2021(02)
■生産者の顔を見る
++++
「おっ、来た来た。おーい」
「待たせたわね。それじゃあ、乗ってちょうだい」
「……助手席しか席がありませんが、どこに乗ればいいですか?」
「朝霞、あなたが荷台に乗りなさい」
「わーったよ。みちる、お前助手席な」
朝霞さんに連れられ、これから向かうのは農学部の畑。最近、文化会の宇部さんの学部の友達という人が趣味で育てている野菜をお裾分けしてもらって、新鮮な夏野菜の美味しさに感動しているところ。どんなところで育てているのか興味があると言ったら、こんなことになってしまった。
学内の、私たちが普段行かない側にある門に宇部さんの運転する軽トラが颯爽とやってきて、私は助手席に座らせてもらうことに。荷台には、畑で使う道具と朝霞さん。帰りは体力次第ではあるけど、私も荷台に乗ってみたいかもしれない。公道や地元じゃまず出来ない体験だから。
「宇部さん、マニュアル車に乗れるんですね」
「ええ。乗るならマニュアルにも乗れた方がいいわよ。荒川さんは、車の免許はないの?」
「車の免許はないですけど、バイクの免許を取ってるところです。戸田さんの原付二種を見て、あれは便利だなと思って」
「戸田さんのあれはただの原付より機動性がいいのよね。二段階右折もないし」
「お米を買うときには、やっぱり徒歩や自転車より原付がいいなと」
「わかるわ。ちなみに、秋には農学部のオープンファームという行事が開かれるの。米も比較的安価で売ってるから、興味があれば来てみるといいわよ」
宇部さんと言えば文化会のブレザーの印象が強いけど、農学部の作業着に軽トラというのもなかなか絵になっているなと思う。そうこうしている間に、風景の中にどんどん緑が混ざってくる。少し上ったような気もするし、一応大学の敷地内、だよね?
「着いたわよ」
「ありがとうございました」
「風があるとは言っても、やっぱ暑いな」
「夏だもの、当然よ。部を引退するとそういうところも鈍るのかしら」
「うるせえ」
「おーい! メグー!」
「ひかり!」
広い畑の方から駆けてきたのが、宇部さんの学部の友人で、趣味で畑をやっている人だという。朝霞さんによれば、彼女は畑をやるために作っているので、作ったものは自分でも食べるけど、基本は食べきれなくてみんなに配って回っているらしい。
「あっアサちゃん。アンタ外似合わんなあ!」
「うるせーな」
「で? こっちの子が畑に興味あるーゆーとった子ー? アサちゃんの後輩の」
「荒川みちるです」
「みっちゃんやな! うちがこの畑をやっとる日野ひかりや! よろしゅう!」
「日野さんは、西の方のご出身ですか?」
「生まれは湖国エリア、育ちは西京や! 中学までメグと一緒でなー、大学でまた感動の再会よ」
「収穫はもう朝のうちに済ませてしまったから、今日はもう畑の見学くらいしか出来ないけれど」
「いえ、お邪魔します」
「さっそくやし、そこで冷やしとったトマトでも食べー」
「ありがとうございます」
「おっ、サンキュ」
トマトをかじりながら、ここからここまではこれを育てとって、ここからここまではこれを育てとって、という説明を受けていく。季節によって育てている野菜も違うそうで、秋の実りもそのうちだそうだ。夏野菜は毎日毎日どんどん穫れるから、本当に消費が追いつかないそうで。
収穫量のほんの一部だという水場のカゴを見ても、これは確かに配って歩かないといけないなあと思う。せっかく作ったのだから、自分が食べるなり、誰かに食べてもらうなりした方が絶対にいい。人脈だけでどうにか出来る範囲を超えているような気もするけど。
「大体こんな感じやな。そーいやアサちゃん、こないだ就活の友達に野菜あげたーゆーとったやろ?」
「ああ。すごく喜んでたぞ。その人の彼氏さんが物凄く料理が得意らしくて、とにかくいろんなメニューに化けたってよ」
「うわー、ええなー! メグ、対抗馬はアンタしかおらへんー! 何か作ってー!」
「どうして張り合う必要があるのよ。でも、料理のレパートリーが多いというのは率直にいいわね。と言うか朝霞、あなた就活友達とかいう人の前に伏見さんにこの野菜をどうこうしてもらいなさいよ。彼女、料理上手なんでしょう」
「あ」
「あ? 何よその反応」
「忘れとったっちゅー顔やな。よーし。アサちゃん、帰り彼女さんに野菜包んだるから、ちゃんとお裾分けするんやで!」
「わかりました」
日野さんのことだから、持ち帰るのも大変なくらい包んでくれそうな気がする。朝霞さんの彼女さんの話も少し気になるけど。
「みっちゃんも野菜持ち帰るやろ?」
「いただけるのであれば助かります。節約してるので」
「1人暮らしなん?」
「そうですね。あと、バイクの免許を取るのにまとまったお金を払ったので、普段は節制しています」
「よっしゃ! そしたらみっちゃんにはひかりファームの野菜を定期で届けたるわ!」
「え。いえ、さすがにそこまでしてもらうのは悪いと言うか」
「うちも食べてくれる人がおる方が助かるんよ。でも実家に帰る時はちゃんと止めるからなー」
「実家に帰る予定はないので大丈夫ではあるんですけど」
「ならしっかり食べ!」
「日野が完全に西のおばちゃんなんだよな」
「誰がおばちゃんやて!? メ~グ~、アサちゃんがいじめる~」
私にも結構な量の野菜が定期的に届きそうな気がする。それらをダメにしないためにも、保存食作りだとか、常備菜レシピなんかを調べた方が良さそう。夏休みの間の課題がひとつ。
end.
++++
宇部Pとひかりがわちゃわちゃしてるのがただただ好きなだけのヤツ。昔なじみが可愛いんだわ
個人的に、宇部Pにはマニュアル車でギアをガガガッてやって欲しいしタバコも吸いながら、荒れたときには荒れた運転をして欲しいんだ。荷台のPさん振り落としてくれよ
Pさんはたまにナチュラルにふしみんの存在を忘れるところがアレなんだよな。多分直近に会う人とか連絡を取った人の顔が最初に出てくるんだろうけど
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「おっ、来た来た。おーい」
「待たせたわね。それじゃあ、乗ってちょうだい」
「……助手席しか席がありませんが、どこに乗ればいいですか?」
「朝霞、あなたが荷台に乗りなさい」
「わーったよ。みちる、お前助手席な」
朝霞さんに連れられ、これから向かうのは農学部の畑。最近、文化会の宇部さんの学部の友達という人が趣味で育てている野菜をお裾分けしてもらって、新鮮な夏野菜の美味しさに感動しているところ。どんなところで育てているのか興味があると言ったら、こんなことになってしまった。
学内の、私たちが普段行かない側にある門に宇部さんの運転する軽トラが颯爽とやってきて、私は助手席に座らせてもらうことに。荷台には、畑で使う道具と朝霞さん。帰りは体力次第ではあるけど、私も荷台に乗ってみたいかもしれない。公道や地元じゃまず出来ない体験だから。
「宇部さん、マニュアル車に乗れるんですね」
「ええ。乗るならマニュアルにも乗れた方がいいわよ。荒川さんは、車の免許はないの?」
「車の免許はないですけど、バイクの免許を取ってるところです。戸田さんの原付二種を見て、あれは便利だなと思って」
「戸田さんのあれはただの原付より機動性がいいのよね。二段階右折もないし」
「お米を買うときには、やっぱり徒歩や自転車より原付がいいなと」
「わかるわ。ちなみに、秋には農学部のオープンファームという行事が開かれるの。米も比較的安価で売ってるから、興味があれば来てみるといいわよ」
宇部さんと言えば文化会のブレザーの印象が強いけど、農学部の作業着に軽トラというのもなかなか絵になっているなと思う。そうこうしている間に、風景の中にどんどん緑が混ざってくる。少し上ったような気もするし、一応大学の敷地内、だよね?
「着いたわよ」
「ありがとうございました」
「風があるとは言っても、やっぱ暑いな」
「夏だもの、当然よ。部を引退するとそういうところも鈍るのかしら」
「うるせえ」
「おーい! メグー!」
「ひかり!」
広い畑の方から駆けてきたのが、宇部さんの学部の友人で、趣味で畑をやっている人だという。朝霞さんによれば、彼女は畑をやるために作っているので、作ったものは自分でも食べるけど、基本は食べきれなくてみんなに配って回っているらしい。
「あっアサちゃん。アンタ外似合わんなあ!」
「うるせーな」
「で? こっちの子が畑に興味あるーゆーとった子ー? アサちゃんの後輩の」
「荒川みちるです」
「みっちゃんやな! うちがこの畑をやっとる日野ひかりや! よろしゅう!」
「日野さんは、西の方のご出身ですか?」
「生まれは湖国エリア、育ちは西京や! 中学までメグと一緒でなー、大学でまた感動の再会よ」
「収穫はもう朝のうちに済ませてしまったから、今日はもう畑の見学くらいしか出来ないけれど」
「いえ、お邪魔します」
「さっそくやし、そこで冷やしとったトマトでも食べー」
「ありがとうございます」
「おっ、サンキュ」
トマトをかじりながら、ここからここまではこれを育てとって、ここからここまではこれを育てとって、という説明を受けていく。季節によって育てている野菜も違うそうで、秋の実りもそのうちだそうだ。夏野菜は毎日毎日どんどん穫れるから、本当に消費が追いつかないそうで。
収穫量のほんの一部だという水場のカゴを見ても、これは確かに配って歩かないといけないなあと思う。せっかく作ったのだから、自分が食べるなり、誰かに食べてもらうなりした方が絶対にいい。人脈だけでどうにか出来る範囲を超えているような気もするけど。
「大体こんな感じやな。そーいやアサちゃん、こないだ就活の友達に野菜あげたーゆーとったやろ?」
「ああ。すごく喜んでたぞ。その人の彼氏さんが物凄く料理が得意らしくて、とにかくいろんなメニューに化けたってよ」
「うわー、ええなー! メグ、対抗馬はアンタしかおらへんー! 何か作ってー!」
「どうして張り合う必要があるのよ。でも、料理のレパートリーが多いというのは率直にいいわね。と言うか朝霞、あなた就活友達とかいう人の前に伏見さんにこの野菜をどうこうしてもらいなさいよ。彼女、料理上手なんでしょう」
「あ」
「あ? 何よその反応」
「忘れとったっちゅー顔やな。よーし。アサちゃん、帰り彼女さんに野菜包んだるから、ちゃんとお裾分けするんやで!」
「わかりました」
日野さんのことだから、持ち帰るのも大変なくらい包んでくれそうな気がする。朝霞さんの彼女さんの話も少し気になるけど。
「みっちゃんも野菜持ち帰るやろ?」
「いただけるのであれば助かります。節約してるので」
「1人暮らしなん?」
「そうですね。あと、バイクの免許を取るのにまとまったお金を払ったので、普段は節制しています」
「よっしゃ! そしたらみっちゃんにはひかりファームの野菜を定期で届けたるわ!」
「え。いえ、さすがにそこまでしてもらうのは悪いと言うか」
「うちも食べてくれる人がおる方が助かるんよ。でも実家に帰る時はちゃんと止めるからなー」
「実家に帰る予定はないので大丈夫ではあるんですけど」
「ならしっかり食べ!」
「日野が完全に西のおばちゃんなんだよな」
「誰がおばちゃんやて!? メ~グ~、アサちゃんがいじめる~」
私にも結構な量の野菜が定期的に届きそうな気がする。それらをダメにしないためにも、保存食作りだとか、常備菜レシピなんかを調べた方が良さそう。夏休みの間の課題がひとつ。
end.
++++
宇部Pとひかりがわちゃわちゃしてるのがただただ好きなだけのヤツ。昔なじみが可愛いんだわ
個人的に、宇部Pにはマニュアル車でギアをガガガッてやって欲しいしタバコも吸いながら、荒れたときには荒れた運転をして欲しいんだ。荷台のPさん振り落としてくれよ
Pさんはたまにナチュラルにふしみんの存在を忘れるところがアレなんだよな。多分直近に会う人とか連絡を取った人の顔が最初に出てくるんだろうけど
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