2021(02)
■期待と信頼
++++
「ゲンゴロー、今から番組15分増やせる?」
「構成は?」
「よくある15分番組だね。オープニングからM1、T1、M2、T2、M3でエンディングっていう」
「それなら出来るよ。音源は?」
「ぜーんぶハナが持ってるから大丈夫」
夏合宿2日目。1日目のモニター会が始まって、今日は1班から3班までの番組を聞いた。3年生の先輩も何人かモニター会を見に来ていて、いよいよ本番だという空気になっていくのを肌で感じていた。だけど、俺の班は急遽番組に変更がかかるということで、モニター会終わりの時間に緊急打ち合わせをすることになった。
元々お風呂の時間以降は自由時間ということで何をしててもいいっていう時間ではあるんだけど、基本は番組の打ち合わせのための時間。でも今日は番組を終えた3班までの人たちが羽を伸ばしていて。それをエージ先輩や高木先輩が見回って雷を落としたりチクっと刺したりして戒めてたんだけど。それを後目に大研修室に行った俺たちだ。
「ゲンゴロー、調子はどう?」
「あ、タカティ。見回り?」
「うん。ああ、俺のことは石ころか何かと思ってもらって」
「そしたらハナちゃん、実際に合わせてみようかー」
「お願いしまーす」
俺の班の番組の何がどう変わったのかと言うと、厳密には何も変わっていないのかもしれない。ただ、班員の萌香がトラブルを起こして(それもみちるとの乱闘騒ぎというなかなか激しめのヤツで)合宿をリタイア、帰ってしまったんだ。それで萌香が担当する予定だったハナ先輩の15分を急遽ゲンゴロー先輩がカバーすることになった。
だけど、元々萌香は班の打ち合わせにも最初の1回以外来てなかったし、ハナ先輩とのペア打ち合わせには1回か2回来てたらしいけど、番組のことは全然やってなかったそうだから、結局のところはこうなっていたのかもしれない。それはそうとして、大きな変更ということで急遽機材を使わせてもらっている。
「高木先輩、くるみの様子はどうですか」
「少し考え込んでたりとか落ち込んでる様子はあったけど、今は班の子や他のMBCCの子たちと楽しそうにはしてたよ」
「そうですか。それならいいんです」
「サキさまはお友達思いですのね」
「エマ。だから、さまはやめてってば」
「あはは。でも、そうだね。サキはウチのサークルでもくるみとすがやんと特に仲が良いからね」
「でも、番組はどうなるんだろう……俺とエマとサキは何の変更もないけど、ゲンゴロー先輩とハナ先輩、大丈夫なのかな」
「大丈夫だよ。ゲンゴローは1年の時から難しい構成をこなしたり、突拍子もない要求に応え続けて来てるから。ハナちゃんとどう合わせるかを確認する程度で十分行けるよ」
「そうなんですか」
七海の心配に、高木先輩はゲンゴロー先輩なら大丈夫だとはっきり答えた。確かに、2年生の先輩からすれば夏合宿でよくある構成ならキューシートがあれば触りの確認程度でやれてしまうのかもしれない。でも、いくら同じ2年生のミキサー同士でも誰がどれくらいの腕で、みたいなことはみんな把握してる物なのかな。
「あの、高木先輩。ちょっと聞いていいですか」
「うん。何?」
「先輩たちって、インターフェイスに出てる人の、誰がどういうタイプで~みたいなことをみんな把握してたりするんですか」
「合宿の番組で印象に残って、それで定着する人もいるし、インターフェイスの活動によく出て来る人なら本当にどういうタイプの人かっていうのはわかるようになるね」
「それでゲンゴロー先輩への信頼になってるっていう感じですか」
「言ってなかったっけ。去年、俺とゲンゴローは夏合宿で一緒の班だったんだよ」
「そうだったんですか」
「まあ。でしたら、先輩方は盟友でいらっしゃるのですね」
「そう言えば聞こえはいいね。去年、ゲンゴローがミキサーの練習をどれだけ頑張ってたかとかも見て来てるし……エイジと星ヶ丘の戸田先輩が事前に萌香のことを話したときに言ってたそうなんだけど、ここをどうするかでゲンゴローの手腕じゃないけど、そういう物がわかるからって。次の段階に行くためには確実に越えなきゃいけないところなんだって」
次の段階というのがどういうことなのかはすぐにはピンと来なかったけど、きっと2年生にはそういうのがあるのかもしれない。何にせよ、ゲンゴロー先輩は何かを期待されているらしいということはわかった。
「何にせよ、ゲンゴローはどんなに変わった構成でも、それがいつ投げられても絶対打ち返すミキサーだから。班長としてはわかんないけど、ミキサーとしては安心して大丈夫」
「……そうですね。エマ、俺たちも打ち合わせする? 最終確認」
「ええ。ぜひ」
「えー! ちょっと、俺はどうしたらいいのー!」
「あー、七海、もうちょっと待ってて! ハナちゃんとの話が一段落したらそっち行くから!」
「よかったぁ~。これで打ち合わせしてもらえなかったらどうしようかと思った」
「それじゃあ、俺はこの辺で。お邪魔しました」
「お疲れさまです」
「あっ、タカティ! 10時半になったら呼びに来て!」
「わかったよ」
ゲンゴロー先輩は大変だと思うけど、みんな薄々こうなりそうだとは思ってたし、正直誰も動じてはなかったんだよね。だから、今は明日の番組に向けて淡々と打ち合わせるだけ。むしろ、機材を使えることになった利を生かしていかないと。
end.
++++
ゲンゴローの話のつもりで書いてたのにいつの間にかサキの話になってたので1年生こわい。
萌香リタイア後のゲンゴロー班、番組の打ち合わせの光景ですが、見回りに来たTKGとサキが話してるだけだなこれ(ナノスパあるある)
くるみのことを気にかけてるサキは不愛想に見えるけど友達思いだぞ! くるちゃんは4班メンバーやすがやん、あと青敬勢が励ましてたような感じなのかな
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「ゲンゴロー、今から番組15分増やせる?」
「構成は?」
「よくある15分番組だね。オープニングからM1、T1、M2、T2、M3でエンディングっていう」
「それなら出来るよ。音源は?」
「ぜーんぶハナが持ってるから大丈夫」
夏合宿2日目。1日目のモニター会が始まって、今日は1班から3班までの番組を聞いた。3年生の先輩も何人かモニター会を見に来ていて、いよいよ本番だという空気になっていくのを肌で感じていた。だけど、俺の班は急遽番組に変更がかかるということで、モニター会終わりの時間に緊急打ち合わせをすることになった。
元々お風呂の時間以降は自由時間ということで何をしててもいいっていう時間ではあるんだけど、基本は番組の打ち合わせのための時間。でも今日は番組を終えた3班までの人たちが羽を伸ばしていて。それをエージ先輩や高木先輩が見回って雷を落としたりチクっと刺したりして戒めてたんだけど。それを後目に大研修室に行った俺たちだ。
「ゲンゴロー、調子はどう?」
「あ、タカティ。見回り?」
「うん。ああ、俺のことは石ころか何かと思ってもらって」
「そしたらハナちゃん、実際に合わせてみようかー」
「お願いしまーす」
俺の班の番組の何がどう変わったのかと言うと、厳密には何も変わっていないのかもしれない。ただ、班員の萌香がトラブルを起こして(それもみちるとの乱闘騒ぎというなかなか激しめのヤツで)合宿をリタイア、帰ってしまったんだ。それで萌香が担当する予定だったハナ先輩の15分を急遽ゲンゴロー先輩がカバーすることになった。
だけど、元々萌香は班の打ち合わせにも最初の1回以外来てなかったし、ハナ先輩とのペア打ち合わせには1回か2回来てたらしいけど、番組のことは全然やってなかったそうだから、結局のところはこうなっていたのかもしれない。それはそうとして、大きな変更ということで急遽機材を使わせてもらっている。
「高木先輩、くるみの様子はどうですか」
「少し考え込んでたりとか落ち込んでる様子はあったけど、今は班の子や他のMBCCの子たちと楽しそうにはしてたよ」
「そうですか。それならいいんです」
「サキさまはお友達思いですのね」
「エマ。だから、さまはやめてってば」
「あはは。でも、そうだね。サキはウチのサークルでもくるみとすがやんと特に仲が良いからね」
「でも、番組はどうなるんだろう……俺とエマとサキは何の変更もないけど、ゲンゴロー先輩とハナ先輩、大丈夫なのかな」
「大丈夫だよ。ゲンゴローは1年の時から難しい構成をこなしたり、突拍子もない要求に応え続けて来てるから。ハナちゃんとどう合わせるかを確認する程度で十分行けるよ」
「そうなんですか」
七海の心配に、高木先輩はゲンゴロー先輩なら大丈夫だとはっきり答えた。確かに、2年生の先輩からすれば夏合宿でよくある構成ならキューシートがあれば触りの確認程度でやれてしまうのかもしれない。でも、いくら同じ2年生のミキサー同士でも誰がどれくらいの腕で、みたいなことはみんな把握してる物なのかな。
「あの、高木先輩。ちょっと聞いていいですか」
「うん。何?」
「先輩たちって、インターフェイスに出てる人の、誰がどういうタイプで~みたいなことをみんな把握してたりするんですか」
「合宿の番組で印象に残って、それで定着する人もいるし、インターフェイスの活動によく出て来る人なら本当にどういうタイプの人かっていうのはわかるようになるね」
「それでゲンゴロー先輩への信頼になってるっていう感じですか」
「言ってなかったっけ。去年、俺とゲンゴローは夏合宿で一緒の班だったんだよ」
「そうだったんですか」
「まあ。でしたら、先輩方は盟友でいらっしゃるのですね」
「そう言えば聞こえはいいね。去年、ゲンゴローがミキサーの練習をどれだけ頑張ってたかとかも見て来てるし……エイジと星ヶ丘の戸田先輩が事前に萌香のことを話したときに言ってたそうなんだけど、ここをどうするかでゲンゴローの手腕じゃないけど、そういう物がわかるからって。次の段階に行くためには確実に越えなきゃいけないところなんだって」
次の段階というのがどういうことなのかはすぐにはピンと来なかったけど、きっと2年生にはそういうのがあるのかもしれない。何にせよ、ゲンゴロー先輩は何かを期待されているらしいということはわかった。
「何にせよ、ゲンゴローはどんなに変わった構成でも、それがいつ投げられても絶対打ち返すミキサーだから。班長としてはわかんないけど、ミキサーとしては安心して大丈夫」
「……そうですね。エマ、俺たちも打ち合わせする? 最終確認」
「ええ。ぜひ」
「えー! ちょっと、俺はどうしたらいいのー!」
「あー、七海、もうちょっと待ってて! ハナちゃんとの話が一段落したらそっち行くから!」
「よかったぁ~。これで打ち合わせしてもらえなかったらどうしようかと思った」
「それじゃあ、俺はこの辺で。お邪魔しました」
「お疲れさまです」
「あっ、タカティ! 10時半になったら呼びに来て!」
「わかったよ」
ゲンゴロー先輩は大変だと思うけど、みんな薄々こうなりそうだとは思ってたし、正直誰も動じてはなかったんだよね。だから、今は明日の番組に向けて淡々と打ち合わせるだけ。むしろ、機材を使えることになった利を生かしていかないと。
end.
++++
ゲンゴローの話のつもりで書いてたのにいつの間にかサキの話になってたので1年生こわい。
萌香リタイア後のゲンゴロー班、番組の打ち合わせの光景ですが、見回りに来たTKGとサキが話してるだけだなこれ(ナノスパあるある)
くるみのことを気にかけてるサキは不愛想に見えるけど友達思いだぞ! くるちゃんは4班メンバーやすがやん、あと青敬勢が励ましてたような感じなのかな
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