2021(02)
■往く夏の荒波
++++
「おーエージ、久し振りだね。で、どこで飲むって?」
「いートコ連れてってくださいっす。土地勘はつばめサンの方がありますよね」
今朝、エージから連絡が入った。ちょっと聞いて欲しい話があるとか。昼は用事があったから、夜でどーだと。店はアタシに委ねられたワケだけど、玄だといろいろめんどくせーから他の場所がいいか。ま、相手がエージだしる~び~との相性で決めたいよね。
「まさかのビアガーデンすか」
「アタシあんまビアガーデンて来たことないから。てかビアガーデンて年齢認証あんのかな。2年相手だと微妙なんだよな」
「あ、大丈夫っすよ。俺昨日誕生日だったんで」
「おっ! いいね~。それじゃあ心置きなく飲もうぜ!」
好きな銘柄のビールをカウンターでもらって、食べたい物を適当に持ってテーブルの準備は完了。乾杯をして、ポテトをつまむ。店で飲むる~び~もいいけど、外で飲むる~び~は最高だね。これが夏の風物詩になるのも納得だね。財力が許せば毎日だって来たいもんね。結構いい値段すんだよな。
「で、とっとと本題に入ろっか。わざわざアタシを呼び出して、何の話がしたかった?」
「夏合宿関係っすね」
「対策委員の話だとすれば緑ヶ丘には果林がいるし、海月が何か問題あった?」
「あ、厳密には俺の話じゃないっていう」
「何だ。違うのか」
「昨日高木ン家で飲んでたんすけど、そこでハナがすげー愚痴ってたんすよ」
「何て?」
「ハナがペアを組んでる向島の1年ミキが、班の打ち合わせに来ないらしいんす。ペア打ち合わせで聞いた話では、班にイケメンがいなくてモチベだだ下がりとか。そんなモン知るかボケっつってまーあ大荒れっすよ」
「おハナってまあまあ気性激しかったよね」
「まあまあ激しいっすね。ハンドル握ってねーのに口が悪かったっていう。俺と高木が2人がかりで宥めてもブチ切れたまんまで」
「それはお疲れさん。てかおハナって班長じゃないよね? その班の班長って誰?」
「ゲンゴローっすね」
「おーっとぉ」
おハナがブチ切れてるだけなら正直アタシも去年はブチ切れてたからよくある話なんだけど、その班を束ねる人間が誰かわかったら、試練のように思えて来たね。そうか、班長としての手腕が問われるポジションに来るのはゲンゴローってワケか。俄然この話に興味が湧いてきたね。
「何で俺がその話をつばめサンにしてるかっつったら、去年の事があったじゃないすか。俺はミラのことを見てるし。いや、ハナは簡単に潰れる奴じゃないんすけど、こう、1人のことで班が傾くことだって十分にあるって知ってるから、ハナの班のことがちょっと心配になったっつーか」
去年の夏合宿と言えば、向島の三井がペアを組んでた青女のミラを叩きに叩いて叩き潰した結果、ミラは精神的なショックを受けて最終的には青女のサークルを辞めてしまうということが起こった。そのことでアタシは守ることの難しさを知ったし、いかに自分が守られていたのかと思い知らされた。
おハナの愚痴を聞いたエージは、ゲンゴローが束ねる班が件の女のことで悪い空気になったりしていないかということを心配しているらしい。番組の練習が回らなかったり、他の班員への影響の方だね。おハナの事はさほど心配してないっていうのは、同じ緑ヶ丘の同期への信頼かもしれない。
「それはそうと、対策委員の委員長としてはゲンゴロー班のことは注視しとかなきゃいけねーかなーって感じで」
「気は配っといた方がいいかもね。もしかしたらそいつがモチベが上がり切らなくて合宿をブッチすることだって十分あるし」
「代わりのミキサーを用意する必要があるみたいなことすか」
「夏合宿レベルだったらゲンゴローが朝飯前だしその辺の心配は要らないよ」
「まあそうっすね」
「でも、イケメン狙いの女なあ。めんどくさっ。ただただめんどくせーわ」
「まあ、去年のあの人にしても、今年のその女にしても、インターフェイスの主流とはズレてるからっつって槍玉に上げたりハブるのは簡単っすけど、多数派の同調圧力みたいにならないかとも思うんすよね」
「あーね」
「あと、高木が言ってたんすよね。高木の班が結構イケメン揃いとかで、ウチの班のヤツを狙って来たらどうしようみたいなことを」
「へー、タカティの班ってイケメン揃」
――と、呑気なことを言おうとして思い出した。タカティの班だったら番組の構成を考える上でいい刺激を受けられるだろうよ、と送り出した奴がいる。言ってしまえば、イケメン狙いの女を絶対に近付けちゃいけない、一番NGな奴だ。
「エージ、タカティの班って確かウチの彩人、いたよね?」
「そーっすね。高木もそれを一番心配してたっす。あ、俺も対策委員なんで一応女性恐怖症? の話は聞いてるっす」
「何だかんだで戸田班絡んで来るなーおい!」
「彩人はこないだの大雨の時に一緒に高木ン家に避難してたんすけど、その様子を見ててもどういう状況で自分が不安定になるのかってことを分析して対処出来る奴っすね」
「自然現象とか、ある程度傾向がわかる状況とか、そういうのには強いよね。でも、その女が突然迫って来るとパニクって発作が起こる、とかも十分あり得るんだよ。とりあえず、その辺はタカティにも重ねて頼んどかなきゃね」
「俺からも言っときます。あっ、つばめサン。フードの方、ヒレステーキ追加されたっす」
「マジか! 取って来なきゃ!」
心配は絶えないけど、アタシがどうこうすることじゃないからね。今日のエージみたく、何か聞かれたときに簡単なアドバイスをしてやるくらいだ。
end.
++++
最初は二日酔いのハナちゃんを介抱してるエイジの話のつもりが、対策委員の委員長だったり去年のミラのことだったりって重なってこうなる。
去年の合宿でつばちゃんがいろいろ戦っていたのを間近で見ていたエイジなので、ゲンゴロー班の状況に思うところがある様子。
自分の班は元気過ぎる子ばっかりいるけどそれは正直大した問題ではなさそうですね。それは自分がシメどころを間違えなければ済む話。
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「おーエージ、久し振りだね。で、どこで飲むって?」
「いートコ連れてってくださいっす。土地勘はつばめサンの方がありますよね」
今朝、エージから連絡が入った。ちょっと聞いて欲しい話があるとか。昼は用事があったから、夜でどーだと。店はアタシに委ねられたワケだけど、玄だといろいろめんどくせーから他の場所がいいか。ま、相手がエージだしる~び~との相性で決めたいよね。
「まさかのビアガーデンすか」
「アタシあんまビアガーデンて来たことないから。てかビアガーデンて年齢認証あんのかな。2年相手だと微妙なんだよな」
「あ、大丈夫っすよ。俺昨日誕生日だったんで」
「おっ! いいね~。それじゃあ心置きなく飲もうぜ!」
好きな銘柄のビールをカウンターでもらって、食べたい物を適当に持ってテーブルの準備は完了。乾杯をして、ポテトをつまむ。店で飲むる~び~もいいけど、外で飲むる~び~は最高だね。これが夏の風物詩になるのも納得だね。財力が許せば毎日だって来たいもんね。結構いい値段すんだよな。
「で、とっとと本題に入ろっか。わざわざアタシを呼び出して、何の話がしたかった?」
「夏合宿関係っすね」
「対策委員の話だとすれば緑ヶ丘には果林がいるし、海月が何か問題あった?」
「あ、厳密には俺の話じゃないっていう」
「何だ。違うのか」
「昨日高木ン家で飲んでたんすけど、そこでハナがすげー愚痴ってたんすよ」
「何て?」
「ハナがペアを組んでる向島の1年ミキが、班の打ち合わせに来ないらしいんす。ペア打ち合わせで聞いた話では、班にイケメンがいなくてモチベだだ下がりとか。そんなモン知るかボケっつってまーあ大荒れっすよ」
「おハナってまあまあ気性激しかったよね」
「まあまあ激しいっすね。ハンドル握ってねーのに口が悪かったっていう。俺と高木が2人がかりで宥めてもブチ切れたまんまで」
「それはお疲れさん。てかおハナって班長じゃないよね? その班の班長って誰?」
「ゲンゴローっすね」
「おーっとぉ」
おハナがブチ切れてるだけなら正直アタシも去年はブチ切れてたからよくある話なんだけど、その班を束ねる人間が誰かわかったら、試練のように思えて来たね。そうか、班長としての手腕が問われるポジションに来るのはゲンゴローってワケか。俄然この話に興味が湧いてきたね。
「何で俺がその話をつばめサンにしてるかっつったら、去年の事があったじゃないすか。俺はミラのことを見てるし。いや、ハナは簡単に潰れる奴じゃないんすけど、こう、1人のことで班が傾くことだって十分にあるって知ってるから、ハナの班のことがちょっと心配になったっつーか」
去年の夏合宿と言えば、向島の三井がペアを組んでた青女のミラを叩きに叩いて叩き潰した結果、ミラは精神的なショックを受けて最終的には青女のサークルを辞めてしまうということが起こった。そのことでアタシは守ることの難しさを知ったし、いかに自分が守られていたのかと思い知らされた。
おハナの愚痴を聞いたエージは、ゲンゴローが束ねる班が件の女のことで悪い空気になったりしていないかということを心配しているらしい。番組の練習が回らなかったり、他の班員への影響の方だね。おハナの事はさほど心配してないっていうのは、同じ緑ヶ丘の同期への信頼かもしれない。
「それはそうと、対策委員の委員長としてはゲンゴロー班のことは注視しとかなきゃいけねーかなーって感じで」
「気は配っといた方がいいかもね。もしかしたらそいつがモチベが上がり切らなくて合宿をブッチすることだって十分あるし」
「代わりのミキサーを用意する必要があるみたいなことすか」
「夏合宿レベルだったらゲンゴローが朝飯前だしその辺の心配は要らないよ」
「まあそうっすね」
「でも、イケメン狙いの女なあ。めんどくさっ。ただただめんどくせーわ」
「まあ、去年のあの人にしても、今年のその女にしても、インターフェイスの主流とはズレてるからっつって槍玉に上げたりハブるのは簡単っすけど、多数派の同調圧力みたいにならないかとも思うんすよね」
「あーね」
「あと、高木が言ってたんすよね。高木の班が結構イケメン揃いとかで、ウチの班のヤツを狙って来たらどうしようみたいなことを」
「へー、タカティの班ってイケメン揃」
――と、呑気なことを言おうとして思い出した。タカティの班だったら番組の構成を考える上でいい刺激を受けられるだろうよ、と送り出した奴がいる。言ってしまえば、イケメン狙いの女を絶対に近付けちゃいけない、一番NGな奴だ。
「エージ、タカティの班って確かウチの彩人、いたよね?」
「そーっすね。高木もそれを一番心配してたっす。あ、俺も対策委員なんで一応女性恐怖症? の話は聞いてるっす」
「何だかんだで戸田班絡んで来るなーおい!」
「彩人はこないだの大雨の時に一緒に高木ン家に避難してたんすけど、その様子を見ててもどういう状況で自分が不安定になるのかってことを分析して対処出来る奴っすね」
「自然現象とか、ある程度傾向がわかる状況とか、そういうのには強いよね。でも、その女が突然迫って来るとパニクって発作が起こる、とかも十分あり得るんだよ。とりあえず、その辺はタカティにも重ねて頼んどかなきゃね」
「俺からも言っときます。あっ、つばめサン。フードの方、ヒレステーキ追加されたっす」
「マジか! 取って来なきゃ!」
心配は絶えないけど、アタシがどうこうすることじゃないからね。今日のエージみたく、何か聞かれたときに簡単なアドバイスをしてやるくらいだ。
end.
++++
最初は二日酔いのハナちゃんを介抱してるエイジの話のつもりが、対策委員の委員長だったり去年のミラのことだったりって重なってこうなる。
去年の合宿でつばちゃんがいろいろ戦っていたのを間近で見ていたエイジなので、ゲンゴロー班の状況に思うところがある様子。
自分の班は元気過ぎる子ばっかりいるけどそれは正直大した問題ではなさそうですね。それは自分がシメどころを間違えなければ済む話。
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