2021(02)
■0歩物産展
++++
「慧梨夏、荷物届いたぞ」
「あっ、本当。誰からかな~」
宅配便で慧梨夏宛の荷物が3つ届いた。結構な大きさの箱だったけど、通販で買ったような梱包の仕方じゃなかったし、送り状に書いてある送り主が個人っぽい感じだったからそれこそ個人の贈り物なのだろう。全国各地に散らばった送り主の住所を深く突っ込んではいけない。
梱包された箱を丁寧に開けて確認していくと、中からは駅のお土産屋なんかで売っていそうな箱がいくつも出て来た。どの箱からも同じようにだ。一瞬にして部屋が物産展のようになってしまったけど、慧梨夏は箱の中に入っていた手紙の方を先に読んでいて、これらの箱にはまだ手を付けない。
「何かすげーのな。どこも行ってねーのに土産だけこんだけ積まれてるとか。どうしたんだこれ」
「これはねえ、同人関係の友達と各々の地方の名産品だとか定番のお土産を送り合いましょうっていうやり取りだね。ほら、イベントとか行くと差し入れの体でちょっとしたお菓子をバラ撒いてるんだけどさ、あれが美味しいからまた食べたいな~みたいな話になるじゃん」
「まあ、よくわかんないけどそういう話になるのな?」
「そう。で、うちはうちで向島の定番土産なんかを詰めて送ってるし、そうやって他の人から送られてきたのがこれらです」
「何か、こうして見ると同人友達ってすげーな。全国各地に知り合いがいるっていうのが」
俺は向島エリアの外に出るっていう経験をしたことがあんまないんだよな。京子さんの実家、つかじっちゃん家も近所だし。それは慧梨夏も同じだけど、同人趣味で全国をいろいろ歩きまわってる分知り合いも多くなるし、その土地の美味いモンとかをたくさん知ってるんだろうなとは。
「ああ、それでねカズ」
「ん?」
「荷物の多くが今日届くことになってるからアヤちゃん呼んでるんだよ。一緒にお土産分けようって話になってて」
「ああ、そうなのか。でもまあそうだよな。この量をお前1人で食ったらそれこそドレス着れなくなっちまう」
「それ! ほら、うち彼氏の存在をオープンにしてるからお土産も2人分からなんだよ。手紙読んでても彼氏さんと一緒にどうぞって」
「あー……それはどうも」
恋人なり配偶者を“相方”とか“同居人”って呼び方するのはちょっとねえ、というのが慧梨夏のスタイルらしい。身バレだとか、そういう情報が要らないという人に対する配慮とか、あと空気感とかでそんな風に呼ぶようになったのかな、と慧梨夏は推測するけど、正直俺には縁遠い世界の慣習だなと思う。
「で、アヤさん来るっつっても今日はお土産あるから何も作らなくていいだろ?」
「そうね。何ならアヤちゃんもお土産持って来るって言ってたから」
「えっ、手で?」
「手で。アヤちゃん地元山羽だし、そこまでムリな距離感でもないからね」
「それもそうか」
今日は精々紅茶の準備くらいにとどめておこうか。いつもはケーキとか簡単なお菓子を作っておくんだけど。とりあえず、中身の確認のために広げるだけ広げて床一面に散らばったお土産を、地方と言うか送ってくれた人ごとに分類して、アヤさんにも紹介しやすくしておく必要はありそうだ。
「こんにちはー! たまちゃーん、来たよー!」
「あー、アヤちゃん暑かったよねー!」
「あっ、カズさんもこんにちは! これ、実家のお土産なんで良かったらお2人でどうぞ」
「ありがとう。今お茶淹れるね」
「すみませんいつもいつも~。あっ、たまちゃんこれ? フォロワーさんとのお土産交換の山!」
「そうそう、これ! ホントにさっき届いて確認したばっかなんだけどさ、アヤちゃんも一緒に食べよ」
山積みになった箱の中から最初はどれがいいかなーって選んでる様は微笑ましい。俺はと言えば、アイスティーを人数分淹れて、2人が見てない箱から適当に見ていく。本当にいろいろあるなあと思う。
駅とかで売ってるお土産って、安いバラ撒き用のヤツは正直似たようなお菓子なんだよな。その中にいかにその土地らしさを出していくかというのは本当に難しいだろうし、似たような物の中でもこれと言えばここのエリアのこれみたいな物になれれば強いんだろうなとは。
「でもさあ、これだけまとまった休みって大学生が最後じゃん、よっぽどのことが無い限りは」
「一般企業に就職して普通に働くとなると、そうなるよねえ」
「つまりだよ。アヤちゃんはあと2年あるけど、うちは4年だからこの夏休みと春休みしか残されてないんだよ、大きな休みが。この余りある時間にうちは何をするべきだと思う?」
「そりゃあ、書けるだけの原稿を書くことでは?」
「ですよねえ! それで貴重な休みでイベントに出てっていう生活ですよ!」
「就職しても同人活動をやめる気はないのな」
「むしろなんでそれでやめると思うの?」
「いや、やめるとは言ってねーし思ってもねーよ」
と言うか、春休みにあんまりにもそれをやられるとマズい。その頃には籍を入れて新居に引っ越して~みたいな感じで新生活に向けた準備をしたり、新婚旅行に行く予定になってるんだ。まあ、それも大学生ならではの長期休みだからこそ出来ることっつって計画をしてるんだけど。同人活動だけじゃなくて現実の方にも目を向けていただいてですね。
「あっ。カズ、この中にうどんあるんだけど」
「乾麺だな」
「これ食べたい」
「作らせていただきますよ」
end.
++++
困った時のいちえりちゃん。そう言えば、慧梨夏ってこういう休みでも実家にあんまり帰らない方なのかしら。
春休みの計画についてはある程度きっちり考えているはずのいち氏。新しい暮らしが始まるわけだからね。その辺のことはこの人がちゃんとしている。
時期的には慧梨夏も遠征帰りとかになるのかしら。ナノスパは大きなイベントもやってるはずの世界線だから
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「慧梨夏、荷物届いたぞ」
「あっ、本当。誰からかな~」
宅配便で慧梨夏宛の荷物が3つ届いた。結構な大きさの箱だったけど、通販で買ったような梱包の仕方じゃなかったし、送り状に書いてある送り主が個人っぽい感じだったからそれこそ個人の贈り物なのだろう。全国各地に散らばった送り主の住所を深く突っ込んではいけない。
梱包された箱を丁寧に開けて確認していくと、中からは駅のお土産屋なんかで売っていそうな箱がいくつも出て来た。どの箱からも同じようにだ。一瞬にして部屋が物産展のようになってしまったけど、慧梨夏は箱の中に入っていた手紙の方を先に読んでいて、これらの箱にはまだ手を付けない。
「何かすげーのな。どこも行ってねーのに土産だけこんだけ積まれてるとか。どうしたんだこれ」
「これはねえ、同人関係の友達と各々の地方の名産品だとか定番のお土産を送り合いましょうっていうやり取りだね。ほら、イベントとか行くと差し入れの体でちょっとしたお菓子をバラ撒いてるんだけどさ、あれが美味しいからまた食べたいな~みたいな話になるじゃん」
「まあ、よくわかんないけどそういう話になるのな?」
「そう。で、うちはうちで向島の定番土産なんかを詰めて送ってるし、そうやって他の人から送られてきたのがこれらです」
「何か、こうして見ると同人友達ってすげーな。全国各地に知り合いがいるっていうのが」
俺は向島エリアの外に出るっていう経験をしたことがあんまないんだよな。京子さんの実家、つかじっちゃん家も近所だし。それは慧梨夏も同じだけど、同人趣味で全国をいろいろ歩きまわってる分知り合いも多くなるし、その土地の美味いモンとかをたくさん知ってるんだろうなとは。
「ああ、それでねカズ」
「ん?」
「荷物の多くが今日届くことになってるからアヤちゃん呼んでるんだよ。一緒にお土産分けようって話になってて」
「ああ、そうなのか。でもまあそうだよな。この量をお前1人で食ったらそれこそドレス着れなくなっちまう」
「それ! ほら、うち彼氏の存在をオープンにしてるからお土産も2人分からなんだよ。手紙読んでても彼氏さんと一緒にどうぞって」
「あー……それはどうも」
恋人なり配偶者を“相方”とか“同居人”って呼び方するのはちょっとねえ、というのが慧梨夏のスタイルらしい。身バレだとか、そういう情報が要らないという人に対する配慮とか、あと空気感とかでそんな風に呼ぶようになったのかな、と慧梨夏は推測するけど、正直俺には縁遠い世界の慣習だなと思う。
「で、アヤさん来るっつっても今日はお土産あるから何も作らなくていいだろ?」
「そうね。何ならアヤちゃんもお土産持って来るって言ってたから」
「えっ、手で?」
「手で。アヤちゃん地元山羽だし、そこまでムリな距離感でもないからね」
「それもそうか」
今日は精々紅茶の準備くらいにとどめておこうか。いつもはケーキとか簡単なお菓子を作っておくんだけど。とりあえず、中身の確認のために広げるだけ広げて床一面に散らばったお土産を、地方と言うか送ってくれた人ごとに分類して、アヤさんにも紹介しやすくしておく必要はありそうだ。
「こんにちはー! たまちゃーん、来たよー!」
「あー、アヤちゃん暑かったよねー!」
「あっ、カズさんもこんにちは! これ、実家のお土産なんで良かったらお2人でどうぞ」
「ありがとう。今お茶淹れるね」
「すみませんいつもいつも~。あっ、たまちゃんこれ? フォロワーさんとのお土産交換の山!」
「そうそう、これ! ホントにさっき届いて確認したばっかなんだけどさ、アヤちゃんも一緒に食べよ」
山積みになった箱の中から最初はどれがいいかなーって選んでる様は微笑ましい。俺はと言えば、アイスティーを人数分淹れて、2人が見てない箱から適当に見ていく。本当にいろいろあるなあと思う。
駅とかで売ってるお土産って、安いバラ撒き用のヤツは正直似たようなお菓子なんだよな。その中にいかにその土地らしさを出していくかというのは本当に難しいだろうし、似たような物の中でもこれと言えばここのエリアのこれみたいな物になれれば強いんだろうなとは。
「でもさあ、これだけまとまった休みって大学生が最後じゃん、よっぽどのことが無い限りは」
「一般企業に就職して普通に働くとなると、そうなるよねえ」
「つまりだよ。アヤちゃんはあと2年あるけど、うちは4年だからこの夏休みと春休みしか残されてないんだよ、大きな休みが。この余りある時間にうちは何をするべきだと思う?」
「そりゃあ、書けるだけの原稿を書くことでは?」
「ですよねえ! それで貴重な休みでイベントに出てっていう生活ですよ!」
「就職しても同人活動をやめる気はないのな」
「むしろなんでそれでやめると思うの?」
「いや、やめるとは言ってねーし思ってもねーよ」
と言うか、春休みにあんまりにもそれをやられるとマズい。その頃には籍を入れて新居に引っ越して~みたいな感じで新生活に向けた準備をしたり、新婚旅行に行く予定になってるんだ。まあ、それも大学生ならではの長期休みだからこそ出来ることっつって計画をしてるんだけど。同人活動だけじゃなくて現実の方にも目を向けていただいてですね。
「あっ。カズ、この中にうどんあるんだけど」
「乾麺だな」
「これ食べたい」
「作らせていただきますよ」
end.
++++
困った時のいちえりちゃん。そう言えば、慧梨夏ってこういう休みでも実家にあんまり帰らない方なのかしら。
春休みの計画についてはある程度きっちり考えているはずのいち氏。新しい暮らしが始まるわけだからね。その辺のことはこの人がちゃんとしている。
時期的には慧梨夏も遠征帰りとかになるのかしら。ナノスパは大きなイベントもやってるはずの世界線だから
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