こういう形での交流があってもいいんじゃないか、っていうことらしいんだよな。
「何か、向島の番組って収録でやってるらしくて、前もって録ったヤツを放送日の昼に食堂に持ってってオンエアするんだって」
「へえ。じゃあやろうと思えば３ヶ月分録り溜めとかも出来るんだ」
「やろうと思えばな。でもあんまり季節感だとか時事の話がなさすぎるのもアレだろ。だからちゃんと通って収録させてもらわないと」
「そう言えば、ウチの昼放送がどんな感じでやってるのかもよくわからないよね。学食の事務所でやってるとは言うけど、食堂の表側からは見えないし」
「そうだなー。こないだ果林先輩にチラッと聞いたんだけど、学食の機材にポータブルで音楽流す機材を繋いで、スタンディングでやってるんだって。アナの身長制限ってのもあるとかないとか」
「……ミキサーに身長制限はないよね？」
「さすがに大丈夫だろ。アナウンサーが背低いとマズいのはマイクのポジションが合わないからって理由だし。それに、踏み台もあるってよ」
確かにサキは男としては小柄な方だけど、そこまで心配しなきゃいけない程の小ささではないはずだ。大体、サキと似たり寄ったりのタッパしてるゴティ先輩だっているんだし。小さいことで問題が起きてるならその時点で対処してねーとおかしいワケで。
だけど、スタンディングだからこそアナウンサーとミキサーの身長差というのも重要な要素になって来るとか。あまり差があり過ぎるとキューを確認しにくかったりして番組のスムーズな進行にも影響が出るとか出ないとか。Ｌ先輩も、その都合で踏み台があってもハナ先輩とは組めないって言ってたし。
「すがやんは向島でしょ。誰か知ってる人いる？」
「ああ、カノンが夏合宿で一緒の班だったんだよ」
「あんまり覚えてないなあ。アナ？ ミキ？」
「大学ではどっちも練習してるそうなんけど、インターフェイスにはアナで出てたな」
「へえ、どっちもやってるんだ。器用だね」
「だなー。あと知ってる人で言えば野坂先輩とか？」
「ああ、確かに。あの人は実際有名人だからね」
この留学という計画が始まるのも、人数の都合だけじゃなくて野坂先輩の経験が大きいっていうことは言われてるよな。初心者講習会の時期にウチで打ち合わせとか練習をする中で、向島とは違う緑ヶ丘の機材環境なんかを見てそれはもう感銘を受けたとか。で、１回外を見るのはデカいという結論に至ったそうだ。
「向島の人がどんな風にやってるかを見て学んで盗んで来いとも言われてるからさ、日々勉強なんだよ」
「そう考えると、留学も悪いことではなさそうだね。問題はコミュニケーションがちゃんと取れるかだけど、すがやんに関しては心配ないね」
「向島の人のキャラってインターフェイスでも特に濃ゆいらしくてさ。ここだけの話、ササとレナだとドン引きしかねないって先輩たち心配してて」
「あー……あの２人はクールだしね」
別にササとレナの愛想に問題があるとかではないけど、キャラが濃すぎるが故にササとレナは呑まれてドン引きしちまうんじゃないか。じゃあその２人よりはいろんな人間に耐性がありそうなすがやんだ！ ……と感じで選ばれるのも光栄ではあるけど、言って俺もまあまあ普通のキャラだし、十分埋もれちまうって。
「そんな中に放り込まれる俺だろ。いや、確かにいろんなタイプの友達はいるけど、夏合宿で見た感じ、インターフェイスの人のキャラって相当だぜ？ その中でも特に濃ゆいってどんだけだよと思って」
「合宿には出てなかった人もいるわけだからね」
「そう、それなんだよ！ ３年生が特にヤバいって先輩たち言ってたし」
「すがやん、面白いお土産話期待してるよ」
「サ～キ～！ お前他人事だからって～！」
「でも、インターフェイスにはいろんな人がいるなっていうのは思ったね。確かに。遠巻きに見てる分には面白いかな」
でも、考えようによってはチャンスではあるんだよな。インターフェイスの活動に出てない人は、向島以外の大学にもそれなりにいるはずだし。そういう人と知り合うには、やっぱり内部潜入が一番だとは思う。その中にすげー実力者がいる可能性もあるし、大学によって違う風土とかもあるから現地調査がやっぱいいんだろうな。
「収録番組ってことは、やってすぐコピーして聞けるってことだよね」
「聞いて驚け、向島の番組はMDに録音してて、ポータブルMDプレイヤーを使ってオンエアしてるらしい」
「え、まだ現役なの。今ってもうMDデッキを作ってるところも１社とかしかなくなかった？」
「つかまだ作ってるところがあったんだな。それにビックリだよ」
「業務用で需要があるって記事を読んだ気がするよ。お葬式の会場とかで、故人の好きだった曲を流してくれみたいな感じで持って来られるとか」
「へー」
end.
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留学の話をサキにしているすがやんです。王様の耳はロバの耳ーじゃないけど、誰かに話したくなったのかもしれない。
１年生はまだ緑ヶ丘大学内での昼放送の経験がないので、どんな風にやっているかを知りません。説明は今から。
身長云々の話で言えば、ササくるなんかもなかなか厳しめになるのかしら。この場合くるちゃんが踏み台に上らなきゃねえ
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