2021(02)
■安心安全の空間づくり
++++
「……あの、エイジ?」
「これからガチなトイレ掃除を始める」
「や、それはいいんだけど、って言うかさすがにトイレ掃除は家主の俺がやった方がいいんじゃないかなーとは」
「お前の掃除を掃除と呼ぶにはまだ信用が足りんっていう」
ビニール手袋の上からゴム手袋をはめて、マスクもばっちり。何が始まるのかと思えば、トイレ掃除だって。しばらく占拠するから先に用を済ませろとは言われたけど、レジ袋の中も掃除用品とかトイレ関係の衛生用品とかですごいことになってるもんなあ。どれだけ本気でやる気なんだろうって。
俺の掃除を掃除と呼ぶには信用が足りない、というのもまあエイジからすれば正当な評価なのかもなあ。って言うか伊東先輩とかL先輩クラスじゃないとエイジからの信用は得られなさそう。ということで、俺は夕飯にするそうめんを茹でながらエイジの掃除を見守ることに。そうめんは茹でて冷水で締めて冷蔵庫でしばらく冷やしておくからね。
「どうして急にトイレ掃除をしようと思ったの?」
「お前ン家に来る途中でめっちゃトイレに行きたくなって、めちゃくちゃガマンしてたんだけどしゃーなしで駅のトイレに入ったっていう。したらそれがま~あ! きったねーのくせーのなんのって! マジで耐えれんくて吐きそうになったっていう」
「あー……エイジ外のトイレダメだもんね」
「だからせめてお前ン家のトイレは俺が安心して使えるような環境にしとこうと思った結果な」
エイジは神経質なところがあるから、外のトイレとかが苦手なんだよね。大学のトイレは業者さんが入って掃除してるから常に綺麗で良かったって言ってるけど。でも、業者じゃない人がトイレットペーパーを三角に折るのはどうしても許せなくて、それをいつも怒ってるっていう印象がある。
確かに本当の自分の家や大学以外だと、俺の家のトイレを使う頻度は高くなると思う。だからって、洗剤やブラシを新しく買い込んで、大掛かりな掃除を始めてしまうだなんて。それだけ外のトイレで受けた衝撃が強かったんだろうな。これだから他の人から潔癖症扱いされちゃうんだろうなあ。
「まあ、お前ン家のトイレは俺が普段からちょこちょこやってっからあんま酷いことにはなってないけど、それでもたまにはガチでやっとかねーと」
「はあ。お手数おかけします。お礼に後で飲むビールでも買って来ようか?」
「サンキュ。つかそうなんだよな。俺ら酒飲むからどうしてもトイレの世話になる頻度が上がるっていう。じゃあ尚更やっとかねーとな」
そう言ってエイジはフローリング用の掃除ワイパーに新しいシートを取り付けて、天井と壁を拭き始めた。って言うか天井と壁もやるのか……でも、そっか。そうしないと安心して使える“空間”とは言えないか。買って来た掃除用品の規模からして、ちょっと便座を拭く程度で終わるはずがなかったんだ。
「この突っ張り式の棚は何?」
「これは掃除が終わった後に、トイレの上の方に収納スペースを作るための棚だべ。掃除用品とかトイレットペーパーの替えだとか。そーゆーのを置いとけるようにして床を掃除しやすくするっていう」
「なるほどねえ。確かに、テレビで見たことがあるよ」
「トイレ用の掃除シートも買って来たし、これでトイレを使う度に便座を拭いてもよし、床を拭いても破れにくいっていう。もちろん手を洗った後に使うペーパータオルも完備! 手洗いついでだとか、外から帰って来てすぐアルコール消毒も出来るっていう」
「あの、かかった費用は普通に請求してもらっていいからね」
「いや、これは俺のこだわりでやってることだからお前は気にすんな。後でビール買ってくれんだろ? それで十分だっていう」
そう言ってエイジは使い捨て式のブラシで便器の中を掃除してくれてるんだけど、何かだんだん衛生状態への気にしいが強くなってるなっていうのは確かに感じてるんだよね。掃除に限らずやり始めると突き詰めるタイプなのか、それとも除菌とか抗菌みたいなグッズがいろいろ出ているのを試しているうちに詳しくなりすぎたのか。
ただ、他人の手作り料理もあんまり得意じゃないエイジが俺の作った料理を普通に食べてるっていうのは、ある程度信頼されているのかなっていうのを感じて少し嬉しくはある。だらしないだのなんだのとは怒られてるし、俺は俺で結構掃除とかに無頓着な方ではあるけど、エイジは絶対に必要以上に気にし過ぎだ。
「エイジ、そうめんの他に何か食べたいものある?」
「あー、特に考えてなかったけど」
「ビール買うにしても、コンビニよりスーパーの方がいいし。どうせなら簡単に惣菜でも買って来ようかと思って」
「じゃ俺も行くべ。明日以降の献立のことも考えねーと。盆まではそれでやれるようにしときたいけど、それはちょっと高望みし過ぎか」
「毎日エイジがご飯作ってくれるワケじゃないからね」
「それな。でもお前が盆に帰省するまでの日数の半分くらいはいるだろうし俺も食えるようにしとかねーと」
「対策委員の会議とか、夏合宿の打ち合わせは星港市内にいた方がラクだもんねえ」
「それな。違いねーべ。家風がフランクっつーかその辺大らかでマジで助かってるっていう」
「じゃ、買い物はエイジの掃除待ちで」
「もうしばらくかかるっていう」
「はーい。……って、何やってるの?」
「巾木にマスキングテープを貼ってるっていう。これを貼っとくと後から剥がすだけで埃を一掃出来るっていう。L先輩直伝だべ」
「へ、へえー……すごいね」
あっこれしばらくじゃなくて当分終わんないな。
end.
++++
いち氏が慧梨夏の部屋を掃除するのは実質的半同棲なのでまあわからんでもないけど、タカエイの場合は友達と言え基本他人なのでどーなっとんのやという話。
緑ヶ丘大学のトイレは百貨店のトイレみたく綺麗になっているので衛生にうるさいエイジにも満足なんだそうですよ、知らんけど。
よくよく考えたらエイジなのにペーパータオルやアルコールをまだ導入してなかったんかって感じだけど、ナノスパの世界はあんまり現世関係ないから……
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「……あの、エイジ?」
「これからガチなトイレ掃除を始める」
「や、それはいいんだけど、って言うかさすがにトイレ掃除は家主の俺がやった方がいいんじゃないかなーとは」
「お前の掃除を掃除と呼ぶにはまだ信用が足りんっていう」
ビニール手袋の上からゴム手袋をはめて、マスクもばっちり。何が始まるのかと思えば、トイレ掃除だって。しばらく占拠するから先に用を済ませろとは言われたけど、レジ袋の中も掃除用品とかトイレ関係の衛生用品とかですごいことになってるもんなあ。どれだけ本気でやる気なんだろうって。
俺の掃除を掃除と呼ぶには信用が足りない、というのもまあエイジからすれば正当な評価なのかもなあ。って言うか伊東先輩とかL先輩クラスじゃないとエイジからの信用は得られなさそう。ということで、俺は夕飯にするそうめんを茹でながらエイジの掃除を見守ることに。そうめんは茹でて冷水で締めて冷蔵庫でしばらく冷やしておくからね。
「どうして急にトイレ掃除をしようと思ったの?」
「お前ン家に来る途中でめっちゃトイレに行きたくなって、めちゃくちゃガマンしてたんだけどしゃーなしで駅のトイレに入ったっていう。したらそれがま~あ! きったねーのくせーのなんのって! マジで耐えれんくて吐きそうになったっていう」
「あー……エイジ外のトイレダメだもんね」
「だからせめてお前ン家のトイレは俺が安心して使えるような環境にしとこうと思った結果な」
エイジは神経質なところがあるから、外のトイレとかが苦手なんだよね。大学のトイレは業者さんが入って掃除してるから常に綺麗で良かったって言ってるけど。でも、業者じゃない人がトイレットペーパーを三角に折るのはどうしても許せなくて、それをいつも怒ってるっていう印象がある。
確かに本当の自分の家や大学以外だと、俺の家のトイレを使う頻度は高くなると思う。だからって、洗剤やブラシを新しく買い込んで、大掛かりな掃除を始めてしまうだなんて。それだけ外のトイレで受けた衝撃が強かったんだろうな。これだから他の人から潔癖症扱いされちゃうんだろうなあ。
「まあ、お前ン家のトイレは俺が普段からちょこちょこやってっからあんま酷いことにはなってないけど、それでもたまにはガチでやっとかねーと」
「はあ。お手数おかけします。お礼に後で飲むビールでも買って来ようか?」
「サンキュ。つかそうなんだよな。俺ら酒飲むからどうしてもトイレの世話になる頻度が上がるっていう。じゃあ尚更やっとかねーとな」
そう言ってエイジはフローリング用の掃除ワイパーに新しいシートを取り付けて、天井と壁を拭き始めた。って言うか天井と壁もやるのか……でも、そっか。そうしないと安心して使える“空間”とは言えないか。買って来た掃除用品の規模からして、ちょっと便座を拭く程度で終わるはずがなかったんだ。
「この突っ張り式の棚は何?」
「これは掃除が終わった後に、トイレの上の方に収納スペースを作るための棚だべ。掃除用品とかトイレットペーパーの替えだとか。そーゆーのを置いとけるようにして床を掃除しやすくするっていう」
「なるほどねえ。確かに、テレビで見たことがあるよ」
「トイレ用の掃除シートも買って来たし、これでトイレを使う度に便座を拭いてもよし、床を拭いても破れにくいっていう。もちろん手を洗った後に使うペーパータオルも完備! 手洗いついでだとか、外から帰って来てすぐアルコール消毒も出来るっていう」
「あの、かかった費用は普通に請求してもらっていいからね」
「いや、これは俺のこだわりでやってることだからお前は気にすんな。後でビール買ってくれんだろ? それで十分だっていう」
そう言ってエイジは使い捨て式のブラシで便器の中を掃除してくれてるんだけど、何かだんだん衛生状態への気にしいが強くなってるなっていうのは確かに感じてるんだよね。掃除に限らずやり始めると突き詰めるタイプなのか、それとも除菌とか抗菌みたいなグッズがいろいろ出ているのを試しているうちに詳しくなりすぎたのか。
ただ、他人の手作り料理もあんまり得意じゃないエイジが俺の作った料理を普通に食べてるっていうのは、ある程度信頼されているのかなっていうのを感じて少し嬉しくはある。だらしないだのなんだのとは怒られてるし、俺は俺で結構掃除とかに無頓着な方ではあるけど、エイジは絶対に必要以上に気にし過ぎだ。
「エイジ、そうめんの他に何か食べたいものある?」
「あー、特に考えてなかったけど」
「ビール買うにしても、コンビニよりスーパーの方がいいし。どうせなら簡単に惣菜でも買って来ようかと思って」
「じゃ俺も行くべ。明日以降の献立のことも考えねーと。盆まではそれでやれるようにしときたいけど、それはちょっと高望みし過ぎか」
「毎日エイジがご飯作ってくれるワケじゃないからね」
「それな。でもお前が盆に帰省するまでの日数の半分くらいはいるだろうし俺も食えるようにしとかねーと」
「対策委員の会議とか、夏合宿の打ち合わせは星港市内にいた方がラクだもんねえ」
「それな。違いねーべ。家風がフランクっつーかその辺大らかでマジで助かってるっていう」
「じゃ、買い物はエイジの掃除待ちで」
「もうしばらくかかるっていう」
「はーい。……って、何やってるの?」
「巾木にマスキングテープを貼ってるっていう。これを貼っとくと後から剥がすだけで埃を一掃出来るっていう。L先輩直伝だべ」
「へ、へえー……すごいね」
あっこれしばらくじゃなくて当分終わんないな。
end.
++++
いち氏が慧梨夏の部屋を掃除するのは実質的半同棲なのでまあわからんでもないけど、タカエイの場合は友達と言え基本他人なのでどーなっとんのやという話。
緑ヶ丘大学のトイレは百貨店のトイレみたく綺麗になっているので衛生にうるさいエイジにも満足なんだそうですよ、知らんけど。
よくよく考えたらエイジなのにペーパータオルやアルコールをまだ導入してなかったんかって感じだけど、ナノスパの世界はあんまり現世関係ないから……
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