2021(02)
■夏の初心
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「――というわけで、今日から2週間の間、現段階で来春からの入社内定を出している中の希望者に研修とか体験という名目で実際の仕事をやってもらうことになりました」
そんな風に朝礼で所長からの話があって、真ん前に並ぶ3、4人の見慣れない顔を見る。その中には前に知り合った越野くんもいる。今回の職場研修は2週間という話で、希望者だけだからこれが全員というわけでもない。賃金は一般的なアルバイトと同じ額だけ出ますよーという話があって、それが元々いる従業員にも周知される。
この2週間の目玉は何と言っても棚卸。今日と明日の2日間で行われて、商品等の在庫の数量を確認するんだね。今日に至るまでは物凄~い量の出荷をしてきたんだけど(半日分の出荷量が通常の3日分だとか)、それが終わってからの参加になるみんなは出荷作業に携わるのが来月の2日からになるのかな。
「今日からは棚卸しということで、まずは在庫の数取りから始めていくのですが、数取りが終わって数読みに入ったら、研修の子たちは従業員とペアを組んで二人一組で回って下さい」
「所長、千景の扱いはどうなるんすか。コイツも一応新卒っすよね。最近は俺の補佐で新倉庫の仕事させてたんすけど、どうしたらいいっすかね」
「そうだなー、新卒同士でコミュニケーションも取って欲しいしなー。大石君は今回数読みの方に回ってもらって、誰か塩見君の相方で新倉庫に行ってもらって」
「俺がオミのペアで入ります」
「そうか。じゃあ宮本に頼む。そしたら、皆さんB棟の奥からスタートです」
一応はアルバイト従業員である俺の扱いが微妙なラインだったみたいだけど、今回は新卒枠で行くことになったみたい。でも従業員だから研修の子がわからないことを教えてあげてねって。最近は塩見さんにフォークリフトでの仕事を教えてもらっていて、新倉庫での仕事が多かった。それこそ棚卸に向けた整理整頓もしてたんだよね。
号令がかかると、棚卸し用のリストと鉛筆、それと消しゴムを手にわーっとみんなで散って行く。今回は新卒扱いになった俺は春には同期になる予定のみんなと合流をする。これから何が始まるんだろうとみんなそわそわしているみたいだ。確かに、棚卸なんて半期に1回だもんなあ。
「大石君はやっぱ棚卸もバッチリなの?」
「今回が7回目だから、ある程度はわかってるよ」
「さすが」
「越野くんは大学での勉強とかで、やること自体はわかってるんだよね」
「実際にやるのは初めてだから、この会社ではどんな風にやるのか気になるな」
「棚卸はまず各ロケーションに入って在庫の数を数えるんだ。次に、棚卸用のシールがあって、そこに予め数えた数を書いて、データ上の数と実際の数が合っているかどうか確認する」
「うんうん」
「端末で各ロケーションごとの数を入力して、入力したデータをプリントアウトして、最後にそのプリントアウトしたものが実数と同じかどうか目視でチェックして~っていう感じでやるのが向西倉庫の棚卸の流れだね。今日俺たちがやるのは主に最初の数読みで、ひたすら物の数を数える仕事になるよ」
それより先はお上の仕事になるし、本当はそれ以外にももっといろいろ仕事はあるんだよね。電卓を叩いてチェックする人とかもいるし。今日来ている来春卒の面々も、きっと全員が全員現場作業をする子ではないと思うけど、まずは現場作業を見てねっていう感じの2週間になるのかな。
「そしたら、1人1列数えてください。数は、箱がある製品の場合は箱の右上に、そうでない場合は出荷伝票の半券に書いてもらって、上に乗せてください」
B棟の奥っていうのが物凄く製品の数が多くて細かいんだよね。数えるのにも一苦労する場所だと知っているから、気が重い。俺はあまり細かい作業が得意ではないから、ちまちまと1枚、2枚、と数えていくのが憂鬱で。重い物を1つ2つと数えたり動かしたりするのは得意なんだけどな。
パートさんなんかはここのこともわかっているから、重労働の列をそれとなく研修組が入るような空気を作ってるよね。まあ、気持ちはわかるけど奥から順にやってかなきゃいけないし、うん、覚悟を決めて入ろう! うわー、細かいー。最近は塩見さんの手元としてケースばっかり扱ってたもんなー。
「大石君、やってく上で何かコツとかある?」
「えっとね、奥から順に若い品番で、1段目が終わったら真ん中の段、それが終わったら一番下の段っていう感じに並んでるから、その順に数えていけば漏れることは少ないかな。あと、この辺りは1つの箱にいろんなカラーとかサイズとかで入ってることがあるから、それだけ注意かなー」
「ありがとう。また何かあったら聞くわー」
「いつでもどうぞー」
俺の後ろで越野くんが製品を数えているのがわかる。俺はなるべく数字を口に出さないように慎重に数えよう。みんなが数えてる数字が混ざると自分の数えてる数がわかんなくなるんだよね。
「ふー、あつー……」
「ああ、ここは風が通らないしこの会社で1番暑いところだよ。40度は軽く超えて来るんじゃないかなあ」
「マジ!?」
「あ、だからしんどくなる前に水分と塩分は取りに行って大丈夫だからね」
end.
++++
こっしーら来春採用組の研修が始まりました。就活云々は10月がどうこう言ってるけどそんなモンは建て前やろの精神
ちーちゃんも今回は研修組に混ざってねーということでリフトのお仕事は一度お休み。塩見さんが主任さんとどう仕事しているのかも気になる。
まだまだ残暑は厳しいので風の通らない倉庫は暑いですね。棚卸が終わったらちーちゃんはその足でプールに行くんだろうな
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「――というわけで、今日から2週間の間、現段階で来春からの入社内定を出している中の希望者に研修とか体験という名目で実際の仕事をやってもらうことになりました」
そんな風に朝礼で所長からの話があって、真ん前に並ぶ3、4人の見慣れない顔を見る。その中には前に知り合った越野くんもいる。今回の職場研修は2週間という話で、希望者だけだからこれが全員というわけでもない。賃金は一般的なアルバイトと同じ額だけ出ますよーという話があって、それが元々いる従業員にも周知される。
この2週間の目玉は何と言っても棚卸。今日と明日の2日間で行われて、商品等の在庫の数量を確認するんだね。今日に至るまでは物凄~い量の出荷をしてきたんだけど(半日分の出荷量が通常の3日分だとか)、それが終わってからの参加になるみんなは出荷作業に携わるのが来月の2日からになるのかな。
「今日からは棚卸しということで、まずは在庫の数取りから始めていくのですが、数取りが終わって数読みに入ったら、研修の子たちは従業員とペアを組んで二人一組で回って下さい」
「所長、千景の扱いはどうなるんすか。コイツも一応新卒っすよね。最近は俺の補佐で新倉庫の仕事させてたんすけど、どうしたらいいっすかね」
「そうだなー、新卒同士でコミュニケーションも取って欲しいしなー。大石君は今回数読みの方に回ってもらって、誰か塩見君の相方で新倉庫に行ってもらって」
「俺がオミのペアで入ります」
「そうか。じゃあ宮本に頼む。そしたら、皆さんB棟の奥からスタートです」
一応はアルバイト従業員である俺の扱いが微妙なラインだったみたいだけど、今回は新卒枠で行くことになったみたい。でも従業員だから研修の子がわからないことを教えてあげてねって。最近は塩見さんにフォークリフトでの仕事を教えてもらっていて、新倉庫での仕事が多かった。それこそ棚卸に向けた整理整頓もしてたんだよね。
号令がかかると、棚卸し用のリストと鉛筆、それと消しゴムを手にわーっとみんなで散って行く。今回は新卒扱いになった俺は春には同期になる予定のみんなと合流をする。これから何が始まるんだろうとみんなそわそわしているみたいだ。確かに、棚卸なんて半期に1回だもんなあ。
「大石君はやっぱ棚卸もバッチリなの?」
「今回が7回目だから、ある程度はわかってるよ」
「さすが」
「越野くんは大学での勉強とかで、やること自体はわかってるんだよね」
「実際にやるのは初めてだから、この会社ではどんな風にやるのか気になるな」
「棚卸はまず各ロケーションに入って在庫の数を数えるんだ。次に、棚卸用のシールがあって、そこに予め数えた数を書いて、データ上の数と実際の数が合っているかどうか確認する」
「うんうん」
「端末で各ロケーションごとの数を入力して、入力したデータをプリントアウトして、最後にそのプリントアウトしたものが実数と同じかどうか目視でチェックして~っていう感じでやるのが向西倉庫の棚卸の流れだね。今日俺たちがやるのは主に最初の数読みで、ひたすら物の数を数える仕事になるよ」
それより先はお上の仕事になるし、本当はそれ以外にももっといろいろ仕事はあるんだよね。電卓を叩いてチェックする人とかもいるし。今日来ている来春卒の面々も、きっと全員が全員現場作業をする子ではないと思うけど、まずは現場作業を見てねっていう感じの2週間になるのかな。
「そしたら、1人1列数えてください。数は、箱がある製品の場合は箱の右上に、そうでない場合は出荷伝票の半券に書いてもらって、上に乗せてください」
B棟の奥っていうのが物凄く製品の数が多くて細かいんだよね。数えるのにも一苦労する場所だと知っているから、気が重い。俺はあまり細かい作業が得意ではないから、ちまちまと1枚、2枚、と数えていくのが憂鬱で。重い物を1つ2つと数えたり動かしたりするのは得意なんだけどな。
パートさんなんかはここのこともわかっているから、重労働の列をそれとなく研修組が入るような空気を作ってるよね。まあ、気持ちはわかるけど奥から順にやってかなきゃいけないし、うん、覚悟を決めて入ろう! うわー、細かいー。最近は塩見さんの手元としてケースばっかり扱ってたもんなー。
「大石君、やってく上で何かコツとかある?」
「えっとね、奥から順に若い品番で、1段目が終わったら真ん中の段、それが終わったら一番下の段っていう感じに並んでるから、その順に数えていけば漏れることは少ないかな。あと、この辺りは1つの箱にいろんなカラーとかサイズとかで入ってることがあるから、それだけ注意かなー」
「ありがとう。また何かあったら聞くわー」
「いつでもどうぞー」
俺の後ろで越野くんが製品を数えているのがわかる。俺はなるべく数字を口に出さないように慎重に数えよう。みんなが数えてる数字が混ざると自分の数えてる数がわかんなくなるんだよね。
「ふー、あつー……」
「ああ、ここは風が通らないしこの会社で1番暑いところだよ。40度は軽く超えて来るんじゃないかなあ」
「マジ!?」
「あ、だからしんどくなる前に水分と塩分は取りに行って大丈夫だからね」
end.
++++
こっしーら来春採用組の研修が始まりました。就活云々は10月がどうこう言ってるけどそんなモンは建て前やろの精神
ちーちゃんも今回は研修組に混ざってねーということでリフトのお仕事は一度お休み。塩見さんが主任さんとどう仕事しているのかも気になる。
まだまだ残暑は厳しいので風の通らない倉庫は暑いですね。棚卸が終わったらちーちゃんはその足でプールに行くんだろうな
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