2021(02)
■ジャージが様になる
++++
「何でお前たちの勝負にうちが付き合わなきゃいけないんだ」
「勝負には審判が必要だろ?」
「そーすよ奥村さん。そこは中立の立場としてね。あと、得点数える人いた方が試合っぽいじゃないすか」
場所はウチの地元、緑風エリア西部体育館小アリーナ。ぺらりとめくるタイプの懐かしい得点板の脇に座り、何故か亮介と前原の勝負を見届けている。春学期のテストが終わって実家に帰省してしばし。お前もこっちにいるんだろと呼び出され、こんなことに巻き込まれてしまっている。
亮介は高校の悪友で、青丹エリアの大学に行っている。一浪して1年休学してるから今は3年? 2年の夏なのかな。で、前原は真希と同じサークルの友達ということで知り合った。この2人、実は中学バドミントンで出会っていた因縁の相手らしい。バドミントン界のことはよく知らないけど。
「でも何だかんだちゃんとジャージが様になってんのがさすがバスケ部だわ」
「部活時代のジャージなんか久々に着たぞ」
「えー、奥村さんバスケ部だったんすか!」
「一応な」
豊葦の家にも一応ジャージは持ってるけど、こっちでまさか普通にスポーツをする目的でジャージを着るとは思ってなかったよな。だからこんな呼び出され方をして、慌てて高校時代に着てたのを探したよな。上はこないだ大石の会社のファミリーセールで買ったラッシュガードをそのまま羽織ってるけど、下がな。
「そこにボールあるし、ちょっとシュート打ってみてくださいよ!」
「いいぞー。菜月、スリー行こうぜスリー。お前シューターだったじゃん」
「はあ? ブランクがあるんだぞ。と言うかお前たちが勝負するからって体育館に来てるんだろ。バドミントンはどうした」
「や、今は完全に菜月のバスケに持ってかれた」
「ちょっと俺も奥村さんがバスケやってるトコ見たいっすわ」
球技をやってると、大きな試合なんかでは大体ここの体育館に来ることになるんだよな。で、小さいこの体育館でアップをして、中アリーナか大アリーナで試合をやって、っていう感じで。実際この小アリーナのコートが懐かしいもんな。コート脇に置いてあるバスケットボールを手に取り、ドリブルを1回。うん、体育の授業以来だ。
「打たせるからには、決めたら何かあるんだろうな」
「うわー、出たよ出たよ。すぐ何か奢らそうとするヤツ~!」
「橘君、奥村さんのこれって昔からっすか」
「そーよ。菜月、一発で決めたら~、そうねー」
「とりあえずそこの自販機で何か飲み物買ってくれ。いくら空調があると言ってもさすがにちょっと暑いぞ」
「わかった。で、前原くんはどうする?」
「あー、どーすっかねー。もし一発で決めれたら、これ終わってから行く飯奢りますよ。あっ、さすがに焼肉とかそーゆーのはナシっすよ! 1000円以内!」
「前原君大きく出たねー。こーゆー時の菜月は決めるよ」
「まァ~言ってもブランクあるし入らんっしょ」
「ナメられたモンだな」
ブランクもあるしそうそう入らないだろうとは自分でも思う。だけど、人から言われると無性に腹が立つんだよな。こういうのは理屈も多少はあるけど、身体で覚えてるんだよな。だからちょっとやれば感覚も戻って来るけど、さすがに大学の体育の授業振りとなると、どうかな。3年のブランクは大きい。
「菜月、お前ブランク何年よ。4年?」
「一応大学の体育でちょっとやってるから、ボール触るだけなら3年」
「3年のブランクなら大丈夫っしょ。俺も4年ブランクあったし」
「確かに」
大体こんな感じかな、と確認するように手の中でボールを回していいところで止める。下から上に、足から指先に向かって力をかけていく。
「ああっ」
「リングに当たって~」
「外れろ!」
「入った!」
一旦リングに弾かれたボールは、縁をなぞるようにくるりと回って何とかリングの中に落ちた。部活の現役時代なら絶対に納得してなかったシュートではあるけど、今はシュートの美しさだとかそんなことを度外視して、一発で決められるかどうかということだけが焦点だ。つまり今回はうちの勝ち。
ちなみにこれは余談だ。バスケ部あるあるとも言えるかもしれない。スリーポイントを得意とする奴の何割かは確実に「リングに当たったりした美しくないシュートは入ったことにカウントしない」という基準で練習をやったことがあると思うんだ。これって調べる価値があるんじゃないですかね。
「……前原、外れろって言ったな」
「や~、言葉の綾じゃないすか」
「意地でも1000円分食べてやるからな」
「かーっ、マジすか」
「菜月、何飲む?」
「見に行くかー」
結局バドミントンはどこへ行ったんだ。とりあえず自販機で水を買ってもらって、ほんのり空調の効いた小アリーナへと戻る。うん。バドミントンの真剣勝負と言うよりは簡単なラリーだけになっている。でもって、前原はロクに動いてもないのに疲れたと言ってラケットをうちに寄こして来るんだ。真希にチクッてやる。
「やー、奥村さんバドミントンやっても様になるなー、上手いわー」
「褒めても何もでないぞ」
「つか俺が教えてんだから当然っしょ」
「橘君仕込みだから奥村さんもレフティみたいなこと?」
「いや、うちはスポーツの時は左の方が使いやすいんだ」
end.
++++
17年度の話を読み返していて、3年冬の忘年会で会ってるんだから4年夏なら顔見知りよなあと思ってこんなことになった。
菜月さんのジャージ姿とか、多分ノサカも見たことないしMMPの方じゃなかなかレアだと思うの。水着はもっとレアだけどな!
シュートの成功失敗が賭け事になるのもなかなかナチュラルだし、菜月さんは1000円くらいのごはんならペロッと食べちゃうんだろうな
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「何でお前たちの勝負にうちが付き合わなきゃいけないんだ」
「勝負には審判が必要だろ?」
「そーすよ奥村さん。そこは中立の立場としてね。あと、得点数える人いた方が試合っぽいじゃないすか」
場所はウチの地元、緑風エリア西部体育館小アリーナ。ぺらりとめくるタイプの懐かしい得点板の脇に座り、何故か亮介と前原の勝負を見届けている。春学期のテストが終わって実家に帰省してしばし。お前もこっちにいるんだろと呼び出され、こんなことに巻き込まれてしまっている。
亮介は高校の悪友で、青丹エリアの大学に行っている。一浪して1年休学してるから今は3年? 2年の夏なのかな。で、前原は真希と同じサークルの友達ということで知り合った。この2人、実は中学バドミントンで出会っていた因縁の相手らしい。バドミントン界のことはよく知らないけど。
「でも何だかんだちゃんとジャージが様になってんのがさすがバスケ部だわ」
「部活時代のジャージなんか久々に着たぞ」
「えー、奥村さんバスケ部だったんすか!」
「一応な」
豊葦の家にも一応ジャージは持ってるけど、こっちでまさか普通にスポーツをする目的でジャージを着るとは思ってなかったよな。だからこんな呼び出され方をして、慌てて高校時代に着てたのを探したよな。上はこないだ大石の会社のファミリーセールで買ったラッシュガードをそのまま羽織ってるけど、下がな。
「そこにボールあるし、ちょっとシュート打ってみてくださいよ!」
「いいぞー。菜月、スリー行こうぜスリー。お前シューターだったじゃん」
「はあ? ブランクがあるんだぞ。と言うかお前たちが勝負するからって体育館に来てるんだろ。バドミントンはどうした」
「や、今は完全に菜月のバスケに持ってかれた」
「ちょっと俺も奥村さんがバスケやってるトコ見たいっすわ」
球技をやってると、大きな試合なんかでは大体ここの体育館に来ることになるんだよな。で、小さいこの体育館でアップをして、中アリーナか大アリーナで試合をやって、っていう感じで。実際この小アリーナのコートが懐かしいもんな。コート脇に置いてあるバスケットボールを手に取り、ドリブルを1回。うん、体育の授業以来だ。
「打たせるからには、決めたら何かあるんだろうな」
「うわー、出たよ出たよ。すぐ何か奢らそうとするヤツ~!」
「橘君、奥村さんのこれって昔からっすか」
「そーよ。菜月、一発で決めたら~、そうねー」
「とりあえずそこの自販機で何か飲み物買ってくれ。いくら空調があると言ってもさすがにちょっと暑いぞ」
「わかった。で、前原くんはどうする?」
「あー、どーすっかねー。もし一発で決めれたら、これ終わってから行く飯奢りますよ。あっ、さすがに焼肉とかそーゆーのはナシっすよ! 1000円以内!」
「前原君大きく出たねー。こーゆー時の菜月は決めるよ」
「まァ~言ってもブランクあるし入らんっしょ」
「ナメられたモンだな」
ブランクもあるしそうそう入らないだろうとは自分でも思う。だけど、人から言われると無性に腹が立つんだよな。こういうのは理屈も多少はあるけど、身体で覚えてるんだよな。だからちょっとやれば感覚も戻って来るけど、さすがに大学の体育の授業振りとなると、どうかな。3年のブランクは大きい。
「菜月、お前ブランク何年よ。4年?」
「一応大学の体育でちょっとやってるから、ボール触るだけなら3年」
「3年のブランクなら大丈夫っしょ。俺も4年ブランクあったし」
「確かに」
大体こんな感じかな、と確認するように手の中でボールを回していいところで止める。下から上に、足から指先に向かって力をかけていく。
「ああっ」
「リングに当たって~」
「外れろ!」
「入った!」
一旦リングに弾かれたボールは、縁をなぞるようにくるりと回って何とかリングの中に落ちた。部活の現役時代なら絶対に納得してなかったシュートではあるけど、今はシュートの美しさだとかそんなことを度外視して、一発で決められるかどうかということだけが焦点だ。つまり今回はうちの勝ち。
ちなみにこれは余談だ。バスケ部あるあるとも言えるかもしれない。スリーポイントを得意とする奴の何割かは確実に「リングに当たったりした美しくないシュートは入ったことにカウントしない」という基準で練習をやったことがあると思うんだ。これって調べる価値があるんじゃないですかね。
「……前原、外れろって言ったな」
「や~、言葉の綾じゃないすか」
「意地でも1000円分食べてやるからな」
「かーっ、マジすか」
「菜月、何飲む?」
「見に行くかー」
結局バドミントンはどこへ行ったんだ。とりあえず自販機で水を買ってもらって、ほんのり空調の効いた小アリーナへと戻る。うん。バドミントンの真剣勝負と言うよりは簡単なラリーだけになっている。でもって、前原はロクに動いてもないのに疲れたと言ってラケットをうちに寄こして来るんだ。真希にチクッてやる。
「やー、奥村さんバドミントンやっても様になるなー、上手いわー」
「褒めても何もでないぞ」
「つか俺が教えてんだから当然っしょ」
「橘君仕込みだから奥村さんもレフティみたいなこと?」
「いや、うちはスポーツの時は左の方が使いやすいんだ」
end.
++++
17年度の話を読み返していて、3年冬の忘年会で会ってるんだから4年夏なら顔見知りよなあと思ってこんなことになった。
菜月さんのジャージ姿とか、多分ノサカも見たことないしMMPの方じゃなかなかレアだと思うの。水着はもっとレアだけどな!
シュートの成功失敗が賭け事になるのもなかなかナチュラルだし、菜月さんは1000円くらいのごはんならペロッと食べちゃうんだろうな
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