2021(02)
■来たれ面白人間博覧会
++++
「それで、昨日の今日で面接希望か」
「そうです」
「まあ、構わんが。とりあえず話を聞こう」
昨日、高山を訪ねてセンター事務所にやってきた五百崎真桜という1年生がセンタースタッフとなるべく面接を希望してきた。聞いた話では綾瀬が軽いノリでそそのかしたようだが、ダブルワーク可で1コマ90分からの勤務は魅力的だったらしい。ただ、理系の1年にちょっと入るコマがあるのかという話ではあるが。
スタッフの数は多いに越したことはない。オレと烏丸は次の春が来る前には籍がなくなるし、その時に動ける奴を増やしておかねば繁忙期など乗り越えることも出来んだろう。1コマからの勤務形態であろうとスタッフはスタッフだ。出る必要のあるときには問答無用で招集されることもあるとは念を押しておかねばならん。
「――で、五百崎真桜、理工学部芸術工学科1年。理工ということはパソコンの扱いに関しては問題ないと見ていいか」
「人並みには使えますね。フォトショ、イラレ、プレミア、あとバンドやってるんでDAWなんかも」
「いや、フォトショより後ろのものは入っていないが、DAWの話は後で個人的に聞こう。それで、情報センターの仕事は主に受付と自習室に分けられる。受付は利用者から学生証を受け取りカードキーと交換する。自習室はより直接的に学習支援をする。パソコンの使い方を教えたり、プリンターなどの機材を管理したり。時には利用者への注意なども必要だ」
「如何せんこのナリなんでビビられがちなんですけど大丈夫ですかね」
「その程度のことはさほど問題ではない。昨年までなど、柄シャツを着た受付がその筋の構成員の如く凶悪な人相をしていたからな」
「今のバイトリーダーがすげーロックで殺害予告を出されたって話を聞きました」
「む。確かに殺害予告を出されたことはあるが、オレは職務を全うしただけだ」
殺害予告を出されたのも既に懐かしさを覚える。あれは卒論を書いていた4年が自習室で飲食をしたり騒がしくしたために注意をしたものの、何度注意をしても態度を改めなかったので強制退室させてブラックリストに登録した結果、卒論を提出することが出来ず単位が卒業要件に満たなかったがために就職もなくなったという話だ。
情報センターのスタッフの雇い主は星港大学であって、他の学生の学習に害を及ぼすようであるなら強制退室させることが出来るというのはセンターの利用規約にもしっかりと書かれているのだ。そもそも、飲食をするなとか騒がしくするなという程度のことすら守れん奴を社会に野放しにするのかと。
「勘違いしている奴も多いが、情報センターは店ではなく大学の施設で、スタッフはその管理者だ。そして利用者は客ではない。先の話にしても、オレは利用規約に則っただけであって、何度注意しても言動を改めん奴が悪い。それで殺害予告など、逆恨みの他に何と言う」
「それは殺害予告を出した奴がクソダセーっすね。でもリーダーさんもまあロックっすよ」
「オレはクラシック畑の人間であるとは言っておく。とりあえず採用することにはしたから、都合のいい日を教えてくれ。シフトを組む都合がある」
「わかりましたー。夏休みの日中は割と好き勝手入れますんで」
「ではそのように。改めて、情報センターバイトリーダーで理工学部応用化学科4年の林原雄介だ。お前には秋学期の履修登録までにはある程度の仕事を覚えてもらう。テスト期間前後と履修登録期間が情報センターの繁忙期だからな」
綾瀬という前例があるからあれより機械やパソコンを使えればいいという風にある程度悟れるようになったのはオレも丸くなったということだろうか。春山さんとかいう凶悪な人を知っているから、あれより愛想があれば全く問題ないと思うのもまた同じことであろう。その点、五百崎は何の問題もないと今は判断した。
「ところで、バンドをやっていると言ったな。軽音か」
「いや、大学の中ではないですね。よくある普通のV系ロックバンドで、私はベースをやってるんですけど」
「そうか」
ベースと聞いて某社畜……ツミツミの方ではなく長篠にいる方の社畜のことを思い出してしまったが、それとセットであの変態ドラマーの顔も出て来たので、今年の年末は穏やかに過ごしたいと切に願ってやまない。
「林原さんもDAWに興味あるような感じで。何かバンドとかやってるんです?」
「オレはこことは別に洋食屋のディナータイムにピアノを弾く仕事をしている。それから、去年の大学祭ではジャズバンドもやったし、今も一応バンド活動的なことをやっていると言えばやっている」
「へー! 音源とかあります!? 聞きたいんですけど!」
「去年の映像であれば高山が持っているはずだ」
「高山さんですね! ひゅーっ、忘れる前に深青に頼んどこ」
「高山とは顔見知りなのか」
「厳密には私じゃなくて弟が、です。弟のサークルの合宿? で高山さんのお世話になってたとかで。すげーロックで面白い人だって言ってたんで興味が湧いて昨日アポなし訪問を」
五百崎の言う節々にロックという単語が挟まっているのが気になるが、それが生き方なんかの話であれば、ここにいる連中は割と各々のロックとやらが溢れているだろう。それがまだ控えめな方の川北でさえもだ。もしかしなくてもコイツは働くことではなく面白い人間に興味があるだけだな。
end.
++++
ベーシスト変態説もあるけどナノスパでは何故かベーシストは社畜になりがち。塩見さんは厳密には社畜じゃないけど。
ベーシスト変態説について少し調べてたら、ドラマーは明るい変態でベーシストは暗い変態って書いてる記事があったのでブルースプリングだなと思いました
と言うか今回の話は節々に春山さんの影があったのでやっぱりそろそろ芋の季節なんだね! 早く押し寄せてくれんと各大学の話が進まん
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「それで、昨日の今日で面接希望か」
「そうです」
「まあ、構わんが。とりあえず話を聞こう」
昨日、高山を訪ねてセンター事務所にやってきた五百崎真桜という1年生がセンタースタッフとなるべく面接を希望してきた。聞いた話では綾瀬が軽いノリでそそのかしたようだが、ダブルワーク可で1コマ90分からの勤務は魅力的だったらしい。ただ、理系の1年にちょっと入るコマがあるのかという話ではあるが。
スタッフの数は多いに越したことはない。オレと烏丸は次の春が来る前には籍がなくなるし、その時に動ける奴を増やしておかねば繁忙期など乗り越えることも出来んだろう。1コマからの勤務形態であろうとスタッフはスタッフだ。出る必要のあるときには問答無用で招集されることもあるとは念を押しておかねばならん。
「――で、五百崎真桜、理工学部芸術工学科1年。理工ということはパソコンの扱いに関しては問題ないと見ていいか」
「人並みには使えますね。フォトショ、イラレ、プレミア、あとバンドやってるんでDAWなんかも」
「いや、フォトショより後ろのものは入っていないが、DAWの話は後で個人的に聞こう。それで、情報センターの仕事は主に受付と自習室に分けられる。受付は利用者から学生証を受け取りカードキーと交換する。自習室はより直接的に学習支援をする。パソコンの使い方を教えたり、プリンターなどの機材を管理したり。時には利用者への注意なども必要だ」
「如何せんこのナリなんでビビられがちなんですけど大丈夫ですかね」
「その程度のことはさほど問題ではない。昨年までなど、柄シャツを着た受付がその筋の構成員の如く凶悪な人相をしていたからな」
「今のバイトリーダーがすげーロックで殺害予告を出されたって話を聞きました」
「む。確かに殺害予告を出されたことはあるが、オレは職務を全うしただけだ」
殺害予告を出されたのも既に懐かしさを覚える。あれは卒論を書いていた4年が自習室で飲食をしたり騒がしくしたために注意をしたものの、何度注意をしても態度を改めなかったので強制退室させてブラックリストに登録した結果、卒論を提出することが出来ず単位が卒業要件に満たなかったがために就職もなくなったという話だ。
情報センターのスタッフの雇い主は星港大学であって、他の学生の学習に害を及ぼすようであるなら強制退室させることが出来るというのはセンターの利用規約にもしっかりと書かれているのだ。そもそも、飲食をするなとか騒がしくするなという程度のことすら守れん奴を社会に野放しにするのかと。
「勘違いしている奴も多いが、情報センターは店ではなく大学の施設で、スタッフはその管理者だ。そして利用者は客ではない。先の話にしても、オレは利用規約に則っただけであって、何度注意しても言動を改めん奴が悪い。それで殺害予告など、逆恨みの他に何と言う」
「それは殺害予告を出した奴がクソダセーっすね。でもリーダーさんもまあロックっすよ」
「オレはクラシック畑の人間であるとは言っておく。とりあえず採用することにはしたから、都合のいい日を教えてくれ。シフトを組む都合がある」
「わかりましたー。夏休みの日中は割と好き勝手入れますんで」
「ではそのように。改めて、情報センターバイトリーダーで理工学部応用化学科4年の林原雄介だ。お前には秋学期の履修登録までにはある程度の仕事を覚えてもらう。テスト期間前後と履修登録期間が情報センターの繁忙期だからな」
綾瀬という前例があるからあれより機械やパソコンを使えればいいという風にある程度悟れるようになったのはオレも丸くなったということだろうか。春山さんとかいう凶悪な人を知っているから、あれより愛想があれば全く問題ないと思うのもまた同じことであろう。その点、五百崎は何の問題もないと今は判断した。
「ところで、バンドをやっていると言ったな。軽音か」
「いや、大学の中ではないですね。よくある普通のV系ロックバンドで、私はベースをやってるんですけど」
「そうか」
ベースと聞いて某社畜……ツミツミの方ではなく長篠にいる方の社畜のことを思い出してしまったが、それとセットであの変態ドラマーの顔も出て来たので、今年の年末は穏やかに過ごしたいと切に願ってやまない。
「林原さんもDAWに興味あるような感じで。何かバンドとかやってるんです?」
「オレはこことは別に洋食屋のディナータイムにピアノを弾く仕事をしている。それから、去年の大学祭ではジャズバンドもやったし、今も一応バンド活動的なことをやっていると言えばやっている」
「へー! 音源とかあります!? 聞きたいんですけど!」
「去年の映像であれば高山が持っているはずだ」
「高山さんですね! ひゅーっ、忘れる前に深青に頼んどこ」
「高山とは顔見知りなのか」
「厳密には私じゃなくて弟が、です。弟のサークルの合宿? で高山さんのお世話になってたとかで。すげーロックで面白い人だって言ってたんで興味が湧いて昨日アポなし訪問を」
五百崎の言う節々にロックという単語が挟まっているのが気になるが、それが生き方なんかの話であれば、ここにいる連中は割と各々のロックとやらが溢れているだろう。それがまだ控えめな方の川北でさえもだ。もしかしなくてもコイツは働くことではなく面白い人間に興味があるだけだな。
end.
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ベーシスト変態説もあるけどナノスパでは何故かベーシストは社畜になりがち。塩見さんは厳密には社畜じゃないけど。
ベーシスト変態説について少し調べてたら、ドラマーは明るい変態でベーシストは暗い変態って書いてる記事があったのでブルースプリングだなと思いました
と言うか今回の話は節々に春山さんの影があったのでやっぱりそろそろ芋の季節なんだね! 早く押し寄せてくれんと各大学の話が進まん
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