2021(02)

■各々のマイペース

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「あ~、なんかすっごいお茶会みたいになっちゃったね」

 机の上には、みんなが持ち寄ったお菓子が山積みになっている。今日は青葉女学園大学のサークル室で班の打ち合わせ。青女っていうのは男子禁制の大学なんだけど、今年になって厳しい手続きをすれば大学構内に入ることが出来るようになったみたい。去年は大学祭以外完全に男子禁制だったんだって。
 ……で、深青なんだけど。今日は深い青色の入った長髪をポニーテールにしてるし、首にタオルを巻いてるから普通に歩いてても男だって思われなかったみたい。それで、深青が大学構内に入るための手続きをしたんだけど、大学の職員さんも「こういう子は普通に青女にもいるよー」って笑ってたんだよね。

「まあ、お茶会みたいになるのはウチじゃいつものことだし。アオが何も言わなければセーフってことで」
「言ってウチも誰かがお菓子を持って来るからこんな感じだよ」
「えっ、星大さんもこんな感じなの?」
「ウチはサークル費で乾燥剤や保存バッグを買ってるくらいだから」
「あー、ミドリが言ってた気がするー。レナ、緑ヶ丘はどう?」
「ウチは果林先輩が自分の食べるパンを持ってるくらいで、お菓子をみんなで分けてお茶会、みたいな文化はあんまりないですね。あっ、ハナ先輩がたまにバイト先からパンをもらって来てくれますけど、それくらいですね」
「やっぱ緑ヶ丘はマジメだなあ。みちると深青は?」
「班ごとに違うって感じですね。戸田班は戸田さんがたまにちょっとつまむものを持って来てくれますね。あと、夏は各々塩飴なんかを配り合ったり」
「ウチは食う物と言うより飲みもんに特化してますねー。練習してると熱気がすげーんで、スポドリとかをみんなで飲む、みたいな」
「体育会系みたい」
「音楽系ってそんな感じじゃないすかねー」
「星ヶ丘が塩分を重視してるのはよくわかった」

 今日も物凄く暑いから、タワー型扇風機を最大パワーで回してもらってる。これが本当に録音をする日とかだったら少しは動作音なんかを気にしなきゃいけないんだろうけど、今回は普通に練習をするだけだから、多少の音は問題なし。
 みんなが持って来たお菓子を机の上にばーっと広げると、みわがそれをじーっと凝視してるんだよね。ペア打ち合わせの時から思ってたけど、みわは美味しい物が大好きみたい。それをのんびりゆったりと食べてるんだけど、表情の変化は割と乏しい。美味しいのと聞くと、美味しいよと返ってはくるんだけど。

「深青のクッキーが美味しそう」
「って言うかこれって普通にいいヤツじゃん!」
「普通に貰いモンなんすけど、五百崎家に大量にあって。姉と母さんが食べる分は残してきたし、女子ばっかの班ならみんな好きかなと思って」
「深青ってお姉ちゃんいるんだ」
「そうなんすよ。双子の姉で、真桜っていうんすけど」
「へえ、まおとみおかー」
「真桜もファッションの趣味が似通ってますし、同じバンドでベース弾いてんすよ」
「仲がいいんだねー」
「悪くはないっすねー」

 ――という話を聞きながらも、淡々とお菓子の袋を破っては食べ破っては食べの動作を繰り返すのがみわ。この辺りのマイペースさはペア打ち合わせでも見て来たし、結構慣れて来た。この静かなマイペースさは、MBCCなら高木先輩やサキに通じるところがあるかもしれない。

「とりあえず、お菓子を食べながらでいいのでペアごとに進捗を報告しましょう。まず、私と深青ですが、番組の構成は8割出来てます。使う曲が結構激しめのロック寄りなので、曲の相性や機材の調整という意味で他のペアとの兼ね合いはどうかなという感じです」
「あたしとみちるは、ふわっと枠は決めてるので、今日詰めようかーって話してました」
「私とみわは大体構成は決まったので、後は練習を重ねていく段階です」
「じゃあ大体きてるんだ。練習を重ねながら詰めて行ければって感じだね。各ペアの番組を繋げてみないと見えないこともあるし、音のこともあるから」
「みわ、あんまお菓子でお腹いっぱいにしたら眠くなるよ」
「いつも眠いんで、大丈夫でーす」
「レナ、みわの相手するの大変でしょ」
「のんびりしたペースに付き合うのもたまには悪くないかなとは。たまにはですけど」
「私だったら耐えられなかったかもしれない」
「あー、俺も基本はサクッと本題を片付けてからのんびりしたい方っすね」
「私も極力練習に時間を取りたい方です」

 ほら、レナが付き合ってくれてるだけでみんなちゃんと練習を先にするの。そんな風にユキ先輩がみわを窘めている。みわは表情の変化に乏しいという理由でしっかり者とかクールに思われがちだけど、実際はかなりのんびりとした子だ。アオ先輩も表情は変わらない方だけど、本当にしっかり者でクールだ。

「それじゃあ、みんな練習に時間を取りたい派だということで、さっそくやりますか」
「はーい」
「ユキちゃん、機材は設定とか触っちゃって大丈夫?」
「大丈夫だよー、やっちゃってー」
「そしたらミキサー陣は機材チェックしようか。アナウンサー陣はどうする?」
「トーク内容を擦り合わせようかー。トーク内容とか使う曲とかを見て3人の順番を決める?」
「それでいいと思う。そしたらその辺はユキちゃんに任せても」
「えっ、あたしの責任で!?」


end.


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しっかり者でクールな子が揃ったと見せかけて実はちょっとのんびりな子も混ざっている夏合宿1班です。
アオ・みちる・深青が練習するならする、しないならしないとはっきり分けたい方のようです。ユキちゃんはどっちにも振れる。
深青は彩人とも話したことがあるって言ってたし、彩人が戻って来たらこの2人の掛け合いなんかも見てみたいし、小林班の様子も気になるね

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