2021(02)

■真っ直ぐ突き進んだ先には

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「すいません真希さんわざわざ」
「いや、突然あんなLINE送って来られたらねえ。直接話を聞かないとわかんないこともあるだろ?」

 バドサーを辞めるという文面で真希さんにLINEを送ったところ、一度ちゃんと話を聞かせろと呼び出されて現在に至っている。ただ、真希さんは山羽の実家に戻っていたとかで、俺の話を聞くためだけにわざわざ豊葦まで戻って来たというのだから、これは正直に全部話さなきゃなと思っているところだ。

「MMPの方に専念すんのかい?」
「そうですね。その方向でやっていくことにしました」
「まあ、決めたことだからねえ。何かきっかけでもあったかね、確か、この時期には合宿だっけか? そういうのもあるんだろ。それが楽しかったか」
「そうっすね。合宿自体はめちゃくちゃ楽しくて。友達もいっぱい出来たし、いろんな刺激も受けれたし、ラジオにはもっといろんな可能性があるなって思ったっす」
「それはよかった」
「それだけなら良かったんすけどね」

 バドサーとMMPの掛け持ち状態になってからもうすぐ3ヶ月。MMPの活動が思ったよりも楽しくて参加する割合もどんどんそっちに傾いて行ったっていうのもある。中途半端にバドサーに籍だけ残して、都合のいい時だけ行くのもなって、少し冷静になった今となってはそんな風に考えることもできる。
 俺がバドサーを辞めると決めたのは本当に短絡的な理由だ。萌香の顔を二度と見たくないという、それだけのこと。だけど、俺はアイツが合宿でやったことを本当に許せないし、アイツがバドサーを辞めてないのなら、そのことで俺がバドサーの空気を悪くするのも申し訳ないから。絶対に顔や態度に出ちまうし。

「インターフェイスの夏合宿の方で、萌香がいろんな大学のいろんな人に迷惑をかけまくったんすね。イケメンに付き纏ったり、気に入らない子に暴言吐いたり乱闘騒ぎを起こしたり。挙句合宿をブッチして番組をドタキャン? ふざけんなよって感じっす」
「正直、それを聞いても「あー、やったか」くらいで、あんま驚きはないんだわ」
「ホント、あんなヤツだってわかってれば最初から見学に来させなかったし、MMPの先輩にも迷惑被った人にも、いろんな人に申し訳なさすぎるっす」
「希がそこまで責任を感じることはないさ。あの子がやったことなんだから、あの子の責任だ」
「で、アイツは騒動を起こして合宿をブッチして、そのままMMPを辞めたんすね。俺はアイツの顔を二度と見たくないんで、勝手なんすけどバドの方を辞めさせてもらいます」
「それはそうとしてわかったよ。でも、表向きの理由はさっきの方にしときな。ラジオが楽しかったから専念したい。そうじゃないとそれこそMMPの人にも失礼だからね」
「わかりました」

 MMPの方では、さっそくオープンキャンパスで出すDJブースに向けた話し合いを始めますよというお知らせが出されたところだ。夏休みにもそんな風に活動があるのは嬉しいしワクワクする。合宿で学んだことをどうそこにぶち込んでやろうかと、今からじっくり考えておきたい。

「ただ、アンタがいなくなることで心配になるのは奏多だね」
「奏多っすか?」
「アイツは飄々として本心が分かりにくい奴だけどさ。アンタがいなくなると退屈しちまうんじゃないかってね」
「前原さんがいるんじゃないすか?」
「マエトモだって一応4年だからね。いてもあと半年だよ。マエトモに勝ち逃げされるか、奏多が先に勝つかの差ではあるだろうけど、目標が無くなった時にあの子はどうすんだろうって思ってね。希がいれば、適当にラリーでもやってりゃいいんだろうけど」
「ちなみに、真希さんから見て奏多は前原さんに勝てそうっすか? 勝ち筋っつーか、そういうのはあるんすか?」
「ああ見えてマエトモは強いからね。いや、奏多も強いけど、それでもまだアイツにフルで本気は出させてないからねえ。弱いなりにギャンブラーとしての勘みたいなモンがあるのか、妙~に戦術みたいなモンには長けてんだよな。相手の攻め方を理解すんのが早いっつーか。ロボコンもそれで上まで勝ち進むからな」
「へー、そういうのがあるんすね。前原さんの勝負勘みたいなモンは興味深いっす」
「アンタらって学部一緒だっけ?」
「いや、俺が環境で奏多が情報なんで違いますね」
「奏多が嫌だって言わなければ、これからも仲良くしてやってくれよ」
「それはもちろんっす」

 学部が違えば全然会わない、知り合わない人でもサークルという場で一緒になることで接点が出来る。俺はバドサーを辞めるけど、ここで出来た縁は残しておきたいなあと思うのはムシが良過ぎるかな。でも、場所が変わっても友達は友達だし先輩は先輩で後輩は後輩だ。奏多だけじゃなくて真希さんや前原さん、他の人とも顔を合わせれば挨拶はする。

「でも、確かに奏多ってよくわかんない奴ではあるんすよね。2コ上の余裕なんすかね?」
「なーに。何だかんだアイツは熱くて、優しいヤツだよ。飄々として斜に構えて見えるけど如何せん性根が真っ直ぐだから、マエトモの小賢しさに振り回されんだ。それがアタシから見た1コ下のかわいいトコだね」
「おおー、さすが真希さん、姐御」
「さてと。せっかく豊葦まで来たことだし、何か美味いモンでも食べて帰るかー」
「あっ、そういや実家から来てくれたんすよね、すみません」
「なに、山羽なんざ新幹線ですぐだよ」
「新幹線!? マジであざっした!」


end.


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ここからとうとうカノンがMMP一本に絞って活動していきます。オープンキャンパスでいろいろ思い出すぞ
こういうことを話せるのは真希ちゃんかなと思ったけど、よくよく考えたら真希の姐御も下宿生で実家にいるということを書き始めてから思い出すなど
カノンがいなくなった後の奏多のことも少し追ってみたいですね。今でもいたりいなかったりだけど、本当にいなくなった後のこと。

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