2021(02)
■仕事があるから耐えられる
++++
「高木先輩、大丈夫ですかね」
「うーん、心配だけど、連絡は出来るしこっちからの連絡にもすぐ返信してくれてるから、大丈夫だと思うよ。こっちはこっちで出来ることをやっておかないとね」
「そうですね」
実家の紅社エリアに帰っているタカティとは、一昨日くらいから連絡を取り合っていた。紅社近くに居座っている前線の影響で大雨がずっと続いていて、最悪打ち合わせの日までに星港に戻ることが出来ないかもしれないと。
タカティの心配は見事に的中。紅社近辺では、特別警報がずっと出るレベルの大雨。全国ニュースもこの話で持ちきりで、この後まだ何百ミリの大雨が続きますので警戒してくださいと気象予報士が繰り返す。当然新幹線は動かない。
災害級の大雨に、俺も思うところは当然ある。普段なら俺もニュースにかじり付いて沈んでたかもしれないけど、今はやるべきことがある。この班の副班長として、俺がしっかり打ち合わせを進めないと。……っていう仕事があって本当によかった。
「えっとねえ、タカティから預かってるメモを読みます。『3ペア続けての通し練習と、インフォとリクの練習もしたい』ってことだね」
「通し練習っつっても、高木さんがいないんならオリの番組が出来なくないすか?」
「そうなんだよねえ。だからそれはタカティが帰ってきてからやることにして、インフォとリクの練習をやろうかー」
「あー……インフォメーションとリクエストが入ってくるんですね」
「そうだね。あっ、ササは緑ヶ丘の方で聞いてるかな」
「そうですね。練習は今度やるんですけど、話だけは聞いてます」
「そしたら、インフォとリクって聞いて何のことかわかる人ー」
――と挙手を求めると、上がるのはササの右手一本。まあ、そうだろうから練習日を設けてるんだろうけどね。えー……これも俺が説明しなきゃいけないのかー。いやいや、俺に託された仕事! 俺も2年生なんだからタカティに頼りっぱなしじゃダメだダメだ。
「インフォメーションとリクエストだね。インフォメーションは、ショッピングモールとかで、迷子のお知らせとか落とし物の放送とか聞いたことない?」
「お伝えしたいことがございますのでーってヤツっすか?」
「そうそう! それだよ彩人! それがインフォメーションね。インターフェイスの番組でもそれが差し込まれます」
「えっ、ちなみにっすけど、それって番組の途中で来るんすか?」
「途中で来る。内容を書いた紙がミキサーに手渡されて、それをどこで差し込むかっていうのを、番組をやりながら構成を変えなきゃいけない。曲中にアナミキで話し合ってやってくのかな」
「マジすかー。構成が変わるんすね」
「インフォメーションが入ってくる分、トークの時間や内容も柔軟性を持ってやれるようにしないといけないのか」
インフォメーションとリクエストっていう、突然飛んでくる事柄のことを自分も思い出しながら気付く。番組をやりながら構成を変えていくっていうのは主にミキサーの人がやってるんじゃないかと。去年もゴティ先輩に任せっきりだったし、実は俺もよくわかってないんじゃない?
本当は今すぐにでもタカティに電話して助けてーって言いたいんだけど、向こうは向こうで大変なはずだからね。こっちのことは俺がちゃんとしてないと。でもミキサーのことはさすがに俺じゃ対処しきれないんだよー、誰かー、助けてー。
「つかさ当麻」
「うん」
「ウチの班って構成結構特殊らしいじゃん」
「一般的な構成ではないとは聞くね」
「つかステージでも何か飛んでくるとかはよくあるし、構成が変わっても変わったと思わせずにカッコよくやるのが俺らの腕の見せ所じゃんな」
「確かに。構成が構成だけにトークや曲を飛ばしたり組み替えたりしやすいし、ハプニングを逆手に取るくらいの方がやってて楽しくはあるな」
「逞しい~…! 彩人と当麻が逞しくて俺の出る幕がない~、ホッとしたよ~…!」
「いやいやいや。ミドリさん、俺らまだ口だけなんで、技術的なトコとかは今から教えてもらわないといけないんすよ」
「そうですよ」
「いや! 彩人にはステージ仕込みのライブ対応力があるし、当麻も普段から絵コンテとか書いてるからその時点で俺より上!」
そこは決してドヤるところではないと1年生4人から総ツッコミを入れられたけど、それでいいんだよ。それぞれがそれぞれの強みを持ち寄ってやりたいことを好きなようにやってくれる方が、班のらしさが出てくるだろうし。
「リク、スマホ鳴ってる」
「あ、高木先輩だ」
「タカティ? ササ、出て出て」
「はい。はいもしもし」
『あっもしもし、ササ? ミドリに繋がんなくてさ。今大丈夫?』
「はい。班の打ち合わせ中で。インフォとリク番の練習に入るために、それが何ぞやとミドリ先輩が説明してくれてました」
『ああそう、それならよかった。ほら、ミドリってアナさんだし、ミキサー的に何か困ったこととかないかなと思って』
「と言うか高木先輩は大丈夫なんですか。避難とかしなくて」
『うちは一応まだ避難勧告とかは出てないから。って言うか他のことでも考えてないと落ち着かないからさ』
「まだ大雨は続きそうなので、身の安全には気をつけてください」
『ありがとう。それじゃ、練習の邪魔しちゃ悪いしまた帰れそうになったら連絡しますってミドリに言っといて』
「わかりました。お疲れさまです」
『お疲れー』
「ササ、タカティは何て?」
「インフォ練習でミドリ先輩がミキサー的に困ったことはないかって」
「困ってるよ! えっ、それで何か教えてくれた?」
「あ。すみません、高木先輩のことが心配で聞くのを忘れました」
「えー!? 聞いてよ~! いや、確かに心配だけど!」
end.
++++
帰省から戻れないという事情でTKG不在の夏合宿3班。ミドリがたどたどしく班長代理をやっています。
たまにナチュラルにやらかす佐々木陸。完璧超人だけどたまに天然ボケが入ってくるようだ。
インターフェイスでのミドリの強みって何だろうなあ。それこそ春山さんをも丸めたカマトトマスコットぶりなんだろうか……
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「高木先輩、大丈夫ですかね」
「うーん、心配だけど、連絡は出来るしこっちからの連絡にもすぐ返信してくれてるから、大丈夫だと思うよ。こっちはこっちで出来ることをやっておかないとね」
「そうですね」
実家の紅社エリアに帰っているタカティとは、一昨日くらいから連絡を取り合っていた。紅社近くに居座っている前線の影響で大雨がずっと続いていて、最悪打ち合わせの日までに星港に戻ることが出来ないかもしれないと。
タカティの心配は見事に的中。紅社近辺では、特別警報がずっと出るレベルの大雨。全国ニュースもこの話で持ちきりで、この後まだ何百ミリの大雨が続きますので警戒してくださいと気象予報士が繰り返す。当然新幹線は動かない。
災害級の大雨に、俺も思うところは当然ある。普段なら俺もニュースにかじり付いて沈んでたかもしれないけど、今はやるべきことがある。この班の副班長として、俺がしっかり打ち合わせを進めないと。……っていう仕事があって本当によかった。
「えっとねえ、タカティから預かってるメモを読みます。『3ペア続けての通し練習と、インフォとリクの練習もしたい』ってことだね」
「通し練習っつっても、高木さんがいないんならオリの番組が出来なくないすか?」
「そうなんだよねえ。だからそれはタカティが帰ってきてからやることにして、インフォとリクの練習をやろうかー」
「あー……インフォメーションとリクエストが入ってくるんですね」
「そうだね。あっ、ササは緑ヶ丘の方で聞いてるかな」
「そうですね。練習は今度やるんですけど、話だけは聞いてます」
「そしたら、インフォとリクって聞いて何のことかわかる人ー」
――と挙手を求めると、上がるのはササの右手一本。まあ、そうだろうから練習日を設けてるんだろうけどね。えー……これも俺が説明しなきゃいけないのかー。いやいや、俺に託された仕事! 俺も2年生なんだからタカティに頼りっぱなしじゃダメだダメだ。
「インフォメーションとリクエストだね。インフォメーションは、ショッピングモールとかで、迷子のお知らせとか落とし物の放送とか聞いたことない?」
「お伝えしたいことがございますのでーってヤツっすか?」
「そうそう! それだよ彩人! それがインフォメーションね。インターフェイスの番組でもそれが差し込まれます」
「えっ、ちなみにっすけど、それって番組の途中で来るんすか?」
「途中で来る。内容を書いた紙がミキサーに手渡されて、それをどこで差し込むかっていうのを、番組をやりながら構成を変えなきゃいけない。曲中にアナミキで話し合ってやってくのかな」
「マジすかー。構成が変わるんすね」
「インフォメーションが入ってくる分、トークの時間や内容も柔軟性を持ってやれるようにしないといけないのか」
インフォメーションとリクエストっていう、突然飛んでくる事柄のことを自分も思い出しながら気付く。番組をやりながら構成を変えていくっていうのは主にミキサーの人がやってるんじゃないかと。去年もゴティ先輩に任せっきりだったし、実は俺もよくわかってないんじゃない?
本当は今すぐにでもタカティに電話して助けてーって言いたいんだけど、向こうは向こうで大変なはずだからね。こっちのことは俺がちゃんとしてないと。でもミキサーのことはさすがに俺じゃ対処しきれないんだよー、誰かー、助けてー。
「つかさ当麻」
「うん」
「ウチの班って構成結構特殊らしいじゃん」
「一般的な構成ではないとは聞くね」
「つかステージでも何か飛んでくるとかはよくあるし、構成が変わっても変わったと思わせずにカッコよくやるのが俺らの腕の見せ所じゃんな」
「確かに。構成が構成だけにトークや曲を飛ばしたり組み替えたりしやすいし、ハプニングを逆手に取るくらいの方がやってて楽しくはあるな」
「逞しい~…! 彩人と当麻が逞しくて俺の出る幕がない~、ホッとしたよ~…!」
「いやいやいや。ミドリさん、俺らまだ口だけなんで、技術的なトコとかは今から教えてもらわないといけないんすよ」
「そうですよ」
「いや! 彩人にはステージ仕込みのライブ対応力があるし、当麻も普段から絵コンテとか書いてるからその時点で俺より上!」
そこは決してドヤるところではないと1年生4人から総ツッコミを入れられたけど、それでいいんだよ。それぞれがそれぞれの強みを持ち寄ってやりたいことを好きなようにやってくれる方が、班のらしさが出てくるだろうし。
「リク、スマホ鳴ってる」
「あ、高木先輩だ」
「タカティ? ササ、出て出て」
「はい。はいもしもし」
『あっもしもし、ササ? ミドリに繋がんなくてさ。今大丈夫?』
「はい。班の打ち合わせ中で。インフォとリク番の練習に入るために、それが何ぞやとミドリ先輩が説明してくれてました」
『ああそう、それならよかった。ほら、ミドリってアナさんだし、ミキサー的に何か困ったこととかないかなと思って』
「と言うか高木先輩は大丈夫なんですか。避難とかしなくて」
『うちは一応まだ避難勧告とかは出てないから。って言うか他のことでも考えてないと落ち着かないからさ』
「まだ大雨は続きそうなので、身の安全には気をつけてください」
『ありがとう。それじゃ、練習の邪魔しちゃ悪いしまた帰れそうになったら連絡しますってミドリに言っといて』
「わかりました。お疲れさまです」
『お疲れー』
「ササ、タカティは何て?」
「インフォ練習でミドリ先輩がミキサー的に困ったことはないかって」
「困ってるよ! えっ、それで何か教えてくれた?」
「あ。すみません、高木先輩のことが心配で聞くのを忘れました」
「えー!? 聞いてよ~! いや、確かに心配だけど!」
end.
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帰省から戻れないという事情でTKG不在の夏合宿3班。ミドリがたどたどしく班長代理をやっています。
たまにナチュラルにやらかす佐々木陸。完璧超人だけどたまに天然ボケが入ってくるようだ。
インターフェイスでのミドリの強みって何だろうなあ。それこそ春山さんをも丸めたカマトトマスコットぶりなんだろうか……
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