2021(02)
■コミュニケーションの方向
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いよいよインターフェイス夏合宿が始まって、1日目は交流や初心者講習会より少し踏み込んだ講習をしていくんだそうだ。講師はイベントMCやDJなんかの仕事をしている向島のOBの先輩で、去年の合宿でも講師をしていた人らしい。それだけあって、最初の全体講習もとても聞きやすいなあと思った。
それが終わって奇数班と偶数班に分かれてパート別講習の時間になると、講師のダイさんが招集したという同じく向島のOBの村井さんという人が現れて、俺たちに紙を配り始めた。ミキサーは伝統的にペーパーテストをやるとかで、ミキサーの何をどう理解しているかを問うんだそうだ。
合宿まで来てまさかのペーパーテストなのかとも思ったけど、何が理解出来ていて何が理解出来ていないのかを知っていないと練習や勉強することもわかんないからなーと言われれば、そうなのかなという気にはなる。あと、テストは別に嫌いじゃないからまあ。シノはわーわー言ってたけど。
「サキ君」
「はい。ああ、彩人」
講習が終わると、星ヶ丘の彩人が話しかけて来た。彩人とはテストが終わった後にも少し話していて、シノと一緒にテストがああだこうだということを振り返ったりしていた。初心者講習会の時に近くの席に座ったのがきっかけでシノから無理矢理挨拶をさせられて知り合ったんだけど、あの時知り合っていて良かったなと思う。今話しやすいから。
「講習、面白かったけど俺にはちょっと難しかったな」
「ああ、普段はミキサーじゃないんだっけ」
「そう。星ヶ丘でのパートはプロデューサー。ステージの台本を書いたり、構成を考えたりして演出するのが主な役割」
「そういうさ、星ヶ丘特有のパートってあるじゃない」
「PとDな」
「うん。そういう人たちって、どうやってインターフェイスで出るパートを決めるの?」
「俺の場合は構成を考える勉強をするためにミキサーを選んだかな。4年生のPの先輩はアナウンサーで出てたらしいんだけど、その人は自分もステージに立つ機会がないワケじゃなかったからってアナウンサーでやってたっぽい。で、1班の荒川みちるは班じゃディレクターなんだけど、機材を扱うためにミキサー、みたいな?」
「ふーん。その人がステージで何をやりたいかで決めるような感じなんだね」
「そうっすね。結局のところ、アナミキ関係なく何でもバランスよく出来るようになっとかないとPは厳しいぞとは言われてるんすけどね」
学校が違うと何をメインに活動しているかや、パートごとにやることも全然違ってくるらしい。星ヶ丘だけじゃなくて星大でもプロデューサーとディレクターを加えた4パート制らしいんだけど、ここは長い番組を集中して作っていたときの名残でそんな感じになっているとは七海から聞いた。
「サキ君はテスト結構自信あったみたいだし、実際の番組も自信あるような感じ?」
「あー……まあ、人並みには出来ると思うけど、どうだろうね」
「緑大の子ってラジオエリートみたいな感じでみんな1年相手なんでしょ。リードすることを求められてるって言うか」
「エリートかどうかはともかく、確かにみんなペアの相手は1年生だね」
「こんにちはぁ~」
「ん?」
彩人と話しているところに、萌香が入って来た。正直、この人は班の打ち合わせにも来ないしよくわからない。やる気がないっていうのは確かなんだろうけど。合宿にも来ないんだろうなって思ってたけど、当日になってみると、来たからびっくりしたよね。今まで何もして来なかったのに、今更何しに来たんだろうって。
「どこの大学から出て来てるんですか~? 私ともお話しません? 彼女とかいる? すっごいイケメンですよね!」
「あ、えーと」
「そっちの人、今までずっと話してたんだからもういいよね。次は私の番だから」
「……サキ君、ちょっとゴメン、マジで助けて」
「大丈夫? 顔色悪いよ」
「え~っ!? 大丈夫~!? ほら、具合悪いのにアンタが無理に引き留めるから!」
萌香が何を言っているのかよくわからないけど、彩人と話したいのかな。何て言うか、今まで打ち合わせとかで何回か見てるのが不貞腐れたような態度だったから、かわいこぶってるなって感が強い。でも彩人は本当に心配だ。顔色が悪くなったのも本当に急だし、今の今まで普通に話してたと思ったのに。萌香は彩人の腕を掴んで、背中をさすっている。
「彩人、大丈夫?」
「あ、ゴローさん」
「具合悪いなら一回トイレとか行くと気分転換になるかも」
「そーすね。そーします」
「サキもごめんね」
「いえ」
「ほら彩人、しっかり」
「ねー、班長さんこの人の何ー!? 今は私の番なんですけど!」
「ゲンゴロー先輩は星ヶ丘の人だよ。同じ大学から出てる1年の様子に目を配るのも仕事のうちでしょ」
「ちんちくりんのクセに生意気なんですけどー。アタシが相手してくれないからってイジケないでもらえますー?」
「別に相手しなくていいよ。得る物もないし」
「は!? ムカつくんですけど! もー、あのイケメン帰って来たら絶対捕まえる!」
「やめた方がいいよ。気分悪い時に騒がしくされたら普通にしんどいでしょ」
俺が何か言うと二言目には必ず「ちんちくりんのクセに」だから呆れるしかないね。他に言うことないのかな。俺をディスってるんだろうけど平均的な男子より小さいのは自覚してるし別に何のダメージもないんだけどね。
「サキ、彩人どこ行った? さっきまで話してただろ」
「ああ、ササ。何か急に具合悪くなったみたくて、ゲンゴロー先輩に連れられて部屋の方に戻っていったよ」
end.
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とりあえずサキと彩人をきゃいきゃいさせたかったんですよ。実は似たところもある2人が合宿でちょっと交流する的な。
そうなるとまあこうなるよなあ。萌香は自分好みのイケメン以外に興味ないのでサキはそこの人とかちんちくりん扱いになる。班長さんは一応班長さんらしい。
怪しい女の情報は前もって入ってたから、事情通による包囲網が敷かれてたぞ! その点ではハナちゃんがキレ散らかしたのもある意味ファインプレー?
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いよいよインターフェイス夏合宿が始まって、1日目は交流や初心者講習会より少し踏み込んだ講習をしていくんだそうだ。講師はイベントMCやDJなんかの仕事をしている向島のOBの先輩で、去年の合宿でも講師をしていた人らしい。それだけあって、最初の全体講習もとても聞きやすいなあと思った。
それが終わって奇数班と偶数班に分かれてパート別講習の時間になると、講師のダイさんが招集したという同じく向島のOBの村井さんという人が現れて、俺たちに紙を配り始めた。ミキサーは伝統的にペーパーテストをやるとかで、ミキサーの何をどう理解しているかを問うんだそうだ。
合宿まで来てまさかのペーパーテストなのかとも思ったけど、何が理解出来ていて何が理解出来ていないのかを知っていないと練習や勉強することもわかんないからなーと言われれば、そうなのかなという気にはなる。あと、テストは別に嫌いじゃないからまあ。シノはわーわー言ってたけど。
「サキ君」
「はい。ああ、彩人」
講習が終わると、星ヶ丘の彩人が話しかけて来た。彩人とはテストが終わった後にも少し話していて、シノと一緒にテストがああだこうだということを振り返ったりしていた。初心者講習会の時に近くの席に座ったのがきっかけでシノから無理矢理挨拶をさせられて知り合ったんだけど、あの時知り合っていて良かったなと思う。今話しやすいから。
「講習、面白かったけど俺にはちょっと難しかったな」
「ああ、普段はミキサーじゃないんだっけ」
「そう。星ヶ丘でのパートはプロデューサー。ステージの台本を書いたり、構成を考えたりして演出するのが主な役割」
「そういうさ、星ヶ丘特有のパートってあるじゃない」
「PとDな」
「うん。そういう人たちって、どうやってインターフェイスで出るパートを決めるの?」
「俺の場合は構成を考える勉強をするためにミキサーを選んだかな。4年生のPの先輩はアナウンサーで出てたらしいんだけど、その人は自分もステージに立つ機会がないワケじゃなかったからってアナウンサーでやってたっぽい。で、1班の荒川みちるは班じゃディレクターなんだけど、機材を扱うためにミキサー、みたいな?」
「ふーん。その人がステージで何をやりたいかで決めるような感じなんだね」
「そうっすね。結局のところ、アナミキ関係なく何でもバランスよく出来るようになっとかないとPは厳しいぞとは言われてるんすけどね」
学校が違うと何をメインに活動しているかや、パートごとにやることも全然違ってくるらしい。星ヶ丘だけじゃなくて星大でもプロデューサーとディレクターを加えた4パート制らしいんだけど、ここは長い番組を集中して作っていたときの名残でそんな感じになっているとは七海から聞いた。
「サキ君はテスト結構自信あったみたいだし、実際の番組も自信あるような感じ?」
「あー……まあ、人並みには出来ると思うけど、どうだろうね」
「緑大の子ってラジオエリートみたいな感じでみんな1年相手なんでしょ。リードすることを求められてるって言うか」
「エリートかどうかはともかく、確かにみんなペアの相手は1年生だね」
「こんにちはぁ~」
「ん?」
彩人と話しているところに、萌香が入って来た。正直、この人は班の打ち合わせにも来ないしよくわからない。やる気がないっていうのは確かなんだろうけど。合宿にも来ないんだろうなって思ってたけど、当日になってみると、来たからびっくりしたよね。今まで何もして来なかったのに、今更何しに来たんだろうって。
「どこの大学から出て来てるんですか~? 私ともお話しません? 彼女とかいる? すっごいイケメンですよね!」
「あ、えーと」
「そっちの人、今までずっと話してたんだからもういいよね。次は私の番だから」
「……サキ君、ちょっとゴメン、マジで助けて」
「大丈夫? 顔色悪いよ」
「え~っ!? 大丈夫~!? ほら、具合悪いのにアンタが無理に引き留めるから!」
萌香が何を言っているのかよくわからないけど、彩人と話したいのかな。何て言うか、今まで打ち合わせとかで何回か見てるのが不貞腐れたような態度だったから、かわいこぶってるなって感が強い。でも彩人は本当に心配だ。顔色が悪くなったのも本当に急だし、今の今まで普通に話してたと思ったのに。萌香は彩人の腕を掴んで、背中をさすっている。
「彩人、大丈夫?」
「あ、ゴローさん」
「具合悪いなら一回トイレとか行くと気分転換になるかも」
「そーすね。そーします」
「サキもごめんね」
「いえ」
「ほら彩人、しっかり」
「ねー、班長さんこの人の何ー!? 今は私の番なんですけど!」
「ゲンゴロー先輩は星ヶ丘の人だよ。同じ大学から出てる1年の様子に目を配るのも仕事のうちでしょ」
「ちんちくりんのクセに生意気なんですけどー。アタシが相手してくれないからってイジケないでもらえますー?」
「別に相手しなくていいよ。得る物もないし」
「は!? ムカつくんですけど! もー、あのイケメン帰って来たら絶対捕まえる!」
「やめた方がいいよ。気分悪い時に騒がしくされたら普通にしんどいでしょ」
俺が何か言うと二言目には必ず「ちんちくりんのクセに」だから呆れるしかないね。他に言うことないのかな。俺をディスってるんだろうけど平均的な男子より小さいのは自覚してるし別に何のダメージもないんだけどね。
「サキ、彩人どこ行った? さっきまで話してただろ」
「ああ、ササ。何か急に具合悪くなったみたくて、ゲンゴロー先輩に連れられて部屋の方に戻っていったよ」
end.
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とりあえずサキと彩人をきゃいきゃいさせたかったんですよ。実は似たところもある2人が合宿でちょっと交流する的な。
そうなるとまあこうなるよなあ。萌香は自分好みのイケメン以外に興味ないのでサキはそこの人とかちんちくりん扱いになる。班長さんは一応班長さんらしい。
怪しい女の情報は前もって入ってたから、事情通による包囲網が敷かれてたぞ! その点ではハナちゃんがキレ散らかしたのもある意味ファインプレー?
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