2021(02)

■ひねた視野角

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「えっと、班の打ち合わせだね。ハナちゃんは一瞬実家に戻るそうだからお休みで、萌香は……お休みかな? 連絡はないんだけど」

 夏合宿の打ち合わせということで、班長のゲンゴロー先輩の案内で星ヶ丘大学にやってきた。打ち合わせと言うか、実戦練習と言う方がよさそう。ハナ先輩はいないけど、ペアごといないから練習という点では一応2ペア生きてるし、何とかなるんじゃないかなって。

「そしたら、この上に談話室っていう教室があるんだけど、みんなで機材を運んでもらっていいかな? 運んだら、俺とサキで機材を繋ごうかー」
「わかりました」
「わたくしはどれを運べばよろしいかしら」
「重いのは男手があるから、エマは細かいものをよろしく。このカゴにケーブルとかが入ってるから。サキと七海は重いのをよろしく」

 ゲンゴロー先輩によれば、これは班で持っている機材なんだそうだ。星ヶ丘の部活でも機材は持っているらしいけど、それを借りるには煩雑な手続きが必要なんだとか。どこの誰がいつからいつまで、何の目的で使う、とか。それがただただ面倒だという理由で夏合宿関係の練習では自前の機材を使う。

「星ヶ丘って班ごとに機材一式が支給されてるんですか?」
「まさか! これは全部緑ヶ丘さんから一式譲り受けて貰った物だよ」
「え、ウチからですか」
「何だったかな、タカティが今いるゼミ? が、機材を買うのが趣味みたくって、どんどん機材がお下がりでもらえるみたいなことを聞いたけど」
「ああー……聞いたことはあります」
「それで、使わない機材を処分してサークル室の場所を広げたいっていう緑ヶ丘さんの思惑と、タダで機材をもらえるなら貰いますっていう他の大学さんの思惑が合致したって感じらしいよ。ウチと青敬さんかな? ラジオの機材をそれぞれ一式もらってもまだ余裕があったって」

 佐藤ゼミの話はよく聞くけど、2大学さんにラジオの機材を一式譲ってもまだ余裕があるって。今までにどれだけの買い物をしてたんだろうって思うし、今ゼミで使ってる機材はどれくらいのグレードなんだろうっていうのが気になるね。ササとシノがゼミに入りたいって話だけど。

「ところで、エマとサキのペア打ち合わせはどんな様子? どれくらい進んでる?」
「番組の構成自体はよくある感じで、あとは練習を重ねて細かい調整をしていければっていう感じです」
「わたくしは構成のことなどはサキさまにお任せしていますの」
「……だから、その“サキさま”っていうのはやめてって言ったじゃない」
「ごめんあそばせ。ですけれど、癖が抜けませんの」
「えっと、2人は仲良くやれてる?」
「悪くはないと思いますけど」
「わたくしもさように存じます」
「そう。それならいいんだけど」

 ペアを組んでいる青女のエマとは、何回かペアの打ち合わせを重ねていくうちに何となく話せるようにはなってきてるかな。生粋のお嬢様らしいし、噛み合わないかなと思ったけど、想像よりは普通だった。
 何と言うか、俺が元々ネット世界でのコミュニケーションを重ねてたから、知らない人相手の当たり障りない話し方が出来るようになってたのかもしれない。あの世界では誰がどんな身分とか立場とか関係ないし。
 エマ自身、お嬢様じゃない青女の友達と同じ価値観を分かち合いたいと考えているみたいだから、俺もさほど気遣いしなくていいっていうのが大きいとは思う。打ち合わせではエマがあまり行ったことがないっていう、よくある一般のチェーン店を巡っている。

「ゲンゴロー先輩と七海のペアはどうですか」
「まあまあじゃないかなあ。ねえ七海」
「そうですね。まあまあだと思うよ」
「ふわっとしてるなあ」
「仕方ないじゃない、性格なんだから。具体的な進捗を出してって言われても、何て言えばいいやら」
「わたくしは夏の思い出というテーマに沿って、サークルの皆さまとお祭りに出向くことを話しますの。ですから、内容が重ならないようお願いいたしますわ」
「うん、わかったよー」
「ゲンゴロー先輩は、ハナ先輩から何か聞いてますか?」
「トークの心配は要らないけど、番組の構成とかは全然何も決まってないとは聞いたなあ」
「向島のあの子、最初の1回以外見てないけど大丈夫かなあ」
「打ち合わせにも練習にもいらっしゃらないのであれば、不本意な結果になるかもしれませんわよ」
「うーん。向島の子だし、大丈夫だと思いたいけどね」
「……向島の人だからって、盲目的に信用するのもどうかと思いますよ。今までの向島の人がちゃんとしてたからって、あの人がそうだとは限りませんし」
「わかってるよ。だから最悪の事態のことも想定する必要はあるんだよね」

 少し斜に構え過ぎたかなとか、疑り深いかなと思ったけど、そういう事態にも班長は備えてるんだなと思った。それがハナ先輩の言う、トークの心配はないけど番組の構成が~っていう部分なのかもしれない。つまりは、ミキサーが不安要素であるということ。

「でも、サキは心配しなくて大丈夫だよ。俺が何とかするから」
「わかりました。俺にも出来そうなことがあれば言ってください」
「その時はお願いするね。さ。運搬はこれでおしまいだし、機材のセットしようか」
「わたくしも近くで拝見させてくださいまし」
「あっ、俺も混ぜてくださいよー」
「ええ……そんなにまじまじ見るものでもないよ」
「サキさまは奥ゆかしくて」
「だから」
「こうして見ると、サキとエマは本当に仲良くなってるみたいね。良かった良かった」


end.


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班決めの件でサキは大人しいし大丈夫かなあ、ということをタカエイが言ってるのも聞いてたゲンゴロー。とりあえずは一安心。
七海は多分星大によくいる感じのほわほわした感じの子なんだけど、これからどんなキャラになるのか楽しみ。星大の1年キャラ全員並べたらワケわからんことになりそう。
最悪の事態への警戒は図らずも出来るようになってしまったゲンゴローです。本来は慣れたくないけれど、慣れざるを得ない環境で育ちました。

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