2021(02)
■身の丈とそうめん
++++
「あー…! 来週からテストですよ!」
「まあ、文系の4年でテストって言ってる時点で今まで何をしてたんだったって話だよな」
「ちょっと、うち来週終わるまでは普通に勉強するし」
慧梨夏がパソコンの前にいるのはいつもと変わらないんだけども、広げている物が違う。緑ヶ丘大学は来週からテストがある。俺はもう演習Ⅲと卒業論文以外の単位を取り切ってしまったんだけど、慧梨夏はまだ結構いろいろ単位を残しているらしかった。学部が違うから一概には言えないけど、慧梨夏は明らかにサボってたからな。自業自得ではある。
単位は落としても原稿落とすな、というような謎スローガンは何度も聞いてきた。真夏の戦場に向かうための原稿に向き合うことで、テストのことなんかすっかり忘れてしまうことは多々。そのツケが今ここに回って来てんだよな。同人趣味と学業の天秤のバランスが悪すぎるんだよな。
「まあ、趣味にしろ勉強にしろ飯はちゃんと食えな」
「勉強の時は呼ばれればちゃんとご飯食べます」
「同人の時は呼ぶなだもんな」
梅雨も明けてここのところバカみたいに暑い。ただ、俺にとってはこれくらい暑い方が、本格的な夏だなって感じで家事にも精が出るし、バイクにも乗り放題だし楽しいなーって感じがするけど。洗濯物がよく乾いてマジで最高だぜ! 除湿器要らず! 夏って本当に素晴らしい!
「今日の飯はそうめんです」
「天ぷら!?」
「や、今日はちょっと趣向を変えようかと思ってた。もしかして天ぷら食べたかったか?」
「いつの間にかそうめんと天ぷらがイコールで結び付いてたからねえ。でも、趣向を変えるって、どういう方向性で?」
「何だかんだで部屋には冷房がかかってるし、あったかくして食べるのもアリかなと思って」
「にゅうめん的な?」
「ラーメンに寄せようと思って。で、もらってきた野菜あっただろ、就活友達の」
「うん」
「その野菜を使ったサラダもあるから」
慧梨夏が就活を経て知り合った友達という奴が、友達から大量の夏野菜をもらったので良ければどうぞとお裾分けをしてくれたらしい。その就活友達の男は星ヶ丘の奴だって言ってたから、もしかしたら農学部に友達がいるのかもしれないな。俺もカオルの紹介で農学部の人が育てたっていう野菜をもらったことがある。
如何せん結構な量の野菜があるから、どうにかして消費しないと勿体ない。せっかくの野菜だし結構な質だし。まあ、普通に実家でも使えばいいんだろうけどさ。それでも2人で食えばそれなりに消費出来るので、俺がいる間に調理をして、俺がいない間も好きに食えるように常備菜にしてもいい。テスト期間中とは言え同人を休むとは言ってないもんな。
「こないだ配信で見たんだけど、そうめん? 高級なヤツを食べたら普通のヤツが本当に食べれなくなるんだってね」
「あー、高級なヤツはガチで美味いっていうよな」
「でもそんな高級なヤツとか茹でるのも緊張するからうちは普通のでいいかな」
「慧梨夏の場合さ、ワンチャン欲しい物リストとかにその高級そうめんぶち込んどいたら誰かが何かの間違いで買ってくれたりとかしねーの?」
「やめてやめて、冗談じゃ済まなくなるから」
「あるのかよ、それこそ冗談で言ってたのに」
「じゃあアヤちゃんにそうめんの話してみる?」
「あー! やめて! あの子は「先行投資ですか!?」っつってガチで担いで来そうだ!」
慧梨夏の話では、同人界隈の友達の間でもお中元とかお布施という名目でいろいろ送り合ったり地元のお土産を交換したりっていうのもあるらしい。だからうっかり「高級そうめんが欲しい」などと言ってしまうと、次の日には「発送したよ!」と言われる可能性のある世界なんだそうだ。
「そういうことだから、興味はあるけど、しばらくはうちらの身の丈に合ったそうめんを食べましょうね」
「そうしましょう」
「でも、カズのそうめんってうちの身の丈に合ってない気がする。伊東家のデフォルトそうめんも天ぷらが豪勢だし、アレンジレシピも研究してるでしょ?」
「まあなあ。ビールに合うそうめんレシピの開発も依頼されてるし」
「あっ、ま~た高崎クンでしょ!」
「そうは言うけど高ピーは結構料理の手際いいんだぞ」
「知ってるよ。おかゆの作り方も教えてもらったし」
「それはそうと、俺のそうめんはちゃんとお前の身の丈に合ってるよ。と言うか、そもそも俺の料理はお前のためにあると言っても過言じゃないんだからな。俺がお前に合わせて練習したから今がある」
洗濯を極めることにしてもそうだ。俺が家事を覚えたのは、自分が1人暮らしをしていたというのもあるけど、大体は慧梨夏のためだ。その結果慧梨夏が堕落したと浅浦は言いやがるけど、俺が手間と時間をかけることでこの世に何冊の本が生まれて、それが何人の精神を潤したと思ってんだ。俺は知らないけどな。
「そしたら、そろそろ準備しようかな」
「いよっ! 今日もエプロンが決まってる!」
「ランチメニューは暑い夏にもあっさり美味しい塩そうめんと、食感が楽しいパリパリそうめんサラダな。ちゃんと3時に食べるおやつも用意するから、しっかり勉強するんだぞ」
「至れり尽くせり~!」
「もちろんおやつもそうめんだぞ」
「えっ、何が出て来るの?」
「それは3時のお楽しみ。勉強するって言ってる以上、レポート書いてると見せかけて原稿やるのは禁止な」
end.
++++
いちえりちゃんのそうめんの話。今回天ぷらはなし。高級そうめんは食べてみたい。黒帯みたいなヤツ。
そうめんのアレンジレシピはいち氏夏の課題なので、メインキッチンが慧梨夏宅になっても開発に余念はない。
レポート書いてると見せかけて原稿やるパターンをしっかりと押さえていく辺り、いち氏は鍛えられている
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「あー…! 来週からテストですよ!」
「まあ、文系の4年でテストって言ってる時点で今まで何をしてたんだったって話だよな」
「ちょっと、うち来週終わるまでは普通に勉強するし」
慧梨夏がパソコンの前にいるのはいつもと変わらないんだけども、広げている物が違う。緑ヶ丘大学は来週からテストがある。俺はもう演習Ⅲと卒業論文以外の単位を取り切ってしまったんだけど、慧梨夏はまだ結構いろいろ単位を残しているらしかった。学部が違うから一概には言えないけど、慧梨夏は明らかにサボってたからな。自業自得ではある。
単位は落としても原稿落とすな、というような謎スローガンは何度も聞いてきた。真夏の戦場に向かうための原稿に向き合うことで、テストのことなんかすっかり忘れてしまうことは多々。そのツケが今ここに回って来てんだよな。同人趣味と学業の天秤のバランスが悪すぎるんだよな。
「まあ、趣味にしろ勉強にしろ飯はちゃんと食えな」
「勉強の時は呼ばれればちゃんとご飯食べます」
「同人の時は呼ぶなだもんな」
梅雨も明けてここのところバカみたいに暑い。ただ、俺にとってはこれくらい暑い方が、本格的な夏だなって感じで家事にも精が出るし、バイクにも乗り放題だし楽しいなーって感じがするけど。洗濯物がよく乾いてマジで最高だぜ! 除湿器要らず! 夏って本当に素晴らしい!
「今日の飯はそうめんです」
「天ぷら!?」
「や、今日はちょっと趣向を変えようかと思ってた。もしかして天ぷら食べたかったか?」
「いつの間にかそうめんと天ぷらがイコールで結び付いてたからねえ。でも、趣向を変えるって、どういう方向性で?」
「何だかんだで部屋には冷房がかかってるし、あったかくして食べるのもアリかなと思って」
「にゅうめん的な?」
「ラーメンに寄せようと思って。で、もらってきた野菜あっただろ、就活友達の」
「うん」
「その野菜を使ったサラダもあるから」
慧梨夏が就活を経て知り合った友達という奴が、友達から大量の夏野菜をもらったので良ければどうぞとお裾分けをしてくれたらしい。その就活友達の男は星ヶ丘の奴だって言ってたから、もしかしたら農学部に友達がいるのかもしれないな。俺もカオルの紹介で農学部の人が育てたっていう野菜をもらったことがある。
如何せん結構な量の野菜があるから、どうにかして消費しないと勿体ない。せっかくの野菜だし結構な質だし。まあ、普通に実家でも使えばいいんだろうけどさ。それでも2人で食えばそれなりに消費出来るので、俺がいる間に調理をして、俺がいない間も好きに食えるように常備菜にしてもいい。テスト期間中とは言え同人を休むとは言ってないもんな。
「こないだ配信で見たんだけど、そうめん? 高級なヤツを食べたら普通のヤツが本当に食べれなくなるんだってね」
「あー、高級なヤツはガチで美味いっていうよな」
「でもそんな高級なヤツとか茹でるのも緊張するからうちは普通のでいいかな」
「慧梨夏の場合さ、ワンチャン欲しい物リストとかにその高級そうめんぶち込んどいたら誰かが何かの間違いで買ってくれたりとかしねーの?」
「やめてやめて、冗談じゃ済まなくなるから」
「あるのかよ、それこそ冗談で言ってたのに」
「じゃあアヤちゃんにそうめんの話してみる?」
「あー! やめて! あの子は「先行投資ですか!?」っつってガチで担いで来そうだ!」
慧梨夏の話では、同人界隈の友達の間でもお中元とかお布施という名目でいろいろ送り合ったり地元のお土産を交換したりっていうのもあるらしい。だからうっかり「高級そうめんが欲しい」などと言ってしまうと、次の日には「発送したよ!」と言われる可能性のある世界なんだそうだ。
「そういうことだから、興味はあるけど、しばらくはうちらの身の丈に合ったそうめんを食べましょうね」
「そうしましょう」
「でも、カズのそうめんってうちの身の丈に合ってない気がする。伊東家のデフォルトそうめんも天ぷらが豪勢だし、アレンジレシピも研究してるでしょ?」
「まあなあ。ビールに合うそうめんレシピの開発も依頼されてるし」
「あっ、ま~た高崎クンでしょ!」
「そうは言うけど高ピーは結構料理の手際いいんだぞ」
「知ってるよ。おかゆの作り方も教えてもらったし」
「それはそうと、俺のそうめんはちゃんとお前の身の丈に合ってるよ。と言うか、そもそも俺の料理はお前のためにあると言っても過言じゃないんだからな。俺がお前に合わせて練習したから今がある」
洗濯を極めることにしてもそうだ。俺が家事を覚えたのは、自分が1人暮らしをしていたというのもあるけど、大体は慧梨夏のためだ。その結果慧梨夏が堕落したと浅浦は言いやがるけど、俺が手間と時間をかけることでこの世に何冊の本が生まれて、それが何人の精神を潤したと思ってんだ。俺は知らないけどな。
「そしたら、そろそろ準備しようかな」
「いよっ! 今日もエプロンが決まってる!」
「ランチメニューは暑い夏にもあっさり美味しい塩そうめんと、食感が楽しいパリパリそうめんサラダな。ちゃんと3時に食べるおやつも用意するから、しっかり勉強するんだぞ」
「至れり尽くせり~!」
「もちろんおやつもそうめんだぞ」
「えっ、何が出て来るの?」
「それは3時のお楽しみ。勉強するって言ってる以上、レポート書いてると見せかけて原稿やるのは禁止な」
end.
++++
いちえりちゃんのそうめんの話。今回天ぷらはなし。高級そうめんは食べてみたい。黒帯みたいなヤツ。
そうめんのアレンジレシピはいち氏夏の課題なので、メインキッチンが慧梨夏宅になっても開発に余念はない。
レポート書いてると見せかけて原稿やるパターンをしっかりと押さえていく辺り、いち氏は鍛えられている
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