2021(02)
■家には誰かの影がある
++++
「えーっと、608っと」
来るたび思うけど、タカティが住んでるマンションが学生の住むマンションのレベルじゃないんだよなあ。俺が住んでるのが星大近くの普通のアパートだからそう思うのかもしれないけど、端とは言え星港市内で10階建てのオートロックマンション、しかもゴミ捨て場が敷地内にあって水道代定額はなかなかに凄い。
今日はIF男子会じゃなくて、夏合宿の班打ち合わせ。って言うか班の打ち合わせを個人の家でやるっていう発想もまずびっくりだけど、それを言い出したのが班長のタカティだからみんな「じゃあそういうものなのかなあ」ってすとんと納得してたんだよね。一応飲食物は各自でよろしくとだけは聞いてるけど。
『はーい』
「あっ、タカティ、みんな来たよー」
『今開けまーす』
エントランスのオートロックが開いて、エレベーターにみんなで乗り込む。ササと彩人は来たことがあるみたいだけど、当麻とオリちゃんは初めてだからすごいマンションですねって言いながら周りをきょろきょろ見渡してる。俺も最初はそうだった。
「あっ、いらっしゃい」
「お邪魔しまーす。タカティ、冷たい物は冷蔵庫に入れさせてもらっていいかな?」
「いいよ。好きに使って」
「わー、ありがとー」
「高木さんすみません、トイレ借りていいですか」
「いいよ。そこだから」
「ありがとうございます」
「うわっ、高木さんの部屋のクーラーが動いてる! 高木さんクーラーあんま得意じゃないって言ってなかったでしたっけ!」
「高木先輩は「光熱費がかかるから」って理由で付けないイメージです」
「さすがにみんなが来る打ち合わせの時は付けるよ。エアコンもエイジが掃除してくれたし試運転もしたから変な臭いはしないでしょ?」
「あ、確かに。至って普通の風っすね」
「エージ先輩が掃除をしてくれたんですか」
「こないだ突発的に始まっちゃったんだよね。ほら、エイジってああいう性質だから、1ヶ所を始めるとここもあそこもってどんどん範囲が広がっちゃって」
「映像で再生できます」
「最初はトイレだけだったんだけどね」
エージがエアコンを掃除してるのは俺も映像で再生できるなあ。それから、タカティが「ああいう性質だから」っていうのにも納得しちゃう。何て言うか、エージって潔癖症に近いよね。ファストフード店とかに入って、前のお客さんが出てすぐの席しか無い時とか絶対お店の人にふきんとか借りて来て掃除してからじゃないと荷物も置かないもんね。
「そう言えば、ササは緑ヶ丘だからわかるんだけど、彩人もタカティの部屋に来たことがあるの?」
「そうっすね。こないだの大雨ん時に避難させてもらいました。エージさんともそこで会って、ずぶ濡れになった服洗濯してもらったり飯作ってもらったりとか世話になったっす」
「こないだの雨、怖かったよねー」
「ああ、ミドリもこの辺に住んでるもんね。ミドリは大丈夫だった?」
「一応天気図とかお天気サイトとか見て避難指示とかにはならないかなって判断して、情報を得られる端末の電源を全部落として耳栓して、頑張って寝ました」
そういうときに情報に齧りついたり雁字搦めにされると気が落ちちゃうっていうのはこれまでの経験でわかっていた。それに、去年の台風のときに林原さんからも「端末の電源を全部落として飯を食うか寝るかしろ」と助言をもらっていたから、あれ以来その通りにやることにしてるんだ。
「あっ、当麻おかえり」
「高木さん、トイレめちゃくちゃ綺麗ですね。男の1人暮らしのトイレじゃないですよ。これは出る時も綺麗にしないとなって、便座とか拭いてきました。あれはそれ用のシートですよね?」
「あはは、ありがとう。そうそう、こないだ友達がね、うちのトイレをあんな感じに改造してくれてさ」
「えっ、てかエージ先輩どこまでやったの?」
「俺も見たい」
「うわっ、すごっ!」
「すげー! こないだと全然ちげー! あっ、つかこれ突っ張り式の棚かー! これ俺もマネしたいなー」
ササと彩人がエージ作・タカティの部屋のトイレを覗いてきゃっきゃと楽しそうにしてるんだけど、どんなことになってるんだろ。俺もちょっと興味が湧いたから覗くよね。そしたら、上の方に突っ張り式の棚で収納スペースが作られてるし、便座掃除用のシートも置かれてる。手洗い後にはペーパータオルできちんと手を拭いてねってことかな?
便座の中にも水を流す度に洗ってくれるとか、抗菌成分が広がって汚れるのを防いでくれますよみたいな洗剤がくっつけてある。もちろん、壁と天井にも広がる防臭・抗菌剤もバッチリ。よく見ると個室の巾木にマスキングテープが施してあるんだけど、これはどういうことなのかな?
「タカティ、エージすごいね」
「ホントに。こないだ駅のトイレでショックを受けたみたくて。俺の部屋のトイレは自分が安心して使えるようにするんだーって言って、その掃除がお風呂と洗濯槽とエアコンにまで広がっちゃってさ」
「ああー……」
「ミドリの部屋も掃除はするでしょ? ユキちゃん来るんだったら尚更じゃない?」
「ある程度はやってるけど、さすがにエージほどじゃないよ。洗濯槽とかエアコンの掃除とかやったことないし」
「あっ、俺洗濯槽掃除とか家の細かいトコの掃除の仕方とか教えて欲しいっす! 今はまだ綺麗っすけど、後学のために」
「あー、えーと、そうだな。それならエイジよりも掃除に強い人の方がいいよね。ササ、L先輩から掃除のノウハウを聞いて彩人に教えてあげて」
「わかりました」
「緑ヶ丘にはエージさん以上の掃除のプロが…!?」
「あっ、洗濯とか家電のカテゴリはL先輩より伊東先輩の方が強いから、伊東先輩に聞いてみてもいいかもね。はい、それじゃあそろそろ打ち合わせやろうかー」
end.
++++
MBCCお掃除三銃士はいち氏・L・エイジの3人でまず間違いないんだな。ここに布団が加わると高崎も食い込んで来るんだけども
というワケで先日エイジが綺麗にしてくれたTKG宅で夏合宿の打ち合わせだけど、本題に入る前に話が終わった。サササイが終始きゃっきゃしてる。
この時点で高木パイセンはサササイの関係の事は知ってるので掃除のノウハウのこともそっちに投げたぞ! だった自分は専門じゃないからな!
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「えーっと、608っと」
来るたび思うけど、タカティが住んでるマンションが学生の住むマンションのレベルじゃないんだよなあ。俺が住んでるのが星大近くの普通のアパートだからそう思うのかもしれないけど、端とは言え星港市内で10階建てのオートロックマンション、しかもゴミ捨て場が敷地内にあって水道代定額はなかなかに凄い。
今日はIF男子会じゃなくて、夏合宿の班打ち合わせ。って言うか班の打ち合わせを個人の家でやるっていう発想もまずびっくりだけど、それを言い出したのが班長のタカティだからみんな「じゃあそういうものなのかなあ」ってすとんと納得してたんだよね。一応飲食物は各自でよろしくとだけは聞いてるけど。
『はーい』
「あっ、タカティ、みんな来たよー」
『今開けまーす』
エントランスのオートロックが開いて、エレベーターにみんなで乗り込む。ササと彩人は来たことがあるみたいだけど、当麻とオリちゃんは初めてだからすごいマンションですねって言いながら周りをきょろきょろ見渡してる。俺も最初はそうだった。
「あっ、いらっしゃい」
「お邪魔しまーす。タカティ、冷たい物は冷蔵庫に入れさせてもらっていいかな?」
「いいよ。好きに使って」
「わー、ありがとー」
「高木さんすみません、トイレ借りていいですか」
「いいよ。そこだから」
「ありがとうございます」
「うわっ、高木さんの部屋のクーラーが動いてる! 高木さんクーラーあんま得意じゃないって言ってなかったでしたっけ!」
「高木先輩は「光熱費がかかるから」って理由で付けないイメージです」
「さすがにみんなが来る打ち合わせの時は付けるよ。エアコンもエイジが掃除してくれたし試運転もしたから変な臭いはしないでしょ?」
「あ、確かに。至って普通の風っすね」
「エージ先輩が掃除をしてくれたんですか」
「こないだ突発的に始まっちゃったんだよね。ほら、エイジってああいう性質だから、1ヶ所を始めるとここもあそこもってどんどん範囲が広がっちゃって」
「映像で再生できます」
「最初はトイレだけだったんだけどね」
エージがエアコンを掃除してるのは俺も映像で再生できるなあ。それから、タカティが「ああいう性質だから」っていうのにも納得しちゃう。何て言うか、エージって潔癖症に近いよね。ファストフード店とかに入って、前のお客さんが出てすぐの席しか無い時とか絶対お店の人にふきんとか借りて来て掃除してからじゃないと荷物も置かないもんね。
「そう言えば、ササは緑ヶ丘だからわかるんだけど、彩人もタカティの部屋に来たことがあるの?」
「そうっすね。こないだの大雨ん時に避難させてもらいました。エージさんともそこで会って、ずぶ濡れになった服洗濯してもらったり飯作ってもらったりとか世話になったっす」
「こないだの雨、怖かったよねー」
「ああ、ミドリもこの辺に住んでるもんね。ミドリは大丈夫だった?」
「一応天気図とかお天気サイトとか見て避難指示とかにはならないかなって判断して、情報を得られる端末の電源を全部落として耳栓して、頑張って寝ました」
そういうときに情報に齧りついたり雁字搦めにされると気が落ちちゃうっていうのはこれまでの経験でわかっていた。それに、去年の台風のときに林原さんからも「端末の電源を全部落として飯を食うか寝るかしろ」と助言をもらっていたから、あれ以来その通りにやることにしてるんだ。
「あっ、当麻おかえり」
「高木さん、トイレめちゃくちゃ綺麗ですね。男の1人暮らしのトイレじゃないですよ。これは出る時も綺麗にしないとなって、便座とか拭いてきました。あれはそれ用のシートですよね?」
「あはは、ありがとう。そうそう、こないだ友達がね、うちのトイレをあんな感じに改造してくれてさ」
「えっ、てかエージ先輩どこまでやったの?」
「俺も見たい」
「うわっ、すごっ!」
「すげー! こないだと全然ちげー! あっ、つかこれ突っ張り式の棚かー! これ俺もマネしたいなー」
ササと彩人がエージ作・タカティの部屋のトイレを覗いてきゃっきゃと楽しそうにしてるんだけど、どんなことになってるんだろ。俺もちょっと興味が湧いたから覗くよね。そしたら、上の方に突っ張り式の棚で収納スペースが作られてるし、便座掃除用のシートも置かれてる。手洗い後にはペーパータオルできちんと手を拭いてねってことかな?
便座の中にも水を流す度に洗ってくれるとか、抗菌成分が広がって汚れるのを防いでくれますよみたいな洗剤がくっつけてある。もちろん、壁と天井にも広がる防臭・抗菌剤もバッチリ。よく見ると個室の巾木にマスキングテープが施してあるんだけど、これはどういうことなのかな?
「タカティ、エージすごいね」
「ホントに。こないだ駅のトイレでショックを受けたみたくて。俺の部屋のトイレは自分が安心して使えるようにするんだーって言って、その掃除がお風呂と洗濯槽とエアコンにまで広がっちゃってさ」
「ああー……」
「ミドリの部屋も掃除はするでしょ? ユキちゃん来るんだったら尚更じゃない?」
「ある程度はやってるけど、さすがにエージほどじゃないよ。洗濯槽とかエアコンの掃除とかやったことないし」
「あっ、俺洗濯槽掃除とか家の細かいトコの掃除の仕方とか教えて欲しいっす! 今はまだ綺麗っすけど、後学のために」
「あー、えーと、そうだな。それならエイジよりも掃除に強い人の方がいいよね。ササ、L先輩から掃除のノウハウを聞いて彩人に教えてあげて」
「わかりました」
「緑ヶ丘にはエージさん以上の掃除のプロが…!?」
「あっ、洗濯とか家電のカテゴリはL先輩より伊東先輩の方が強いから、伊東先輩に聞いてみてもいいかもね。はい、それじゃあそろそろ打ち合わせやろうかー」
end.
++++
MBCCお掃除三銃士はいち氏・L・エイジの3人でまず間違いないんだな。ここに布団が加わると高崎も食い込んで来るんだけども
というワケで先日エイジが綺麗にしてくれたTKG宅で夏合宿の打ち合わせだけど、本題に入る前に話が終わった。サササイが終始きゃっきゃしてる。
この時点で高木パイセンはサササイの関係の事は知ってるので掃除のノウハウのこともそっちに投げたぞ! だった自分は専門じゃないからな!
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