2021(02)
■エリートに立ち向かえ
++++
「あー…! 人混みから解放されて飲むビールがマジでうめえ」
「高崎クン、この感じだとすぐ2杯目かな~?」
「さすが、察しがいいな。山口、生追加で」
「はいは~い。お待ちくださいませ~」
長期休暇の恒例となりつつある俺、拳悟、万里の3人会だ。去年適当に選んだのが山口がバイトしている店だったのだが、拳悟と万里が相当気に入ったとかで、去年に引き続き今年もこの店での開催となった。まあ、普通にいい店ではあるし俺も割と好きではあるんだけどな。
今日はこの会の前に飯野のアホに付き合わされて向舞祭の会場に特攻していた。例によって卒論の資料集めだ。ただ、今年は闇雲に会場の様子を録画するのではなく、きちんとスタッフや裏側を中心に攻めていた。向舞祭関係者とのコネを作った上での潜入だった。
「は~い、生で~す」
「サンキュ」
「ど~ぞごゆっくり~」
「越野、最近どう?」
「最近も何も、卒研に追われてひーひー言ってんよ」
「就活は?」
「終わった」
「ならいいじゃねえか」
「何の仕事するの?」
「倉庫の出入庫管理とかの仕事だな」
「物流系か」
「ああ、つか聞いてくれよ高崎!」
「あ?」
大学が紅社エリアにあって現在は向こうに住んでいる万里だが、大学卒業、そして就職と同時にこっちに帰ってくることにしたそうだ。就活もこっちでやっていたらしいのだが、無事に来春からの仕事が決まって良かったなあだけではない話があるようだ。
「こないださ、俺が就職する会社でバイトしてるタメの子をカズに紹介してもらって会ってたんだよな」
「いや、突っ込みどころが多すぎてワケわかんねえ。そもそも何で伊東が出てくんだ」
「カズの姉貴が派遣で働いてた会社で、そのバイトしてる子ってのがサークル関係でのカズの友達なんだって。星大の子なんだけどさ」
「あ? 倉庫でバイトしてる星大の奴っつったら大石か」
「そーそー! その大石君とカズと3人で飯食ってたんだって」
「ああ、なるほど。繋がりは粗方理解した。続けろ」
「でさ、大石君も来春から向西倉庫に就職するんだけどさ、その就職の決まり方がさ、よくある就活戦線を勝ち抜いたんじゃなくて、世間話からの口約束みたいな感じで決まったんだって。そんなんあるんかよって」
「バイトの社員登用なら全然ない話じゃねえだろ」
「や、そうなんだけどさ。同じ大卒の新卒になるワケじゃん? でも実際は飛び級とかスーパーエリートみたいな? 何かこう、悪い子じゃないのはわかるんだけど、ちょ~っと複雑って言うか」
万里の言いたいことも全くわからないでもないが、全員が横一線に並んでよーいどんのつもりでいるならそれは社会に出るに当たっては甘くねえかと思う。その職に必要な知識や資格を予め取っておいて、より成果を出せる奴により多くの金を出す。至極当然の仕組みだろう。
かの会社のことは拓馬さんから話に聞いたことがある。繁忙期には短期バイトや人材派遣で労働力を増やすが、長期バイトとして雇うのはこいつは出来ると判断されたほんの一握りだそうだ。つまり、大石はバイトとして雇われている時点で万里の言う就活戦線的な物を半分勝ち抜いた状態なのだろう。
「まあ、言って大石は星大だし頭の良さはある程度保証されてるだろ。でもってフィジカルエリートでもある。特に問題を起こしそうな人格でもねえ。仕事のことも粗方わかってる人材が社員にしてくれって言ってきたなら、会社としては育成の手間も多少は省けるし、じゃあよろしくってなるのはわかんねえでもねえけどな」
「だよねー。新卒で就職してしばらくは本当に何も出来ないって言うか。見てるのが仕事、仕事の流れを覚えるのが仕事、みたいなことを言われて突っ立ってるだけか、最初からみんなと同じことをさせられて何も出来なくて自信なくすかー」
「ちょっ、拳悟お前怖いこと言うなよ」
「いや、これでも拳悟は社会に出てんだぞ。説得力の塊だろ」
「そうだけどさ」
俺はまだ来春の行き先が決まってないから人のことばっかり心配している場合でもないのだが、なるようにしかならねえんだよな。一応内定こそいくつか持ってはいるが、本命の結果待ちってのはなかなかにしんどいものがある。ただ、浪人するつもりはねえから来春には就職だが。
「万里、もし時間に余裕があんなら就職先でバイトしたらいいんじゃねえか。盆明けから忙しくなるらしいし」
「えっ、お前マジで言ってる?」
「職場の実状もわかるし、仕事の内容も先取り出来る。ついでに、大石が本当に社員登用に値する奴なのかを見極めりゃいいじゃねえか」
「や、俺は肉体労働で内定もらったワケじゃねーんだって」
「いやー、パソコンや数字と向き合う仕事でも、現場のことを知ってなきゃって言って最初は肉体労働からスタートだと思うけどねー」
「だし巻きで~す。あっ、俺聞いたことあるんですけど、引っ越し屋さんの営業さんも、最初の1年は引っ越しの現場からスタートしたんだって~。それがしんどくて続かなかった人もたくさんいた~って」
「マジっすか」
「マジらしいよ~」
「だとよ。万里、どうすんだ」
「や、言って体力は人並みにはある! 一応ミニバスから数えて今もバスケやってっし! でも、フィジカルエリートかっつったら、そうじゃねーんだって」
「うだうだ言ってんな」
こういう夏の期間に内定のある奴が実際の職場に集められるということもない話ではないらしいし、それで合わなければ辞退するということも選択肢としてはある。将来のことをじっくり考えるのもまた長期休暇のあり方だろう。
「つかさ、仮に俺がガチでちょっと働きたいって言うじゃん? そういう申し出って受けてもらえるのかな?」
「俺が知るかよ」
「はー!? お前それはちょっと無責任じゃね!?」
++++
星高のいつメン3人衆が玄でうだうだやる季節になりました。やまよも安定の修行中です。
こっしーがちーちゃんの話を聞いた後で、よくよく考えたらちょっとズルくね?と思った話だけど、愚痴る相手が悪かった。
こっしーの夏バイト編の話も見てみたい。知力と体力は人並みにあるし、現場でもそれなりにやってくれると思うんだけどな
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「あー…! 人混みから解放されて飲むビールがマジでうめえ」
「高崎クン、この感じだとすぐ2杯目かな~?」
「さすが、察しがいいな。山口、生追加で」
「はいは~い。お待ちくださいませ~」
長期休暇の恒例となりつつある俺、拳悟、万里の3人会だ。去年適当に選んだのが山口がバイトしている店だったのだが、拳悟と万里が相当気に入ったとかで、去年に引き続き今年もこの店での開催となった。まあ、普通にいい店ではあるし俺も割と好きではあるんだけどな。
今日はこの会の前に飯野のアホに付き合わされて向舞祭の会場に特攻していた。例によって卒論の資料集めだ。ただ、今年は闇雲に会場の様子を録画するのではなく、きちんとスタッフや裏側を中心に攻めていた。向舞祭関係者とのコネを作った上での潜入だった。
「は~い、生で~す」
「サンキュ」
「ど~ぞごゆっくり~」
「越野、最近どう?」
「最近も何も、卒研に追われてひーひー言ってんよ」
「就活は?」
「終わった」
「ならいいじゃねえか」
「何の仕事するの?」
「倉庫の出入庫管理とかの仕事だな」
「物流系か」
「ああ、つか聞いてくれよ高崎!」
「あ?」
大学が紅社エリアにあって現在は向こうに住んでいる万里だが、大学卒業、そして就職と同時にこっちに帰ってくることにしたそうだ。就活もこっちでやっていたらしいのだが、無事に来春からの仕事が決まって良かったなあだけではない話があるようだ。
「こないださ、俺が就職する会社でバイトしてるタメの子をカズに紹介してもらって会ってたんだよな」
「いや、突っ込みどころが多すぎてワケわかんねえ。そもそも何で伊東が出てくんだ」
「カズの姉貴が派遣で働いてた会社で、そのバイトしてる子ってのがサークル関係でのカズの友達なんだって。星大の子なんだけどさ」
「あ? 倉庫でバイトしてる星大の奴っつったら大石か」
「そーそー! その大石君とカズと3人で飯食ってたんだって」
「ああ、なるほど。繋がりは粗方理解した。続けろ」
「でさ、大石君も来春から向西倉庫に就職するんだけどさ、その就職の決まり方がさ、よくある就活戦線を勝ち抜いたんじゃなくて、世間話からの口約束みたいな感じで決まったんだって。そんなんあるんかよって」
「バイトの社員登用なら全然ない話じゃねえだろ」
「や、そうなんだけどさ。同じ大卒の新卒になるワケじゃん? でも実際は飛び級とかスーパーエリートみたいな? 何かこう、悪い子じゃないのはわかるんだけど、ちょ~っと複雑って言うか」
万里の言いたいことも全くわからないでもないが、全員が横一線に並んでよーいどんのつもりでいるならそれは社会に出るに当たっては甘くねえかと思う。その職に必要な知識や資格を予め取っておいて、より成果を出せる奴により多くの金を出す。至極当然の仕組みだろう。
かの会社のことは拓馬さんから話に聞いたことがある。繁忙期には短期バイトや人材派遣で労働力を増やすが、長期バイトとして雇うのはこいつは出来ると判断されたほんの一握りだそうだ。つまり、大石はバイトとして雇われている時点で万里の言う就活戦線的な物を半分勝ち抜いた状態なのだろう。
「まあ、言って大石は星大だし頭の良さはある程度保証されてるだろ。でもってフィジカルエリートでもある。特に問題を起こしそうな人格でもねえ。仕事のことも粗方わかってる人材が社員にしてくれって言ってきたなら、会社としては育成の手間も多少は省けるし、じゃあよろしくってなるのはわかんねえでもねえけどな」
「だよねー。新卒で就職してしばらくは本当に何も出来ないって言うか。見てるのが仕事、仕事の流れを覚えるのが仕事、みたいなことを言われて突っ立ってるだけか、最初からみんなと同じことをさせられて何も出来なくて自信なくすかー」
「ちょっ、拳悟お前怖いこと言うなよ」
「いや、これでも拳悟は社会に出てんだぞ。説得力の塊だろ」
「そうだけどさ」
俺はまだ来春の行き先が決まってないから人のことばっかり心配している場合でもないのだが、なるようにしかならねえんだよな。一応内定こそいくつか持ってはいるが、本命の結果待ちってのはなかなかにしんどいものがある。ただ、浪人するつもりはねえから来春には就職だが。
「万里、もし時間に余裕があんなら就職先でバイトしたらいいんじゃねえか。盆明けから忙しくなるらしいし」
「えっ、お前マジで言ってる?」
「職場の実状もわかるし、仕事の内容も先取り出来る。ついでに、大石が本当に社員登用に値する奴なのかを見極めりゃいいじゃねえか」
「や、俺は肉体労働で内定もらったワケじゃねーんだって」
「いやー、パソコンや数字と向き合う仕事でも、現場のことを知ってなきゃって言って最初は肉体労働からスタートだと思うけどねー」
「だし巻きで~す。あっ、俺聞いたことあるんですけど、引っ越し屋さんの営業さんも、最初の1年は引っ越しの現場からスタートしたんだって~。それがしんどくて続かなかった人もたくさんいた~って」
「マジっすか」
「マジらしいよ~」
「だとよ。万里、どうすんだ」
「や、言って体力は人並みにはある! 一応ミニバスから数えて今もバスケやってっし! でも、フィジカルエリートかっつったら、そうじゃねーんだって」
「うだうだ言ってんな」
こういう夏の期間に内定のある奴が実際の職場に集められるということもない話ではないらしいし、それで合わなければ辞退するということも選択肢としてはある。将来のことをじっくり考えるのもまた長期休暇のあり方だろう。
「つかさ、仮に俺がガチでちょっと働きたいって言うじゃん? そういう申し出って受けてもらえるのかな?」
「俺が知るかよ」
「はー!? お前それはちょっと無責任じゃね!?」
++++
星高のいつメン3人衆が玄でうだうだやる季節になりました。やまよも安定の修行中です。
こっしーがちーちゃんの話を聞いた後で、よくよく考えたらちょっとズルくね?と思った話だけど、愚痴る相手が悪かった。
こっしーの夏バイト編の話も見てみたい。知力と体力は人並みにあるし、現場でもそれなりにやってくれると思うんだけどな
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