2021(02)
■人間っていいの?
公式学年+1年
++++
実家に帰っていても、ネット環境があれば星港にいる人や、全国各地に散らばったみんなと話し合いが出来てしまう。便利だし、いいことだとは思うけど、これが社会人になってくると休みでも仕事のことを考えなきゃいけなくなってくるのかな。携帯電話の普及で会社の外でも仕事の電話がかかって来るようになったって話もあるし。
それはともかく、今は夏休みで実家に帰っているところだ。紅社は最近じゃ梅雨や夏は大雨で大変なことになる機会も多いけど、それでも地元は地元としてたまには帰りたい場所ではある。今年はインターフェイス関係でバタバタ走り回ってもないからいつもより少し長めの帰省になる予定。
『それでさ高木君! 俺、ずーっと考えてたんだよね。結局のところ、何をやるのが一番面白いのかっていうと、人間なんだよ』
ゼミで出された今年の課題は、班で映像作品を2本制作すること。社会学に沿っていればテーマは自由だけど、自由と言われるのが一番難しいというのは義務教育時代の夏休みの宿題で思い知らされている。去年の音声作品のときもそうだったけど、夏というのは作品制作の山場だから、こうして帰省中でも会議をしていく。
如何せんこんな時期だから、俺だけじゃなくて鵠さんも地元の光洋に帰っているし、安曇野さんも白影の実家に戻っている。樽中くんは生粋の星港人みたいだけど、佐竹さんは里帰りで向島の外にいるとか。何もそんなときまで勉強の話をしなくても、と思わないでもないけど、向島に戻った時にすぐ動き出せるようにしておく必要はあるんだよね。
「人間って、具体的に何をどう。随分広いテーマだけど」
『人間関係やコミュニケーションの流れのテンプレートとそれを回すキャラクターという物だね。例えば、こういう班の中でも空気を読んだり、キャラ被りの問題って少なからずあると思うんだよ。そこで読むべき空気はどうやって生まれるのか、話し合うのか、無言の圧力なのか。キャラ被りが発生したら、被った者同士がどう折り合いを付けてその社会で生きていくのか、はたまたその輪を去るなり、いないキャラの枠に収まるのか』
『おいおい樽中、お前めちゃ熱くなって早口で喋ってんじゃん?』
『ホントに。興味深い話ではあるけどそう勢いで喋られたらわかんないし!』
『あーごめん。それじゃあ後でこの休みの間に考えてたことをまとめたレジュメ、チャットに載せとくしダウンロードして目を通してもらえれば嬉しいです』
元々3班として活動していた俺たち4人の中に、班の再編成の時に入って来たのが樽中くんだ。樽中くんは4人で形成されていた輪の中に後から入って来た人だから、何か思うことがあったのかな。それとも、元々小説を書いたりするのが趣味だっていう話だから、常々人と人のあり方については考えているのかもしれない。
『でも、第一印象と現在の印象とのギャップっていうのもなかなか興味深い話でさ。ほら、例えば鵠沼君なんかがいい例なんだけど、声も大きいしいかにもな体育会系で、言葉は悪いけど脳筋系と言うか、考えるより先に身体が動くタイプだって思うじゃない』
「あー。ジャージだしね」
『ジャージで決めんのは偏見じゃん?』
『そうなんだよ。実際鵠沼君は思慮深くて慎重な方なんだよね。逆に高木君は静かだし大人しくて臆病なタイプなのかなと思ったら豪快で大胆なところもあるし、楽観的な性格だよね。高木君、第一印象とギャップがあるってよく言われない?』
「まあ、言われますよねー。あと楽観的はよく言われるけど、豪快で大胆? これはちょっとわかんないなあ」
『ミキサー触ってる時なんかはそうじゃない?』
『確かに。ミキサー触ってる時のお前は豪快で大胆じゃんな』
「えー。ミキサーを触ってる時までカウントされるの?」
『あと腹黒い』
『ちょっとわかる。先生相手にも強かさがあると言うか』
「腹黒!? ちょっと酷くない!?」
『事実だし』
『ねっ!? 人間って面白いでしょ!?』
興奮した樽中くんが急に声を張り上げるものだから、通話アプリの方がその声をノイズ認定して耳へのダメージを防いでくれるほど。樽中くんの声は少し音量を下げておこう。実際の番組でこんな感じのテンションの乱高下が起こったら大変だろうなあとは、ミキサーとしては思う。
この話を踏まえてドラマの台本は粗方考えてるんだよ、と樽中くんはウキウキしながら話してくれている。その話を聞きながら、佐竹さんがぽつりと「自由枠の方が社会学的な話になりそうだけど、うちら3人はどうしようか」と呟く。そうだ、確か佐竹さんと鵠さん、安曇野さんのチームに真面目さを求めていた。
『ふう。今日の話し合いはこれで結構進んだかな。本当に、樽中くん様様で』
『いや~、それほどでも~』
『問題はこっちのテーマだけど』
『まあ、高木樽中チームが社会学してるから、俺らは普通のテーマでも、まあ、いけんじゃん…?』
『あっそうだ。使うか使わないかはともかくとして、せっかくみんな全国に散り散りになって別々の場所にいるんだから、スマホで写真とか撮って素材にしたらどうかな?』
『いいんじゃない? 写真だったらアタシの土俵だし!』
『安曇野にガチられたら俺がちょっと撮っただけの写真なんかショボさに拍車がかかるじゃん?』
『全国に行ったつもりの映像作品か。散り散りになったメンバーが会議してたっていうのも作品のテーマになりそう。皆さん写真素材よろしくお願いします』
はーいと返事をして、今日の会議はおしまい。樽中くんのレジュメを確認するのと、こっちにいる間に写真を撮るっていう課題が出たのか。写真はどこかアップロードする場所なんかを用意してもらえるのかな?
end.
++++
この話を考えてる時は「生きてる人間が一番怖いんだよ!」って樽中サッカスが言ってたのに、いざ書き始めるとこんなことになるから怖い
ナノスパの話って人の会話が主だから帰省シーズンとか割と困るんだけど、リモートでの打ち合わせという概念が生まれるのも時代かな
インターフェイスの方でもこんな風にいつでも打ち合わせを始めるペアなんかがこの先出て来るのかなあ。どうだろ。
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公式学年+1年
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実家に帰っていても、ネット環境があれば星港にいる人や、全国各地に散らばったみんなと話し合いが出来てしまう。便利だし、いいことだとは思うけど、これが社会人になってくると休みでも仕事のことを考えなきゃいけなくなってくるのかな。携帯電話の普及で会社の外でも仕事の電話がかかって来るようになったって話もあるし。
それはともかく、今は夏休みで実家に帰っているところだ。紅社は最近じゃ梅雨や夏は大雨で大変なことになる機会も多いけど、それでも地元は地元としてたまには帰りたい場所ではある。今年はインターフェイス関係でバタバタ走り回ってもないからいつもより少し長めの帰省になる予定。
『それでさ高木君! 俺、ずーっと考えてたんだよね。結局のところ、何をやるのが一番面白いのかっていうと、人間なんだよ』
ゼミで出された今年の課題は、班で映像作品を2本制作すること。社会学に沿っていればテーマは自由だけど、自由と言われるのが一番難しいというのは義務教育時代の夏休みの宿題で思い知らされている。去年の音声作品のときもそうだったけど、夏というのは作品制作の山場だから、こうして帰省中でも会議をしていく。
如何せんこんな時期だから、俺だけじゃなくて鵠さんも地元の光洋に帰っているし、安曇野さんも白影の実家に戻っている。樽中くんは生粋の星港人みたいだけど、佐竹さんは里帰りで向島の外にいるとか。何もそんなときまで勉強の話をしなくても、と思わないでもないけど、向島に戻った時にすぐ動き出せるようにしておく必要はあるんだよね。
「人間って、具体的に何をどう。随分広いテーマだけど」
『人間関係やコミュニケーションの流れのテンプレートとそれを回すキャラクターという物だね。例えば、こういう班の中でも空気を読んだり、キャラ被りの問題って少なからずあると思うんだよ。そこで読むべき空気はどうやって生まれるのか、話し合うのか、無言の圧力なのか。キャラ被りが発生したら、被った者同士がどう折り合いを付けてその社会で生きていくのか、はたまたその輪を去るなり、いないキャラの枠に収まるのか』
『おいおい樽中、お前めちゃ熱くなって早口で喋ってんじゃん?』
『ホントに。興味深い話ではあるけどそう勢いで喋られたらわかんないし!』
『あーごめん。それじゃあ後でこの休みの間に考えてたことをまとめたレジュメ、チャットに載せとくしダウンロードして目を通してもらえれば嬉しいです』
元々3班として活動していた俺たち4人の中に、班の再編成の時に入って来たのが樽中くんだ。樽中くんは4人で形成されていた輪の中に後から入って来た人だから、何か思うことがあったのかな。それとも、元々小説を書いたりするのが趣味だっていう話だから、常々人と人のあり方については考えているのかもしれない。
『でも、第一印象と現在の印象とのギャップっていうのもなかなか興味深い話でさ。ほら、例えば鵠沼君なんかがいい例なんだけど、声も大きいしいかにもな体育会系で、言葉は悪いけど脳筋系と言うか、考えるより先に身体が動くタイプだって思うじゃない』
「あー。ジャージだしね」
『ジャージで決めんのは偏見じゃん?』
『そうなんだよ。実際鵠沼君は思慮深くて慎重な方なんだよね。逆に高木君は静かだし大人しくて臆病なタイプなのかなと思ったら豪快で大胆なところもあるし、楽観的な性格だよね。高木君、第一印象とギャップがあるってよく言われない?』
「まあ、言われますよねー。あと楽観的はよく言われるけど、豪快で大胆? これはちょっとわかんないなあ」
『ミキサー触ってる時なんかはそうじゃない?』
『確かに。ミキサー触ってる時のお前は豪快で大胆じゃんな』
「えー。ミキサーを触ってる時までカウントされるの?」
『あと腹黒い』
『ちょっとわかる。先生相手にも強かさがあると言うか』
「腹黒!? ちょっと酷くない!?」
『事実だし』
『ねっ!? 人間って面白いでしょ!?』
興奮した樽中くんが急に声を張り上げるものだから、通話アプリの方がその声をノイズ認定して耳へのダメージを防いでくれるほど。樽中くんの声は少し音量を下げておこう。実際の番組でこんな感じのテンションの乱高下が起こったら大変だろうなあとは、ミキサーとしては思う。
この話を踏まえてドラマの台本は粗方考えてるんだよ、と樽中くんはウキウキしながら話してくれている。その話を聞きながら、佐竹さんがぽつりと「自由枠の方が社会学的な話になりそうだけど、うちら3人はどうしようか」と呟く。そうだ、確か佐竹さんと鵠さん、安曇野さんのチームに真面目さを求めていた。
『ふう。今日の話し合いはこれで結構進んだかな。本当に、樽中くん様様で』
『いや~、それほどでも~』
『問題はこっちのテーマだけど』
『まあ、高木樽中チームが社会学してるから、俺らは普通のテーマでも、まあ、いけんじゃん…?』
『あっそうだ。使うか使わないかはともかくとして、せっかくみんな全国に散り散りになって別々の場所にいるんだから、スマホで写真とか撮って素材にしたらどうかな?』
『いいんじゃない? 写真だったらアタシの土俵だし!』
『安曇野にガチられたら俺がちょっと撮っただけの写真なんかショボさに拍車がかかるじゃん?』
『全国に行ったつもりの映像作品か。散り散りになったメンバーが会議してたっていうのも作品のテーマになりそう。皆さん写真素材よろしくお願いします』
はーいと返事をして、今日の会議はおしまい。樽中くんのレジュメを確認するのと、こっちにいる間に写真を撮るっていう課題が出たのか。写真はどこかアップロードする場所なんかを用意してもらえるのかな?
end.
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この話を考えてる時は「生きてる人間が一番怖いんだよ!」って樽中サッカスが言ってたのに、いざ書き始めるとこんなことになるから怖い
ナノスパの話って人の会話が主だから帰省シーズンとか割と困るんだけど、リモートでの打ち合わせという概念が生まれるのも時代かな
インターフェイスの方でもこんな風にいつでも打ち合わせを始めるペアなんかがこの先出て来るのかなあ。どうだろ。
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