2021(02)
■3日間のアーカイブ
公式学年+1年
++++
凄いという以外にパッと感想が思いつかなかった。本来なら、1時間の番組を踏まえてインターフェイス夏合宿のモニター会のように何がどのようにどうだった、というように分析をしているべき立場ではあるんだと思う。だけど、そういう立場だからこそ、言葉で表現することが出来なかったんだ。
「陸、怖い顔してんよ」
「冷たっ。まいみぃか」
「お茶でも飲みなよ」
「ありがとう」
「で? 何見てそんな顔してたの」
「果林先輩と高木先輩の番組」
「ああ、昼休みの。あの人ら毎日昼休みの1時間番組やってんだっけ。って言うか3日間出勤もだるいけど、毎日毎日違う番組用意すんのもたるいよね」
「そうなんだよ」
2年生も何人か「後学のために」という理由でオープンキャンパスの3日間フル出勤を言い渡されていた。俺やまいみぃ、亮真もだったかな。先生的には本当はシノも招集したかったようだけど、さすがにインフルエンザでの欠席では引き摺ってくるワケにもいかなかったようだ。
果林先輩と高木先輩も当たり前のように毎日出て来ていて、昼の番組をやっていた。1時間番組をやるくらいならこの2人にとっては造作もない。だけど、それの何が凄いかと言うと、番組の内容と構成が毎日全く違ったのだ。毎日同じ番組ならともかく、3日間毎日全然違う番組をやるというのは本当に大変なはずだ。
ラジオブースを上から見ていて思ったんだけど、もしかして果林先輩はネタ帳すら用意してないんじゃないかという気がしているんだ。アナウンサー席から見たもの、聞いたことから即興で喋っているのではないかと。それっくらい手元を見てないし、生の光景を拾いまくっていて。
「果林先輩は、多分目の前にある印象的な物からトークをその場で広げてるんだ。俺はじっくり分析して慎重にトークを組み立てる方だから、アドリブみたいなことは凄く苦手で。だからこそ、先輩の凄さとか、自分に足りない物を突き付けられてると言うか」
「アタシの領域で言うと、生配信が得意かきっちり編集した動画が得意かみたいなこと?」
「それに近い物もあるかもしれない」
「ふーん。でも、自分の得意苦手をわかってんなら、別にいいんじゃん?」
「いや、来年は俺があの位置にいるのかと思うと、どうしたものかと」
「1年あれば全然変わると思うけどね」
まいみぃの言うことはご尤もだ。1年もあれば俺もアドリブが出来るようになるかもしれない。もちろん、そのように練習すればの話だけど。1年先のことを今から悲観的に考えていても仕方ない。まだ1年ある。どう練習するかを考えよう。先輩や玲那、すがやんにも付き合ってもらって。
「喋りもそうだけどさ、アタシむしろ高木さんのが気になるわ」
「高木先輩が?」
「昨日アタシ手伝いでフロアに下りてたんだけどさ、あの人曲の合間とかに千葉さんに話振られたらさ、「じゃあそうしますか」っつって元々組んでた番組の構成スパーンと変えるっしょ? えっ、用意してたのそんなあっさり変えてどーにかなるモンなのと思って。でもどーにかなってんだよね」
「高木先輩はさ、特に果林先輩と組んでる時にはより顕著なんだけど、急なアドリブで番組構成を変えながら遊ぶ人なんだよな。だから番組構成こそ大まかに組んでるけど、その通りに行くとはひとつも思ってなくて、それを変えることに躊躇しないし、むしろ変えることを楽しんでるし、技術がそれに付いて行くから凄い」
「MBCCから見てもそーゆー人ってあんまいないの?」
「いない。インターフェイスの中でも俺が知ってる中では高木先輩がその分野では1番だと思う」
「ふーん。で、佐藤ゼミ的にその役割を次に担わされんのって、智也っしょ?」
「そのはずなんだけどなー……」
「じゃ1時間×3日間いなかったのって人の配信見て進行を学ぶ的な意味じゃすっごいマイナスだね」
「それに尽きる」
シノは意欲もあるし向上心もとてもある。高木先輩と高崎先輩がゼミのラジオブースでやった番組でも、俺を「すげー番組を生で見る機会だぞ!」と無理矢理引きずって行ったくらいだ。本来なら、シノも昼休みの番組はライブで見ているはずだったと思う。実際、これを見られなかったとわかったら、シノはとても悔しがるだろう。
「でも、幸いなのは、映像で残ってるってことだな」
「あー、録画はしてるもんね。アーカイブは残ってるか」
「これ、3日分シノに見せたいな」
「アタシはその前に智也をシメたいけどね」
「まいみぃは多少ならいいと思う」
「よし、言ったな!」
「シノが変な時期にインフルになったのはどうしようもなかったとしても、シノがいなくなったことで開いた穴をどうにかしようと走り回ってたのはまいみぃだったワケだし」
「アンタ案外話わかんだね」
「案外か。そういう風に思われてたのか」
「他人のことに興味なさそうな感じ」
「よく言われるけど、全然興味がないワケではない。周りの人のことはちゃんと見てるし、聞こえる範囲の話は聞いてるよ」
「ふーん」
「その返事、まいみぃこそ俺のことに興味ないだろ」
「優先順位は低いね」
「その正直さがいいところなんだとは思う」
お茶を飲んで、とうに次の番組に移っていたラジオブースから目を離す。オープンキャンパス3日目の午後は、先の2日間に比べて少し人が少ないような気がする。でも、暑いことには変わりないから、涼しい控室でこれから弁当を食べるんだ。
end.
++++
+1年軸のオープンキャンパスです。2年生も何人か例によってヒゲさんから3日間出勤を命じられています。2年生の疫病神ポジションって誰だ
恐らく果林とササはアナウンサーとしてのやり方、得意分野が違うんだろうと思った結果、俺はこれからどうしようかな~……的な。
まいみぃ、何気にオールラウンダー的働きが出来るのかもしれない。動画制作はほぼ1人で全部やってるもんな。経験か。
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公式学年+1年
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凄いという以外にパッと感想が思いつかなかった。本来なら、1時間の番組を踏まえてインターフェイス夏合宿のモニター会のように何がどのようにどうだった、というように分析をしているべき立場ではあるんだと思う。だけど、そういう立場だからこそ、言葉で表現することが出来なかったんだ。
「陸、怖い顔してんよ」
「冷たっ。まいみぃか」
「お茶でも飲みなよ」
「ありがとう」
「で? 何見てそんな顔してたの」
「果林先輩と高木先輩の番組」
「ああ、昼休みの。あの人ら毎日昼休みの1時間番組やってんだっけ。って言うか3日間出勤もだるいけど、毎日毎日違う番組用意すんのもたるいよね」
「そうなんだよ」
2年生も何人か「後学のために」という理由でオープンキャンパスの3日間フル出勤を言い渡されていた。俺やまいみぃ、亮真もだったかな。先生的には本当はシノも招集したかったようだけど、さすがにインフルエンザでの欠席では引き摺ってくるワケにもいかなかったようだ。
果林先輩と高木先輩も当たり前のように毎日出て来ていて、昼の番組をやっていた。1時間番組をやるくらいならこの2人にとっては造作もない。だけど、それの何が凄いかと言うと、番組の内容と構成が毎日全く違ったのだ。毎日同じ番組ならともかく、3日間毎日全然違う番組をやるというのは本当に大変なはずだ。
ラジオブースを上から見ていて思ったんだけど、もしかして果林先輩はネタ帳すら用意してないんじゃないかという気がしているんだ。アナウンサー席から見たもの、聞いたことから即興で喋っているのではないかと。それっくらい手元を見てないし、生の光景を拾いまくっていて。
「果林先輩は、多分目の前にある印象的な物からトークをその場で広げてるんだ。俺はじっくり分析して慎重にトークを組み立てる方だから、アドリブみたいなことは凄く苦手で。だからこそ、先輩の凄さとか、自分に足りない物を突き付けられてると言うか」
「アタシの領域で言うと、生配信が得意かきっちり編集した動画が得意かみたいなこと?」
「それに近い物もあるかもしれない」
「ふーん。でも、自分の得意苦手をわかってんなら、別にいいんじゃん?」
「いや、来年は俺があの位置にいるのかと思うと、どうしたものかと」
「1年あれば全然変わると思うけどね」
まいみぃの言うことはご尤もだ。1年もあれば俺もアドリブが出来るようになるかもしれない。もちろん、そのように練習すればの話だけど。1年先のことを今から悲観的に考えていても仕方ない。まだ1年ある。どう練習するかを考えよう。先輩や玲那、すがやんにも付き合ってもらって。
「喋りもそうだけどさ、アタシむしろ高木さんのが気になるわ」
「高木先輩が?」
「昨日アタシ手伝いでフロアに下りてたんだけどさ、あの人曲の合間とかに千葉さんに話振られたらさ、「じゃあそうしますか」っつって元々組んでた番組の構成スパーンと変えるっしょ? えっ、用意してたのそんなあっさり変えてどーにかなるモンなのと思って。でもどーにかなってんだよね」
「高木先輩はさ、特に果林先輩と組んでる時にはより顕著なんだけど、急なアドリブで番組構成を変えながら遊ぶ人なんだよな。だから番組構成こそ大まかに組んでるけど、その通りに行くとはひとつも思ってなくて、それを変えることに躊躇しないし、むしろ変えることを楽しんでるし、技術がそれに付いて行くから凄い」
「MBCCから見てもそーゆー人ってあんまいないの?」
「いない。インターフェイスの中でも俺が知ってる中では高木先輩がその分野では1番だと思う」
「ふーん。で、佐藤ゼミ的にその役割を次に担わされんのって、智也っしょ?」
「そのはずなんだけどなー……」
「じゃ1時間×3日間いなかったのって人の配信見て進行を学ぶ的な意味じゃすっごいマイナスだね」
「それに尽きる」
シノは意欲もあるし向上心もとてもある。高木先輩と高崎先輩がゼミのラジオブースでやった番組でも、俺を「すげー番組を生で見る機会だぞ!」と無理矢理引きずって行ったくらいだ。本来なら、シノも昼休みの番組はライブで見ているはずだったと思う。実際、これを見られなかったとわかったら、シノはとても悔しがるだろう。
「でも、幸いなのは、映像で残ってるってことだな」
「あー、録画はしてるもんね。アーカイブは残ってるか」
「これ、3日分シノに見せたいな」
「アタシはその前に智也をシメたいけどね」
「まいみぃは多少ならいいと思う」
「よし、言ったな!」
「シノが変な時期にインフルになったのはどうしようもなかったとしても、シノがいなくなったことで開いた穴をどうにかしようと走り回ってたのはまいみぃだったワケだし」
「アンタ案外話わかんだね」
「案外か。そういう風に思われてたのか」
「他人のことに興味なさそうな感じ」
「よく言われるけど、全然興味がないワケではない。周りの人のことはちゃんと見てるし、聞こえる範囲の話は聞いてるよ」
「ふーん」
「その返事、まいみぃこそ俺のことに興味ないだろ」
「優先順位は低いね」
「その正直さがいいところなんだとは思う」
お茶を飲んで、とうに次の番組に移っていたラジオブースから目を離す。オープンキャンパス3日目の午後は、先の2日間に比べて少し人が少ないような気がする。でも、暑いことには変わりないから、涼しい控室でこれから弁当を食べるんだ。
end.
++++
+1年軸のオープンキャンパスです。2年生も何人か例によってヒゲさんから3日間出勤を命じられています。2年生の疫病神ポジションって誰だ
恐らく果林とササはアナウンサーとしてのやり方、得意分野が違うんだろうと思った結果、俺はこれからどうしようかな~……的な。
まいみぃ、何気にオールラウンダー的働きが出来るのかもしれない。動画制作はほぼ1人で全部やってるもんな。経験か。
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