2021(02)

■星の語り部

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「昨晩は酷く雨が降ってどうなることかと思いましたが、無事に晴れて良かったです」
「そうだねー。今日は観測会日和って感じだから、楽しみだねー」

 向島大学の天文部に入部して数ヶ月。私は何とかここまで天文部らしい活動の中に身を置くことが出来ていた。奏多からはちゃんと星のことをやりたい奴の入る部じゃないという風に忠告を受けてはいたけど、私にはどうしてもここで見たい物があるから。
 それが、私たちの乗るこの車を運転してくれている磐田先輩が去年制作されたプラネタリウム。一般的な手作りプラネタリウムは光源を覆う物の方に穴を開けて星空を再現するのだけど、磐田先輩のプラネタリウムは光ファイバー式。
 空を、天球を模した側の方に光ファイバーをセットして、その光り方をプログラムで制御するという方法で星空を再現しているそうです。この方法だと光の大きさや強さまで調整出来るので、より本物の星空に近くなるんだそうです。
 そして今日は流星群の観測会ということで、一部の部員が集まって観測会に行くことになっています。とは言え夏休みの期間中なので、集まっているのは真に星が好きだとか、こういう活動が好きな人だけなのですが。正直とても心地がいいです。

「磐田さん、そろそろ学祭に向けても動いていく時期ですよね」
「そうだねー。でもプラネ班は細かい調節だけでいいから秋学期に入ってからでも大丈夫じゃないかな。ガワは去年作っちゃってるから」
「磐田先輩、大学祭のプラネタリウムは具体的にどんな風に運営するのですか?」
「えっとねー、8号館の小さい教室を借り切ってやるんだけどねー。科学館みたく上映時間が決まってるとかじゃなくて、人が来たら始めまーすって感じでやるんだよー。アナウンスは様子を見ながら台本を読んでー」
「プログラムはもう出来上がっているのですよね」
「そうだねー。大学祭ごろの空を再現するプログラムになってるよ」
「もし良ければなんですが、そのソースコードを見せてもらうことは可能でしょうか」
「いいよいいよー。鳥居さん情報だもんねー。こういうのにも興味があるなら俺も嬉しいよー」

 大学祭では食品の模擬店とプラネタリウムの展示を行うのですが、大多数の部員が食品の模擬店の班に参加するのでプラネタリウム班はいつものメンバーという形になっています。人のあまり来ない教室棟での店番の時間を苦痛に感じる人は多いようです。
 模擬店の建ち並ぶ外を見て歩いたり食べ歩きをするのも楽しそうですが、静かな校舎内で展示を見るのもそれはそれで楽しそうです。とは言え、あまりに人が来なさすぎるのもよくないので、たまに看板を掲げて宣伝をして歩くこともあるそうです。

「アナウンスは録音したものを流すのではなく、こちらが語る形なんですね」
「そうだねー。そうでもしないと俺らも眠くなっちゃうしねーっていうのは冗談だけど、人の様子を見ながら話すかやめるか変えることも出来るからね」
「アナウンスをしないということもあるのですか?」
「去年の話になるんだけどね。こっちの用意した原稿よりいい語りをしてくれたお客さんがいてね。その人は一緒に来た後輩の子に向けて語ってたんだけど、その話がとても印象に残っててさ。星の知識とその相手の興味関心に沿った話題を織り交ぜてて、さすがMMPの人は上手いなーって」
「あの、話の腰を折るようで申し訳ないのですが、MMPというのは何かの団体ですか?」
「ああ、ごめんごめん。ラジオのサークルだよ。そのサークルの人が星が好きだって言ってて。MMPにはゼミの後輩もいるから、挨拶がてら向こうのスープを食べてって感じの小さな交流があったんだよ。何はともあれ、見に来てくれた人のムードを見ながらこっちも調整をね」
「なるほど」

 こちらで用意した原稿はきっと準備の時にでも見られるでしょうけど、磐田先輩の印象に残っているというその話がどんな話だったのかがとても気になります。録音などはしていないでしょうし。
 私も奏多に星の話をするのですが、一方的になりがちと言うか。その所為か、まーたその話かと聞いてもらえなくなってしまって。相手の興味関心に沿った話題を織り交ぜるということに興味が沸きました。

「確かに、与えられた原稿を読むだけでなく、状況に応じた話の組み立て方などが出来るようになれば強いですね」
「鳥居さんの話し方は落ち着いてるし、声質も聞きやすいと思うからこの大学祭ではアナウンスを担当してほしいなーって俺が勝手に思ってるんだけどねー」
「えっ!? 私で良ければぜひやらせてください!」
「わー、嬉しいなー。本格的に準備が始まったら改めて原稿を見直してもらわなきゃねー」

 将来はプラネタリウムのアナウンスだったり、そこで流れる映像を作ったりと、とにかくプラネタリウムや星に関する仕事がしたいと思っている。だから、大学祭のプラネタリウムとは言え、人に見せるそれに関わることが出来るのが本当に嬉しい。

「今日の観測も、流れ星がいくつ見れるか楽しみだねー」
「あの、磐田先輩。ちなみになんですけど、そのプラネタリウムでは流れ星を再現することなどは――」
「やろうと思えば出来るよー。そしたら今年はランダムで流れ星が流れるようにプログラムしてみようかー。やってダメならお蔵入りにすればいいだけだしねー」
「あっ、あのっ、言い出しっぺですから私にもお手伝いをさせてください!」


end.


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星の流れる日は大体ナツノサになりがちだけど、まあこういうのもたまにはいいかなと思いました。向島天文部、バンデンと春風。
バンデンは基本的にイエスマンなんだけども、本当に楽しくてやってることもあるはず。プラネタリウムとかUSDX関係のこととか。
去年のプラネタリウムで星の語りが上手だったお客さんというのは菜月さんのこと。春風にもMMPの影がちらついてきたぞ

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