2021(02)

■何年分かのステップ

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「それじゃ~楽しい海の会、お疲れさまでした~、かんぱ~い」
「かんぱーい」

 大石から誘われたプチメゾンの慰労会として行われた海でのバーベキューが終わり、参加していた学生組はミーナの車で帰路へとついた。……はずだったんだけど、車の中での話が思いの他盛り上がり、そのままなっちの部屋で二次会が行われることになった。なかなか上がる機会のない女子の家だ。

「議長サンの家、青いね~。すっごい青い」
「実家では物心ついた時から青はうちの色だったんだ。持ち物とかを個人の色で決めてて」
「へ~。議長サンの実家のルールか~」
「そんなようなことだ」

 なっちの部屋は物が少ないという印象だ。CDラックはまあまあデカイけど、それ以外の物が全然ない。カラーボックスを横倒しにして2つ積み重ねた程度の収納で間に合うらしい。ドライヤーや化粧水、それからスーツケースなんかはベッドの下にしまってあるそうだけど、物が増えて実家に送り返したとかでもなく、元々こんな感じらしい。

「何て言うか、俺が議長サンの部屋で飲む時代が来るなんて思わなかったでしょでしょ~」
「ホントに。お前がうちに上がってるのが違和感しかない」
「ああ、そういやお前となっちってめちゃくちゃ仲悪かったんだっけか」
「今でこそビジネス不仲だけどね。自己分析の結果としては、朝霞クンに対するフラストレーションが議長サンに向かってたっていう」
「何で朝霞に対する不満をうちにぶつけるんだ。意味がわからない」
「まあ、当時の俺はね、似てる物を同じものだって思い込んじゃったの。もういいジャないその話は。あっ、懐かし~! これ、対策委員時代の写真でしょ!?」
「ああ、そうだな」

 ベッド脇のコルクボードに貼られている写真を見ると、確かに若いなという感じがする。主に山口の変化で時間の経過を感じることが出来るんだけど、金メッシュのもっさい髪が既に懐かしい。今は黒の短髪だ。こうして見ると、顔のいい奴は何をやっても似合うのが憎たらしい。

「そう言えば、なっちの家って野郎が泊まるとか大丈夫なのか」
「ああ。ノサカとか結構泊まるし全然」
「そうだ山口。階段の踊り場から見える真ん前の豪邸があるだろ」
「そうだね~。大きなお家で~」
「あれが須賀の家だぞ」
「えっ!? 星羅ちゃんの家なの~!? おっきいね~」
「朝霞、あの豪邸を知ってるのか」
「ウチの放送部の同期の家だ」
「へえ、世間は狭いモンだな」

 俺はこの辺りにはUSDX関係で来るようになったんだけど、どっちかと言うとこのマンションになっちが住んでるっていう方がマジかっていう感想だったな。向島大学の近くだから、何人かは知ってる人がいてもおかしくはないんだろうけど。多分バンデンもこの辺に住んでるんだろうな。

「……ところで、ロイは、あずさとは最近……」
「あっ、うちも気になる」
「最近って聞かれても、今まで話した通りなんだけどな。俺は逆にミーナに聞きたい」
「私に…?」
「プチメゾンでいろいろ話してるんだろ。愚痴とか」
「ああ……まあ、多少は……」
「彼氏としての朝霞クンに対する愚痴なんて~、何やっても部活に繋がるのがイヤ~とか、付き合ってるのに友達のときとやってることが全然変わんないんですけど~!? とか、精々その程度だと思うけどね~」
「……大体、アニの言う通り……」

 それは俺のあるあるだから今更どうこう言うことでもすることでもないんだよな。どうしようもないとも言う。一応恋愛関係という名目で付き合っているからと言って、何がしたいということもないし。

「いや、俺は自分の利用規約を最初に提示したぞ」
「俺は朝霞クンのことを知ってるからさ~、あずさチャン自身が書き物を抱えた状態で朝霞クンとの男女の付き合いに何の期待をしてるの~って言えるけど~、一般的にはそうジャないからね~」
「……スキンシップが、少なすぎるとは……手も繋がないのは、さすがに……」
「えっ、朝霞とあずさちゃんってそういう感じなのか?」
「そうだよ~」
「ほら、去年三井があずさちゃんに付き纏ってたときにさ、朝霞とヤることヤってる距離感だとか何とか言って負け惜しみ吐いて次の春に向かったんだぞ」

 ミッツは何をどう見てそう思ったのかわからないけど、ヤることをヤりたいと思わないのが俺の目下の悩みなのかもしれない。部活の現役の時ならともかく、そうじゃないときでも性欲という物とは無縁なのかと。いつも思うけど、そもそもそれが付き合いに必要なのかという話でだな。だから利用規約が必要だったワケで。

「議長サンのお口が安定の悪さだよね~」
「今のはうちのじゃなくて三井だぞ」
「言っちゃえば~、お酒に酔ってる時の議長サンが高崎クンに絡んでる時の方が、よっぽど朝霞クンとあずさチャンより進んでるってワケ~」
「ちょっ、どんな例えを出すんだお前は」
「……菜月、悪いけど、今のアニの例えは的確……」
「たまにインターフェイスで店飲みやるジャな~い? 周りにみ~んないるのに議長サンと高崎クンは2人の世界だもんね~。どっちかの部屋とか、邪魔が入らない場所で2人っきりで飲んだ日には、どうなるんだろうね~」
「……ロイの、何年分かのステップ……」
「美奈!」
「私はまだ、何も言ってない……菜月が動揺すればするだけ、彼は食い付いて来る……」
「別に何もないですよ~」
「誤魔化し方が雑いでしょでしょ~」
「うーん、その辺は割と真面目になっちの師事を受けなきゃいけないかもしれないな。スキンシップってどうやるんだ?」
「うちに聞くな! バカなんじゃないのか」


end.


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スキンシップの仕方? やまよと酒飲んで寝っ転がればいいだけのことじゃないか。ふしみん? 知らん。やまよ相手にはバリバリやってんだよなあ
しかし、高崎と飲んだ時の菜月さんは結構ベタベタしてるんだけども、それをPさんの何年分かって言い切る美奈である。
Pさんとふしみんのあれやこれやはなかなか進展してないと思われがちなんだけど、それでもPさん的にはちゃんと付き合ってんですよ、多分

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