2021(02)
■変わらぬ夏空
++++
「ミーちゃーん、ただいまーッ」
「はーいッ! あやめちゃんマリンちゃんお疲れさまーッ! 何もないところだけど上がって上がってーッ」
向舞祭関係の打ち合わせが終わって、そのまま流れるように奈々の家にお邪魔することになった。今日は本格的な練習って言うよりはこういう感じで今後やっていきますっていう打ち合わせが主だったのかな。その現場には、向舞祭関係の人が大集合してて。
その中にはMCとしてステージに立つ水鈴さんもいた。水鈴さんと言えば星ヶ丘大学放送部の出身で、部活の現役時代から現役女子大生タレントとしてMCの仕事をしたりしてたらしい。学年の都合で水鈴さんの立つステージを見たことがないけど、みんな凄いって言ってるんだよね。
「今日は水鈴さんが夕飯を作ってくれるって聞きましたよー」
「そーなのッ! でも大した物じゃないよ。ただの棒々鶏だから」
「大した物じゃないですか。うち2人いるのに全然やんないですもんそんなの」
「マリン、静かだけど大丈夫? 暑さでやられたとかじゃないよね?」
「大丈夫ですよ。人の家族も住んでる家なのでどう振る舞えばいいかわからなかったですよ」
「普通でいいのに。ねえミーちゃん」
「今いるのはアタシたちだけだからねッ、ゆっくりしてね。奈々、ちょっと手伝って」
「はーいッ」
そう言われても、人の家のリビングだと思うと緊張する。あやめは何回か奈々の家には遊びにとか泊まりに来たことがあるそうで、ご家族にもすっかり認知されているらしい。慣れた様子がしっかりと伝わってくるんだよなあ。私が固すぎるのかな。
「あやめちゃんマリンちゃんカルピスで良かった?」
「ありがとうございますー」
「ありがとうございます。いただきますです」
「ん~っ、濃い~! 美味しいです!」
「なら良かった」
「野暮な話ですけど水鈴さん、越谷さんとは最近どうなってますか?」
「おっ、それ聞いちゃうかあやめちゃ~ん」
「率直に気になりますからねー」
「こないだのオフに1回光洋に行ってきたよねッ」
「おお~っ!」
「あ、そう言えばまだ鳥サブレあったよね奈々」
「もうちょっとあったと思う」
「2人に出してあげてよ、お茶請け代わりに」
「はーいッ」
パタパタと奈々がリビングから台所に引っ込んでいって、戻ってきたその手には光洋銘菓の鳥サブレ。これは有名なお土産だからさすがに知ってる。グッズもいろいろあって可愛くて、じゃないですよ。
「あやめは水鈴さんと立ち入った話もするです…?」
「って言うか水鈴さんの恋バナはよっぽどじゃないと立ち入ったって域でもなくない? これだけオープンな人なんだし」
「なんだしって言われても直接お話しする機会なんかなかったですから存じないですよ」
「あ、星ヶ丘って規模大きいもんね! 知らない人とか普通にいるんだ! えっ、そしたら越谷さんのことも知らないの!?」
「知らないです。宇部さんから少し話に聞いたことがあるくらいです」
「マリンちゃん、メグちゃんは雄平のことをどんな風に言ってたの? アタシが気になるなあ」
とは言え越谷さんのことを直接聞いたワケじゃなくて、つばめ先輩のディレクターとしてのルーツの中の一節です。朝霞班になる前に、当時の班員を全員1人で育て上げた凄腕のオールラウンダーの人がいた、という話で。
「確かに雄平は洋平もカオルちゃんもつばめもまるっと面倒見てた見てた。懐かしいな~!」
「そんなことが実際出来るですか? 越谷さんはミキサーだったという風に聞いているです。ディレクターのつばめ先輩はまだしも、プロデューサーやアナウンサーの技術指導なんか」
「それが出来るんだよ。雄平は最終的にミキサーになるまでに全部のパートを網羅して、それぞれ一人前と言える技術を身につけてるから」
「……そんな人が、本当にいたですか」
戸田班は、話に聞く“流刑地”の実状よりは大分恵まれていると思っている。部長の柳井はクソなことには違いないけど、ステージはまだちゃんとやる奴ではあるから、ステージに関しての不自由はそこまでないし。
朝霞班は、朝霞に対する私怨だけで日高が嫌がらせをしていたという話。幼稚で、横柄で、本当にクソみたいな部長だったですよ日高は。朝霞も朝霞でクソ野郎ですけど、日高の方がずっとクソですよ。そうやって集まった類友が長門班だったです。
「雄平は幹部に楯突いちゃったからね。アナウンサーとして表にも出て来れないし、ステージの台本も雄平が書いたってだけで没になってたし」
「それでミキサーになったですか?」
「ううん。2年に上がった頃、川口班にアナとP候補が入ってきた。自分とあの子たちの適性や能力を比べたときに、ステージの可能性を広げるためには自分がミキサーに回るのが一番だって判断したんだよ。自分が1年生を夏までに使えるように育てるから、自分のことをミキサーとして育ててくれって当時の班長に直談判してね」
「ステージに熱い人、だったです?」
「そうだね。流刑地とは言うけど、部の中で一番ステージに熱い奴らの集まり。それが川口班、越谷班、朝霞班と続いて……戸田班はどう?」
「熱い奴らの集まりです」
「よろしい。丸の池楽しみにしてるね。時間作って覗きに行くし」
「緊張するです」
「大丈夫大丈夫ッ! マリンちゃんは真面目なのがいいところだけど、真面目すぎるのが欠点にもなりうるからねッ」
「はいです」
真面目すぎると言われても、どうすればいいかはわからないですよ。ただふざけるのとは違うですからね。
「あっ、そしたらマリンちゃん一緒に棒々鶏作る?」
「えっ、私がです?」
「戸田班の話とかマリンちゃんの恋バナとかも気になるしーッ」
「戸田班の話はともかく恋バナ!? ないですないです!」
「えっ、カンちゃんとはペーパー離婚みたいなことなんでしょ?」
「それを言うならペーパー破局です」
「マリンの恋バナとか気になる!」
「ちょっ、水鈴さん、料理するなら台所ですよ!」
end.
++++
水鈴さん関係の子らをまるっと岡島家に詰め込んだ結果。こっしーさんの話になってしまった。オールラウンダーやったなあ。
多分ここから盛り上がってくると夏合宿関係の話になってわーやらぎゃーやら楽しいことになるんやろなあ
忘れかけてたけどカンDとマリンは便宜上別れてるだけのペーパー破局でしたね。お互い成長してから気が変わってなければってヤツです
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「ミーちゃーん、ただいまーッ」
「はーいッ! あやめちゃんマリンちゃんお疲れさまーッ! 何もないところだけど上がって上がってーッ」
向舞祭関係の打ち合わせが終わって、そのまま流れるように奈々の家にお邪魔することになった。今日は本格的な練習って言うよりはこういう感じで今後やっていきますっていう打ち合わせが主だったのかな。その現場には、向舞祭関係の人が大集合してて。
その中にはMCとしてステージに立つ水鈴さんもいた。水鈴さんと言えば星ヶ丘大学放送部の出身で、部活の現役時代から現役女子大生タレントとしてMCの仕事をしたりしてたらしい。学年の都合で水鈴さんの立つステージを見たことがないけど、みんな凄いって言ってるんだよね。
「今日は水鈴さんが夕飯を作ってくれるって聞きましたよー」
「そーなのッ! でも大した物じゃないよ。ただの棒々鶏だから」
「大した物じゃないですか。うち2人いるのに全然やんないですもんそんなの」
「マリン、静かだけど大丈夫? 暑さでやられたとかじゃないよね?」
「大丈夫ですよ。人の家族も住んでる家なのでどう振る舞えばいいかわからなかったですよ」
「普通でいいのに。ねえミーちゃん」
「今いるのはアタシたちだけだからねッ、ゆっくりしてね。奈々、ちょっと手伝って」
「はーいッ」
そう言われても、人の家のリビングだと思うと緊張する。あやめは何回か奈々の家には遊びにとか泊まりに来たことがあるそうで、ご家族にもすっかり認知されているらしい。慣れた様子がしっかりと伝わってくるんだよなあ。私が固すぎるのかな。
「あやめちゃんマリンちゃんカルピスで良かった?」
「ありがとうございますー」
「ありがとうございます。いただきますです」
「ん~っ、濃い~! 美味しいです!」
「なら良かった」
「野暮な話ですけど水鈴さん、越谷さんとは最近どうなってますか?」
「おっ、それ聞いちゃうかあやめちゃ~ん」
「率直に気になりますからねー」
「こないだのオフに1回光洋に行ってきたよねッ」
「おお~っ!」
「あ、そう言えばまだ鳥サブレあったよね奈々」
「もうちょっとあったと思う」
「2人に出してあげてよ、お茶請け代わりに」
「はーいッ」
パタパタと奈々がリビングから台所に引っ込んでいって、戻ってきたその手には光洋銘菓の鳥サブレ。これは有名なお土産だからさすがに知ってる。グッズもいろいろあって可愛くて、じゃないですよ。
「あやめは水鈴さんと立ち入った話もするです…?」
「って言うか水鈴さんの恋バナはよっぽどじゃないと立ち入ったって域でもなくない? これだけオープンな人なんだし」
「なんだしって言われても直接お話しする機会なんかなかったですから存じないですよ」
「あ、星ヶ丘って規模大きいもんね! 知らない人とか普通にいるんだ! えっ、そしたら越谷さんのことも知らないの!?」
「知らないです。宇部さんから少し話に聞いたことがあるくらいです」
「マリンちゃん、メグちゃんは雄平のことをどんな風に言ってたの? アタシが気になるなあ」
とは言え越谷さんのことを直接聞いたワケじゃなくて、つばめ先輩のディレクターとしてのルーツの中の一節です。朝霞班になる前に、当時の班員を全員1人で育て上げた凄腕のオールラウンダーの人がいた、という話で。
「確かに雄平は洋平もカオルちゃんもつばめもまるっと面倒見てた見てた。懐かしいな~!」
「そんなことが実際出来るですか? 越谷さんはミキサーだったという風に聞いているです。ディレクターのつばめ先輩はまだしも、プロデューサーやアナウンサーの技術指導なんか」
「それが出来るんだよ。雄平は最終的にミキサーになるまでに全部のパートを網羅して、それぞれ一人前と言える技術を身につけてるから」
「……そんな人が、本当にいたですか」
戸田班は、話に聞く“流刑地”の実状よりは大分恵まれていると思っている。部長の柳井はクソなことには違いないけど、ステージはまだちゃんとやる奴ではあるから、ステージに関しての不自由はそこまでないし。
朝霞班は、朝霞に対する私怨だけで日高が嫌がらせをしていたという話。幼稚で、横柄で、本当にクソみたいな部長だったですよ日高は。朝霞も朝霞でクソ野郎ですけど、日高の方がずっとクソですよ。そうやって集まった類友が長門班だったです。
「雄平は幹部に楯突いちゃったからね。アナウンサーとして表にも出て来れないし、ステージの台本も雄平が書いたってだけで没になってたし」
「それでミキサーになったですか?」
「ううん。2年に上がった頃、川口班にアナとP候補が入ってきた。自分とあの子たちの適性や能力を比べたときに、ステージの可能性を広げるためには自分がミキサーに回るのが一番だって判断したんだよ。自分が1年生を夏までに使えるように育てるから、自分のことをミキサーとして育ててくれって当時の班長に直談判してね」
「ステージに熱い人、だったです?」
「そうだね。流刑地とは言うけど、部の中で一番ステージに熱い奴らの集まり。それが川口班、越谷班、朝霞班と続いて……戸田班はどう?」
「熱い奴らの集まりです」
「よろしい。丸の池楽しみにしてるね。時間作って覗きに行くし」
「緊張するです」
「大丈夫大丈夫ッ! マリンちゃんは真面目なのがいいところだけど、真面目すぎるのが欠点にもなりうるからねッ」
「はいです」
真面目すぎると言われても、どうすればいいかはわからないですよ。ただふざけるのとは違うですからね。
「あっ、そしたらマリンちゃん一緒に棒々鶏作る?」
「えっ、私がです?」
「戸田班の話とかマリンちゃんの恋バナとかも気になるしーッ」
「戸田班の話はともかく恋バナ!? ないですないです!」
「えっ、カンちゃんとはペーパー離婚みたいなことなんでしょ?」
「それを言うならペーパー破局です」
「マリンの恋バナとか気になる!」
「ちょっ、水鈴さん、料理するなら台所ですよ!」
end.
++++
水鈴さん関係の子らをまるっと岡島家に詰め込んだ結果。こっしーさんの話になってしまった。オールラウンダーやったなあ。
多分ここから盛り上がってくると夏合宿関係の話になってわーやらぎゃーやら楽しいことになるんやろなあ
忘れかけてたけどカンDとマリンは便宜上別れてるだけのペーパー破局でしたね。お互い成長してから気が変わってなければってヤツです
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