2021(02)

■みんなのいつもの過ごし方

++++

「ヘイヘーイ、てやっ!」
「おー」
「ヘイヘイヘーイ、……だりゃっ!」
「まつりちゃん頑張ってー」

 ABCの1年生4人は、たまに集まって遊びに行くことがある。あたしの他にあと3人、まつりちゃん、みわちゃん、エマちゃんっていう子がいて、みんなそれぞれ育ち方や性格が全然違う。だから遊んでても価値観の違いみたいなものが見えて面白いなって思う。それで全然合わないなーってならないのは何でだろ。
 エマちゃんはいい家のお嬢様だけど、エマちゃん本人はあんまり気取った感じじゃなくて親しみやすいなーって思う。あたしたちがよく行くお店とか、遊び方をあんまり知らないってことだったから、こうやってそれぞれの遊び方を紹介したりするんだよね。今日はまつりちゃんの回で、バッティングセンターに来てる。

「わたくし、いつも思うのですけれど、これだけ速く飛んでくる球にどのように対応していらっしゃるのかと」
「ほんとだよね。あたし、スポーツはあんまり得意じゃないからまつりちゃんは本当にすごいなって思う」
「エマ、一応言っとくけど、バッティングセンターはみんながみんなよく来るようなポピュラーな遊びとはちょっと違う」
「野球の好きな方がよくお越しになりますのよね」
「多分そうだね」

 まつりちゃんは野球の経験があって、サークル室でもよく野球の話をしてる。向島エリアはプロ野球のポケッツが本拠地にしてる星港ドームがあるし、野球の話自体はまあまあある。だけど、女の子で実際に野球をやってましたって人は少ないような気がする。先輩たちによれば、ABCではまつりちゃんみたく体育会系出身の子も珍しいんだって。

「ネット越しに見ててもちょっと怖いけど、まつりちゃんは自分目掛けてボールが飛んでくるのが怖くないのかなあ」
「慣れてんじゃない?」
「そっかー」
「バッティングセンターでデッドボールってあるのかな」
「痛そう…!」
「あ、調べたけど、ないことはないのか」
「あれだけの速さでボールが飛んでくるのですから、当たったら相当痛そうですわね」
「1回きゅうけーい」
「おつかれー」

 ボールがなくなって、まつりちゃんが1回上がって来た。スポーツドリンクを飲みながら、タオルで汗を拭いている。やっぱり定期的にやんないとねと満足そうにしているから、まつりちゃんは身体を動かすのが本当に好きなのかなって思う。

「ねえまつり、野球やっててデッドボールってあるじゃん」
「うん、あるね」
「あれって痛いの?」
「そりゃあ痛いよ! あっでも、球種とか球速、あと当たる場所によって違うかな。こう、痛くない場所で当たりに行くみたいな! 昔ソフト部の助っ人を頼まれたことがあったんだけど、練習でピッチングマシーンを使ってたのね? そこで脇腹にバーンもらっちゃってさ! あーゴメンゴメンまつりちゃん右打席だねーとかってはー!? みたいな!」

 エマちゃんはよく皆様が普段どのようなことをしているのかを知りたいということを言うんだけど、いわゆるお嬢様じゃない一般市民のあたしたちでさえ趣味や行動様式が全然違うんだもんね。バッティングセンターなんてまつりちゃんが連れて来てくれなかったら来る機会はなかったと思う。
 夏合宿の班打ち合わせでも、くるちゃんがケーキの断面を撮影するのが好きだったり、映像作品を作ってばっかりだよ~って北星が言ってたり、いろんな子がいるなあと思ったもんね。でも、最近くるちゃんと北星は動画の話で盛り上がってるかも。あたしは千颯と帰りが一緒になると、そんな2人が面白いねって話をしてる。

「ねえねえ。今日はまつりの趣味でバッティングセンターに来たからさ、次は私の回でいい? エマにも協力してほしいんだけど」
「わたくしでよろしければ協力致しますわよ」
「あのさ、エマが日常的に食べてるお菓子が食べたいんだよね。プチ贅沢の回にしたい」
「つまり、わたくしの自宅でお茶会を開けばよろしくて?」
「アフタヌーンティーってヤツ!? えー、いーないーな!」
「紅茶の葉っぱの銘柄にもこだわりがあるんだろうなー」
「わたくしが特に好きなのは家政婦の昌子さんの作るお菓子ですの。ぜひ皆様にも召し上がっていただきたいですわ」

 みわちゃんはお菓子が大好きなんだなーって感じがする。サークル室でもいつもお菓子を食べてて啓子先輩にゴミを片付けなさいって注意されてるし。でも、あれだけお菓子を食べてもちゃんと晩ご飯は晩ご飯で食べれるそうだから、凄いなあって。そんなみわちゃんだから、エマちゃんの食べてるお菓子が気になるのもわかるなー。

「その昌子さんが作るお菓子ってケーキとか?」
「ケーキに、スコーンに、クッキーに……あらゆるお菓子を作って下さるのですけど、皆様の好きな物を頼んでおきますわよ」
「何でも好きだから困る」
「みわは本当にお菓子が好きですのね。まつりとちとせはよろしくて?」
「まず、エマスタンダードを知らないからなあ。これは何回かお邪魔して、好きな物を探さなきゃいけないと思うんだよね! ねえちとせ!」
「えっ、あたし? まあ、お菓子は好きだよね」
「でしたら何回か開催しないといけませんわね」
「やったあ」
「みわもわたくしに美味しいお菓子を教えてくださいまし」

 バッティングセンターの後はラーメンか牛丼っていうのがアタシの決まりだからね、とまつりちゃんが次の行き先を決めてくれる。と言うか、次のあたしの回は何がしたいかなあ。順番が回ってくるまでにいろいろ考えておかなくちゃ。


end.


++++

青女の1年生たちはみんな違ってみんないいという感じの4人組です。まつりはバッセン勢だったか。1人だとそうなるかなあ。
青女では結構レアな体育会系のまつり。そう言えばフェーズ2の(IF)1年生でここまでバリバリの体育会系って他に誰かいたっけ
夏合宿の打ち合わせでも4班はくるちゃんと北星が濃くなりがちなので、千颯ちとせの掛け合いなんかももうちょっと見てみたい。

.
44/100ページ