2021(02)
■導く人
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浮かれる前にやるべきことがいくつかあったなあと思って、とりあえず高木先輩のアポをとる。高木先輩はバイトをしてないから、よっぽどゼミや対策委員の仕事がなければ比較的捕まりやすい方の人だと思う。お話しすることがありますとメールを打ち、その時を待つ。
玲那と付き合ってひと月が経ち、俺にはもう1人特別な存在が出来ていた。相手の都合があってまだ付き合うには至ってないんだけど、8月2日にもなれば付き合えているだろう。テストも終わり、向こうの一大行事が終わるとなると、夏合宿に向けた動きが本格化する。
「ゴメンササ、待ったよね」
「いえ、大丈夫です」
「それで、話って?」
「ええと……一般的には公共の場所で話すことではないと思うので、良ければ先輩の家にお邪魔させていただきたく……」
「え、そんなに重大なことなの?」
「あっ、いえ、そこまで重たい話でもないんですけど、一応」
「良かったね。最近エイジが来てたから部屋はキレイだよ」
通された部屋は確かに小綺麗になっていて、コロコロもすぐ手の届く場所にあるからエージ先輩がいたんだなという形跡として結びつく。サークル室でもカーペット掃除用のコロコロはエージ先輩の脇に常にあるというイメージだ。
「コーヒーなら出せるけど。ミルクと砂糖はどうする?」
「あ、いえ、お構いなく」
「何か今日緊張してるっぽいし、あった方がいいでしょ」
「すみません。それじゃあ、高木先輩と一緒でお願いします」
「わかったよ」
しばらくすると凄くいい香りのコーヒーが出てきて、改めてどう話を切り出そうかと考える。
単刀直入に言うと、彩人と付き合うことになったんだけど、俺は夏合宿で彩人とペアを組んでいる。そういう関係にはなったけれど、合宿での番組はきちんとやりますよという決意表明はしておかなければならないなと思ったんだ。
それを話すにはまず俺自身の性だとか、恋愛の仕方について掻い摘んで話す必要がある。一般的にはまず少数派だし、理解されない可能性の方が圧倒的に高い。だけども嘘は吐きたくないと言うか。高木先輩ならきっと大丈夫だと、根拠のない自信を胸に現在に至る。
「それで、折り入って話なんですけど……」
「ああうん、どうしたの」
「えっと、ですね、夏合宿のことで」
「番組のこと?」
「はい。その前に、俺自身のことを少し、聞いてもらっていいですか」
「うん」
「ちなみにですけど、高木先輩て一般教養で女性学って取ってますか? 風岡さんの方のヤツなんですけど」
「ううん、取ってない」
「そうですか。えーと、そしたらですね、本題は俺の恋愛の仕方の話になるんです。俺は今玲那と付き合ってますけど、パートナーは1人と限らない、ポリアモリーってヤツなんです」
「そういうのがあるんだね。ネットで調べれば出る?」
「出ます出ます! 今出しますか?」
「そうだね。出してもらえるとわかりやすいかな」
言われるままに、このページがわかりやすいですと先輩の前に表示する。それを読みながら、俺の言った項目を見つけてここだねと、次の話を促す様子がまあいつもと変わらなくて、何を考えてるのかさっぱりわからないんだ。
「それからですね、恋愛対象は性別によらないんです」
「女性だけじゃないってこと?」
「そうですね。男性も好きになりますし、無性の人や性別をまだ決めてない人とか、好きになるのに性別は関係ないと言うか」
「へー」
「……えっと、高木先輩、ここまで大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ。でも、よくそれを言ってくれたねえ」
「合宿に関わることでしたし、高木先輩なら、佐藤ゼミの人だし大体のことには理解がありそうだなって思いました」
「あー……そう思われがちなゼミではあるけど、案外そうでもないから今度からはちゃんと信頼出来る人に話そうね」
「えっと、実際高木先輩は俺がこういう風なんだって聞いて」
「それはササのことだし、俺がどうこう言うことではないからね。でも、それもひっくるめてササなワケだし。ただ、ササが最初に言ってたように、一般的に表立って言うことじゃないって意識があってみんな言ってないだけかもしれないし」
この人、思ったよりも懐が深いのかもしれないぞ。こう言うと大体あり得ないとか気持ち悪いって言われがちだし、乱交すんのみたいな下の話に持ってかれそうなものなんだけど。えっ、って言うか本当に何考えてるのかさっぱりわからないんだけど。
「えっと、まあ、そういうことなので、夏合宿の番組は、ちゃんとやりますし、安心してください」
「どう「そういうこと」なのかは措いといて、わかったよ」
「ありがとうございます」
「ところで、ペア打ち合わせ……は、星ヶ丘さんのステージが終わってからか」
「そうですね。テストもありますし」
「ミドリ当麻ペアの様子も聞いてるけど、当麻が結構頑張ってるみたいだからね」
「そうなんですね。俺も頑張らないと。え、でも当麻ってラジオ初めてだよな」
「当麻は普段ラジオやらないでしょ、だから基本の構成に対する先入観がないのが逆にいいみたいだね」
「あー……それはまさに俺が苦しんでるところです、はい。高木先輩のスタイルで、基本の構成を崩すっていうことに対しては」
「だろうとは思ったよ。構成面に関しては元々プロデューサーの彩人の方が得意だろうし、ササはトークを詰めたり、アナウンスの技術面の練習をしたらいいと思うよ」
これまでのサークルで見てた感じだと……と高木先輩は俺が何を練習すべきかを教えてくれる。さっきまでの話がまるでなかったかのように普通で、呆気に取られている俺がいる。でも、それが答えなのかもしれない。誰とどうなっても番組はちゃんとやるんでしょ、じゃあやってねと。
「あっ、あの、高木先輩」
「なに?」
「これからもいろいろ、相談させてください。番組のこととかゼミのこと、あと、俺の個人的なこととか」
「聞くくらいしか出来ないかもだけど、俺で良ければ」
end.
++++
こうして後にTKG大好き陸さんが完成していくのであった。でもTKG自身は実際何もしてなくて、考えてるのは結局本人。
昨年度TKGパイセンに指摘されていた、実直さの制御が苦手という完璧超人ササの欠点をもっと表に出したい。
1年アナ3人の中ではササが1番柔軟性はなさそう。ナノスパ上位フッ軽勢のレナやんと比べてはいけなかった
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浮かれる前にやるべきことがいくつかあったなあと思って、とりあえず高木先輩のアポをとる。高木先輩はバイトをしてないから、よっぽどゼミや対策委員の仕事がなければ比較的捕まりやすい方の人だと思う。お話しすることがありますとメールを打ち、その時を待つ。
玲那と付き合ってひと月が経ち、俺にはもう1人特別な存在が出来ていた。相手の都合があってまだ付き合うには至ってないんだけど、8月2日にもなれば付き合えているだろう。テストも終わり、向こうの一大行事が終わるとなると、夏合宿に向けた動きが本格化する。
「ゴメンササ、待ったよね」
「いえ、大丈夫です」
「それで、話って?」
「ええと……一般的には公共の場所で話すことではないと思うので、良ければ先輩の家にお邪魔させていただきたく……」
「え、そんなに重大なことなの?」
「あっ、いえ、そこまで重たい話でもないんですけど、一応」
「良かったね。最近エイジが来てたから部屋はキレイだよ」
通された部屋は確かに小綺麗になっていて、コロコロもすぐ手の届く場所にあるからエージ先輩がいたんだなという形跡として結びつく。サークル室でもカーペット掃除用のコロコロはエージ先輩の脇に常にあるというイメージだ。
「コーヒーなら出せるけど。ミルクと砂糖はどうする?」
「あ、いえ、お構いなく」
「何か今日緊張してるっぽいし、あった方がいいでしょ」
「すみません。それじゃあ、高木先輩と一緒でお願いします」
「わかったよ」
しばらくすると凄くいい香りのコーヒーが出てきて、改めてどう話を切り出そうかと考える。
単刀直入に言うと、彩人と付き合うことになったんだけど、俺は夏合宿で彩人とペアを組んでいる。そういう関係にはなったけれど、合宿での番組はきちんとやりますよという決意表明はしておかなければならないなと思ったんだ。
それを話すにはまず俺自身の性だとか、恋愛の仕方について掻い摘んで話す必要がある。一般的にはまず少数派だし、理解されない可能性の方が圧倒的に高い。だけども嘘は吐きたくないと言うか。高木先輩ならきっと大丈夫だと、根拠のない自信を胸に現在に至る。
「それで、折り入って話なんですけど……」
「ああうん、どうしたの」
「えっと、ですね、夏合宿のことで」
「番組のこと?」
「はい。その前に、俺自身のことを少し、聞いてもらっていいですか」
「うん」
「ちなみにですけど、高木先輩て一般教養で女性学って取ってますか? 風岡さんの方のヤツなんですけど」
「ううん、取ってない」
「そうですか。えーと、そしたらですね、本題は俺の恋愛の仕方の話になるんです。俺は今玲那と付き合ってますけど、パートナーは1人と限らない、ポリアモリーってヤツなんです」
「そういうのがあるんだね。ネットで調べれば出る?」
「出ます出ます! 今出しますか?」
「そうだね。出してもらえるとわかりやすいかな」
言われるままに、このページがわかりやすいですと先輩の前に表示する。それを読みながら、俺の言った項目を見つけてここだねと、次の話を促す様子がまあいつもと変わらなくて、何を考えてるのかさっぱりわからないんだ。
「それからですね、恋愛対象は性別によらないんです」
「女性だけじゃないってこと?」
「そうですね。男性も好きになりますし、無性の人や性別をまだ決めてない人とか、好きになるのに性別は関係ないと言うか」
「へー」
「……えっと、高木先輩、ここまで大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ。でも、よくそれを言ってくれたねえ」
「合宿に関わることでしたし、高木先輩なら、佐藤ゼミの人だし大体のことには理解がありそうだなって思いました」
「あー……そう思われがちなゼミではあるけど、案外そうでもないから今度からはちゃんと信頼出来る人に話そうね」
「えっと、実際高木先輩は俺がこういう風なんだって聞いて」
「それはササのことだし、俺がどうこう言うことではないからね。でも、それもひっくるめてササなワケだし。ただ、ササが最初に言ってたように、一般的に表立って言うことじゃないって意識があってみんな言ってないだけかもしれないし」
この人、思ったよりも懐が深いのかもしれないぞ。こう言うと大体あり得ないとか気持ち悪いって言われがちだし、乱交すんのみたいな下の話に持ってかれそうなものなんだけど。えっ、って言うか本当に何考えてるのかさっぱりわからないんだけど。
「えっと、まあ、そういうことなので、夏合宿の番組は、ちゃんとやりますし、安心してください」
「どう「そういうこと」なのかは措いといて、わかったよ」
「ありがとうございます」
「ところで、ペア打ち合わせ……は、星ヶ丘さんのステージが終わってからか」
「そうですね。テストもありますし」
「ミドリ当麻ペアの様子も聞いてるけど、当麻が結構頑張ってるみたいだからね」
「そうなんですね。俺も頑張らないと。え、でも当麻ってラジオ初めてだよな」
「当麻は普段ラジオやらないでしょ、だから基本の構成に対する先入観がないのが逆にいいみたいだね」
「あー……それはまさに俺が苦しんでるところです、はい。高木先輩のスタイルで、基本の構成を崩すっていうことに対しては」
「だろうとは思ったよ。構成面に関しては元々プロデューサーの彩人の方が得意だろうし、ササはトークを詰めたり、アナウンスの技術面の練習をしたらいいと思うよ」
これまでのサークルで見てた感じだと……と高木先輩は俺が何を練習すべきかを教えてくれる。さっきまでの話がまるでなかったかのように普通で、呆気に取られている俺がいる。でも、それが答えなのかもしれない。誰とどうなっても番組はちゃんとやるんでしょ、じゃあやってねと。
「あっ、あの、高木先輩」
「なに?」
「これからもいろいろ、相談させてください。番組のこととかゼミのこと、あと、俺の個人的なこととか」
「聞くくらいしか出来ないかもだけど、俺で良ければ」
end.
++++
こうして後にTKG大好き陸さんが完成していくのであった。でもTKG自身は実際何もしてなくて、考えてるのは結局本人。
昨年度TKGパイセンに指摘されていた、実直さの制御が苦手という完璧超人ササの欠点をもっと表に出したい。
1年アナ3人の中ではササが1番柔軟性はなさそう。ナノスパ上位フッ軽勢のレナやんと比べてはいけなかった
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